2011年03月31日

やはりイエスの力が必要だったな

まず先に。都知事選は真っ当に考えて共産党の小池晃氏に投票する予定です。まあ言うまでもなく私は保守主義・右派ですが,今回ばかりは彼しかいない。石原さんは正直な話,4年前まではまあそこまででもなかったと思っていたけども,一気に耄碌した。オリンピックも失敗したし,最近失言が隠せなくなってきた,とどめに表現規制と,もう出てきてもらう必要は全くない。

和民は大学自体時々使ってましたがブラック企業乙。何しに出てきたと思うし,彼を支援する民主党も何を考えてるかわからない。それに比べたら東国原の方がマシだろう。宮崎県知事としては評価している。が,東京には必要がない人物。発言も大きくブレており鳩山を彷彿とさせる。

こう削っていくともう彼しか残ってないわけだが,あまり消去法というわけではない。読んでみるとまあ割と真っ当なことを言っている。というよりも都政の場で言ってもしょうがないことはHP上に載せていないのだろう。表現規制撤廃,記者クラブ廃止,ネット選挙活動解禁は評価したいし,「五輪招致は中止するが東京マラソンは継続する」など石原都政には何でも反対というわけではなくて各論賛成できる冷静さもあると思う。ただまあ……オーラは無いよな……あと個人的には日の丸・君が代は義務教育段階では半ば強制でもかまわないと思っているし,東京都平和祈念館とか明らかに要らないだろとかいろいろあるけどそれもまあ置いておこう。


以下は今回の泡沫候補について。前回も大概でしたが今回も大概です。外山恒一と又吉イエス,お前らはなぜ出馬しなかった……ひとまずこれが端的にあってるよ!
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2011年03月28日

DEARDROPS レビュー

本作は私のプレイ歴の中では最も不遇な存在である。新作で買ったのでインストールしたのは発売直後,つまり昨年6月の下旬。にもかかわらず仕事の多忙と他作品優先(『俺つば』『俺つばAS』『そらいろ』『ねこFD3』『うみねこEP7・8』『祝祭のカンパネラ』)の結果,共通ルートが終わったのが9月下旬,一人目(かなで)クリアが12月下旬,二人目(りむ)クリアが2月上旬,コンプリートはやっとのことで3月上旬である。なんと半年かかった。これは私のエロゲ人生で初めてのことだ。しかし,レビュー書くのが難しい作品で,そこからレビューを書くためにさらに二十日も放置された。私は大体クリア2,3日後くらいにレビューを書いているので,これもまた新記録である。

プレイが進まなかったのは前述のように仕事が忙しかったこと,優先すべき他作品が多かったことが主要因であるが,本作が抜群に面白ければそれらは要因になりえなかったであろう。その意味で本作のクオリティの低さがプレイの遅さに現れたと言える。特に上述の通り二人目のクリアまでが異常に遅く,りむのクリアからコンプリートまでは逆にたった1ヶ月弱しかかかっていない。この進行状況の通り,共通ルートはつまらないし,かなでルートはげんなりする出来で冗長,りむルートは話がありきたりな上に異様に短く,ここまでは散々であった。ただし,弥生ルートと律穂ルートはおもしろかったので進みも早かったし評価もかなり挽回した。


総評として。『キラ☆キラ』や『BECK』と比較する気はプレイヤーの側になくとも,感想は必然的に「薄い」とならざるを得ない。何がって音楽やロックというものの描写や理解が。結果として本作で一番輝かないといけないキャラは本来権田であるはずなのだが,彼にスポットライトが当たるのは律穂ルートのみであり,共通ルートでの軽薄さと言ったらあんた何がしたいんだと。練習シーンやライブの文章も毎回同じで,音楽に造詣のある人が書いたのか?そしてbamboo本人はこれチェックしてたんだろうか,という疑問を抱く。

