全体としては,ぼちぼちおもしろい場所であった。優勝争いがそこそこ盛り上がり,内容の無い相撲も無いわけではなかったものの目立つというレベルではなかった。立ち合いも,こう言ってはなんだが意外と綺麗であった。下位でも見応えのある相撲をとってくれた力士が何人かいたことが,その原動力ではなかったかと思う。上位陣が内容のある相撲をとるのは義務的であり,上位陣がダメな場所は大体全体としてダメだからである。千代大龍も舛ノ山も旭日松も,実力差で負け越した力士がいないではないが,よく取っていた。誰かのお陰で熱気があったというよりも全体としてまずまず良かったのではないかと思う。
その中で終盤5連敗した日馬富士については,確かに物足りない数字ではあるが,負けたのが隠岐の海を除けば全員大関以上である点や,なれない新横綱であった点で情状酌量の余地は大いにあるのではないかと思う。そもそも今場所こうなることは低からぬ可能性で考えられたわけで,一場所で判断すること自体が間違っている。私自身,
前回の記事で「相撲ぶり自体はなんら変わっておらず,今後成績が安定するともあまり思えない。」と書いている通りである。取りこぼしではなく,大関陣に負けての9−6であるから,そう悲観することもあるまい,素直に来場所に期待しよう。一つだけ指摘しておくと,立ち居振る舞いが先場所までよりもやや落ち着いていたのは好印象であった。このまま行けば「地位が人を作る」ということになるが,この点もまた来場所以降に注目である。ところで,横審の某人は「早くも引退」とか発言したそうだが,冗談でもつまらない上に自分らが昇進を認めたことを忘れているようなので,ご自分が辞められてはいかがだろうか。
今場所は誤審はなかったものの,九日目に勝負がついていないのに審判が取組を止めてしまったという珍事が起きた(
細かな流れはこちらへ)。これもまあ一種の誤審と言えなくはないのだが,取り返しの付かない誤審を防ぐために,過度に注意深くなった結果としてのミスである分,先場所のような誤審よりも段違いにマシである。行司差し違えの見過ごしになるくらいなら,この勘違いのほうが力士にとって被害は少ない。萎縮すること無く,どんどん止めてほしいと思う。再発防止として,「おかしいと思ったら行司が軍配を差してから物言いをつけて指摘する」というのも良い方針だと思う。
来年への展望は別記事に譲るとして,個別評に移る。まず優勝した白鵬。前半はそうさして褒めるところが無かったが,後半は往年の相撲が戻ってきており,久しぶりに「完全無欠に強い白鵬」の姿を見たような気がする。この点,多くの人が同じ感想になったのではないだろうか。足腰が強く,投げに切れがあった。どうせなら全勝優勝して欲しかったとは思うが,あの日の琴欧洲はなぜだか異様に強かったので仕方あるまい。日馬富士のほうは,上記のようにもともとの成績が不安定であり,さして今更指摘するようなところはない。立ち合いが低すぎる,下がるとこらえられない,体格がやや小さくて軽い,と弱点は明白である。強みを生かした相撲を見たい。
大関陣。琴欧洲は白鵬を破った日の一番以外はまるで見所がない。カド番脱出してからの相撲は,無気力とまではいかないが,見るからに気が抜けているのでむしろ印象は悪かった。稀勢の里と鶴竜はよくも悪くもあんなもんでしょう。琴奨菊はこんなに苦戦するとは思わなかった。地元補正もあって,優勝争いに絡まないまでもカド番脱出は早いと思っていたのだが。最近,うまいことがぶれていないような気がする。日馬富士の横綱も短命だとは思うが,琴奨菊の大関も短命かもしれぬ。で,陥落してしまった把瑠都は,来場所10勝して戻ってくるのではないか,と期待を込めて予想しておく。初場所の優勝はまだ記憶に残っており,ケガのせいとはいえ一年で10勝できないほど衰えるわけはない。返す返すも先場所の誤審→休場が惜しい。
