2014年10月30日

廃墟に鯉

・彼はいま素直になれていません(破壊屋)
→ 映像で説明できるなら台詞で説明しない方が表現として上手いという話。
→ 自分で気付ける量なんてたかがしれてるので,ディティールの細かい作品は誰かの解説を読むことで二度楽しめるとポジティブに考えたい。
→ ついでに言うと,気付けるかどうかはリテラシーの問題であって,リテラシーとは確率なので,どれだけ詳しくても気づかなかったりすることはある。そういう意味でも,他人の見方は積極的に参考にしていきたいなと。


・廃墟になったショッピングモールで、コイが悠々と泳いでいる(huffingtonpost)
→ 一周まわって幻想的な光景。こういうの大好き,というのは私によらず多かろう。しかし,逆に言ってどんだけボウフラわいとったんや……


・カナダ史における重要人物トップ10 建国150年を迎えるにあたって(JBpress)
→ カナダ史となると,さすがに8位と10位の人くらいしか知らなかった。というかロメオ・ダレールはランクインするんだ。そこが一番驚き。


・W杯決勝、バチカン現法王と前法王の出身国の激突(CNN)
→ そうそう,これは気になってたw。ぜひお二人だけで,ヴァチカンの一室でサッカートークして欲しい。近代以降で教皇が二人いること自体が稀で,その時期にその二人の母国がワールドカップの決勝であたったなんて恐ろしく奇跡じみてた。


・死亡しても会社の責任問わず フィリピン人採用で誓約書(47NEWS)
→ ある種の典型的な悪。
→ 司法からの連想で「中世」というコメントが目立つが,むしろ苦力貿易の方が近かろう。これは近代的な社会問題。奴隷制およびそれに近い形での年季奉公人は近代まであったことを忘れてはいけない。これを中世と見なすのはむしろ歴史の忘却ではないかと。
→ そして,普通に雇ってこの状態。いやんや悪名高き「外国人研修制度」をや。


・「となりのトトロ」お父さんは非常勤講師、という話題から時代や経済状況を語る(Togetter)
→ いろいろ興味深い。日本のいろんなものが,名前だけ変わらず内情が変わっているということが,昭和から平成の数十年をかけて起きてるんだなと改めて。
→ そして,こっそり入る「茂殺し」w。  

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2014年10月29日

歴史・宗教関連のニュースいろいろ

・セルビア「スマヌ、スマヌ…もう百万遍は謝った。そろそろ許してくれないか?」ヨーロッパの反応(10000km.com)
→ 世界悪者クラブあるあるw
→ 余分なことを言ってブーメランが刺さる展開が多すぎるスレである。いいからイギリスとフランスはだまってろ。
→ うちの国も人ごとじゃないんだよなぁ。途中でイギリス人に「昔やった悪さを無かったことにするという点でイギリスは日本並み つーか日本よりヤバい」とか言われてるし。こんな何気ないスレでこう言われてしまっているという認識は持たなくてはいけない。
→ 日本国民が日本のことで「もう何度も謝った」というのは傲慢になってしまうが,端から見てるとドイツやセルビアはもう許してやれよ感ある。むしろイギリスおめーはダメだ。中東問題は罪深すぎる。
→ 翻訳がおもしろすぎるのだけれど,原文読みに行ったら大体どころでなくあってた。このスレ自体がおもしろすぎる。


・ISIS、カリフ制イスラム国の樹立宣言(朝日新聞)
→ 「袁術による皇帝僭称と同程度の死亡フラグにしか見えない……」とは当時書いたものの,まだ生き残っているという。意外にしぶといというか,泡沫ではなく歴史に名が残ることは確定してしまった。
→ しかし,これでシリア・イラク地域はアサド政権・反政府軍(自由シリア)・ヒズボラ・イスラーム国・クルド人自治政府・イラク政府とカオスにも程がある戦国時代状態である。これで周辺プレイヤーにイスラエル・レバノン・トルコ・湾岸諸国・エジプト・イラン・アメリカがいるんだからもう。


・仏ブルカ禁止法は「信教の自由侵害せず」、欧州人権裁(AFPBB)
→ これはヨーロッパ人権裁判所の判決なので「フランスが」どうこう言うのはタイミングがずれてる気が。
→ 別記事を見るに,フランス政府はオートバイのヘルメットや目出し帽も取り締まってるからって反論してたらしい。ただ法律制定の背景はどう考えてもライシテであって,背景と目的(と運用)がまるで一致していないのが根本的な原因であり,その点原告ムスリム女性の「自身のベール着用は自由意志によるものであり、警備上の理由で必要とされればベールを脱ぐこともいとわないとした上で、公共の場でのベール禁止は尊厳をおとしめるものだと訴えていた」の方が正しい。それでも仏ブルカ禁止法は違憲ではないという判定を欧州人権裁が下したというのは,ムスリムへのゼノフォビアでしかなかろう,というところまで切り分けて,初めてこの一件の問題性があらわになると思う。粗雑な批判は,逆に問題を見えにくくする。要するに,フランスひどいというよりは,ヨーロッパどうなっとるんや,という。
→ ところで,「これはヨーロッパ人権裁判所の判決なので「フランスが」どうこう言うのはタイミングがずれてる気が。」という私のブコメに対して,私が判決を賛同しているように読解して賛同してくれた人がいるっぽいんだけれども,大間違いだからな。さすがにそれは読解力がなさすぎる。


・スイス、新国歌の候補曲募集に215件の応募(AFPBB)
→ 1847-48年に革命騒ぎが起きてるんですがそれは。 >「通常、国歌が代えられるのは革命か社会混乱による場合がほとんどだが、平和で安定したスイスで革命などが起きたことはなない。」
→ もうちょっと具体的に書くと,カトリック圏が分離独立を訴えて国が真っ二つに割れ,カトリック側をオーストリアが支援して(何百年ぶりかの)故地回復を狙ったものの,プロテスタント側にイギリスがついてオーストリアを脅迫,折しもオーストリア国内でも革命騒ぎが起きたため,オーストリアが支援を撤回し,スイスは国家分裂の危機が回避された。スイスはこの反省から連邦制に移行している。
→ AFPともあろうものが,さすがに取材不足というか,おそらく革命騒ぎを黒歴史視するスイス政府の受け売りをそのまま垂れ流してしまったのでは。  
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2014年10月28日