『キラ☆キラ』とは作品の雰囲気も目指してる方向も違うんだという擁護を目にするが,音楽やロックという基盤は同じはずだ。その基盤が崩れているのだから,その言い訳はかなり苦しい。キャラゲーとして評価するのであればまだわかる。シナリオのつまらなさに比べるとキャラは立っている。かなでが典型的な幼なじみキャラである以外,テンプレ的な性格付けは少なく,この点は素直に評価できる。批評空間に「たとえばサッカー小説がやはりサッカーに全く興味がないと楽しめなかったり、筆者のサッカー論と考えが合わなければ楽しめなくなってしまうように、音楽の好みによってこのゲームの好みが左右されると思う。」という意見があった。それには割と同意するが,しかしそれでも本作は凡作でしかない。

一つ,他の人のレビューでおもしろいと思ったのがとりくずかごさんのもので,確かにアンチ本質主義,音楽を象徴(あるいは芸術)として用いないための「軽薄さ」として描かれているのであれば,本作は納得がいく。そういう視点で評価することもありだと思う。でもって,アンチ実存主義な私が本作を気に入らないのも当然であろう。(それにしては律穂ルートはテンプレ表現であるにせよ神と戦っているような気はするので中途半端だし,前述の通り理解自体が薄すぎることへの疑惑はぬぐえない。後述のように,全シナリオで弥生ルートのような方向性にしておけば,「軽いが深い」を表現できたかもしれない。)


音楽はよく聞いてみると悪くないんだけど,音圧の設定をミスってるのかしらないが(音量を上げても解決しない),ボーカル曲がすごく聞きづらい。65〜70点くらい。以下,個別ルート評ネタバレ。
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2011年03月27日

けっこう積みゲ減ってきたかも

そろそろエロゲのマニュフェストを更新しましょうか。前回。

・うみねこEP8 → クリア済,レビュー済。まあクソでしたね。
・DEARDROPs → 半年かかってようやくクリア。レビューは書いてる途中。
・Stein's Gate → アニメ化するということで先に手をつけた。おもしろかった。レビューはDDを書き終わったら書く。

・G線 → プレイ開始,2章後半の椿姫ルートとの分岐点まで到達。ここまではけっこうおもしろい。3月中に終わるか終わらないか。進捗状況はtwitterで逐次つぶやくはず。
・くどわふたー → 1500円で投げ売られてたので購入。短そうなのでさっさとやろうと思う。

・ユースティア → 地震の影響で延期だから仕方ないね。ただ,発売日直後に帰省が確定しているので,GW前半でのクリアは無理っぽい。ネタバレを避けながらネットを巡回する苦行が始まる悪寒。それでもGW中のクリアは余裕だと思う。
・ホワルバ2IC → 本編がいつまで経っても出そうにないので,よほど積みゲがなくならない限り完全版商法まで待つことに決定。
・仏蘭西少女,群青の空を越えて,素晴らしき日々 → 優先順位高めの積みゲたち。
・Rewrite → 体験版ver.2はDLした。どっかでやる。
・まほよ → どこまで延期するのやら。出たらやるとは思うけどやる気は相当減退気味。


ついでに。
・EU3HttT → 購入・インストール済,ほぼ未プレイ。NAまではやってたけどINをやってなかったため,システム変わりすぎわろたで慣れるまでしんどそう。あとDivine Windの評判を聞かないんだけど,誰か知りませんか。
・Vic2 → 拡張出るらしいけど正直半分見捨ててる感じ。
  
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2011年03月26日

2011年03月24日

いまゼロになったちなさん

・「町山さんとサウジと〇〇 」(Togetter)
→ 念のため書いておく。私は一介の保守主義者として主張したい。伝統は守られるべきだが,墨守されるべきではなく,特に基本的人権の抑圧と対峙した場合は慎重に検討されるべきだ。実感・肌感覚の重視も保守主義においては重要だが,と同時に盲信してはならない。
→ それはそれとして,ハムラビ法典についてだけ補完しておく。あれは同害復讐法である以上に身分法である。当時メソポタミア文明では商業が発展し,従来の地主層=貴族を凌駕する経済力を付け始めた。しかし,それに伴い秩序が乱れたため,経済力がそのまま権力に直結しないように定められたのがハムラビ法典の概要である。ハムラビ法典のその序文には「弱者救済」が高らかにうたわれている,ということは同害復讐に目が行きがちであるがゆえに無視されやすい。古代当時と現在の社会が全く異なるとはいえ,人権弾圧の理由に使われてはハムラビ王も浮かばれない。
→ 無論,現在のイスラーム教ワッハーブ派の教義とハムラビ法典は全く関係がない。無知も大概にせえよ。


