その上で本題に触れるが,基本的にはこれと同意見である。もはや綺麗に是非をつけられる話ではない。
昨夜は鶴竜の立ち合い変化で相撲部が荒れた。
「興ざめ」「横綱相撲じゃない」「変化もルールのうち」「勝利への執念」「過去の横綱も変化している」「負けた稀勢の里が悪い」等、様々な意見があり、いずれにも一理あると思う。
しかし「モンゴル人ガー」…テメーらだけはダメだ。 #sumo
— 偽ケ濱親方【秋場所】 (@nISEGAHAMA) 2015, 9月 27
付け加えて言うなら,普段相撲を見ていない(にわかファンですらない)のに,こういう時だけ出てきて「相撲はよく知らないけどルール上問題ないものを騒ぐなんて“守旧的”」と発言して進歩派を気取りたいだけの人たちはほんと害悪でしかないので,ちゃんと相撲を知って簡単に白黒つかない話であることを前提に,自らの白黒を開陳してもらえませんか。
ただ,私の立場をあえて言うなら,擁護する気はないが「“個人的に”面白かったからよし」という立場になる。鶴竜の変化が批判される理由は大きく「横綱相撲ではない」点と「興ざめ」という点に絞られると思うが,つまりは興行としてアウトという話である。しかし,ちょっと考えてみてもらいたい。最初の一番で変化が決まっていたor失敗していたなら鶴竜に失望していたのだが,最初の一番が取り直しになったのが結果的に良かったと思う。二度も変化したという珍妙さに,二度で左右が違うという珍妙さの重ねがけ。しかもそれが決まりそうな相手である稀勢の里に仕掛けることになったという,優勝争いの展開の妙。変化自体にはついていったのに,動揺から二歩目が出なかった稀勢の里の心理面の弱さ。苦手の稀勢の里を変化で退け,あとは手負いの照ノ富士で優勝は盤石という状態からの,本割での敗北。鶴竜は変化に負い目があり,変化した翌日はしばしば負けるのだ。その意味で鶴竜の心理も盤石でない(※)。ここまでの経緯を踏まえた上での決定戦での鶴竜優勝となると,もはやすべてが滑稽であり,何か相撲の神様ではなく,運命の女神様がいたずらで鶴竜に変化を決心させたのではないかと思う程度にはドラマチックであった。「相撲は興行だから横綱は変化してはいけない」とするなら,あの変化は興行的に面白い展開を導いたという点でなら,擁護できる。
しかし,無論のことながら,鶴竜はその「すべてが滑稽」の上で優勝してしまったということは,本人が重々噛みしめるべきであろう。
※ その意味で言えば,11日目の栃煌山戦で変化した翌日,12日目の琴奨菊戦で鶴竜は負けると私は踏んでいたのだが,この12日目はあっさり勝ってしまった。だから鶴竜の心臓にも朝青竜ばりに毛が生えてきたのかなと思った矢先の14日目・千秋楽である。これも踏まえるとなお面白い。
以下,個別評。熱戦が多かったので書くことが多い。まず途中休場した白鵬だが,これにより途切れた記録の数々がすさまじいので掲載しておく。
・横綱連続出場722回(2位北の湖653回)
・幕内連続二桁勝利51場所(2位北の湖37場所)
・通算連続勝ち越し(2位)51場所(1位武蔵丸55場所)
※ 通算連続幕内勝ち越しとすると1位になる。白鵬は51場所すべて大関・横綱だが,武蔵丸は十両・幕下を6場所含むため,49場所に減る。
まあ継続記録とはいつかは途切れるものである。心機一転して来場所がんばってほしい。
鶴竜の相撲は意外と普段通りで,特に調子が良かったわけではない。白鵬と日馬富士がいなければ,12勝3敗くらいはできるくらいの実力はあるという確認にしかならなかった。そういう意味では,白鵬と日馬富士がいなくても12勝しかできなかった,その上照ノ富士がケガをしなければ優勝できなかったというのは若干残念な話ではある。ただまあ10日目の妙義龍戦は取り直しが妥当で,不運な星の落とし方ではあったと思うし,3日目の嘉風は万全の白鵬でも苦戦したであろうくらい動きが機敏だったので,情状酌量の余地はあるか。
