以前世界美術50選に文句を付けたときに、ta-kiにエロゲ版でも作れと言われたので作ってみた。しかしその際、その前提条件を設定するのに大変苦労した。最初は世間的な知名度とか評価の高さとかも考慮しようかと考えたが、その基準で50選作ると大変つまらないものが出来た。その上そもそも私はバルドフォースや戦国ランスなど、少しでも小説以外の要素が入ったものはプレイしていない。ゆえにこの基準では極めて偏りのあるものができてしまう。
ではいっそのこと、と趣味に走ったリストを作ることにした。その後もいろいろ悩んだ挙句、前提条件はいかのように設定することにする。
・葉鍵型月ロミオ丸戸ageひぐらし等の人気作品は排除。
・なるべく「エロゲらしさ」がテーマになっているようなゲーム。むしろその「エロゲらしさ」のせいで、他ジャンルに嫌悪されるようなエロゲ。
・非ヲタはおろか、他ジャンルのヲタも割とおいてけぼり。
・むしろ対象はエロゲ初心者から中級者。上級者への駆け上がり用か。
・非エロゲも一部アリ。
その結果20作品まで絞ることができた。これにFDとか周辺作品を入れたら30くらいになるだろうし、そこにメジャー作品を入れればちょうど50くらいになるのではないだろうか。それで50選ということにしておきたい。
1、智代アフター(KEY)
クラナドのFDながら、終盤の超展開ゆえに敬遠されがちなゲーム。だがちょっと待ってほしい。Kanon、AIR、CLANNADだけではまだ鍵ゲー特有の「残酷さ」が足りないのだ。短いが表現はストレート。その分解釈は難しいかもしれない(Kanon>CLANNAD>>MOON>智代アフター>AIR>ONEだと思う)。
2、MOON.(Tactics, KEY)
鍵の事実上の処女作(『同棲』は除く)。今の鍵からは考えられないエグさを誇る、元祖鬱ゲー。宗教を表立ったテーマに据え、陰惨な描写が続く。だが私はけして彼らが、売れるために陵辱色を強くしたとは思えない。まだ不器用で、鍵特有のテーマを伝えるには学園モノじゃ生ぬるいと判断したのではないか。その結果がONEだったのではないだろうか。そんな風に思うのである。なお、いたるの描く陵辱絵は意外とエロいので、そこにも注目か。
3、螺旋回廊1&2(ruf, age)
これも実は『MOON』と同様の理由でこのリストに入れた。とは言ってもageプレイヤーなら陰惨な描写でもどんと来いという感じではあるだろうが。他のage作品をプレイしてからこのゲームをやると、ageの原型が透けて見えておもしろい。
4、Phantom(Nitro+)
超有名じゃないかと言われればそれまでだが、その割に騒がれることの少ない作品。一般人にもお勧めという賞賛の言葉がこのゲームには常に送られている。ハードボイルドがエロゲとの親和性が高いことを証明した、偉大なる作品。
5、沙耶の唄(Nitro+)
これもエロゲ界隈では超有名作品だが、やはり名前がなかなか出てこない。純愛とは何だろうか、認識とは何だろうか、狂気とは何だろうか。ゲームは短いが深遠なテーマがここにはある。
6、サナララ(ねこねこソフト)
ねこねこソフトから一作。解散によりある種の伝説となったこのメーカーから何も上げないわけには行くまい。そう考えたときに、マイナー具合と評価の高さのギャップから行ってこれしかないだろう。ねこねこ作品では異色の原画を使ってはいるがやはり雰囲気はねこらしいものに仕上がっている。完成度はねこ作品随一だと思う。そしてこのゲームは片岡ともの跡継ぎ、すばらしいライター木緒なちが誕生した瞬間でもあった。
7、とらいあんぐるハート3(ivory, 都築真紀)
これも歴史的な古典として。今をときめく「なのは」はここから始まった。都築氏の独特の世界観は、とらハ1、2から全く変わっていない。3をやって気に入ったなら、ぜひ1と2もやってみてほしい。シナリオに起伏はあまり無いが、雰囲気がすばらしい。「泣けるとか、感動できるとか、萌えるとか、大作であるとか、傑作であるとかではない。ただただ、ずっとこの空気が続いて欲しいと思った、そんなシリーズだった。」という、エロゲ批評空間の有名なレビューをそのまま引用しておきたい。
8、わんことくらそう(ivory, 都築真紀)
とてもなのは1期と2期の間に出したとは思えないエロゲ。一見単なる獣耳ゲーなのだが、よくよく読んでいくと全くそんなことは無く、世界の裏側が見えれば見えるほど気分が悪くなっていくことだろう。実に都築氏の意地悪な一面が垣間見える作品だが、一方で都築氏のテーマは全くぶれていない。
9、遥かに仰ぎ、麗しの(PULL TOP)
別の記事で散々語ったのでそっちで。実にエロゲらしいエロゲであった。