公孫瓚が涙目

・倉山満『嘘だらけの日中近現代史』の誤りについて(4)三国志誤読箇所(東京下町巡りと中国史・群龍天に在り(FC2版))
→ 「北京あたりで勢力を持った軍閥・曹操」で大爆笑した。元々トンデモな人ではあるけれども,こりゃ三国志欠片も読んだことないわ。
→ 「四大奇書」も常識の範囲内だろう。「三代奇書」なんて間違え方は三国志ファンかどうか以前の問題。「陳寿の賄賂はガセネタ」というのも三国志オタクなら知ってる話で,「孔明は魯粛に会って孫権との同盟の渡りをつけた」というのも読んでれば絶対に知っている話だ。以下,つっこんでいったら切りがないっぽい。
→ 他の記事を見ると,三国志以外の部分でもあまりにもひどいようだ。よくもまあ中国史の,しかも詳しい人が多い三国志でこんなことやろうと思ったなぁ。


・スポーツ権関連の議論が地味にヤバい件(Danas je lep dan.)
→ これは第三帝国的なアレをどうしても連想する。そしてあの集会の人たちがそういう歴史をどの程度認識しているのかも気になるところ。最近こういう妙なところで,歴史教育って大事だなと思わされることがある。と同時に,高校世界史をやった人でも多分これを習った覚えがない人もいるはずで,それもそのはず一応教科書や資料集には載っているんだけど,聞きにくすぎて入試では出ない。受験世界史の欠点だなぁと。
→ 逆に言って,旧スポーツ振興法ってスポーツが強制されることの危険性への配慮があったんだなと今更。偉い。
→ 何度も言っているが,重要なのはやる・やらせることじゃなくて興味関心を育てることだ。最終的にやる人は減っていくが,観戦者は減っていかないわけで。「市民的素養としてのスポーツ」であれば,観戦の仕方を教えることだろう。


・アリウス派はイエス・キリストが神であることを否定してはいなかった(Togetter)
→ お怒りごもっともなんだけど,「こういう間違いの根本が、高校の教科書からきているということに落胆します。教員免許取って何を学んできたんだよ!知識を与える職業人は、少なくとも知識に忠実な番犬であるべきだと、思うのですが」は無理筋な要求。拙著でも書いたが,高校教科書を修正するように運動するのが最も生産的だろう。教員や予備校講師に「個々に判断する能力を持て」というのは,全分野において専門的知識を持てということになり,そもそも世界史という科目設定自体に無理があるという議論に発展しかねない。それでは元も子もないので,どこかで区切らねばならぬ。
→ さて,ここでは三位一体説とアリウス派が「イエスの神性を否定しきったわけではない」というのが論点だが,ネストリウス派も相当にややこしい。キリスト教の神学論争は非常にややこしいのだけれど,変に世界史にかかわってくるので避けられない。そうしたキリスト教知識をどこまで「市民的歴史教養」として求めていいかというと,これは面倒ではあるが,生産的な議論だろうと思う。
→ で,個人的には高校の教員が理解できないようなものは世界史から外せばいいのではないかと。キリスト教が諸教派に分かれていたことや,現在のカトリックや正教会が三位一体説であること,三位一体説が政治的なアレコレもあって正統になったこと等は教えてもよいし,ネストリウス派が最終的に中国にまで伝播したりしたことは教える価値が十分にあると思うが,アリウス派やネストリウス派の内容が現代日本の市民的教養として,どれだけ意義があるだろうか。無い,というのが私の考えである。


・アタナシオス派(Wikipedia)
→ 関連して。アタナシウス派が「世界史」用語であって,歴史家や宗教学者のタームとしては一般的ではないのは知らなかった。一応そこら辺の専門家の書いた文章もかなり多様に読んではいるのだけれど,さっぱり気づかなかったかな。正直に言うと,ニケア派も見たことない気が。本当にねじれているなら,時間をかけてでも直すべきだろう。
  
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2014年10月27日

解釈改憲の議論はもったいなかったなぁと

・何度聞いても分からない「解釈改憲」反対論(冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)
→ これはその通りであって,解釈改憲の閣議決定はなされても法的根拠にはならない。閣議決定に則った法律なり政令なりが成立して初めて解釈改憲がなされたということになるのでは,と騒動の最中で思っていた。騒ぐのは今ではなかろう,と。実際その後何か具体的に大きな法案でも通ったかというと,そうでもないわけで。
→ 仮に閣議決定の時点で解釈改憲が実質的な法的効力を持つのなら,指摘されている通り,我が国は官僚主義が法治主義を超える前近代国家であるか,三権分立の機能していない前近代国家であることが露呈する形になる。で,
>だったら、「立憲主義」を脆弱なものにしているのは、そちらの方であるわけです。例えば国会では首班指名以外の党議拘束をやめるとか、最高裁判事の国民審査には「罷免運動」を認めるとか、少なくとも各判事が2回の審査を受けるように初任年齢を下げるとか、「三権分立」を強化する方向での「解釈改憲」をやったらいいのです。このような改革であれば、条文改正をしないでも可能です。
というのは実にその通りとしか言えない。が,実は私の中で「我が国はその前近代国家なのではないか」という疑念もないわけではなく。あの騒動では,こちらを焦点として議論されるべきではなかったか,と今振り返ると思う。


・覆されたインド政治の常識――与野党逆転を果たしたモディBJP政権の展望(笠井亮平 / インド政治| SYNODOS)
→ 読めば読むほど,BJPが2009年の日本の民主党にだぶる。政権担当能力は似るのかどうか。似なければよいが。州政府の経験はあるだろうし。
→ あとまあ,ヒンドゥーナショナリズムの高揚は若干怖い。近年インドでも伝統的な女性蔑視に対する批判が強まっているようだが,その反動ということはなかろうな。
→ 特定カーストを基盤とした少数派政党が弱体化しているのは,判断が難しい。それにしても国民会議派の大敗っぷりがすごい。2009年の自民党よりダメージが大きいのではなかろうか。再起が難しそうだが,どうなるか。それこそ,再起した自民党のように右旋回してなければよいが。


・日本政治のセクハラ、子を持つ女性に世界最悪の賃金差別=男性のわずか39%、OECD30カ国平均の半分(井上伸)( - 個人 - Yahoo!ニュース)
→ フルタイムのパートタイムというものが存在し,非正規雇用の問題に帰するところも大きく,同一労働同一賃金が達成されれば大部分解消されるかもしれない,という話。無論,それだけで解決する話ではないが,「同一労働同一賃金」が達成されてもなお解消されていない部分があれば,それは本当に”女性”への社会的差別だろう。
→ 女性への賃金差別問題が筋道たどってくと日本の法的規制の緩さ,ブラック企業の問題に行き着くというのは何とも。問題は同根とも言えるし,それだけ根が深いとも言えるし。決して女性だけの問題ではないという認識は持っていたいところ。


・落合『漢字の成り立ち』:明解。白川静や藤堂について客観的に評価がわかって嬉しい。(山形浩生 の「経済のトリセツ」)
→ 白川静のファンではあるけども,危うい解釈であることは否定しない。バランスとるべくこういう本も読まないとなぁと思いつつ積み本だけが増えていく。
→ ところで,『二重影』は白川静ファンの増加に一役を買った,間違いないと思っている勢なんですが,実際のところどうなんだろう。