・(最終回)やる夫がフューラーになるようです 第36章 意志の勝利(それにつけても金のほしさよ)
→ 見事完結。最終話だけが延期を続け完結がここに来ての危ぶまれたが,壮大な締めくくりであった。本シリーズはヒトラーの半生を振り返るだけでなく,なぜヒトラーが成り上がったのかじっくり検証し続けたという点において非常に意義深く,歴史小説として十分な読み応えがあった。なぜ作中においてヒトラーは「やる夫」と呼ばれ続けたかにまできちんと理由を付けたのは,震えさえ感じた。時間を見つけて最初から読み返してみたい。
→ 前に書いたような気もするが,私が歴史物やる夫を読み始めたのはフューラーと家康がきっかけである。そして最高傑作は今でもフューラーだと思っている。それ金さんも編集お疲れ様でした。最速丁寧,これに限らず,最良のまとめブログだと思っています。


・どうすればいまいち萌えない娘が萌えるようになるか考えてみた(戯言)(カトゆー家断絶)
→ 何に驚いたってカトゆーさんの画力向上だよ!まあイカ娘を前に見てたので実はそれほど驚いてないけど。
→ 情報量に関してはさすが,としか言えない。単なるまとめとしても十分すごい。毎日あれだけ更新してればなぁ。
→ 謎のエアブラシに関しては,見る専ながら偉そうに「あるあるw」と言わせていただく。絵師の皆様にはぜひとも髪の質感にこだわっていただきたい。
→ 最後に提示された「萌えもコンテクストだよね」というのにも同意しておく。人間は視覚だけで萌えるんじゃない,情報・属性にも萌えるのだ。
→ それはそれとして,いまいちなさんも一過性のブームでもうあんまり流行してないry。


・コミケとラノベから離れたらオタク文化の「今」が皆目見えなくなった(一本足の蛸)
→ 以前書いた気もするのだが,ヲタク界隈というのは緩い連帯感があって,それをつないでいるのはメディアミックスされた作品である。その数ヶ月を代表するヒット作というものは常に存在していて,それは嫌でも目に入ってくるのでさして興味が無くても覚えてしまう。これが緩い連帯感を生む原因である。ただし,どこからか摂取してこないとその代表作の「嫌でも入ってくる情報」さえ抜けていき,いつの間にか脱オタしてしまう。この方にとっては,その経路にあたる具体物がラノベであり,コミケのカタログだった。だから,実はこの連帯感を失うのは案外と簡単で(だからこそ緩いのだが),「通路」が遮断されれば動きの速いこの界隈,すぐに見えなくなる。
→ 私はこの緩い連帯感が好きである。いつまで経ってもこの界隈から抜けられない理由でもあり。

  
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2011年03月23日

非ニコマス定期消化 2010.12月上旬〜12月下旬

始まる物があれば終わるものもある。



現在連載中。製作スピードが早くて良い。縛りプレーとは対局にあり,ネタを交えながらさくさく進むプレーは,新鮮ではないものの手堅いおもしろさ。ゆっくりとFFTが好きなら見ても時間の損にはならない。



最近の実況だと,ひできちおじさんとobasanが自分の中で二強であった。こうして両方終わってしまい,とても寂しい。均整都市,美しい。



本当に作れるからこそのハリボテエレジー。哀愁ただようその無駄にリアルな造形は,実物になっても人々を感動させた。さあ早く2を作る作業に戻るんだ。



「戦闘民族高町家」タグから発掘。ちょっと前にtwitterでつぶやいたが,やはりとらハとのコラボはファンとして嬉しかった。しかし,魔法使えなくても違和感ないって高町一家(正確には不破・御神一族)人間辞めすぎだろ……あと久遠ちゃんマジチート。3ばかりが注目されがちではあるが,HGSの連中も夜の一族の連中も皆怖いです。その大百科にあるが,リリカルなのはForceの時点で「桃子=50歳(士郎は存命しているアニメ版だと54歳)、愛・真雪=46歳、耕介=45歳、薫=40歳、真一郎・唯子・知佳=39歳、リスティ=37歳、フィアッセ=35歳、恭也=34歳、那美=32歳、美由希・美緒=31歳」らしい。時が経つのは早い。