大関陣。照ノ富士は豪快な相撲が売りだが,豪快過ぎて膝への負担が不安とは指摘されていた。ここに来てそれが爆発した形である。ただ,照ノ富士が豪快な相撲にならざるをえないのは立ち合いが遅いゆえに不利な体勢で取らざるをえないからであり,この立ち合いの遅さも以前から指摘されていた弱点である。いずれにせよ,自分の弱点を見つめなおす良い機会かもしれない。妙に好調だったのは琴奨菊で,序盤で早々に2敗して優勝争いとは無縁に近かったものの,突進力があり,終わってみれば11勝である。これは白鵬と日馬富士がいても10勝には乗っていたのではないか。一方,稀勢の里の11勝はいつも通りという。14日目勝ってたらおもしろかったのにねぇ。豪栄道は白鵬・日馬富士がいないのに負け越しという結果はちょっと。来場所なんだかんだで8勝7敗しそうではあるが。
関脇。栃煌山は某人が言っていた「ハートの弱さが稀勢の里並」という寸評以外コメントのしようがない。妙義龍は可も不可もない出来。小結の栃ノ心は,何より「幕下55枚目まで陥落した後の三役復帰」の上での10勝という偉業であり,これを賞賛するべきであろう。大ケガ以前よりも少し柔らかくなり,得意の右四つになりやすくなっていると思う。敢闘賞は妥当で,「千秋楽勝って」という条件も不要だったと思う。もう一人の小結隠岐の海は,悪くない出来だったが,それ以上に周りが良すぎたという印象。
前頭上位陣。嘉風は神がかった出来。今場所は嘉風のためにあった場所と言っても過言ではない。元々機敏な動きで撹乱し,さっと中に入るか押し込んで倒すかという取り口であったが,今場所はこの長所が本当によく出ていた。足腰はあまり重くなく,また捕まると弱く,パワープレーにも弱いという弱点が多々ある力士ではあるが,今場所はその弱点を長所がよくカバーしていて,捕まること自体がほとんど見られなかった。弱点が露呈したのは中日の大砂嵐戦(パワープレーにやられた)くらいであろう。技能賞と殊勲賞受賞だが,敢闘賞もあげて全部でも良かったと思う。そのパワープレーの権化大砂嵐は,やっと膝が治ってきてフルパワーという様子だった。自己最高位での勝ち越しはめでたいが,千秋楽にその左膝(本人申告は左足首)を痛めたらしいのが大変に気がかりである。
逸ノ城はやや身体が軽くなったか,動けていた。しかし目立った活躍はない。宝富士は五月場所までの好調が嘘のような弱体化で,先場所・今場所とひどい出来。左四つになれば上位でも通用する状態が半年ほど続き,照ノ富士とともに上ってきたのでこれは上位定着しようと思われたが,ここに来て崩れてきた。ケガはないようだが,心配。佐田の富士と玉鷲は家賃が重かったか。玉鷲は照ノ富士戦など,非常に動きの良い取組があったので,4勝しかしていないのはやや意外。
前頭中盤。遠藤は膝が治ったように見えてたまにぐらぐらしているようで,膝がガクガクしている日はまるで粘りがない。膝の調子が良ければ上位でも十分取れる実力があるのはおそらく皆目一致しているところで,それだけに膝の状態が日毎に違うまま上位戦になるのは不安である。膝が壊れる前の遠藤が戻ってきたという世の論調にはやや賛同しかねるところがある。阿夢露の勝ち越しはこう言ってはなんだが意外で,前は左四つにならなければてんでダメだったが,今場所は多様な勝ち方が見られた。これが単に好調だったからなのか稽古の成果なのかは来場所に期待。安美錦はとうとう幕内最年長になったが,よく勝ち越すもんだ。北の富士だったかが「安美錦が変化しても誰も文句をつけない」と言っていたが,これは最年長という点もあり,そういう取り口と皆納得しているというのもあり,両方あるだろう。
前頭下位。誉富士は今場所突き押しが良かった。勢の11勝は単なる上昇エレベーター感ある。他の面々も悪くなかったのだが,結果的に実力が拮抗したようで,千秋楽7勝7敗が非常に多かった。さらにその結果7勝8敗が多く(7勝7敗同士当てられたわけでもないのにこうなった辺り皆ガチだろう),来場所の番付編成が大惨事になっている。力士ごとの運不運が出そう。
最後にその予想番付。
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