【東方】幻想郷の酒屋って一番儲かりそう(2ch東方スレ観測所)
→ 私は前から「幻想郷は外部経済とのつながりが,実はかなり強い」説を唱えているけど,「酒虫等がいるにせよ,酒の消費量に対して絶対米の生産量が追いついてない」はいい補強材料になるかも。これに限らず,外部から盗むか買うかしてないと絶対に供給を満たせていないものは多い。  
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2014年10月26日

でも蝗には見えない

馬蝗絆三井美術館の東山御物展に行ってきた。というよりも,根津美術館で見そこねた馬蝗絆を見に行ったという方が正しい。名前の通り,室町幕府の収集した宝物である。三井記念美術館の傾向もあり,茶道具が圧倒的に多い。同じような展示のつながりで,根津美術館の展覧会とは提携しており,片方でもう片方の半券を持って行くと100円値引きしてくれる。これをすっかり忘れていて100円損した。

で,馬蝗絆である。前に東博で見たことがあるので珍しさには欠いたが,何度見てもおもしろい物体だと思う。鉄の鎹で修繕しているのだが,鎹が内側に突き出ておらず,内側はのっぺりした砧青磁のままである。外側から見ても鎹はあえて金や銀ではないことで目立たず,器の下の方で妙な存在感を放っている。単なる見事な青磁の茶碗が,おもしろみのある逸品に大変身だ。有名なエピソードではあるが,足利義政が碗のひび割れを見て,中国に送って同じものを求めたところ,「これほど見事なものは存在しない」と言われ,この鎹を打たれて返ってきたという。このエピソードも本作のおもしろさを増している。美しさとおもしろさを兼ね備えていると言えよう。でも,実は国宝じゃなくて重文なんだよね。

それ以外もまずまずおもしろい展示が多かったが,結局のところ水墨画と陶磁器と漆器ではあるので,特筆して書き加えることはあまりない。水墨画は残念なことにどう見ても後期展示の方が豪華で,この点から言えば11月に入ってから行くべきだったのだが,前記展示の目玉が李迪の「雪中帰牧図」。左軸はいいとして,右軸の牛は実物だとロバか何かに見えた。今改めて画像で見ると牛なのだが,不思議だ。大和文華館なんて行く機会がないので,ここで見れたのは僥倖だったか。あとは,陶磁器では天目茶碗が多めで,その点では私の趣味にあっていたくらい。

  
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2014年10月22日

最近気前のいいウフィッツィ

ボッティチェリ《パラスとケンタウロス》都美のウフィッツィ美術館展に行ってきた。行くかどうか若干迷っていたのだが,ある都合により時間が空いてしまったので埋めるために行ったが,思っていたよりもおもしろかった。休日にしては案外空いていたのだが,東博の国宝展に人が吸い取られているからか。

初期から盛期のイタリア=ルネサンスの中心地を誇っているフィレンツェなだけあって,今回の展示は美術史を追う王道な形で展示されている。まだ国際ゴシックの影響が残っている段階から,マニエリスムまで。時代が進むにつれ,技術レベルが次第に向上していき,と同時にコチコチに硬い筆致だったものが,次第に柔らかで甘美なものに,ゆっくりとしかし着実に変わっていく。またそれだけに,サヴォナローラ期の揺り戻しもきちんと目立つ配置になっている。近年ルネサンス期の展覧会も増えているが,これだけサヴォナローラ期をくっきりと反映した展覧会は初めてではなかろうか。その代表格はボッティチェリで,この展覧会で彼の評価は上がったのか下がったのか,気になるところ。ボッティチェリがあれだけ復古主義になったというのは,知らない人には衝撃では。

作品のキャプションは充実していたものの,画家の解説が中心で,作品ごとの解説はあまり無かったような気がする。そのせいか,美術館名物,マックの女子高生ならぬ老夫婦の会話では,「砂漠にライオンはいない。この絵はおかしい。大体,背景に緑が見えているからここは砂漠ではない」と奥様に力説するご老人の姿が見られた。もちろんまっとうに解説すれば,真ん中の老人は聖ヒエロニムスという男で,ライオンが持物なのでそれを従えている。ついでに言えば聖書をラテン語訳した事績から,ほぼ必ず聖書を持っており,この絵でも岩壁に聖書が飾られている。エジプトの砂漠で修行した経験から,一応彼の居住地は砂漠ということになっているし,エジプトの砂漠だから緑が近くてもおかしくない。というよりも,ある種の異時同図法ではあって,背景に写っているのはおそらくフィレンツェの風景で,聖者を身近に感じさせる効果が当時にはあったんだよ,と。やっぱり一般的に言ってこういう宗教画って日本人にはわかりづらく,解説の余地が大きい。そりゃ世の中で「簡単にわかる! 西洋美術」的な本が山のように売られているよなぁと。

個々の画家・作品では,初期ルネサンスならフィリッポリッピ,盛期ルネサンスだとフィリッピーノ・リッピとギルランダイオ,ペルジーノ,ボッティチェリが多く,目玉はやはり《パラスとケンタウロス》。パラス・アテネと聞くとモビルスーツの方が先に出てくる程度にはガンダム脳な私だが,本作は《春》と《ヴィーナスの誕生》に次ぐ名作であると思う。アテネが実に優美である。マニエリスムではアンドレア・デル・サルト,ブロンズィーノ,ヴァザーリという感じ。マニエリスムゾーンではブロンズィーノによる歴代メディチ家当主&教皇の肖像があり,教科書などで見たことあるものの実物が見られる。ロレンツォ・イル・マニーフィコ,レオ10世,クレメンス7世,コジモ1世とそうそうたる面子。最近よく来るボッティチェリよりも,この展覧会においてはむしろブロンズィーノのほうが貴重度が高いかも。
  
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2014年10月21日

台湾と日本の間で

台湾の近代美術芸大の台湾の近代美術展に行ってきた。国立台北教育大学北師美術館との共同企画である。1895年に日本領となってから,1945年に独立するまでの間,東京芸大に台湾から多数の留学生が訪れていた。そこを卒業した彼らはそのまま日本に残ったもの,台湾に帰って近代美術を広めたもの,あるいは大陸に渡ってそちらで近代美術を広めたものと,多種多様な進路をたどった。なお,1895年と展覧会のサブタイトルにもついているが,実際には最初の留学生が芸大に入ったのは1915・1916年のことである。ただし,彼らの生まれた年が奇しくも1895・1894年であり,純粋に清代に生まれた留学生というのは存在していないようだ。

