今場所は内容のある相撲・熱戦が非常に多く,おもしろい場所であった。優勝争いも千秋楽までもつれた。総合的に言って「上の中」の評価を与えてもよかろう。特に後半戦,9・10・11・12日めの四日間は文句の付け所がない。より具体的にどの取組がどう熱戦だったかを羅列すると長くなるので,名だけ挙げておく。
別館の方で詳述しているので,気になる方はそちらで。3日目の魁聖・高安戦。4日目の照ノ富士・貴ノ岩戦。5日目の徳勝龍・照ノ富士戦。7日目の常幸龍・貴ノ岩戦。9日目の嘉風・稀勢の里戦。10日目の舛ノ山・双大竜戦,豊真将・貴ノ岩戦。11日目の豪風・碧山戦。13日目の蒼国来・豊真将戦。
「上の上」にしなかった理由を一つに絞って挙げておく。髷の問題である。今場所,好取組となるべき取組が数番,髷をつかんだかどうかの審議によって死んだ。どれも判定自体は妥当だっただけに難しい。「故意に」というルール上の規定であるが,故意に髷をつかむ奴なんておらんわけで,条文が死んでいる。
実際には「髷を引っ張ったことで有利になったかどうか」の一点だけで髷の反則認定は行われている。認定されれば即反則負けというのも厳しい話で,北の富士が言っていたように,
“故意でなければ”同体取り直し扱いでもいいのではないか。無論,そうすると「情勢厳しいから,同体にすべく髷を引っ張ってしまえ」と考える力士も出てくるであろうが,それは「故意」なので,躊躇なく反則負けにしてしまえばよい。
個別評。横綱大関。優勝した白鵬は今場所も見事な省エネ相撲であった。このまま行くと,どうやら2014年も昨年並みには成績を上げそうである。11日目以降の4日間は鬼神であった。本音を言えばあれを15日間通してみたいのがファン心理ではあるが,無茶は言うまい。なお,継続観察している横綱通算勝率は.896。ところで,12日目,白鵬が鶴竜・豪栄道戦に物言いをつけたが,
関取が物言いをつけたのは18年ぶりの珍しいこと。1996年の初場所で,貴闘力―土佐の海戦,物言いを付けたのは貴ノ浪。しかもこの場所の貴ノ浪は優勝している。今場所白鵬が優勝したことで,このジンクスは定着するかもしれない。なお,この貴ノ浪のときは他の勝負審判も手を挙げていたが,今回は白鵬単独であった。力士単独の物言いとなると何年ぶりになるかはちょっと調べがつかない。「横綱単独で」という条件となると,おそらく史上初である。こんなところでも白鵬は歴史に名を残すのか。
日馬富士は調子良さそうに見えたが,6日目までに2敗して気持ちが切れていたところはあるかもしれない。終わってみれば11−4だが,印象は悪くない。鶴竜はこんなもんでしょう。昇進した場所はどの横綱も大体実力が発揮できないので。稀勢の里は白鵬戦での敗北が全てと言えばそうなるか。あの二人の立ち合いが常に合わないのだが,それにしても今場所は稀勢の里の立ち合いがひどく,結果として三度目の立ち合いは白鵬の張り差しでK.O.なんだからどうしようもない。あとは碧山に負けているが,これは完全に取りこぼしである。勝った13番については良い内容だったのではないか。琴奨菊は初日から休場して,来場所にかけたほうが良かったのでは。下位はともかく上位に取れる身体ではなかった。実力が衰えたわけではないようにも見えるので,しっかりいたわってほしい。
三役。豪栄道は琴光喜を超越した記録を打ち立てたが……まあそれについてはノーコメントで。ところで,白鵬の省エネ相撲の弱点を完全に見抜いて,地味に白鵬戦の戦績を向上させているのは,実はすごいんじゃないかと。直近6場所で2勝4敗である。もっとも,それを言うなら白鵬もそろそろ「豪栄道は省エネスタイルじゃ勝てない」ことに気づいてほしいところではあるが。栃煌山は10勝。実はここ3場所は三役で30勝しており,実は豪栄道よりも大関に近かったり。来場所覚醒して13勝くらいしたら,琴奨菊と入れ替えで大関なんてこともなくはない。地味すぎて誰も指摘してないが。嘉風は動きこそ悪くなかったが家賃が重かった。この点は豪風も同じ。千代鳳も以下同文なのだが,彼には奮起を期待したい。彼が上位で生き残らないと,本当に遠藤と大砂嵐しか残らなくなってしまう。二人についていってもらいたい。
