2006年08月26日

すべてはトヨタのおかげ

湖畔実家に帰ってきたので豊田市美術館に行ってきた。一目見た印象としては、立派。そしてでかい。ル・コルビジェが建てた上野の西洋美術館も相当すばらしい建物だと思うが、まったくそれと遜色の無い、というか大きさも含めれば勝ってるくらいの建物。愛知県民はあれを誇りにしてもいいと思う。万博のことは忘れよう。文句を言うとすれば、あまりにもセンスにあふれた建物すぎて、迷宮と化していることか。順路がどっちか、わからない。

それに比べて、常設展はかなり見劣りがする。なんか現代の芸術家らしいのが多かったが、はっきり言って知らん。豊橋市美術館とそこら辺は大差なかった。トヨタも建物までは金が出せたが、飾る作品までには根回しできなかったということか。


もともと常設展には期待してなくて、見に行ったのは建物と特別展の「黒田清輝展」。黒田の作品といえば、個人蔵のものもそれなりにあるが、大部分は東京の文化財研究所が所蔵している。文化財研究所は1年に1回だけ、それも夏休みに、黒田の作品のほとんどを「避暑」に出す。文化財研究所に直接出向かずに黒田の作品を見る唯一の方法は、このタイミングを狙うことだ。

この「避暑」は1年に1回な上に、当然1年に1ヵ所で、1県に1回なのですべての県を巡回しきるのには47年かかるという、意外にも遠大な計画だったりする。1977年から始まったらしいので、愛知県は30番目。けっこう遅いほうだ。次に愛知県に来るのは47年後ということを考えると、二度と黒田の作品を愛知県で見る事は無いと言ってもいい。

黒田の作品の代表的なものはすべて先学期の授業でスライドで見ており講義も受けているので、今回の展示はすいすいと頭に入ってきた。やはり黒田の絵から一番感じるのは、いかに西洋の文化を明治の時代人としての責務だと思う。夏目漱石の小説あたりと同じにおいがする。

代表作はやはり「湖畔」だ。このさわやかな風景と、物憂げな女性は、見事に西洋的な風味と日本的な雰囲気がマッチしていると思う。これを生で見れただけでも、遠路はるばる豊田市ま来たかいがあったなと思えた。  

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2006年08月25日

第72回「ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む」神原正明著 河出書房

ボッスの絵は不思議な魅力がある。あまりに未来を先取りした、現代のシュルレアリスム絵画と説明されても、ボッスの絵を初めて見る人ならだまされてもなんら不思議は無いだろう。そのボッスの絵の中でも、最も難解な絵。それが『快楽の園』である。祭壇画の3枚パネル形式をとっており、扉絵が天地創造、開くと右翼が地獄、左翼が天国、中央が快楽の園である。

ボッスについては研究が非常に難しく、あまり進んでいない。厳格なキリスト教徒だったとも、カルト集団に属していたとも言う。さらにそこに難問をなげかけるのがこの絵だ。この絵は人間の罪のうち、性欲に重点を置いている。しかし、その図像はほとんど全てがダブルイメージとなっており、性欲を肯定しているようにも否定しているようにも取れる。もっとも、この推測すら正しいかもわからないし、ボッスがダブルイメージで読み取れることを意図していたのかどうかすらもわからない。

そんなこの絵だからこそ、解読作業はおもしろい。はっきり言ってこじつけレベルの解読が多いが、一美術史の学生としては「こういう読み取り方もあるのか」と感心するばかりであった。ギリシア神話とかキリスト教とかネオプラトニズムとか聞いてぴくっときた人、もしくは西洋美術史の学生にはお勧めできる。


ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を読む
  
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2006年08月22日

”光”の芸術

鶏地獄のようなレポート攻勢を切り抜け、何とか目処が立った上に残りは美術史の研究室が開いてないと作業できそうにない状態になった。美術史の研究室は月、木しか空いてないので、この火曜、水曜はあきらめて遊ぶことにした。

今日は東博の若冲展を見に行ってきた。ものすごく混んでたが、夏休みということに加えて終了3日前だから仕方あるまい。伊藤若冲というか、江戸絵画全般という感じではあった。

今日の展示はとあるアメリカ人コレクターのものらしいが、よくもまあこれだけ集めたものだと思う。もし国が持ってたら重文か国宝に値するものばかりだ。タイトルに冠しているだけあって、若冲のコレクションは特にすごい。それだけに外国人が見に来ているのはなんだかおかしかった。

江戸時代の絵画を見えいて思うのは、西洋画とは別の次元で写実の極致だなということ。西洋画は遠近法を駆使して、なんとか画中に立体感を生み出している。それに対して江戸絵画は遠近法的観点ではあくまで二次元の領域なんだけど、迫力や色彩によって不思議と写実的に見える。”克明”という言葉が合うかもしれない。上の画像ではわかりにくいだろうが、生で見るとあの鶏だって相当の迫力である。

