お前これ読んでなかったのかよとか言われてしまいそうな。2006年出版当時ちょっと話題になった本。正式には集英社新書ヴィジュアル版に分類され,全ページフルカラーである。
内容はタイトルの通りフェルメール作品の全点踏破を目指した旅の旅行記である。本書の目的は固い学術書ではなく,ミーハー的な視線からのフェルメール鑑賞であり,また専門書ではない西回り鑑賞順の鑑賞記録である。それぞれの美術館の紹介や,それぞれの作品の来歴にも注目して触れている点が興味深い。なお,全点踏破とは書いてあるが実際には本書の旅行では37点中34点までしか見れず,残り3点のうち2点は別の仕事で行った旅行で見たそうで,この著者が見ていないフェルメール最後の1点は《合奏》のみだが,これは1990年に盗まれて以来所在不明,どころか安否も不明であるため,事実上現在一般人が鑑賞できる作品は全て鑑賞済みということになる。
この37点という数字にも説明がいるだろう。通常フェルメールは作品数が確定しておらず,三十数点という言い方がされる。それは本書の冒頭でも説明がされていることだが,帰属がフェルメールと確定していない作品が4つあり,うち2つは特に信憑性が低い。さらに《ヴァージナルの前に座る若い女》は2004年に認定された新しい作品であるため,古い本だとフェルメール扱いされていない。よって,最も疑い深く判断すれば現存するフェルメールの作品は32点になり,これに"新作"を加えれば33点,比較的信憑性のある帰属を信用して35点,全面的に信用すればフルで37点になる。本書は最も「広義」のフェルメールを採用している。
日本人はこの著者に限らずフェルメール好きで,この点について筆者は「宗教画ではないので寓意の勉強がいらず,他のオランダ風俗画のようにプロテスタント的(カルヴァン的)教訓の押し付けがましさもなく,理解しやすい。透徹だが親しみのある画面」が日本人に人気の理由ではないかとしている。その通りであろう。もっともフェルメール自体が世界的人気だが,日本人にはさらに魅力的に見える理由の説明としては極めて的を射ている。
私自身フェルメールは大好きで,一点釣りだとわかりつつも行った展覧会も含めて足しげく通ったおかげで,国外ではフェルメールを1点しか見ていないにもかかわらず(ルーヴルの《天文学者》),ここまでで合計11点も見ている(2011.4.13時点,最新のデータは後述)。約1/3と考えると,そのうち日本にいるだけで半分は見れそうである。
本書はamazonでも極めて評価が高いが,確かに非常におもしろい本であった。単なる旅行記になりすぎないよう著者がかなり調べてから旅行しているし(前書もフェルメール関連というのもある),しかし研究に寄り過ぎないよう,あえて言うなら塩野七生的な想像力がふんだんに盛り込まれていた。ミーハーな美術好きなら間違いなくおすすめできる一冊である。
フェルメール全点踏破の旅 (集英社新書ヴィジュアル版)著者:朽木 ゆり子
集英社(2006-09-15)
販売元:Amazon.co.jp
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ついでに,ここを自分のフェルメール制覇歴のポータルにしてしまう。現在24/37(23/35)点。
1.《天文学者》@ルーヴル美術館所蔵:ルーヴルにて直接。外国で見たものでは唯一。以下は全て日本国内で観賞。
2.《窓辺で手紙を読む女》@ドレスデン国立美術館:
西美のドレスデン美術館展にて観賞。
3.《牛乳を注ぐ女》@アムステルダム国立美術館:
新美のフェルメール展にて観賞。
4.《窓辺でリュートを弾く女》@メトロポリタン美術館:
都美のフェルメール展にて観賞。
5.《手紙を書く婦人と召使い》@アイルランド国立美術館:同上の都美のフェルメール展にて観賞。以下省略。
6.《小路》@アムステルダム国立美術館:同上。
7.《二人の紳士と女》@アントン・ウルリッヒ公美術館:同上。
8.《マルタとマリアの家のキリスト》@スコットランド国立美術館:同上。
9.《ダイアナとニンフたち》@マウリッツハイス美術館:同上。
10.《ヴァージナルの前に座る若い女》(個人蔵):同上。
11.《レースを編む女》@ルーヴル美術館:
西美のルーヴル展にて観賞。
12.《地理学者》@シュテーデル美術館:
文化村のシュテーデル美術館展にて観賞。
13.《青衣の女》@アムステルダム国立美術館:
文化村のフェルメール展にて観賞。
14.《手紙を書く女》@ワシントン・ナショナル・ギャラリー:同上。
15.《真珠の耳飾りの少女》@マウリッツハイス美術館:
都美のマウリッツハイス展にて観賞。
16.《真珠の首飾りの女》@ベルリン国立美術館:
西美のベルリン国立美術館展にて観賞。
17.《聖プラクセディス》@国立西洋美術館:
国立西洋美術館の常設展にて鑑賞。
18.《水差しを持つ女》@メトロポリタン美術館:
森美術館のオランダ絵画展にて鑑賞。
19.《赤い帽子の女》@ワシントン・ナショナル・ギャラリー:
上野の森美術館のフェルメール展にて鑑賞。
20.《取り持ち女》@ドレスデン国立美術館:同上。
21.《ワイングラス(紳士とワインを飲む女)》@ベルリン国立美術館:同上。
22.《恋文》@アムステルダム国立美術館:同上(大阪会場)
23.《ヴァージナルの前に座る女》@ロンドン・ナショナル・ギャラリー:
国立西洋美術館のロンドン・ナショナル・ギャラリー展で鑑賞。
24.《信仰の寓意》@メトロポリタン美術館:
国立新美術館のメトロポリタン美術館展で鑑賞。