こうなるのだから、大相撲というのは読めない。というよりも、朝青龍という男は読めない。
驚いたのは、朝青龍の相撲振りは今までとなんら変わるところがなかったということだ。相変わらずセンスに頼り切った相撲を展開し、張り差しを多用し、速攻で相手をリズムに乗せないまま倒してしまう。それで優勝してしまえるのだから大したものだし、周囲のふがいなさはこれまでにないほどである。特に白鵬は翔天狼にとった不覚を猛省しなければならない。
場所全体を見渡すと可も不可も無いという程度。好取組がまあまああった一方で、萎える展開も多かった。はたき込みがとても印象的で、数が多かったというよりも、ここで決まっちゃうの、というのが多くこれが萎える原因であったように思う。まあ、その主役たる千代大海は早々にリタイアしてしまったのだけれど。
というわけで、さっさと個別評のほうに移ることにする。朝青龍については上述の通りだが、張り差しの威力の衰えは隠せるものでなく、速攻が決まらないパターンが増えている。本人も自覚しているのか、立会いが汚かったり、変化に近いことをやってしまったりしており、今場所については特にとても横綱と呼べる相撲ではなかった。別に私は彼の勝利至上主義を否定しているわけではないし、彼らしい相撲をとってくれればそれでいいとは思うが、見苦しくなるくらいなら自重はしてほしい。横審(笑)のくだらないお小言は無視しても、そこら辺のわきまえはできる男だと思っていたのだが。
白鵬については、相変わらず把瑠都が鬼門で、把瑠都自体は退けられるのだがそこで確実にどこかを破壊される。無理して勝つくらいなら俵を割ってしまったほうがいいのではないか、と思うほど。負けた翔天狼戦は把瑠都の翌日で、これは一月場所も把瑠都戦の翌日の日馬富士戦で負けており、関連性は明白と言えないまでも無いわけでは無さそうだ。それはそれとして、本割は入れ込みすぎており、逆に決定戦は神経が緩んでいた。まだまだ精神のコントロールが出来ていない。負けた翔天狼戦も、左ひじをかばっていた上に立会いが明らかに遅れていた。気を抜きすぎた。木鶏ははるかに遠い。
しかし、それでも14−1は立派なもので、実はこれで白鵬の横綱昇進以後の成績は186勝24敗で、勝率はなんと.886。これは歴代1位の双葉山の180勝24敗、勝率.882を上回る記録である。加えて、五場所連続14勝はこれも歴代1位の記録で、すでに大横綱の歴史に名を残したと言えよう。朝青龍引退まではこれ以上記録は伸ばしづらいかもしれないが、彼はまだ24歳。なんと、琴欧洲や日馬富士よりも若い。彼の未来はいくらでも開けている。
大関陣は今場所、誰一人二桁がいない、把瑠都に全員倒されるというふがいないにも程がある結果となった。そりゃ勝昭に「大関は弱すぎて(殊勲の)価値が無い」って言われるわ。マシなほうから評していくと、まず日馬富士。大関昇進以後の彼に見られる、無理な力押しがやや目立ち、そこを平幕の力士に倒されるという無様な結果を呼んだ。朝青龍のような巻き替えを見せようとして玉乃島に倒されていた一番は思わず目を覆った。後半は修正してきたが、二桁には間に合わなかった。
次、琴欧洲。魁皇に負けてから転落していったが、魁皇に負けた一番についてならば擁護できる。魁皇は最初からとったりしか狙ってなかったし、あれをかわせるのは両横綱か日馬富士くらいなものだろう。魁皇のとったりを無理に抵抗して相撲人生を棒に振った関取は何人もいるわけで、さっさとあきらめて負けたのは賢明であった。だが、その先の四連敗はいただけない。彼の悪癖である、足がそろっていて踏ん張れず、引かれると簡単に落ちるという現象が戻ってきてしまった。まあ両横綱に負けたのはそれでも力量差だとしても、把瑠都、時天空には本来ならば勝てていたはずだ。組みに行けば勝てるのだから、自信を持って欲しい。
琴光喜は可も不可もなく、まああの程度だろう。「来場所二桁なら見直す」と、先場所のブログに書いた結果がこれだよ。魁皇。なんだかんだで8−7で収めてしまうのだからすごいと言えばすごい。狡猾で老獪で、手の抜きどころと力の入れどころを完全に知っている。しかし逆に言えば、それで8−7なのかという気もするし、千秋楽の琴光喜戦がどうにも互助会発動だったのには閉口した。やはり老害には違いないか。千代大海は来場所特番の準備で。
関脇、稀勢の里。もうね……何度がっかりさせれば気が済むのかね萩原君は。次の大関候補は完全に把瑠都と鶴竜に移ってしまった。稀勢の里について言えば、雅山に押し相撲で勝ったり、琴光喜に対してうまく寄り切ったり、ところどころ大器の片鱗を見せるのだが、非常に詰めが甘く、意外な相手にあっさりと負け、それが積み重なった結果負け越してしまう。変化しろとかはたき込みを覚えろとは言わないが、相手を研究するとか、速攻を磨くとか、本当に工夫してほしい。もう一人の関脇、琴奨菊も負け越しでエレベーター。げんなりしすぎたのでノーコメント。
逆に、把瑠都の今場所は完璧だった。立会いを見るからに研究してきており、相手によってまるで変えてきていて、差し手争いで負けることが減った。かと思えば張り手で相手を押してからまわしをつかむという作戦も取ってきたり、戦術の幅が広くなった。その結果が5大関撃破の12勝である。また、釣れば勝てるという慢心を捨てるには鶴竜戦の敗戦は良い薬だっただろう。まだ力量差があるが、いつか横綱戦でも勝てるようになりそうだ。現状では、若干両横綱に恐怖心があるように見えるのが、やや気がかりである。
もう一人の小結、安美錦は「俺の人生土俵際」という名言を残したくらいしか印象が無い。7−8で、エレベーターというほどには下がらなかったのは、まあ良しとできるところだろう。
前頭以下では、やはり鶴竜の名前を挙げねばなるまい。11番勝ったこと自体はもはや驚くに値しないが、内容が非常に良かった。琴欧洲に対するとったりと、把瑠都に対する外掛けに今の実力を見て取ることが出来る。来場所は三役返り咲きだろうが、調子さえ落とさなければ把瑠都の大関取りを妨害する場所になることだろう。栃ノ心は4−11ではあるものの、勝った4番のうち二人は日馬富士と稀勢の里であり、意地は見せたと言ったところだろう。まだしばらくはエレベーターな実力である。腕力があるのはわかったので、上位定着にはもう一つ光るものが欲しい。
豪栄道二桁だが、番付的には当然の結果。しかし、今場所は投げ技に光るものを見た。来場所「残念」と言われないように期待。豪風も今場所はよく押せていた。朝赤龍はこの位置で負け越し。朝青龍以上に衰えが激しい。豊真将負け越しは意外。しかし、言われてみるとけっこう負けていたような。豊真将に関しては稀勢の里と同じ感想を持った。もっと工夫しろ。
高見盛は家賃が高すぎたに過ぎない。しかし、衰えないというのはすごい。武州山は今場所良い圧力をしていた。千秋楽は阿覧が空気読まなかったので敢闘賞ならず。まあ、大相撲はそう甘くない。栃煌山11勝だがこの番付では当然。来場所も二桁じゃないとまだ「残念」なくらい。北勝力は力強い押し相撲が戻ってきた。
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