近代美術とあえてぼかしたが,要するに西洋美術の技法である。台湾植民地からの留学生が,東京で西洋美術を学ぶという非常にねじくれた現象が当時の東京では起きていた。そうした留学生たちが卒業後,東京や台湾にとどまらず,大陸に渡った例が少なくなかったというのも驚きで,端的に言えば西洋美術の水準においてはそういう力関係だったと言えるのだろうし,当時の日本・台湾・大陸の距離の近さが垣間見える事例でもある。また,たとえばもろに梅原龍三郎のフォロワーがいたり,「日本の」西洋美術的な雰囲気が漂っていたりするあたり,間違いなく「東京芸大」の薫陶を受けたのがこの留学生たちであり,その意味では政治的意識での鑑賞で片付けるにはもったいない美術史的なおもしろさがある。(念のため,当時はまだ東京美術学校の名で,戦後に芸大に改組。)

これまた「西洋の規範をどの程度普遍化してよいか」という極めて困難な問題意識が立ち上ってくるのではあるが,とりわけ19世紀の当時にあっては西洋美術の手法が「近代」芸術の最先端には違いなかった。だからこそ日本も西洋美術の摂取に勤しんでいたのであるし,ある種の文明化の使命をもって台湾人にもその門戸を開いていた。当の台湾人たちも,技法を学んで故郷や大陸に広めるのだという,そうした重大な使命感を帯びて日本までやってきた様子が,公開されている当時の手記から読み取れた。しかし,今回の展覧会を見たところ,はっきり言ってしまうと,技法的なレベルは高くない。同時期の日本人画家と比較しても低い。帝展や日展に入選している作品もあり,そもそも東京美術学校に入学できるのだから極端に低いものは無かったが,じゃあ和田英作や安井曾太郎のようなレベルの人がいたかというといなかった。台湾と日本列島の人口比もあれば,経済状況など植民地ゆえの問題も現れているのかもしれない。だからこそ,今回このような企画が立ち上がるまでは注目を浴びなかったのではないかとも思う。

10/26までではあるが,入場無料で,おそらく次はまた数十年後という類の展覧会だと思われるので,美術ファンのみならず植民地問題に関心のある方にお勧めしておく。
  
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2014年10月16日

切って貼る,割って継ぐ

大井戸茶碗銘十文字根津美術館の「名画を切り,名器を継ぐ」展に行ってきた。特殊な展覧会である。要するに完成直後の形で残っていない作品の展覧会で,なんらかの事情で手が入っているが,その「後からの手」にまた美を見いだすのが目的になる。

今回の展覧会の二大テーマのうち,一つは紙幅の切り貼りである。室町時代以降,特に茶室の床の間に飾る上で,それまでの巻物では鑑賞が難しいという事情が生まれ,巻物を掛け軸に仕立て直すということが頻繁に行われた。結果として,巻物であればどれだけ長くても問題ないが,掛け軸となると大きさが制限されるため,仕立て直す上で分割されたり,不要とされた部分が切り落とされたりした。特に「被害」が大きかったのは和歌集で,なぜなら分割されても単独で鑑賞に堪えやすかったからだそうだ。確かに和歌“集”ではなくなって,一首の和歌になるだけではある。

その他,墨蹟だろうと水墨画だろうと掛け軸に合うようにばっさりカットされたものが展示されていた。伊勢物語や源氏物語も,一場面ごとのインパクトが強いために切り離しやすかったようだ。鳥獣戯画や地獄草紙の断簡もあった。当時の茶人のやりたい放題っぷりがよくわかるが,それだけ自分たちの美意識と使命感に強い自負心と自信があったのであろう。別の理由としては,高額すぎて値がつかなかったから分割したというものや,破損してなくなくというもの,屏風から襖絵に,もしくはその逆に張り替えたもの等があった。かなりの特殊事例としては屏風→襖→屏風という張り替えを経たものもあった。西洋の壁画とカンヴァスでは無理な作業である。

一方,もう一つのテーマ,陶磁器の方は,美意識の発露というよりは割れてしまってやむにやまれず,という方が多い。言うまでもなく金継ぎの技法大活躍である。日本にどれだけいるのかしらないが,金継ぎマニア垂涎の展覧会であった。その目玉というと,やはり「大井戸茶碗 銘 須弥(別銘 十文字)」であろう(今回の画像)。「銘十文字」の通り,大井戸茶碗が綺麗に十文字に割れており,それを漆と金継ぎで補修した形になっている。『へうげもの』のようないきさつではなかっただろうが,織部本人がぶち割ってああなったのは確かなようだ。そうそう,このテーマであるにもかかわらず,前半の墨蹟ゾーンに「流れ圜悟」の展示は無かった。漫画の進み具合的にもタイムリーなのに,惜しい。とはいえ,『へうげもの』ファンならこの十文字だけでも見に来る価値がある。

その他では,「志野茶碗 銘 もも」は志野茶碗の質素さに主張しすぎない金継ぎが合わさった名作だと思う。あとは根津嘉一郎本人がちょっとだけ割ろうとして完全崩壊し,金継ぎで再生させたとかいうお茶目な逸話が伝わる壺もあって,おもしろかった。最後に,金継ぎの類例として鉄の鎹を用いたものがあるが,その代表的な作例である作品「馬蝗絆」は展示期間が10/1までだったために(短すぎる!)見られなかった。また,三大肩衝「初花」は逆に後期展示であり,こちらも見逃してしまった。もっとも,二つとも別の展覧会で見たことがあるので,そこまで残念では無いが。もっとも,崩壊した茶入れを漆で再生したものなら,「初花」なんてほとんど壊れてないものじゃなくて,「九十九茄子」を持ってきた方がふさわしいのではないか。
  
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2014年10月14日

AIRネタと矜羯羅童子

矜羯羅童子サントリー美術館の高野山展に行ってきた。正直に言ってそんなに興味のある展覧会ではなかったのだが,前回のボヘミアングラス展に行きそびれていたのと,『AIR』ネタとして消化できればまあいいかという気持ちがあったという事情はある。おのれ高野山。

展示自体はけっこう豪華なもので,国宝・重要文化財が多く展示されていた。秘仏で普段は公開されていないものもあるため,「現地に行ったからいいや」というものでもないのが今回の展示のすばらしいところであろう。密教の総本山らしく,金剛杵のような道具と曼荼羅が多かった。曼荼羅は最近嫁曼荼羅ばかり見ているので,本物を目の前に若干なり申し訳ない気持ちに。仏の姿の代わりに梵字を配したものもあり,興味深い。