10、はるのあしおと(minori)
現在の職業がNEETか、過去に失恋した経験のある人がやると実に自殺したくなるゲーム。かく言う自分も軽く死にたくなった。そういう意味では最強の鬱ゲーかもしれない。映画『秒速5センチメートル』とあわせてどうぞ。
極めて秀逸なレビューがここにあるので、クリアした人は読んでみるといいと思う。
11、水月(F&C)
一見無駄に難しいだけの、衒学的なシナリオに仕上がっているが、それがわざとなのか偶然なのかは知らないが、その衒学性が逆にゲームの幻想的な雰囲気を作り出すことに成功している稀有なゲーム。あの雰囲気は一度味わう価値があるだろう。主人公は極めてダメ人間だが、君望の鳴海孝之と同様心理描写が細かいので許せる。老舗F&C、最後の花火。
12、月陽炎(すたじおみりす)
大正時代が舞台の珍しいゲーム。袴に萌えたければ必須。このゲームも雰囲気がたまらない。シナリオは後半超展開だが、そんなことはあまり気にならないだろう。何よりもこのゲームは主人公がかっこいい。昨今の情け無い主人公たちは彼を見習ってほしい(とライターに言いたい)。
13、いただきじゃんがりあんR(すたじおみりす)
これも
別の記事で語っているのでそっちで。本当にバグの惜しいゲームだった。
14、セイレムの魔女たち(ruf)
「セイラームの魔女事件」という実在した事件を扱った、極めて珍しいゲーム。ゆえに舞台は17世紀末の新大陸となる。キリスト教プロテスタントの歪み、白人優越主義の歪みを正面切って挑んだ意欲作でシナリオもおもしろい。絵と音楽に恵まれれば、一世を風靡したのだろうが……
15、School Days(Over flow)
なんだかんだでこの業界の革新になったゲームだと思う。それはまずフルアニメーションは簡単に作れるということの証明。もう一つはヤンデレは許容されるということ。主人公も究極まで最低なら話題性になるということ。ヘタレとも鬼畜とも違った、「最低」な主人公を御堪能あれ。
16、彼女たちの流儀(130cm, みやま零)
耽美、退廃というテーマでならこのエロゲの右に出るゲームはなかなか無いだろう。荒削りでかなり改良すべきポイントはあるが、それでもこのリストに載せる価値があると判断できる。登場人物たちは本当に未成年で、不安定でわがままで、まさに「流儀」であった。マゾに目覚めそうになるゲームでもあった。
17、MinDeadBlood(Blackcyc)
エロ、グロ、ナンセンスを極めた作品。難易度も極悪。ある意味最もエロゲらしいエロゲと言えるかもしれないが、エロゲヲタ以外には全くといってお勧めできない。人格を疑われる。シナリオ本筋は燃える王道吸血鬼モノでこっちの出来もいいのだが、やはり注目すべきは大量にあるサブイベントか。東先生には、人間の想像力には限界が無いということを教えてもらうといい。
18、Quartett(little witch)
このゲームはそのシステムに注目が行く。漫画のようなコマ割りを使った文章の読ませ方は実に新しかった。ドイツを舞台にしたクラシック音楽を扱ったゲームという意味でも斬新で、音楽の美しいゲームだった。シナリオは平凡だが、そんなところにはケチをつける必要が無いだろう。
19、カタハネ(Tarte)
『アカイイト』と同様、究極の百合ゲー。百合には耽美という言葉以外与えることが出来ないし、歴史モノとしてもおもしろかった。詳しくは
この記事か。みりす同様、メーカーがつぶれたのが残念でならない。
20、二重影(ケロQ)
別に『終ノ空』でも良かったのだが、今更ノストラダムスの預言というのもなんだし、同じ系統ならば『沙耶の唄』のほうが優秀かなと思うので、ケロQ代表としてはこちらを挙げておく。バトルモノというよりは、推理モノとして普通にかなり優秀だと思うのだが、いかがだろうか。クリアしたら図書館に駆け込んで、子一時間古事記が読みたくなるようなゲームだった。
最後に、非18禁コンシューマ作品として。
21、アカイイト(SUCCESS)
『カタハネ』と並ぶ百合ゲーの双璧。優秀な百合作品の条件として「女性同士の恋愛であることに対するキャラたちの自己嫌悪が無いこと」と「レズとは峻別されれるべし」は確実に挙げられるべきだと思うのだが、『カタハネ』も『アカイイト』もこの点では完璧だった。加えて『カタハネ』は歴史群像劇としてもすごかったが、『アカイイト』も伝記モノとしてみても十分におもしろい。
22、Ever17
元祖○○○系作品。ラストの超どんでん返しには誰もが驚かされるが、何よりそのどんでん返しが規模の割に整合性が取れているのが驚異だ。『アカイイト』もそうだが、今では2000円で新品が買えてしまうというリーズナブルさも素晴らしい。