今場所はとてつもなくおもしろかった。日本人大関陣がどうにも振るわなかったという画竜点睛に欠くところはあるものの、全体を通して相撲内容が良く、好取組が連発し、かつ優勝争いがもつれ、かつ優勝は14-1というレベルの高さであった。
正直に言って日馬富士の優勝可能性は10%もないと思っていた。彼には毎回驚かされる。私は彼に太れ太れと言い続けていたわけだが、結局120kg台のまま優勝してしまった。前まわしをとって速攻という型が完全に決まるようになってきたための快勝であろう。相撲勘もよく、多少型が崩れたところで動じず、足技や投げ技でなんとかしてしまうところは白鵬や朝青龍とよく似ており、さすがにモンゴル出身の力士と言えるだろう。一時期は酷かった立ち合いの汚さもずいぶんとなくなった。
ただし、安定感と言われるとどうか。まだまだ精神的にはもろいところがありそうだし、やはり軽すぎて振り回される場面も多々見られる。彼には横綱はまだ早いような気がするが、さて来場所どうなるか注目である。大相撲協会は14-1以上で内容次第、という比較的厳しい条件を突きつけているが、内容次第は同調するにしても(今場所は稀勢の里戦の変化がどうにも悪すぎる)、13-2でも優勝ならあげていいのではないかと思うし、14-1なら準優勝でも昇格すればいいと思う。
白鵬に関しては磐石に見えたが、予兆はあった。まず、彼の悪癖である立ち合いの悪さが存分に出ていたこと。立ち合いの直後は押されたが、持ち前の異様に硬い粘り腰で持ち直して勝ったというパターンは序盤の下位力士から多かった。何より、この彼の悪癖は下位力士や、優勝が近づいてくると出てくるから性質が悪い。もう一つは、前回「左上手をとれば確実に負けない」と書いたが、特に上位力士を中心に、なんとか左上手をとられないように対策をとっている力士が増えた。それでもなんだかんだ言って勝ててしまうところにも白鵬の強さはあると思うのだが、バタバタした立ち合いとかぶってしまうとあっさりと負ける。琴欧洲戦にしても、千秋楽の優勝決定戦にしてもそうだったが、腰高で足がそろっていたがためにぶん投げられた。改善は急務だろう。
とは言いつつも14-1で準優勝というのは十分すぎる好成績である。ちなみに、今年に入ってからの白鵬は43-2で、これで優勝回数が一回というのは不憫という他ない。このペースのまま今年が終わると86-4という大記録になる。なお、現在の年間最多勝記録は84勝の朝青龍だが、このときの朝青龍は年間完全制覇を成し遂げている。その次は昭和53年の北の湖の82勝、優勝5回。参考記録になるが、白鵬は過去六場所(=一年間)だと85-5になり、この記録はすでに北の湖の85-5と並び史上最高記録である。抜群の安定感と言わざるをえない。
朝青龍は左ひじのケガがどうにもならない中、12-3は立派だと思う。マスコミはまた叩くだろうが、もう二、三年前の全盛期の力は出ないことはわかりきっているので(優勝した先々場所でさえも全盛期には程遠い)、あと引退までに何場所優勝できるかなという方向で見てあげるべきであろう。少なくとも、今場所のそこそこすばらしい相撲を見て引退しろなんてたたくのは愚か者のやることである。
さて、今回は見所の多かった、それ以外の力士に関して。大関陣、ヨーロッパはがんばったと思う。結果的に9-6ではあるが、今場所の状況からして妥当でもある。大関じゃなければ殊勲賞をあげられた、というのは無意味は仮定か。相変わらず腰高だったりバタバタしてたりはするものの、少なくとも互助会の頼りにならなくても勝ち越せるようになって三場所経つのは偉い。先場所でも先々場所でも、不用意な立ち合いをなくせば優勝争いには簡単に絡める、と書いているが、今場所もやはり同じ印象である。地力は十分にある。
魁皇は早々に勝ち越したのは立派だし、まだ右上手をとれば勝てる方程式が通用するので続けても許されることは許されるが……いやぁ……勝ち越してからの無気力っぷりがあまりにも萎える。いっそのこと休場してはいかがか、と言いたくなるが、そうすると今場所千代大海は陥落していたわけで、互助会ここにきわまれり。千代大海は、正直どこまで「買った」のかが判断付かないものの(琴光喜への奇襲含め)、ひどい勝ち星は多かった。琴光喜はノーコメント。お前も魁皇がいなかったら来場所角番だっただろ。過去ログを見たら、初場所から三連続でノーコメントだった。ひどすぎる。
関脇。把瑠都は終始調子悪かった。ときどきこういう場所がある。腰高で全く粘れていない、というヨーロッパ系の力士にありがちな症状だが、来場所は治ってくるか。豪栄道は前半調子よかっただけにもったいない。幕内上位だと、単に序盤に地力の強い力士と当たるから負けが込んで調子を落とし、結果下位力士相手でも大負けする、というパターンが多いが、今回の豪栄道のように負けが込まなくても燃え尽き症候群に陥って結果星を落とす、というパターンもある。だからこそ、幕内上位で勝ち越すのは難しい。エレベーター力士が多いのも仕方のない話である。
小結、ワンコこと鶴竜。どんどんミニ白鵬になっていく様子がおもしろくて仕方がない。今場所はとうとう小結であっさりと勝ち越し、ガチでやっても大関陣は倒せるようになってきた。あまりモンゴル人らしくない相撲を取るという点でも注目である。すぐに大関というわけにはいかないかもしれないが、けっこう長く三役には定着できるだろう。シャケこと栃煌山は残念な出来。6-9ではあるがいいところがなかったので書くことがない。
平幕。FOMAこと豊真将は解約というか廃止というか。まさか1-14になるとは。千秋楽、嘉風との取組はほぼ間違いなくガチだったと思うので、それが救いか。安美錦は大幅に負け越したものの、今場所は何か、曲者ではなくまっすぐ闘うという気迫が見られてよかった。朝青龍に勝てたのはまぐれでもなんでもない。
稀勢の里はあの位置でお前ならそれが当然だろうと言いたくもなる。それでも、負けたのが日馬富士と超苦手な琴奨菊であることを考えるに、取りこぼしはしなくなったのかもしれない。千秋楽まで優勝争いに絡んだことは評価したい。真価は来場所。琴奨菊、以下同文。豊響、以下同文。君らはいい加減にエレベーター止めなさい。豊響は網膜剥離で休場していたという擁護は可能だけれども。
朝赤龍はどうしちゃったんですかねぇ。先場所に続いて今場所も精細を欠いた。岩木山は調子良さそうだった。前に出る相撲をちゃんととってくれるから好きだ。時天空、水入り超久しぶりに見た。Wikiで見たら四年ぶりだそうで、そりゃ久しぶりだ。山本山、負け越しは残念だが毎日おもしろい相撲をありがとう。でも肌は治せ。地デジになってさらに肌汚いのが目立つようになったどうしてくれる。
以下、いつもの。
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