もう一つ。ヴィータさん逃げてー。




懐かしいものを発掘。神番組だったと思う。たけしが若い。



おおよそうまく訳してあるが,若干エキサイト翻訳的な感じもあるw。日本語にすると気の抜けた歌詞になったり意味不明になったりするのもあるのがおもしろい。



どんどん人間をやめていくおやつの人シリーズ。人力TAS,その発想は無かった。プレイの内容もマニアックなものに。完走済。

  
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2011年03月22日

ピレンヌ・テーゼ考(5) まとめ

(4)から。

11.フランク王国の発展
ゲルマン民族大移動の後に誕生したゲルマン諸王国の中で,フランク王国が最も拡大・繁栄した理由は,まず移動距離が短く移動によるダメージが小さかったこと。そして481年に族長クローヴィスがアタナシウス派に改宗したこと。これによりフランク王国はローマ系住民の協力を得た。ただし後者についてはイベリア半島に割拠した西ゴート王国でも起きた出来事で,ローマ化という点ではこちらのほうが進んでいた。にもかかわらず西ゴートが覇権を握れなかったのは,イスラーム勢力の侵略を真正面に受けて滅亡したからである。その意味でフランク王国は地勢も良かった。東側に目を向けても,ビザンツ帝国との間にはスラヴ人がいた。

西ゴートを滅ぼしたイスラーム勢力はフランク王国にも侵攻したが,あまりにも長くなった遠征路,ピレネー山脈越えによる疲労もあり,トゥール・ポワティエ間の戦いで大敗し,ピレネー以北には二度と侵略できなかった。このトゥール・ポワティエの勝利を目にしたローマ教会がフランク王国の実力を買い,「教会の守護者」として認め両者の接近・協力がさらに進んだ。その先にいたのがシャルルマーニュであった,とされる。

実はここがピレンヌ・テーゼ最大の疑問点になるのだが,フランク王国はトゥール・ポワティエ間の戦いがなければ,本当にローマ教会と結びつかなかったかということである。基本に立ち返ると,シャルルマーニュによる西欧文明成立とはゲルマン文化,ローマ文化,カトリック文化の三本柱を基盤とする文明と通常説明される。このうち,ゲルマン文化は当然持っているとして,ローマ文化とカトリック文化は,クローヴィスの改宗以来少しずつフランク王国に根づいてきたものであり,トゥール・ポワティエ以後急速に進んだわけではない。しいて言えばシャルルマーニュ自身が古典古代文化を好んだためにその復興を推進したということは挙げられるが,この功績は無論シャルルマーニュ個人に帰せられ,イスラームの侵攻が与えた影響とは言えない。


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2011年03月20日

ピレンヌ・テーゼ考(4) 様々な可能性の検討

(3)から。ここまで史実の確認,イスラーム世界誕生が世界に与えた影響を考え,ではなかったらどうなっていたかについて,中東を中心に考えた。今回は目を西に向け,北アフリカについて。


8.7世紀の気候変動
気候変動が歴史に与えた影響というのは近年注目されることが多く,マヤ文明やインダス文明も気候変動の影響を受けている。ヨーロッパにおける歴史上有名な気候変動は17世紀の寒冷化であろう。急激に寒くなったことで生じた飢饉が宗教戦争や魔女狩りに重なり,「17世紀の危機」と呼ばれた状況を生み出した。一方,この17世紀を乗り越えたからこそ,ヨーロッパは近代化が進んだとも言える。

反転して言えば16世紀までのヨーロッパは暖かかった。このヨーロッパの温暖化が始まったのが6〜7世紀頃と言われている。この温暖化による農業生産力の増強がシャルルマーニュによる西欧統一に影響を与えたとされる。これは現在のヨーロッパよりも暖かく,イギリスでも白ブドウが収穫されワインが製造できたという。