それ以外では普通に仏像や仏画が展示されていたが,ほとんどの作例が鎌倉時代以降である。運慶・快慶ご本人たちの作品も含めて,金剛峯寺も南都仏教の一部なんだなぁと思わせられる。しかも金剛峯寺の場合,大日如来とその化身である不動明王が強く信仰された関係か,勇ましい仏像が多かった。四天王も執金剛神も八大童子も激しい形相のものが多い。鎌倉美術が好きなら非常に楽しめる展覧会であろう。一方,仏像中心で一つ一つが大きいとはいえ,展示数がわずか60,しかも展示替えが多くて1回で見れるのが実質40しかないというのは,さすがにちょっと少ない。1時間半〜2時間の見込みで来たが,1時間かからずに見終わってしまった。

で,「おいおい,開山1200年周年記念の展覧会なんだろ? 平安初期の作品は無いのかよ」と多少なりとも残念な気分になっていたところ,帰りがけの売店で図録を立ち読みしていたら「高野山は落雷が多い。特に994年の落雷による大火で伽藍は全焼し,復興は鎌倉時代までかかった。」というようなことが書いてあり,あっ・・・(察し)。あれ,復興に200年かかるような,マジでそんな大火事だったんだな。14年目くらいの真実である。おのれ高野山してる場合ではなかった。ともあれ世の鍵っ子は本展覧会に来て思う存分許すまじ金剛峯寺していくべき。

最後に,本展覧会最大の目玉というと,八大童子の展示であろう。これ自体秘仏でめったに生で見れないというのもあるが,何より八大童子には矜羯羅童子が含まれている。断じて某声優ではない。やっぱりネタ展覧会じゃねーか。

  
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2014年10月12日

非ニコマス定期消化 2014.6月上旬〜6月下旬



非常に乱数をいじりづらいDS版仕様でのドラクエTAS。やりづらい中での工夫が光る。part6までは投稿が早かったし,そこまででも十分偉業なのだが,part7が来ないので不安である。



キー入力共有というめちゃくちゃさだが,初期のマリオシリーズというゲーム自体の単純さとTASさんの反則さでなんとかなってしまうという。同様プレイ自体は以前からあったが,これのすごいところは4画面での無駄が極力減らされており,以前の記録から2分ほど短縮されていること。それでも1と3が放置される時間が長く,やっぱり2は難しいしUSAは動きが複雑だなぁと。3のクリア方法はアレ。



グリザイアの迷宮OPのパロディ。再現度が非常に高く,それ抜きにしてもハイクオリティ。



大爆笑した。DPZと言えばいいのか,探偵ナイトスクープと言えばいいのか。身体の張り方から言えばナイトスクープよりかな。




MMD進化の系譜を知らないと「何がすごいの?」で終わりそうなところがすごい。自然すぎて怖い。




まさに驚異の中毒性。一週間くらいリピート再生して見てた。比較も必見。



このモデルはすごくかっこいい。川内型は良いモデルがいろいろあっていいなぁ。



なぜにアールビット式モデルはこんなにかわいいのか。ナイス衣替え。



Quatre Mains,いい曲だよね。ダミープラグならぬエアシンジな自動演奏。
  
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2014年10月11日

FSM教ってなんだっけという話かも

・歴史教育用語の統計分析と基礎データ
→ pdf注意。高校世界史用語の増減表がp.9に。「1950 年代初めには1500 語前後であったものが 2012 年度検定教科書の一番詳しいタイプでは3700 語前後」「(現行用語集収録数は)7039 語」。世界史の膨張傾向は自明だったが,こう数字で改めて示されると凄まじい。言うまでもないが,「現代史が増えただけ」では説明がつかない増加量だ。
→ 個人的経験から行って,現実的に言って7000語から2000語まで減らすのは難しいと思うが,4000語くらいまではいけると思う。がんばって欲しい。


・商業施設名が「ヒカリエ」化している(デイリーポータルZ)
→ 商業施設名の変遷を追った記事。おもしろい。確かに最近は日本語のだじゃれ化が激しい気がする。
→ はてブの方で「あれがない」と散々つっこまれていたが,私からもTOKIAさん(2005年・日本語系)とiiyo!!さん(2012年・日本語系)も入れてあげて,とはツッコミを入れておく。TOKIAとKITTEは良いネーミングセンスだと思う。ほとんど行ったことないけど。
→ 個人的にインパクトが大きかったのは丸の内オアゾで,丸ビル・新丸ビルと来てなんでそのネーミング,と。
→ あべのハルカスについては,いまだもって「カス」で良かったのかという疑念が私の中では絶えない。


・「空飛ぶスパゲティ教」、教団認定ならず オーストリア(AFPBB)
→ これはオーストリアの歴史的背景としてキリスト教の教会だけ特別扱いされているというのを前提として,FSM教団がその登録に乗り出したところ,当然「教会」ではないとつっぱねられた,と理解されるべき。
→ FSM教はそもそも非科学的なものが科学の世界に闖入してきたのに対して,そのばかばかしさを周知させるために作られたものではなかったかと思う(つまり,この記事のFSM教の解説がおかしい)。ゆえに,宗教自体をばかにするのであれば,FSM教の本義から外れている行動に見える。また,確かに「インテリジェントデザイン」の元はキリスト教だが,あれを推進したのはアメリカのプロテスタント系の原理主義的な集団であって,キリスト教全体をばかにするのも,活動の意味合いが変わってきてしまうのでは。そういう意味で私的には疑問しかない行動であるし,オーストリア政府の行動も適切だと思われる。
→ 無論,オーストリアの政教分離が不完全であることを責めることは可能だろうが,民族主義を尊重する立場から言えば取りたくない立場。
→ いずれにせよ,詳報が欲しい。現段階ではコメントできることが少ない。まあ,4ヶ月経って詳報が無いということは無いまま終わるんだろうが。


・東京ビッグサイト、展示面積25%増 五輪までに(日本経済新聞)
→ 前々からうわさのあったビッグサイトの増築。1日あたりのサークル数が25%増えるなら落選は減るなぁ。回るのがさらに大変になるが。
それと「西展示棟の南側にある屋外展示場部分」って現状は企業のヤバいところの列置き場になってるはずなので,列置き場がなくなるのではという危惧が。

  
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2014年10月10日

パノフスキーを引くまでもなく

・同性婚と憲法の関係(木村草太の力戦憲法)
→ なるほど,想定していないから存在しないのではなくて,禁止されていないと解釈すると。同性婚に対する適切な法整備さえすれば,憲法を変えなくても何とかなるようだ。
→ でもまあ,個人的な意見としては,法整備後でもいいので,改憲して憲法上の「両性」の文字を削ってしまうべきだと思う。絶対に既存の憲法解釈を無視して騒ぎ出す人は出てくるし,一般人からすればわかりづらいのは間違いないので。そこら辺のわかりやすさって大事で,法文の解釈からとんでもないことになった事例は歴史上枚挙に暇がなく。