前頭上位。
碧山は本当に良い突き押しをするようになった。腕が伸びており,膂力がきっちりと前に伝わっており,見ていて気持ちがいい。はたかれると案外弱い点が少し改善されれば三役定着可能だろう。琴欧洲が引退した今,君がブルガリアの星だ。がんばれ。
遠藤は人気に嫉妬されているのか,相手が全力で向かってくるので,すっかり名勝負製造機になっている。7−8で終わったことで周囲からやや失望の声も聞かれるものの,私は十分成長が見られたと思う。少なくとも先場所よりは立ち合いの一瞬で負けることが少なくなり,負けるにしても負け方がマシになった。それが星一つ分にしか反映されないあたり,幕内上位という環境の厳しさを感じるものの,来場所はやや番付が下がって上位戦が少なくなるし,さらに成長しているだろうから,けっこう勝てるのではないか。勝手に失望した連中を見返してやれ。
豊ノ島は本当に衰えたなと。身体が軽いし,動きの機敏さも以前ほどではなくなった。一方,
安美錦は,あの両膝の状態であの相撲が取れるんだから奴は妖怪という評価が固まり,土俵際の魔術師っぷりを魅せつけるとTLが「これは妖怪」というコメントで埋まったのがおもしろかった。一方,膝は本当に悪そうで心配である。勢は好調で,押されてもはたかれても崩れず,勢の攻撃は通るという感じであった。ただ,じゃあ地力が伸びたのかというと今ひとつよくわからない。よって,今場所の評価は難しい。松鳳山も良い突き押しであった。今の角界では碧山と双璧であるが,碧山は「いかに強い腕力を活かすか」であるのに対し,松鳳山はひたすらに上手い。
前頭中位。豊真将は良い時の豊真将が戻ってきたのかなと。逆に妙義龍は戻ってこない。攻撃力はともかく,脆すぎるのが勝ち星があがっていかない理由である。なぜにあんなに軽いのか,ちょっとわからない。高安は前にも書いたが,日毎の調子の違いが激しすぎるのはなぜなのか。照ノ富士は怪力無双という感じで,組んで力を発揮できれば相当に強い。終盤の怒涛の5連勝が記憶に残っているので,実は9−6でしかないというのが驚きである。序盤実力が発揮できてなかったのは,それもそのはず,場所の前日まで入院していたからで,稽古を全く取っておらずぶっつけ本番だったそうだ。であるからこそ,来場所に期待しよう。上位でもけっこう取れるのでは。新入幕の先場所では全く印象に無かったが,化けた。
さて,大砂嵐である。今場所の10勝はすばらしかった。
大砂嵐は確かに一つ一つの動きは雑だが,技をきちんとつなげているという点では技巧的ですらあると思う。特に千秋楽,それまで続けていたかち上げをしないフェイントの立ち合い,右差しで立ち会うとはたいてから左上手投げ,最後に寄り切りと完全に技がつながっていた。相撲を覚えていないと言ってしまうのは,果たして正しいのか。 技の展開の早さは鶴竜を彷彿とさせるところがあり,技の雑さが抜けたら瓜二つの相撲ぶりになる可能性さえある。
前頭下位。臥牙丸と豊響は,それぞれ星は上がらなかったが,良い圧力の押し相撲を見せていた。北太樹は速攻がうまくはまれば圧勝するが,長引くと負けていた。蒼国来は見事な技巧相撲で,よく幕内に戻ってきてくれた。千代の国はひたすらにケガが心配である。最後に佐田の海。史上初の親子新入幕敢闘賞は文句なく,技能賞もついでにあげても良かったくらいである。
ここから始まる新たな足技伝説という感じで,特に時天空にも足技で勝ったというのはすごい。
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