2016年03月30日

偉大なる短気:カラヴァッジョ

カラヴァッジョ《法悦のマグダラのマリア》西美のカラヴァッジョ展。間違いなく今年の上半期最大の企画展である。カラヴァッジョ単独で大規模な企画展が立てられること自体が極めて珍しく,というよりも私の知る限りここ10年の東京では初めてである。それもごまかしで無くきっちりとカラヴァッジョの作品が大量に展示されており,《トカゲに噛まれる少年》・《ナルキッソス》・《果物籠を持つ少年》・《バッカス》・《エマオの晩餐》など,代表作と言ってよいものが多い。よくこれだけ持ってこれたなと。かつ西美らしくカラヴァッジョの美術史的位置づけが説明され,カラヴァジェスキへの言及もなされていた。確実に見に行く価値がある展覧会である。展示数はわずか50点程度だが,ほとんどが油彩画で1点1点が大きいのもあり,十分に見応えがあった。なお,《法悦のマグダラのマリア》(今回の画像)は今回カラヴァッジョの真筆と認定されて初の展覧会展示だそうで。図録で見るとそうでもないが,実物は法悦というよりも死んでいるのではないかというくらい冷えた雰囲気を持った作品で,恐怖さえ感じさせる作品であった。


カラヴァッジョはバロックの開祖の一人である。画面中に光を偏在させるのではなく,特定の光源を用意して照らし,明暗のコントラストを劇的にすることで強烈なインパクトを作品に与えるということを発明した人物と言ってよい。西洋美術史の偉大な10人を選んだら,誰が選んでも高確率で入るだろう(私は入れた)。この偉大な画家は生存当時からすでに評価が高く,カラヴァジェスキと呼ばれる追随者たちを生んだ。というよりも,やがてそれは模倣を脱し,別系統のアンニーバレ・カラッチやエル・グレコ等の影響もありつつ,ルーベンスやレンブラントという輝かしい後継者を得て「バロック」という一大様式が展開することになる。西洋美術史が豊穣になったのは,ルネサンスに対置する概念としてバロックが誕生したからにほかならない。

さて,本展覧会がおもしろかったのは,カラヴァッジョのそうした美術史学的にまじめな要素だけで構成されていたわけではなく,ゴシップにならない範囲でカラヴァッジョのクズとしか言いようがない人生の紹介も兼ねていた点はエンタメ性の発露として評価してよく,しかもそのためにわざわざ原史料を持ってきたのはカラヴァッジョファンとしてスタンディングオベーションしかできない。カラヴァッジョは素行がひどく,暴行事件が絶えなかった。「カラヴァッジョ犯科帳」を整理すると(この表現は展覧会及び図録にあるものだ),ローマで起こした記録に残る重大事件だけで20件に上る。とうとう殺人を犯してローマから逃亡し,南イタリアを逃げまわることになる。「天才芸術家は性格が破綻している」という偏見が偏見でない人で,行った先々で問題行動を起こすので「まるで反省していない……(AA略)」としか言いようがない。極めつけがマルタ騎士団に入団して騎士にさえ暴行を働いている点で,喧嘩っ早い上に喧嘩が強いからいよいよ手に負えない。

一つ中でも印象的なエピソードを紹介すると,カラヴァッジョが居酒屋でアーティチョークを注文し,バターで炒めたもの4つと普通の油で炒めたもの4つが運ばれてきたので,カラヴァッジョがウェイターに「これはバターで炒めたものか,油で炒めたものか」と聞いたところ,ウェイターが「匂いを嗅げばわかるだろ」と答えた。すると,カラヴァッジョは突然切れて手元にあった皿を投げつけ,ウェイターにケガを負わせ,裁判になった。いわゆるアーティチョーク事件である。正直ウェイターの応答も大概な気はするが,カラヴァッジョの短気さを表す名エピソードである……で,今回の展覧会でこのアーティチョーク事件の裁判記録が展示されている。イタリア語読めないので何が書いてあるかはわからなかったが,さすがにテンションの上がる展示だった。


とりあえずまだそれほど混んでいなかったが,おそらく4/8にNHKで特集があるのと,4/17に日曜美術館で取り上げられるので,それらが過ぎるととんでもなく混むと予想される。お早めにどうぞ。
  