・伊達政宗の眼帯は1942年の映画で初登場し、1987年にNHK大河ドラマで半歴史化(PE2HO)
→ これは労作。まさにというような文化史だなぁ。


・絶望の果てに希望は見出せるか──アフリカ遊牧民の紛争のフィールドワークから(SYNODOS)
→ すごくおもしろい。政治家も警察も軍も腐敗し,政治家の扇動で起きる部族間闘争。
→ 国際社会は目を向けてくれず,ようやく動いたと思ったら明後日の方向の政策をとる。メディアはなかなか報道せず,多くの研究者は全く外れた理由をつける。結局武具自弁して対抗するのが解決の糸口となった。極限的なやるせなさの漂う中の希望が「携帯電話による連絡網」というのもまた,今ひとつ救いがない。


・分裂とばら撒きがもたらした勝利――フセイン政権崩壊後の第3回イラク選挙(SYNODOS)
→ これも興味深い。これが5月30日の記事という。その後の「多数派形成ゲーム」の真っ最中に今の内戦が,と思うと。
イラクでもそうだが,部族社会に工夫なく民主主義を植え付けるのは逆効果ではないか,と最近思う。たとえばモーリシャスのような工夫は必要,という意味で。モーリシャス自体は部族社会ではないけれども。


・西之島の不思議:大陸の出現か? (2014<JAMSTECニュース<独立行政法人海洋研究開発機構)
→ やはりムー大陸は存在した(迫真)そして人類は西之島の拡大がムー大陸浮上の契機になるとは思いもよらなかったのだ……
→ 西ノ島,現在でもまだまだ面積が拡大しててすごい。もうすぐ1年経つんだよなぁ。


・ウナギを食べ続けたいなら、ワシントン条約を歓迎すべきである(勝川俊雄公式サイト )
→ ニホンウナギがワシントン条約の絶滅危惧種に認定されたが,当然そりゃそうだという認定。これで「安く」食べられなくなったら,今まで食ってたのは密漁品だったということ。来年の夏にはどうなっているやら。  
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2014年10月09日

沖ノ島出土品を中心に

金製指輪(沖ノ島出土)出光美術館の宗像大社展に行ってきた。宗像大社は福岡県宗像市と,その沖合にある大島・沖ノ島にそれぞれ社殿を持つ,3つの社殿からなる神社である。その歴史は極めて古く,5世紀頃から祭祀が行われていた記録がある。それから飛鳥時代に入って日本神話に組み込まれ,律令国家の国家祭祀の色彩が濃くなっていく。遣唐使の終焉と同じタイミングで国家祭祀も行われなくなり,今度は地元の有力氏族・封建領主としての宗像大社の存在が大きくなっていく。最終的に戦国時代末に宗像一族の宗家が断絶し,独立勢力としての宗像氏は消滅する。このような歴史をたどりつつ,沖ノ島からの出土品や所蔵品が展示されている。

最初は沖ノ島出土品から。「海の正倉院」の異名を持つだけあって,シルクロード伝来の品々が多い。ササン朝伝来のカットガラスや,数多の銅鏡,北魏由来の金細工,唐三彩の陶片等が目立った。陶片が多かったが,全体として年代が正倉院よりも古いだけに,完全体で残っていればとんでもなく貴重品だったに違いない。実にもったいない。また,5世紀と異常に古い年代であるにもかかわらず,国家祭祀終了後は長らく禁足地だっただけあって,保存状態は悪いものの貴重な出土品が多い。非常に素朴な滑石や翡翠の呪術的な道具に,機織りや紡錘器を模した祭祀用の道具もあった。少し時代の下った出土品としては,9世紀初頭鋳造の皇朝十二銭の一種も出土されている。これはこれで,律令国家の支配がここまできちんと行き届いていた証拠であり,おもしろい。歴史の折り重なった島と言えよう。ところで,この発掘調査には出光が大きくかかわっている。だからこそ,出光美術館での宗像大社展となった,ようだ。1971年に学術調査が終わってから,まだこの沖ノ島の出土品をこれだけ展示した展覧会は二度しか開かれていないという。

とはいえ出土品の保存状態が悪いため,「ちゃんと残ってたらどういう感じだったか」ということで,伊勢神宮の所蔵品が特別出品されていた。こちらはこちらで制作年代が昭和(戦後)であるため,めちゃくちゃ新しい。保存状態が良いというよりも新品並である。歴史と伝統の継承の具体例ではあって,それらが封印されてきた沖ノ島出土品との好対照であった。これは良い特別出品だったと思う。


あとは中世以降の宗像大社の歴史。宮司の宗像一族が土着の豪族化していった様子がうかがえる史料が多い。宗像大社は社殿の建て替え費用を玄界灘で難破した船の漂着品で賄っていたという伝統があったそうで,この伝統が鎌倉幕府の式目による秩序と衝突してあれこれ裁判になっていたのが非常におもしろかった。書状や下知状・宣旨が飛び交っている。鎌倉幕府が武家社会の司法をつかさどって揉め事を調停し,全国に支配を広げていた当時の社会の様子が垣間見える形である。鎌倉時代の宗像一族は,自らを権威づけるために縁起を書いてたりするが,これが地元の昔話と日本神話と神仏習合が混在していてすごいストーリーだった。日本にせよ西欧にせよ,封建領主としての宗教勢力は現代人としてイメージしづらいところがあるが,そういう意味でもこれは良い展覧会である。


今回の画像は沖ノ島出土品の中で例外的に保存状態が完璧だったもので,新羅製とされる黄金の指輪である。  
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2014年10月07日

もう何度目だ展の一角

ミレー《晩鐘》ぼちぼち通常運営に戻していく。というわけで,新美のオルセー美術館展に行ってきた。こういうコンセプトの曖昧な「○○美術館展」はよほど豪華でない限り,あまり行かないことにしているのだが,今回はよほど豪華だった例である。公式サイトの「みどころ」が,これほど本当にみどころだったことはあまりない。ただし,印象派の本当の大作はことごとく無い。もっとも,私としてはそれがむしろ好都合であった。印象派も無論好きではあるんだけども,別に印象派だけが見たいわけではなく,印象派の大作1つ借りてくるために,他の名画が3つ消えるのであれば,それは嫌という。

そういう前置きで見ると,今回は的確なチョイスだったと思う。マネ《笛を吹く少年》は確かに「世界一有名な少年」の一人だろうし,あえて印象派の大作を1つ持ってくるならこれ,という気はする。モネやルノワールは直球すぎるだろう。他の印象派からはバジールの絵が2つほど来ていて,一つはそれなりに有名な印象派が集合したアトリエの絵だったし,もう一つは家族の集合している絵でこれも良い絵だった。バジールは本当に夭折が悔やまれる。普仏戦争が悪い。モネは数点来ていたが,《サン・ラザール駅》と《かささぎ》が有名な作品だっただろうか。ただ,この二つは何度も来日しているので,私的にはそう珍しくもない。大作《草上の昼食》が来ていたが,これはマネのものを真似たという点と,物理的に「大作」という点では見るものがあるが,正直つまらない絵である。大体,草上の昼食を名乗っているくせに,女性が服を着ていてどうする。