三役。豪栄道の11勝は立派である。負けた4人も横綱二人を含み納得の行く面々。もともと体も強く相撲勘もあり,有望と見られていたのが立ち合いの弱さと腋の甘さをなかなか克服できず伸び悩んでいた。相変わらず弱点は直りきっていないものの,とっさの技のキレには磨きがかかっており,これを維持できれば関脇には完全に定着できそうだ。ただし,把瑠都復帰で5大関になるなら,琴奨菊がよほど早く陥落しない限り,大関取りは苦しい。妙義龍は負け越してはいるが,6−9と大負けしたわけではなく,日馬富士・琴奨菊・鶴竜と大物食いには成功している。負けた相撲も内容はあるので,来場所,というよりも来年に期待の持てる力士である。小結二人にはなんの言葉もかけようがない。
前頭上位。栃煌山は10−5で内容も良かったが,強いときの栃煌山はいつもこうである。これが数場所続かないのが問題なだけで。魁聖負け越しだが7−8,彼も妙義龍と同じで光明の見える負け越しではあった。もう完全に上位には定着したと言ってよい。横綱・大関陣には全敗しているが,取りこぼしがなかったのが強みである。押しても組んでもとれるので,対戦相手にあわせて使い分けて欲しい。碧山休場はとてももったいない,ケガせずとれれば彼も勝ち越せていたであろうに。
舛ノ山は「死力を尽くす」というのが比喩でない取組内容が観戦者の心を打った。星は5−10と大敗に近いが,心肺機能は仕方がないにしても左腕のケガは治せる。今度の上位挑戦は元気な姿で見たい。
最後に松鳳山である。敢闘賞は妥当と言える働きをした。先場所は気力みなぎるものの,気力が先行する突き押し相撲一本でこの先もつだろうか,と考えていたものだが,今場所は気力そのままに,意外にも器用にとっていた。押し相撲かもろ差しで潜るかの二択になるだけで大きく違う。冷静に考えればまだまだエレベーターするだろうが,長い目で見たい力士である。
前頭中位。豊ノ島と旭天鵬は上りエレベーターだが,問題はこのエレベーターに乗れなかった阿覧と臥牙丸である。若い臥牙丸はまだしも,阿覧は本当にいよいよ上位定着できなくなってきたなと思う。ただし,何度か書いているが,あのはたき相撲は一見の価値があるので,雅山のCSPと同様,若手に対する門番として当分前頭中位でとってほしいとは思う。大道は日によって強かったり弱かったりが激しすぎるので落ち着いて欲しい。
時天空の7−8残留力は神がかっている。今場所もけたぐりが見れたので満足した。翔天狼は終わってみると5−10と寂しい成績。押し相撲を主としつつ組んでも取れるはずが,どっちも中途半端で相手にあわせてとってしまっているという印象を受けた。勢は9−6だが,なぜかそれほど印象がない。
前頭下位。旭日松は塩撒きのインパクトで終わらないだけの相撲はとったと思う。ただし,体格負けが多く,押せずに負けるのならまだしも押しても負ける押し相撲というのはやはり修正の余地が大きかろう。結果的に6−9はいわゆる「残当」。
千代大龍は敢闘賞でも良かったのではないか。千代大海・雅山・若荒雄の系譜を継ぐものと期待されてここまで来たが,今場所に限れば明らかに意識的に引き技を避け,15日とって1日しか決め技に引き技を使わなかった(11日目の豊ノ島戦のみ)。私は引き技嫌いではないものの,この決意は立派だと思う。それでいて,ほぼ幕尻とはいえ,新入幕半年の若者が10勝したのだから,大きな賭けに勝ったと言える。これで引き技が復活したら大成するのではないか。
十両は隆の山負け越しが残念なものの,佐田の富士と栃乃若の二人が復活したようである。特に栃乃若の復活はとても嬉しい。前頭上位に復帰するのを期待しておく。
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