文化村のシュテーデル美術館展に行ってきた。もちろん最大のお目当てはフェルメールの《地理学者》ではあったのだが,それ以外の展示も非常に豪華で,満足の行くものであった。シュテーデル美術館はフランクフルトにある美術館で,主に市民の寄付によって成立した。宗教的にはカトリックが多いがドイツを代表する商業都市でもあるという妙なバランスからか,地理的な近さもありオランダ・フランドル双方の絵画が非常に多い。作品があまり貸し出されることはないのだが,今回改装期間ということで珍しく大規模に海外に貸し出された。日本に来たのもその一環で,東京以外では愛知県の豊田市美術館に巡回する。
まずはフェルメールから話を片付けていこう。画面の左に窓を配置しそこからの採光で画面全体を照らすのはいつもの構成でまったくぶれていない。裏のタンスの上に乗っているのはおそらく天球儀で,壁にかかっているのがヨーロッパの地図。ともに地理学者の持つコンパスとあわせて,この人物が地理学者だえることを示している。この地理学者はかなり裕福であるらしく,画面前方の絨毯はかなり豪華な刺繍が施されている。この辺はキャプションで知ったのだが,地理学者の服装は日本風を取り入れた当時の最新モードで,壁の下方に敷き詰められている青いタイルは模様から言ってデルフト焼で,フェルメール地元の名産品であった。
一方,その絨毯の奥の地理学者が寄りかかっている机はかなり雑然としており,床にまで書類が散乱している。地理学者はどこかすっきりとした表情でコンパスを当てていた紙面から顔を上げ,窓の外を見つめている。この情景が明け方だとするなら,徹夜作業で何か思いついた瞬間の表情のように思えなくもない。このありがちだけど微妙に表現しがたい一瞬の切り取りこそ,フェルメールの得意分野であった。ここにはキリスト教的寓意はほとんど(全く?)含まれていない。
フェルメールが学者を描いたもう一作《天文学者》との関連は,一対の連作であるという意見と,消失してしまっただけでフェルメールは他にも人物画を描いており特に関連性はないという意見がある。本展覧会のカタログは関連性があるという意見をとっていた。まあシュテーデル美術館の学芸員としては関連性があったほうがおもしろいと思うだろう(カタログの解説を書いたのは担当学芸員本人の模様)。なお,前述の通り,私がフェルメール作品を鑑賞するのはこれで12点目である。で,なにやら年末にまた3品もフェルメールが文化村に来るらしい……ペース早いな……本当に日本にいるだけでかなりのフェルメールが見れてしまいそうな。
フェルメールの作品が《地理学者》だった関係で,一応のテーマは「オランダと大航海時代」であった。以下はフェルメール以外の作品について,興味のあるところを取り上げて。
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