ミレーの《晩鐘》。《笛を吹く少年》よりもこちらをメインにすべきだったのでは。本展覧会では間違いなく最強の知名度だと思う。で,実際に名画だ。実物は思っていたよりも小さい。《晩鐘》というと,昔美術の教科書で見た背景がキノコ雲になってるパロディが忘れがたいのだが,残念ながらタイトルも作者名も覚えていない。共感してくれる人いますか。カイユボットの《かんな》。これは以前にどこかで見たことあるはずで,見覚えがある。カイユボットの代表作というとやはりこれだろう。ところで,カイユボットの名前から漂うおかゆ感とロボット感がぱないな,と思っていたらジャスト同じことを考えている人がいた。


カバネルの《ヴィーナスの誕生》。これはやはり西洋絵画の一つの到達点だなぁと。エロいです。以前に模写は一度来日していて見たが,本物はここで初めて見た。対照的なのがクールベの《裸婦と犬》で,同じ展示室内に置いたのはGJだった。あのちょっと太った女性の脂肪の巧みさよ。最後にマネの《クレマンソー》。西洋美術館の常設展にもクレマンソーの肖像画があるが,あちらはカリエールによって描かれた茫洋とした雰囲気の絵で,おそらく制作年代がそう離れていないのに全く違った。
  
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2014年10月03日

『絶対に解けない受験世界史 (大学入試問題問題シリーズ)』が出ます

twitterや編集者のブログ等では先行して告知しましたが,本を書きました。




以下,本書の紹介をFAQ形式で。

よくわかる! 『絶対に解けない受験世界史 ―悪問・難問・奇問・出題ミス集』FAQ

Q.どういう本なの? 何が目的なの?
A.サブタイトルの通り,大学入試における悪問や超難問,出題ミスを収録・解説した本です。本気で難しくて解けない問題から,日本語の崩壊した問題,単なる誤植,笑える問題など,多岐にわたって収録しています。
1.入試問題作成の杜撰さを世の中に訴えること
2.出題ミスの事例を集めて,出題者へ提供すること
3.悪問を笑い飛ばして当時の受験生の無念を供養すること
4.世の中の世界史マニアに難問を提供すること
を主な目的としています。

Q.どんな問題が収録されてるの?
A.帯に入れた例を引用しますと,

・p.37:青磁か白磁問いながらも問題用紙はモノクロプリント(早稲田大 文学部 2014年)
・p.65:大学教授自らが書いた学術論文のテーマを入試問題に転用(名古屋大学 2014年)
・p.112:ユーゴ連邦構成国が東西に分裂した架空戦記並の地図(慶應大 経済部 2013年)
・p.210:インカ帝国の都市遺跡を問う選択肢にラピュタ(慶應大 経済学部 2013年)
・p.212:カルパティア山脈をカルパンティア山脈と誤植(早稲田大 国際教養学部 2012年)
・p.279:東晋を建てた人物を問う選択肢に司馬遼太郎(神戸学院大 2012年)

という感じです。あとは
・正誤判定なのに,日本語が崩壊していて正誤が判定できない(該当多数)
・某博士論文のごとく,問題文や選択肢が全部教科書・参考書のコピペ(該当多数)
あたりが,見どころではなかろうかと思います。コピペはマジで多いです。こんなところにまで罪悪感の無いコピペが蔓延してるんだなぁと驚くこと請け合いです。

Q.対象読者は?
A.まず歴史好き全般。大学受験で世界史を使ってない人でも楽しめる……と思います。もしくは教育問題に関心がある人。世界史をさっぱり知らなくても,ひどさがわかると思います。というよりも,世界史をさっぱり知らない人でさえ部分的にはひどさがわかってしまう,というのは本書の一つの肝ですので。
その中でも,あえて対象を絞るのなら,研究職・大学教員の方には読んで欲しいかな。特に,将来的に入試問題を作る可能性のある方や,現役で作っている方。

Q.ブログで毎年連載してましたよね。再録はどのくらい?
A.約1/4ほどが再録になりますが,かなり加筆補筆しているので,それなりに新鮮味をもって読めるのではないかと思います。残りは書き下ろしになります。

Q.めちゃくちゃ分厚いんだけど……
A.全部で460ページくらいあります。別の表現をすると30万字くらいあるはずです。まともに全部解いて読もうとすると,軽く10時間は必要になりますし,頭の疲労感が半端ないと思います。ちょっとずつ読み進めるか,ざっと読みながら得意な時代・分野に重なっている問題だけ解いていく,という方が楽しめると思います。

Q.長いから,とりあえず読むべきお勧めの問題はある?
A.ぱっと見でわかっておもしろいのは帯に引用された問題になるかと。あとは,地図・画像問題は難しい・質が悪い理由がわかりやすいので,そこだけ拾っていって読んでもいいかもしれません。
地図・画像問題を含めて,帯以外のおもしろ問題だと,
・p.17:2014年上智4番(十字軍の問題)
・p.34:2014年早慶12番(早大法学部,黒人奴隷の問題)
・p.68:2014年その他6番(千葉大,画像問題)
・p.100:2013年上智7番(三国志の問題)
・p.173:2013年その他29番(神戸学院大,天津甘栗の問題)
・p.204:2012年早慶2番(慶大文学部)
・p.208:2012年早慶4番(慶大法学部,ミリオタ問題)
・p.290:2011年上智1番(地図問題)
・p.378:2010年上智8番(画像問題)
あたりがお勧めできるかと思います。

Q.タイトルの「絶対に解けない」は嘘でしょ?
A.ええ。実際のところ,分類したもののうち「難問」や「奇問」は,世界史マニアなら解けてしまうものがけっこうあると思います。ですが,「出題ミス」は絶対に解けません。言うまでもなく,解答自体が存在しないからです。表題の「絶対に解けない」はどちらかというとそういう意味合いで捉えてもらえればと思います。

Q.俺の知ってるあの難問が入ってないんだけど?
A.序文のところでも書きましたが,2009年から2014年の直近6年間に絞って収録しています。伝説的な難問・悪問,たとえば「ハムレットのあらすじを60字で書け(慶應大)」や「ビザンツ帝国滅亡によるイタリア社会が受けた影響を400字で書け(一橋大)」といったものは収録していません。それでも十分にインパクトのある問題が出揃ったと思っています。

Q.そもそも現行の大学入試制度自体が間違ってるんだから,その中で悪問を糾弾しても意味がない!
A.これも序文で書きましたが,本書ではその点を問題としていません。あくまで現行の大学入試の世界史において,適正か否かを問題としています。

