仕事が糞忙しい中なんとか見た秋場所が終わった。そんな中見たせいか内容に乏しかった気がしたのだが,twitterのTLを見ても同じような反応の人もいたので,気のせいではなさそうだ。一方好角家には高評価の人もおり,よくわからない。もっとも,その人でも「幕内上位は低調」という評なので,少なくとも上位陣がひどかったのはそれなりに共通見解が取れそうである。
とりあえず,NHKを含めて世のマスコミに言いたいのは,安易に白鵬盤石というのはやめないか。どう見ても今場所の白鵬は盤石でなく,力量の低下というよりも単純に不調でもあり,完全にだましだまし,それも省エネで取っていた。どちらかというと,それでも優勝できてしまったことのほうが問題であろう。白鵬の省エネ相撲の弱点を突いて完勝したのは豪栄道だけであり,情けないことに琴奨菊・鶴竜・稀勢の里・日馬富士と全員秒殺に近い状態であった。白鵬が万全で勝率の高い勝ち方をするときはがっちりと右四つで捕えるはずである。無論それで結果的に秒殺になることもあるが,それは相手の問題だ。逆に省エネで行こうとする時は離れて取りたがり,特にとったりとはたきを多用する。依然難易度は高いが,がっちり右四つよりはまだしも隙がつける取り方で,実際今場所の豪栄道はとったりを外させたことで形勢を有利に進めることができた。他はそろいもそろって「白鵬は組みに来るものだ」という想定でとるからあっさり腕をたぐられ,またははたかれて落ちている。どうにかならないか。優勝した白鵬の「豪栄道戦で目が覚めた」は半分は本当であろう。半分ウソなのは,その後も結局省エネ相撲っぷりが全く変わらなかったからだ。
そうそう,物言いについては書いておかねばなるまい。今場所の物言いはつけるタイミングがひどかった。特に勝ち名乗りの真っ最中に物言いは最悪であろう。しかもこれ先場所からの継続案件であるから,組織として全く改善されていないことになる。確かに進行は遅くなるが,気にせずどんどん「確認のため」に物言いをつければよい。つけずに疑惑の判定になるほうがよほど悪い。審判部は猛省してほしい。
来場所の展望としては,白鵬の5連覇の可能性は高い。いくらなんでも今場所よりは調子を上げてくるであろうし,逆に周囲が白鵬を上回る力量を示す予想も立てづらい。しいて言って期待できるのは,なんだかんだ言って日馬富士であろうが,どうなるか。最大の目玉は,いよいよ豪栄道の大関取りが真実味を持ってきた点になろうだろうか。とは言っても3場所連続のうち2場所目なので来場所のうちに決まるわけではない。あとは遠藤の番付が上がることと,大砂嵐の新入幕が確実なことくらいか。それなりに目玉は多いので,来場所に期待したい。
把瑠都については別個に記事を立てる。一方栃ノ心は幕下から再起を図るつもりだろうか。膝のケガの直接の原因になった名古屋場所五日目の相撲は本人が勝っており,それほど強烈な記憶もないので,そんなに悪かったとは思えなかった。早い復帰を祈りたい。
個別評。白鵬については前述の通りである。また,先場所の評をコピペしておく。「逆に言えばこれが後期型白鵬の発展形ではあり,この型であと5場所優勝(通算31回)までいけるかどうかはハラハラしながら見守る他無い。」1回減ってあと4回になった。本人の希望は35歳までとって,現役のまま東京五輪を見ることらしいが,けっこう難しいと思う。日馬富士も引き続き重症で,これも先場所の評に「(もう)突き刺さる立ち合いができなくなっているのではないか」と書いたが,やっぱりできなくなっているのだと思う。日馬富士の原動力とはあの立ち合いの破壊力であって,全勝優勝はこれが15日間続いた結果である。あれがない日馬富士は白鵬はおろか稀勢の里・鶴竜に伍するのも怪しく,実際ここ数場所は大関戦黒星が目立つ。今はものすごく彼のことが心配だ。