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2016年03月29日

《ベローナ》と《水差しを持つ女》

レンブラント《ベローナ》森美術館のオランダ絵画展。目当てはもちろんフェルメールである。17世紀のオランダ絵画展としての出来はまあ普通で,悪くはなかった。展示作品数はジャスト60と多くはない。美点を一つ挙げると,きっちりと新イタリア風絵画に触れていたこと。特に17世紀のオランダ風景画というと,ライスダールに代表されるように,現地の眺望を描いたものや,フェルメールのような都市景観画の方がイメージにあると思われる。私の好みとしてもこちらの方が好きで,特にライスダールは好きな画家十指に入ると思う。美術史学的重要性から言っても,どうしてもこちらを取り上げてしまうことが多い。

しかし,当時の人気を鑑みるなら無視できないのが新イタリア風の存在で,当時のオランダでもイタリアの明るい色彩を得た画家たちの絵画が人気を博してきたことは近年指摘されている。つまりカラヴァッジョ風でなく,どちらかというとクロード・ロランの系統のイタリア風絵画ということだ。オランダにおけるイタリア風の存在感が指摘されたのは当時の絵画の値段の調査からというから,美術史学としては比較的珍しいのではないだろうか……というような話を大学の授業で聞いた。それから10年ほど経って,こうして美術館の企画展で取り上げられるようになったというのはどこか感慨深い。

新イタリア風の画家たち以外で来ていたのは(ジャンル問わず),ロイスダール父子,ホッベマ,ヤン・ファン・ホイエン,フランス・ハルス,ホントホルスト,ヤン・ステーン,ピーテル・デ・ホーホ,ヘラルト・ダウといった面々なので,ぼちぼちがんばっているとは思う。カレル・ファブリティウスの作品があったのは,前述の新イタリア風とともに嬉しかった。レンブラントとフェルメールのミッシングリンクをつなぐ人物と言われている。天才ながら夭折している(なんと爆発事故で死んでいる)ために,作品数はフェルメールに輪をかけて少なく,ここで2点も見られたのは僥倖であった。

肝心のレンブラントとフェルメールは1点ずつしか無かった。フェルメールは致し方無いとして,レンブラントはもうちょっとなかったんか。レンブラントの作品は《ベローナ》で(今回の画像),ベローナはローマ神話における戦争の女神であり,軍神マルスの妻あるいは乳母あるいは姉・妹とされるそうだ。立ち位置の不明確さが半端ない。アトリビュートは武器と松明で,戦車に乗っていることもあるそうだが……どう見ても持っているのはメデューサの盾で,するとこれはアテナだよな……? 《ベローナ》に同定されている理由は図録を読んでさえちょっとわからなかった。有識者の意見を求めたい。
(追記)
コメントに触発されて簡単に調べてみたところ,武装したアテナ,いわゆるパラス・アテネがベローナと混同されるのはチョーサーやボッカチオの時点ですでに見られるそうで,かなり広がっていた誤解らしい。美術作品でも,他にも混同された作例があるようだ。


フェルメールの方は《水差しを持つ女》。これで自分のフェルメールスタンプラリーは17/35(37)点になる。所蔵元はメトロポリタン美術館。フェルメールの作品としては普通,というのは贅沢な感想だろうか。画面左に窓でそこからの日光が光源,妙に凝った壁にかかった地図,画面右下の机にかかった布の質感と見事にフェルメールのテンプレートに乗っている。  
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2016年03月28日

最強横綱のプライドとラフプレー

主役が頻繁に変わる場所であった。序盤は琴奨菊が綱取りの話題を引っ張り,彼の負けが込んだ中盤は稀勢の里が夢をもたせ,終盤は上位初挑戦で暴れまわった琴勇輝と地元の声援を一身に浴びた豪栄道と変遷した。しかし,終わってみると台風の目は白鵬であった。あまり良い意味ではないが。


まず,白鵬はやはり間違いなく衰えている。全盛期と比べてどうこうというより,昨年と比べても目に見えて,である。しかし,全盛期の頂点が極めて高かったのと,衰え方は緩やかであるので,まだ勝てている。そしてまだ勝てているからこそ,諦めきれずにいろいろやって,今場所のような振り切れたラフプレーに走ったところはあろう。ラフプレーなら勝率が上がるなら,やる。それが優勝に極めて貪欲な横綱,白鵬である。その現れが繰り返されるダメ押し,ほとんどエルボーな右のかち上げ(大砂嵐のがダメならあれもダメだ),極めつけが千秋楽の変化であろう。その試行錯誤の末に選んだラフプレーできっちり優勝出来てしまう辺りは,やはり一時代を築いた横綱だなぁと思うし,世間のイメージもまだ4・5年前で止まっているのだろう。そのギャップが「ブーイングの中の優勝」であるから不幸である。(なお,「あれで決まると思っていなかった」という言い訳についてはほとんど信用していないし,決まっていなかったとしても変化には違いない。)