Q.この問題,悪問でも難問でもなくね?
A.これも序文に書きましたが,ある一定のルールに則って機械的に収録した問題もあります。なので,難易度的には簡単だったり良問だったりしても,引っかかってしまったものもあります。

Q.表紙の取ってつけたような女の子は誰?
A.一番よく聞かれる質問。フリー素材です。まさに取ってつけました。私は「いらんやろ」と主張したんですが,編集者の方が「何か無いと,赤本とガチで間違われるとまずいので……」って言ってまして,なるほどと。

Q.日本史版は無いの? 現代文版は無いの? etc.
A.これもかなり多く聞かれた質問ですが,そんなもん俺が読みたいわ。というわけで,我こそはという著者を期待します。社会評論社の濱崎さんと交渉してください。

Q.ペンネームの「稲田義智」って何?
A.早「稲田」,慶應「義」塾,上「智」の合体です。友人が考えてくれました。後から別の友人に指摘されて気づいたんですが,一橋からも一文字とって「稲田橋義智」にしてもよかったなぁと。

Q.ちょっとこの解説間違ってんよ? 誤植を発見しました! etc.
A.申し訳ございません申し訳ございません申し訳ございません。この種の本で自分が間違ってるのはつらい。この記事に正誤表を作る&重版がかかった際に直す予定ですので,あとでやんわりと教えていただけると幸いです。


<正誤表>
p.40 2014早慶 15.早稲田大 人間科学部(2つめ)
×解説冒頭「aとbは正文である」(中略)「審議の対象はcである」 → ○「aとcは正文である」(中略)「審議の対象はbである」(二刷では修正済)
p.43 2014早慶 18.早稲田大 教育学部
「ユーグ=カペーの祖父の妻がカロリング家出身であるから,これを姻戚関係と見なすかどうかでaの正誤が危うくなる悪問」と指摘しているが,読者の指摘で調べ直したところ,ユーグ=カペーの父はこの妻の嫡子であるので,間違いなくユーグ=カペーとカロリング家は間違いなく血縁関係がある。したがって本問のaははっきりとした正文であり,本問は明確な出題ミスである。分類の「?」も不要なので削除。
p.121下から4行目 ×「知って入れば」→○「知っていれば」
p.148 2013その他 7.学習院大 経済学部 中段,イギリス東インド会社が商館を建てたのが「長崎」になっているが,どう考えても「平戸」の誤り。
p.178 山川出版社の『詳説世界史B』の構成に誤りがあった。ひとまずの修正として,p.180の「1997年版」が2003年からの構成なので,年度をそのように修正。また,「分析」の上から3行を削除。
p.192 2012上智3番 選択肢dをヘースティングズの場所として正解と判断していたが,実際にはこのdの場所はブライトンであり,ヘースティングズはもう少し東である。よって,本問は正解不在の出題ミスであり,種別に「出題ミス」を追加。
p.210 2012早慶 〔番外編3〕 問題3・問2の2行目 ☓「気づかれた」 → ◯「築かれた」
p.217解答解説の14行目×「たがかが大学入試に」→○「たかだか大学入試に」
pp.249-250 2012その他 14.中央大 統一入試(2つめ)
×解説最後の行「(e)を正解と見なすしかなさそう」→○「(c)を正解と見なすしかなさそう」(二刷では修正済)
p.245 [番外編1]国際基督教大 解説の下から2行目に「『軍隊』と『驚愕』は交響曲」とあるが,残りの『時計』も交響曲。
p.422 2009早慶 1.慶應大 法学部 ×(13)(14) →○(11)(12)



<その他の指摘>
p.20 2014上智 7.上智大 2/4実施
『赤本』がeを正解=正文にしている理由は,用語集に同様の表記があるからではないか,とのこと。確認したところ,確かにそうだった。つまり,『赤本』のミスというよりも,用語集の不用意な表記という案件の模様。よって,「『赤本』がこういうミスをやらかすのは珍しい。」の一文を削除した上で,段落の最後に「『赤本』はどうやら用語集の表記に拠ったようである。用語集のセシル=ローズの項目には,確かに「アパルトヘイトを推進した」とある。しかし,アパルトヘイトの実施は前述の説明の通りであり,また用語集自身がアパルトヘイトの項目で「南アフリカ連邦成立時からとられた」と記しているため,用語集同士で矛盾が生じている。これは用語集の不用意な表記が責められるべきであろう。また,ということは上智大の想定した解答もeになるだろうが,まともに世界史を勉強してきたなら受験生だって気づくレベルの事実誤認であり,これは用語集の不用意な表記に気づかない作題者がおかしい。近現代アフリカ史の専門家が監修していないというレベルでなく,受験レベルの世界史知識もおぼつかない作題者ということになる。となると,種別を悪問としていたが,出題ミスに格上げにしてよいかもしれない。」と書き足しておく。

p.440 2009早慶 17.早稲田大 政経学部
「汎ヨーロッパ・ピクニック」に関する問題で,東ドイツ市民に出国を認めた東欧圏の国を選ばせる問題。汎ヨーロッパ・ピクニック自体が高校世界史範囲外なので収録したが,選択肢を見ると「ハンガリー」「ユーゴスラヴィア」「ポーランド」「ルーマニア」であり,ユーゴスラヴィアを東欧圏ではない(親ソではない・ワルシャワ条約機構非加盟)として除くと,ポーランドとルーマニアは西側と国境を接していないという判断から,史実を知らなくても「ハンガリー」に絞れるのではないか,という指摘をいただいた。一応「海路から西側に出国するという許可を出したと考えられないこともないから,確証のある正解の出し方ではない」と言えるものの,常識的な判断ではこの思考を取れば易しい問題として解答できる。  
Posted by dg_law at 18:30Comments(31)

2014年10月02日

【03年から06年頃】発掘された同人誌を晒してみる【C64-C71くらい】

故あって東方聖地巡礼系の同人誌が必要で,同人誌の山を発掘していたら最古のゾーンにぶち当たってしまい,発掘された同人誌の数々によって懐かしさで死にそうになった。よって皆様にそのお裾分けをする。とは言っても,私の収集歴から言って最古でも2002年程度であり,04〜06年が最も多い。また,懐かしさを基準に選んだので,若干新しめのものも含めた。「おいおい,そんなので懐かしさで死んでたら俺の所蔵品なんて」という声が聞こえてきそうだが,今回発掘してみて懐かしさとは経過した時間自体というよりもその間に起きた出来事の数と思った次第である。


それでは行ってみよう。一応,画像多め注意。なお,写真は手持ちのスマホで極めていい加減に撮ったので,その点はご了承願いたい。

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Posted by dg_law at 00:32Comments(0)TrackBack(0)