稀勢の里はいつもの稀勢の里であった。琴奨菊も可も不可もなく,この二人はコメントしようがない。鶴竜は絶不調まっただ中であるが,それでも9勝はしたことを評価するべきか。一方で幕内上位陣の内容がぱっとしなかった戦犯としては最大なので,あまり評価したくない気も。技巧がまるで見られず,淡々と取っているように見えた。三役陣は今の鶴竜を倒せないようではまずく,特に豪栄道が鶴竜戦あせって自滅したのが残念でならなかった。琴欧洲は比較的好調そうではあったが,ケガで休場は惜しい。彼が最後までとれていれば,雰囲気が違ったかもしれない。
関脇。妙義龍は先場所に引き続き,どうしちゃったのというくらい不調であった。この人,不調でもそれなりに勝って6−9くらいでまとめてしまうからインパクトがないが,内容だけ見ると場所ごとの調子の波が激しいことに今場所気づいた。今場所は立ち合いに威力を欠き,どうもうまいこと寄れていなかった。ただし,材料がまったくないわけではなく,白鵬に善戦していた点は豪栄道に次ぐ。豪栄道は前述の通り,白鵬戦に工夫が見られて11勝である。ただし開眼したかどうか,私は疑問視しており,来場所も11勝できるかどうかは五分五分。小結,栃煌山は8−7でなんとか勝ち越したが,彼に必要なのはもうひとつ上の安定であってこれではない。豪栄道・妙義龍とはやや差がついてしまっている。もう一人の高安はいまだ家賃が高かった。相変わらず日ごとの実力差があり,安定しない。
前頭上位。松鳳山は8−7ながら敢闘賞の資格はあろう。近年なぜだかやたらと三賞のハードルが高く,あげないときは徹底してあげず,人種差別も疑ったほどだが,今場所はやけにあっさりと出た。まあ松鳳山の魅力ある押し相撲と日馬富士戦の金星が評価されたのであろう。再小結は確実だが,家賃が高そうな気はする。隠岐の海も再小結になるだろうが,なんとも言えない。栃乃若にも言えることだが,なぜに高身長の懐深い奴がもろ差しを求めに行くのか,疑問でしょうがない。碧山は日馬富士に勝った一番以外評価するところがなく,勢と宝富士にいたっては絶不調で何も評価するところがない。魁聖はそれなりに好調であったのだが,上位陣には通用しなかった。琴欧洲が休場しなければあたることのない番付ではあり,後半突然上位陣コースが組まれてやや不運ではあった。
前頭中位。なんともコメントしがたい力士ばかりで,逆に衰え激しい阿覧が目立つという結果に。阿覧は以前見られた怪力が全く見られず,特徴的だった乱暴なはたきも威力を欠きまるで勝てなかった。不調というよりは衰えているように見えた。負けがこんで逆に目立ったといえばもう一人は翔天狼で,こちらも押しに力がなく,組まれるわいなされるわで散々な相撲ぶりであった。豊ノ島は前半不調だったが後半切れを取り戻し,動きまわる相撲でなんとか勝ち越した。ベテランらしい,場所中の調整が効いたパターン。琴勇輝は立ち合いの気合を入れるモーションで人気が出そう。私もあれは好きだ。相撲の方は突き押しだがもっと上に行くには威力が足りず,この辺りをうろうろしそうである。旭日松もそうだが,陥落しないようにがんばってほしい。
前頭下位。まず栃乃若,前述の通りなぜにあの巨体でもろ差しにいくのか不可解でしょうがない。そのせいで相撲が窮屈になり,ありえないはたかれ方をして落ちている。そこを改善すればすぐに上位定着しそうなものだが。これは改善されるか上位定着するまで毎回書き続けると思う。あとは豊真将と遠藤を挙げておく。豊真将については,大相撲にカムバック賞があれば受賞していただろう復調っぷりである。押しの威力が回復し,かなり相撲が取れていた。遠藤は新入幕とはとても思えないほど技巧に優れて型も良く,9−5−1の勝ち星もさることながら,内容面から見ても大きな期待を持たざるをえない。特に投げが強烈で,九日目の嘉風,十一日目の旭天鵬戦は素晴らしい取組であった。にもかかわらず勝てないのはまだ身体が出来上がっていないというアンバランスさがあり,それゆえ期待は大きいものの,急速な出世は不安もある,と書いて今場所の総評を締めたい。
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