ねこねこソフト復活作。渾身の力作であった『Scarlett』で華々しく休止したことに比べると,随分こぢんまりとした復活作となった。おそらく急ごしらえな上に,HP上やスタッフルームで片岡とも本人が語っていたように「お手伝いを中心にして作れる範囲で作る」のが新生ねこねこソフトのコンセプトではあるため,今後もこのような作品が増えていくのではないだろうか。
日常路線の作品としては『White』『みずいろ』『ラムネ』に続く作品となる。というよりも本作は『ラムネ』の約20年後が舞台であり,ぽんこつ(つばめ)の母親はぽんこつ(七海)という大変わかりやすいつながりが明示されている。『ラムネ』の正史として,主人公は七海とくっついたらしい。背景CGもほぼ『ラムネ』と同じで,むしろ20年の歳月さえ感じさせない。その他,旅館の女将として多恵先輩が登場。ジャージ先輩は結局家業を継いだようだ。多恵先輩の姪っ子は主人公たちの先輩(バレー部キャプテン)として登場し,CVはもちろんまきいづみである。『ラムネ』要素を感じさせるものとしてはこんなもんで,鈴夏とひかりは出てこない。おそらく二人はあの町を離れているものと思われる。また,OPムービーもほぼ『ラムネ』と同じ構成となっている。
ただし,ヒロインの設定としては『ラムネ』よりも『みずいろ』に近く,というよりもほとんど酷似している。ぽんこつレベルは上がり,七海を超えて日和に近くなった。妹は再び家事万能になり,(ねたばれ注意)
挙句「私嫌な子だね」とか言い出す始末,さすがにあのシーンはギャグにしか思えなかった。幼馴染は過去編の選択肢によりやかま・おとなの性格分岐が生じる。残念ながらお餅先輩とサテライトキャノンは存在しないが,中核3人はまるで同じ設定である。
作品の評価としては,私はねこねこソフトの日常路線最高傑作は『ラムネ』だと考えており,それに比べると本作品はやはり何段か落ちるという結論となった。
本作の最大の特色と言えば独特の分岐システムである。過去編で分岐してメインヒロインが確定するところまでは通常のエロゲと一緒だが,現代編でさらに分岐しその時空のサブヒロインまで攻略可能になったという点にある。つまり,大概のエロゲではAというヒロインの個別シナリオに入ったらそこからBやCは攻略できないところを,できるようにしてしまったのが本作である。ヒロイン数は3人であるから,単純な3ルートではなく,3×3のルートが用意されていた。
このことは比較的革新的で,既存の枠組みを打破しうるおもしろい試みだと思われた。
しかし,その有用性を本作は発揮しきったとはとても思えない。なぜなら本作は結局のところ3×3ではなく,個別ルートが9つあったに過ぎないからだ。せっかくメインヒロインが確定しているところでサブヒロインに浮気するのだから,三角関係展開にはならずとも本来のメインヒロインとは何かしらの絡みがあってしかるべきであり,メインヒロインではなくサブヒロインが選ばれるだけだけの強い動機や事件がシナリオに登場すべきであろう。が,そういったものはまるでなく,それが本来誰のルートであったのかを忘れさせるようにシナリオは進行する。ネタばれになるので具体的には後述するが,この画期的なシステムの意味があったシナリオは少なかった。
さてそうなるとこのシステムは,共通ルートが3倍になっただけでさしたる意味を持たない。いかにおもしろい共通ルートといえど3回もやれば飽きてくる。この点は弊害だと言えよう。個別ルートの出来は複数ライターの弊害から非常にマチマチで,片岡とものシナリオは出来が良い分逆に浮いて見えた。加えて言えば,『そらいろ』は『ラムネ』ほど夏という感じがしない。
夏のモチーフの使い方が丁寧ではないと思う。たとえば,せっかく七海畑を引き継いでいるのだから,畑のCGは欲しかった(『ラムネ』にはあった)。文章でも,『AIR』ではやたらと往人さんがへたばっていたイメージがあるが,その意味で本作の主人公には季節感を感じさせない。まあクーラー引きこもりになるシナリオはあったが……個人的にはこういったところは積極的に減点対象としたい。
絵に関しては特にケチのつけどころがない。複数原画でも違和感がないねこねこソフト原画陣の統一性及びCG陣の努力はさすがである。いや,単純に秋乃武彦スクールというべきなのかもしれないが。
特にあんころもちの幼女立ち絵の出来が異常,なぜこのまま攻略できない。音楽に関してはこのシナリオにもったいないくらい一級品で,特に主題歌「そらいろ」は,Elements Gardenと佐藤裕美の鉄板コンビの持つ破壊力を感じさせる。システムも不備はなく,この辺りはさすがに復活した老舗といったところか。「緊急回避」機能は今回も実装され,いつも通りの野望2009,じゃじゃ馬(超短いけど),X-fileが盛り込まれていた。あとはポートピアと片瀬健三郎があれば完璧だったがそこまでは望むまい。
点数としては70点未満65点以上。3×3がうまく機能していれば80点以上もありえただろう。思い入れの割には点数を与えられない・他人には勧められないゲームの典型。好きなことは好きなんだけど。
以下,ネタばれ。
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