本人のプライドもあり,変えるのは難しいと思う。その上で言うと,個人的には「もう“無敵の横綱”じゃなくてもええんやで。気楽に普通の綱を張ってくれ」と心から言いたい。その“無敵の横綱”という地位は,ラフプレーに走って世評を落とし,千秋楽に変化して罵声を浴びてまで守りたい地位なのか,自問自答して欲しい。この辺り,自らのケガ・衰えを上手く付き合い,ここ1・2年は妙な風格すら出てきた日馬富士とは対照的である。

次に,千秋楽の変化自体について。あれが最悪だったのは興行面からの話だ。私は去年の9月の鶴竜の変化を擁護したし,同様に九州の白鵬の猫騙しも擁護した。その私でも今回の変化は擁護できない。いろんな意味で全く面白みに欠いた。加えて言えば,ラフプレーで積み上げた勝ち星の上で,決定戦もありうる展開での千秋楽変化だから批判されているという側面は否定できない。これを無視した擁護は全く意味が無い。片方だけなら,間違いなくこんな大バッシングにはなっていないから。

一方で,実のところ私はそれほど怒っておらず,批判もする気がわかない。理由は3つあって,1つは日馬富士の状態を考えるといずれにせよ熱戦にはなりえなかったと予想されたから(だからこそ白鵬には変化せず取ってほしかったという気もするが)。1つは,白鵬のプライドもわからんでもないからだ。最後の1つは,すでに十分批判されているから。インタビュー中に泣くほど罵声を浴びせられ(中には許されざる人種差別的なものもあっただろう),追加攻撃するほど鬼にはなれない。あとは横審とデーモン閣下が何か言えば十分ではないか。
(追記)
ネット上の議論を一通り読んだ。その上でいくつか。まず,あいも変わらず「これだから相撲とかいう空気を読むことを要求されるスポーツは」系の言説が出ているが,上記に張った9月の場所評で切れているので,私見はそちらを参照のこと。また,トッププレイヤーが空気を読む必要があるのは相撲に限ったことではなく野球やサッカーだってある,というのは言われて気づいたが確かにそうだなと。
次に,あの変化は技量として評価してもいいのではないか,という点については一理はあって,右を突き出してから左に変わるのは今のところ白鵬固有の技である。ただし,これを容れるとして場所全体の白鵬の評価を覆せるかというと。
最後に,「そもそもあの変化を食った日馬富士も鈍かったし,9勝で終わったようじゃ同じ横綱として言い訳が立たない」という意見,これだけは間違っている。あの変化は前代未聞なので読みようがないし,あそこでの変化まで読んで立ち会えというのは興行のみならずスポーツとしての相撲の面白みを欠くことになりかねない。そして日馬富士の9勝については,以前にもこのブログでは論じたことがあるが平均的な横綱の通算勝率は.770程度である(大関は.636)。さて日馬富士の直近6場所の成績は46ー16ー28の勝率.741で優勝1回,優勝次点2回,白鵬戦3勝1敗なんですけどこれでもダメなんです? だーから今場所だけ(あるいはあの1番だけ)見て論じるのはやめーやと。それとも毎場所12勝以上しなきゃダメなのか。なお鶴竜は53-22-15の.707の優勝1回なので,こちらが批判されるのはまだわかるが。


個別評。白鵬については前述の通り。日馬富士は日毎の波が激しく,ケガを感じさせない日もあれば自滅した日もあり。鶴竜は可も不可もない出来。琴奨菊は中日の7−1までは今場所マジで綱取りあるんじゃないかと思われたが,その後あれよあれよと崩れて8−7となった。稀勢の里に変化で負けたショックからか,2場所前以前の精神に戻ってしまったのは無残である。どころか,「寄れなければ右から突き落とす」という新戦術さえどっかに飛んでいったようだった。豪栄道はあまり地元補正のある力士ではなかったが,今場所は精神が強くなったか,応援を力に変えていたようだった。ケガがあまり足を引っ張らない相撲ぶりだったのはそのおかげか。変化した取組もあり,苦し紛れからの必殺技首投げもありと,稀勢の里の13勝に比べると,12勝という星の数ほど内容があったとは思えない。しかし,いつもの8−7でギリギリカド番脱出とは比べ物にならないほどマシであり,健闘したのは間違いないので,それは称えておきたい。照ノ富士は場所明けに手術の予定があるらしいんだけど,ほんと早く治そう。来場所全休でも文句言う人は少ない気が。無理せず8勝,勝てそうになかったら粘らず土俵を割っていたのは,良い判断だったと思う。