もちろん、写実を捨てて奇抜さを売りにしてる絵もあって、それはそれでおもしろい。鶴の絵が連作になっていて、段々胴体の部分が丸くなっていき、最後には卵のように見える仕掛けがしてある掛軸なんかもあった。


今回一番感動したのは、会場の仕掛け。屏風などはその構造上光の揺らめきによって印象が違う。金箔や銀箔が貼ってあればなおさらのこと。そこを考慮して、会場の一部は照明がうっすらと落としてあり、作品に当てる光が移動し続けるという方式になっていた。これが非常に見栄えがする。

たとえば、雪が降る情景の屏風だと、暗くしてみると雪が浮き上がって見え、明るくすると今度は人物が浮かび上がってくる。この光の作り出す妙。この展示を考え出した人は、展示の天才だろう。こういうことを思いつける学芸員になりたいと思った。  
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2006年08月20日

いろんな意味で時空の向こう

某友人と、池袋の古代オリエント博物館に行ってきた。どこそこ?という都民or埼玉県民。無理もない。サンシャインシティ文化会館の7階という辺鄙な場所にある。なんだか知らないけどサンシャインシティには詳しいので、知っていただけだ。

週末何かしらのイベントが開催されていないほうがおかしいサンシャインシティだが、今日は文化会館の2、3階でトレーディングカード系のイベントが開催されていた。4階ではウルトラマンショー。今度はむさい男どもに代わって家族連れで混雑していた。

5階はコナミフィットネスクラブ。急激に人の数が減る。別の部屋では電信技士だかの入試をやっていて、静寂そのものだった。5階まではエスカレーターで上れるのに、そこから上はエレベーターしかない素敵仕様だったので、エレベーターに乗り換える。6階は何も無い、というかエレベーターがそもそも止まらない。そうか、これが時空の狭間か。

そうして着くのが7階の古代オリエント博物館である。もちろん、ほぼ無人。ちらほら他の客がいた。客層は完全にばらばら。ただし、そこのカップルに一言つっこみたい。ここはデートには向かないぞ、と。ミイラとか飾ってあるし。

展示内容は、まあ極普通の古代遺跡からの発掘物。土器やら装飾品やら。説明がけっこう子供向け。そういう意味では家族連れが来るのが正解かも。ウルトラマンショーの後に来てもいいんじゃないか。博物館到着までの前振りが長かったのは、展示内容について書くことがなかったからだ。

料金は400円と割とリーズナブルではあるが、立地や展示内容からして暇つぶしに来るところじゃないだろう。将来家族連れになる予定のある人には、まあお勧めしておく。
  
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2006年08月18日

皇居は涼しかった

進まないレポートの打開のためも兼ねて、国立近代美術館に行ってきた。そういえば、ここの常設展示見たこと無いな、というのが発端である。だから何の特別展をやってるのかさっぱり知らないまま行った。自分にしては珍しいことだ。

行ったら「モダン・パラダイス」なる特別展をやっていて、コンセプトは日本の画家VS西洋の画家、らしい。それはいいが、最初の対決が菱田春草VSモネっつうのは、ちょっと菱田春草には荷が重すぎやしないか?また、大原美術館との共同企画で、基本的に出展は近代美術館か、大原美術館だけだった。

児島虎次郎やら安井曽太郎の絵がある中、セガンティーニやスーラの絵が混在しているのは妙に違和感があったが、まあこういう展示もありなんじゃないか、と思う。日本史の教科書には絶対載っているのに、画家の名前が難しすぎるという裏事情で入試には一度も出たことがないある意味伝説の名画、中村彝の《エロシェンコ氏の肖像》を初めて見た。絵の名前はインパクトあるんだけどなあ。ついでにこの人の別の作品も初めて見たわけだが、けっこうエル・グレコっぽい画風の人なのね。

その後、再び対決として岸田劉生の《麗子微笑》とマティスの《画家の娘》が併置されていた。うん、まあなんだ。美術作品というのは、必ずしも美しいとは限らないものだ。だが、画家たちよ。自分の娘なんだぞ?もっと美人にかけないものか?それともこれは美少女好きの俺に対する挑戦状か?ちなみにどっちのほうが酷いかと言われれば、俺は麗子像に一票入れておく。

あとは、ゴーギャンの《かぐわしき大地》が出ていた。驚いたのは、この和訳名。英語名は"The Delightful Land"というのを初めて知った。Delightfulを「かぐわしき」と訳すところに、私的にはすごいセンスを感じたのだが、どうだろうか。