しかし,この気候変動について言えばより影響が大きかったのは北アフリカのほうであった。地学は詳しくないので因果関係は説明できないが,北アフリカが乾燥し,サハラ砂漠が北上した。古代ではカルタゴが農業国家であったように農業先進地域であったが,ビザンツ領であった時代に小規模なオアシス農業を行う不毛の大地へ変わっていった。



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2011年03月18日

ピレンヌ・テーゼ考(3) イスラーム世界誕生の影響

(2)から。


6.ササン朝における宗教と亡命者

ササン朝はイラン人の宗教ゾロアスター教を国教としていたが,ビザンツ帝国が厳格なキリスト教政策をとっていたものの対抗上,基本的に宗教上寛容であった。後に東方に伝道した"異端"ネストリウス派キリスト教(マリアを聖母として認めなかった)を保護していたし,仏教も伝来していたようである。ただしその寛容性はあくまで古代的な良さであり,ローマがユダヤ教を敵視し,キリスト教を迫害したように,国家宗教を脅かさない範囲での信仰の自由であったから,マニ教のような過激宗教は弾圧されたし,ネストリウス派も決して格別に居心地が良かったわけではないようである。

その中でアレクサンドリアのムセイオンがキリスト教徒によって焼かれ,さらにビザンツ帝国のユスティニアヌス帝がアカデミアを閉鎖した。プラトンの開設した伝統あるギリシア哲学の殿堂は,キリスト教神学に反するからという実にあっけない理由でその歴史を閉じた。これらの研究所にいた研究者もササン朝に亡命した。亡命者規模的に大きかったのは実はアカデミアのほうで,これは受け入れる側がその価値を理解し,個人的にもギリシア哲学の愛好者だったホスロー1世であったからだ。ホスローはジュンディ・シャープールという街にムセイオンを模した研究所を立て,研究を続けさせた。

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2011年03月16日

ピレンヌ・テーゼ考(2) 史実の確認

(1)から。ピレンヌ先生にケンカを売る無謀な所業の続き。ビザンツ帝国とササン朝の6〜7世紀頃の検討。

3.ユスティニアヌス帝の覇業
イスラーム教成立以前,地中海世界は再統一されようとしていたことがある。ユスティニアヌス帝による征服事業がそれだ。確かに彼の治世におけるビザンツ帝国はイタリア半島と北アフリカを征服し,イベリア半島にも手がかかっていた。しかし,ユスティニアヌスは首都コンスタンティノープルから全く動いておらず,実際に遠征したのはベリサリウスとナルセスという二人の名将である。しかし,ベリサリウスはユスティニアヌスの猜疑心から晩年不遇であり,ナルセスもユスティニアヌスの死の直後即解任され,翌年死亡。そしてナルセス解任直後にイタリア半島はゲルマン民族のランゴバルドに奪還されている。

ユスティニアヌスの業績は外征のみならず,ハギア=ソフィア大聖堂の建築(正確には再建),ローマ法の整理や中国からの養蚕技術輸入など幅広い。しかし,この外征についてのみ言えばベリサリウスとナルセスの功績に帰し,むしろこれらの外征は財政危機を呼んだ。その負荷を彼は征服地への重税で対処したため,大きな反感を買った。ユスティニアヌスの無謀な征服欲がビザンツ帝国の(少なくともユスティニアヌス朝の)寿命を縮めたということは,専門家も指摘しているところである。

ビザンツ帝国は,領土的にはユスティニアヌス帝の時代が最大であり,この後これ以上の領土を獲得することはなかった。以上のような史実から,ビザンツ帝国から遠征するに西欧は遠すぎたこと。また現地のゲルマン諸王国は意外と強敵であったということは読み取れる。よって,よほど大きなifを考えない限り,ビザンツ帝国が地中海周縁を再征服するということはないと考えてよい。である以上,結局西欧はゲルマン諸部族の王国が乱立する。西ゴートとフランクが二大勢力になるか。

また,外征による財政危機という同じような事情を抱えながらも西域を保持した武帝亡き後の前漢との違いは,次項にあるような国家分裂の可能性の胚胎にあるだろう。


4.キリスト教会の教義論争
その後ビザンツ帝国は一時ササン朝の侵攻を受けてシリアを奪われたものの,名君ヘラクレイオス帝のもとで財政危機を克服し,シリアを奪還し,逆にササン朝の首都クテシフォンさえ陥落させている。これが原因となってササン朝は衰退へ向かい,二度と復興できなかった。順風満帆に見えるビザンツ帝国は,その一方で国家分裂の原因を胚胎していた。キリスト教の神学論争である。


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2011年03月15日

ピレンヌ・テーゼ考 −本当にムハンマドは必要だったか(1) 序文

ピレンヌ・テーゼという言葉がある。フランスの歴史家アンリ・ピレンヌが提唱したものであり,その内容は「ムハンマドなくしてシャルルマーニュなし」という言葉に集約される。すなわち,イスラーム教の成立がなければ,西ヨーロッパ世界は成立しなかったであろう,というものだ。もう少し詳しく書けばこうなる。

古代においてはローマ帝国が地中海周縁を一括して支配していたため,地中海を用いた海洋貿易が盛んであり,分業体制さえ発達した一体化された「地中海世界」が形成されていた。しかし,ゲルマン民族の侵入によりローマ帝国が東西に分裂し,キリスト教会も東西に分裂した。さらにイスラーム教徒が現れて地中海世界に侵入し,またたく間に領土を広げたが,フランク王国がこれを阻止した。イスラーム勢力の拡大に危機感を覚えたローマ教皇はフランク王国を支援し,シャルルマーニュの率いるフランク王国は西ヨーロッパをほぼ統一した。

結果として地中海世界は消滅し,地中海周縁はフランク王国の西ヨーロッパ世界,ビザンツ帝国の東ヨーロッパ世界,アジア・アフリカ部分を支配するイスラーム世界に三分されてしまった。諸世界間での交流は存在したものの,それは地中海世界が存在していた時点よりも大きく縮小し,ゆえにそれぞれ独自の文化が形成された。


このピレンヌ・テーゼに対しては様々な指摘がすでになされ,大きな論争と批判を呼んだ。特にピレンヌ自身が当初は「商業活動は完全に寸断されていた」としていたところを,「交流はあったが一体感は失われていた」と書き換えている。しかしピレンヌ・テーゼの中核である,イスラームの出現・脅威がフランク王国による西ヨーロッパ統一を生んだという主張についてはほぼ否定されていない。それもそのはずだろう,この主張を否定するためには「もしイスラーム教が成立しなかったら」というifを語ることになる。歴史学にifはない。

だが,好事家にifはある。であるならば,これを妄想する価値はあるのではないだろうか。随分と前にtwitterでそんなことをつぶやいたこともあったが,忘れていた。せっかくネタを発掘したので,しばし考えてみたい。

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2011年03月13日

地震に関する節電のまとめ

都民の私は地震の被害はほとんど全く無く,帰宅難民になって○時間ほど歩かされたことと,付近のコンビニ,ファーストフード店から食糧が消えて若干困っていること以外は完全に平常通りである。

節電すべきかどうかというところで情報が錯綜しているので,紹介しておく。

・「節電すべきか」という疑問に対する回答(地域別)/原 悟克(北海道言論プラットフォーム)

というわけで,中電より西では節電はあまり意味が無い。むしろ平常通り経済活動してくれたほうが,経済回復には役に立つ。

・あすから「輪番停電」 東電 供給不足、エリアごとに:経済(東京新聞)

というわけで,計画的な停電は明日からのようである。期間は最短で一週間程度だが,この期間を短くするために節電は有効だろう。ひとまず東電圏内の人間はヤシマ作戦に参加してみてはどうだろうか。

・節電徹底へ「ヤシマ作戦」賛同者がTwitterで広がる(ITMedia News)

こんなときだからこそ,せめて「ヤシマ作戦」で一瞬で理解が通じるヲタクは一致団結してもよい。pixivでは応援投稿をめぐって微妙に荒れているが,自粛はむしろ逆効果で,特に海外からの投稿であれば積極的に受け入れるべきではないだろうか。