最後に常設展をさらっと見て帰った。気晴らしにはいい美術館だった。これで、自転車で来てなければもっと良かったんだが。
  
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2006年08月17日

第71回「ウォーラースティン」川北稔著 講談社メチエ

従来のマルクス主義的一国史観をやめ、近代世界全体を有機的なシステムとしてとらえるようとする試みこそが、ウォーラースティンの主張する近代世界システム論である。自分もこの考え方には目から鱗が落ちた。そしてこの理論を応用するといろいろなことが見えてくる。たとえば以前にブログにも書いたように、なぜイギリスで紅茶がはやったのかこそ、ウォーラースティンが解き明かしたことの一つであるのだ。

この本は日本におけるウォーラースティン研究の第一人者である川北稔氏が中心となって書かれている。ある意味当然だがかなりの世界史及び経済知識が前提とはなっている。しかし、この本を手にとるような人は問題ないだろう。近代世界システム論に関する説明自体はかなりわかりやすい。

たとえも豊富で、少々無理があるものの現代日本の分析なんかもやっている。先進諸国の政権政党と自民党の類似点というテーマにはかなりの親近感を覚えるに違いない。もっともこの本の刊行が2001年なので、まだ小泉内閣発足直後というギャップはあるが。というわけで経済や歴史に関心のある人はどんどん読んでみてほしい。


知の教科書ウォーラーステイン
  
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2006年08月16日

永久に成仏しない魂

目的と手段が入れ替わる。

人間生きていれば、しばしば起こりうることだ。


そして今から我々が垣間見る空間は、完全に目的と手段が入れ替わっている空間。

果たして僕らは、本を買いに行くのか、それとも、並びに行くのか、それとも単に金を浪費しに行くのか。それは、神すら知りえない禁断の領域。


人類は立ち向かう。この惨劇に。未知の敵は、あまりにも強大。


だが目をそむけてはいけない。これは、その惨劇に立ち向かった、勇気あるものたちに捧げる、鎮魂歌なのだから。

70th_comiket惨劇の光景



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2006年08月05日

レイかわいいよレイ

豊橋市美術館の海洋堂展に行ってきた。最初は「前々からあの市はおかしいと思っていたが、とうとう美術館まで頭がおかしくなったか」と思っていたが、いい機会なので博物館学のレポートのネタにすることにした。単位が来るかは知らない。

海洋堂とは、ここを見に来てる人の半分には説明不要な気もするが、日本一の造形集団である。有名どころではチョコエッグだろう。今回の展示の第一展示室もチョコエッグであり、さすがにとっつきやすいところから並べたという意図が読める。その割に展示の入り口が綾波レイと大魔神とケンシロウという致命的なコンビネーションだったのだが。

チョコエッグの後は海洋堂40年の歴史をたどる形で、ゴジラや仮面ライダーの怪人のフィギュアを中心に展示。最後に最近の造形を展示する形をとっていた。もちろんこの部屋の展示も、量質すごかった。自分自身ゴジラ好きだし、ゴジラがきちんと映画出演順に、それもあだ名付で紹介されていたのは驚いたものだ。

だが、ゴジラたちは最後の展示のインパクトを和らげるためのクッションの役割もあったのだろう、最後の展示室が一番ひどかった。まさか市美術館にラブひなやわたおにのフィギュアが並ぶ日が来るとは、誰が予想しえただろうか。我々や(こめや燕、ORATRIOと行った)、高校生たちはうわ、やっちゃったよ、とか言いつつもおもしろがって鑑賞していたが、顔を背ける家族連れも。うん、まあ。正直理解を得るには時代を先駆けすぎたかな、と思わないでもない。だって、幼女のフィギュアだしね。

帰りにミュシャの四季がフィギュア化されていたので、買ってきた。自分もミュシャの絵はとても100年前のフランスで描かれたとは思えない親近感があるというかぶっちゃけ萌えなので、似たようなこと考える奴が海洋堂にもいるんだなと嬉しくなった。


その後、インタビューへ。いろいろおもしろい話が聞けた。会ってみると非常に感じのいい人で、どちらかといえばお堅いインタビューなどではなく酒を入れて語り合いたい感じ。誘導尋問に近い質問をぶつけたわけではなく、こちらも向こうもまじめなインタビューに終始した。しかし自分が「なぜ展示の最初を、ケンシロウと綾波にしたのか」という質問を投げかけたとき、「ああ、あのレイはね、やっぱ知名度とインパクトだよ」とすごく嬉々として返事をされ、その瞬間えもいわれぬ親近感を覚えた。それでこそ、豊橋市美術館の学芸員だ。郷土愛が変な方向に深まった、インタビューだった。
  
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