というわけで,私も明日からはヤシマ作戦は続行しつつも,それなりに平常通りの生活に戻ります。  
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2011年03月11日

書評:『チョコレートの世界史』武田尚子著,中公新書

世界システム論において取り上げられやすいものといえばまず砂糖。次に茶かコーヒーであろう。してみると,ココアやチョコレートは果たした役割としては茶やコーヒーに近似するにもかかわらず,陰が薄い。これは単純にココアが茶やコーヒーに比べてややマイナーな飲み物であり,チョコレートに至っては砂糖が先に無いと成立しない菓子だからではないかと思う。しかし,ココア・チョコレート好きとしては,やはりこれも世界史の中で扱って欲しいのである。本書はそのような甘党の欲求に答えたものだ。

序章はカカオからチョコレートとココアが作られるまでの工程や,現在のカカオ豆生産地の分布など,基本的な情報の提示。1章はカカオの原産地,中央アメリカでカカオがいかに利用されてきたか,アステカを征服したスペイン人がカカオをいかに扱ったかについて書かれている。スペイン人のプランテーションのもと,カカオ豆は一気に増産された。カリブ海のスペイン独占が崩れ,西欧各国が植民地を形成すると,カカオの流通経路も一つではなくなった。世界史的には大西洋三角貿易の話も出てくる。サトウキビやコーヒーと同様に,カカオもプランテーション経営された。

2章ではココアとチョコレートがヨーロッパに受容されていった過程が述べられている。最初はカカオ豆を粉砕してできるカカオマスを固形のまま調理する技術が無かったため,ココアのみが生産された。そのココアも飲料というよりは薬品として消費された。これも砂糖やコーヒーなどと同じ道をたどっていると思うが,カトリック圏では宗教上の事情によりココアは飲料か薬品かという区別が重要であり,その論争がなされた。また,コーヒーに比べても高級なココアは顕示的消費の対象となり,富裕層に好まれた。一方,苦くて油っこく飲みにくいココアを,脱脂とアルカリ化によって飲みやすく改良したのはプロテスタントのオランダ人,ヴァン・ホーテンであった。19世紀前半のことである。

3章の舞台はイギリスである。19世紀前半,イギリスが覇権国家として自由貿易体制を整えていくにつれ,カカオも砂糖も価格が暴落し,中産階級や労働者にも手が届くものになりつつあった。19世紀半ば,とうとうココアを脱脂するのではなく逆に油脂を加えることで,固形に成形する技術が生まれた。チョコレートの誕生である。19世紀後半,さらに,これに砂糖を加えて甘くし,牛乳を加えることでまろやかすると,非常に食べやすくおいしいお菓子となった。この改良を行ったのはスイス人のネスレである。ベルギーでもチョコレート生産が始まるが,ゴディバの創業は1926年のことであり,他に比べると案外遅い。おりしも時代は帝国主義であり,アフリカでもカカオの生産が始まった。おもしろいのは,この段階においてもいまだココアは薬品の扱いであり,その普及にはホメオパシーがかかわっている。

4章では舞台をイギリスに戻し,その代表的なココア・チョコレートメーカーの発展の過程を見る。宣伝戦略によりココア・チョコレートは次第に客層を広げていった。特にココアが子供の飲み物としてピックアップされるようになったのは19世紀末のことである。4章後半から5章にかけては,やや話を脱線して,イギリスのココア・チョコレートメーカー経営者にはクエーカー教徒が多かったことに注目し,クエーカー教徒たちの社会正義を目指す活動に焦点を当てる。教育や貧困問題を通じて,彼らは社会の改良に取り組んだ。脱線と書いてしまったが,この部分が著者の本来の専門らしい。

6章は戦争とチョコレートのかかわりが述べられる。チョコレートは民間への配給品,軍需物資として二度の大戦を生き延び,潜水艦向けに溶けにくいチョコレートの開発が進められた。1935年,キットカットが発売になり,大ヒット商品となる。ウェハースをコーティングするという発想も,割りやすい溝も画期的な発明であった。

7章ではWW2の戦後復興とともに,チョコレートマーケットがヨーロッパだけでなく,世界に広まっていく様子が描写される。日本人としては,どうしてもギブミーチョコレートを連想するところである。チョコレートの普及に伴い商品としてのオリジナリティも求められるようになり,キットカットは今に続く「Have a Break」路線を突き進むことになる。なんとこの謳い文句は1962年から変わっていない。一方,国際的な市場の拡大は競争の激化を生み,大企業同士による兼併が増加した。1988年にネスレがキットカットのメーカーを合併したため,ネスレ所有のブランドとなっている(日本では不二家がライセンスを借りている)。ゴディバにいたっては,なぜか全く関係ないキャンベル・スープ社が買収した。もっとも,ゴディバの宣伝に成功したのはこのアメリカ企業の功績ではあるのだが。


これでも必要最低限の情報だけでまとめた感じなのだが,新書にもかかわらずご覧のように内容充実である。お勧め。超キットカット食べたくなること請け合い。

チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書 2088)チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書 2088)
著者:武田 尚子
中公新書(2010-12)
販売元:Amazon.co.jp
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2011年03月08日

特定のクラスタ釣るのは楽しいでしょうね

・ピカソの絵のすごさが全く分からない…(2chコピペ保存道場)
→ いやその通りだと思いますよ実際。私はこのやりとりをまったくバカに出来ない。
→ ロスコに関してマジレスすると,ああいうカンヴァス一面一色で塗りたくるのは美術史的に意外と誰もやってなかったと言いますか,「これでも美術だろ」って訴えかけ的な意味合いもあるってところから始まって,心理的効果に初めて言及できるのであって,そういうところをすっとばすとpaintで5分で書いたのと区別は難しい。実物ではないのならば尚更。
→ それはそれとして,>>115は完全にわかってる人ですよね。


・宇多田ヒカルさん、自分の声の“人力ボカロ”に「よく出来てるね〜 しかし……」(ITMedia)
→ 人力ボーカロイド,ニコニコの外に出るの巻。
→ そりゃ本人は気持ち悪いだろうw。次はミンゴスとチアキングに誰か感想をもらってきてくれ。
→ MMDとこれはすごい正統進化してると思う。MMDはすでに有効活用されていると思われるが,人力ボーカロイドはまだ応用の幅がある気がする。


・辻、牟田口が3回戦へ 全豪ジュニアテニス(47NEWS)
→ わかる人はタイトルで腹筋崩壊するニュース。
→ この偶然はすごいなぁ。牟田口なんてそうそうある名前じゃないだろうに。


・ネット上でバカウケされていた、あるビジネスマンのメールのやりとり(らばQ)
→ 爆笑しながら読んだけど「あなたが私にお願いしているロゴのデザインは、実際は僕には数時間と15年の経験を要しています。」がけこう笑えない。こういうことは忘れがちだと自戒も込めて。
→ サイモンはいいから前回の仕事の報酬払えよ,にもかかわらず次の仕事依頼してきた厚かましさは半端ないな。  
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2011年03月07日

早稲田・社学・世界史にて。

書籍版ができました!これも大幅に加筆修正して収録しています。


今年の早稲田の社学の世界史は作題者の気が狂っていたとしか思えない問題であった。例年悪問だらけで,騒ぐほどの話じゃないという人もいるが,今年のものはそんなレベルではない。1・2問解けない問題があるのではなくて,全問題の3/4が高校世界史ではほぼ解けない問題である。

間違いなく受験世界史の歴史に残る。実は昨年もとことんひどかったので今年は修正してくるんじゃないかと思われていたがそんなことはなかった。あまりにも高校世界史範囲外から出題するので,これは世界史という教科の試験ではない。誰か詐欺で訴えればいいんじゃないかと思う。

その問題はこれ。以下,受験生の怒りを代理で表現する解説。世界史がわからなくてもいかにひどかったかわかるように書いたつもりなので,斜め読みとばし読みどうぞ。
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Posted by dg_law at 12:00Comments(16)