稀勢の里は十日目まで無傷だったのは二度目なのでそれほど驚きはないが,九日目に変化気味に動いて琴奨菊を倒したこと(故意だったか結果的にかは判断しかねる),十日目に鶴竜にあれだけ撹乱されて勝ったことから,今回こそはという希望を持ってしまった。13勝2敗は二度目,来場所はどうやら綱取りだそうだ。ここまでの大関としての成績を鑑みると資格はあると言えるが,実際に取れるかというと,それほど精神が変わっていないようにも見える。ただし,某稀勢の里マニアの方が「左四つ右上手の形になれば無敵だったが,今までは立ち合いの工夫が皆無でダメだった。今場所は立ち合い先手で左おっつけを使う具体的な戦法を編み出した。この違いは大きい。」と言っていたので,希望はあるかも。確かに今場所の稀勢の里は,左四つへの入り方が先場所までより圧倒的に早かった。ただ,稀勢の里の場合,先場所の教訓をさらっと忘れている可能性があるので……また,15年に入って以降は明らかな体力の衰えもあるので,それもけっこうな不安材料では。2場所連続で好調が持つのか。


三役。見事に全滅したが,横綱・大関が勝てばどうしてもこうなる。豊ノ島は12敗したが,動き自体はそれほど悪くなかったような気がした。嘉風はいよいよスタミナ切れか。こちらは明確に動きが悪かった。突進力に欠いたので,動き回って崩しても攻め切れないという感じだった。栃煌山はノーコメントで。4人で唯一大崩していない宝富士は,左四つになれば大概勝てるのはわかったので,もう一つ武器が欲しい。

前頭上位。まず何より琴勇輝であろう。今場所の琴勇輝は突き押しの威力が抜群なのはさることながら,足がきっちり上半身に連動して動いており,これが躍進のポイントだろう。押し相撲力士にありがちな,足がついてこずはたかれて前のめりにばったりというパターンをほとんど見なかった。また,精神力も高い。上位挑戦初で,小結や前頭上位は序盤に横綱・大関に当たるので,負けが込んでしまって実力が発揮できないというパターンが多い。琴勇輝も六日目まで横綱・大関戦終わって3−3だったが,そこから全くの負けなしである。ブログを読み返すと,3年前に「突き押しだがもっと上に行くには威力が足りず」と書いていた。この3年の彼の努力を全力で祝福したい。一つだけケチをつけると,立ち合い待ちすぎ。番付の低い側が合わせようなんて言う気は無いけど,そういうこととは関係なしに,さすがにもうちょっと合わせる努力をしよう。

隠岐の海は日毎の出来の差が激しすぎ,とはいえ大きなケガがあったわけでもなく,何ともよくわからない。北の富士が「え,勝ち越しちゃったの?」と言っていて,そこまで下げる気もないにせよ割りと同感である。蒼国来はインフルエンザの休場が極めて残念だ。相撲ぶり自体は不調ではなかったので,ちゃんと出ていれば勝ち越していたかもしれない。左右どちらでも取れるし,(特に右の)差し手が深く入って密着されると誰でもかなりしんどい相撲になる。最後に勢。長らくエレベーターであったが,やっと上位で大勝した。今場所の勢は右からの攻めが強烈で,右差しからのすくい投げか,入らなければ小手投げと,右が自由ならやりたい放題であった。右の使い方が上手くなったということであろう。実は先場所から片鱗はあったが,先場所は左の脛を故障して休場を危ぶまれる状態であった。それだけに今場所の躍進は大歓迎だ。残りの面々もそれほど大敗しておらず,いかに今場所の黒星が三役3人に集まったのかがうかがえる。


前頭中盤。妙義龍はただの上昇エレベーターで,欲を言えば11勝して欲しかった。とはいえもろ差しかはず押しになれば綺麗に勝負をつけるので見ていて気持ちいい。魁聖も上りエレベーターだが,意外にも来場所が初三役になる模様。番付運が無かったんだなぁ。正代はよくわからないまま勝ち越してしまった。番付運もあるものの,新入幕3場所目で上位挑戦は隠れた偉業では(直近だと遠藤も照ノ富士も4場所かかっている)。豪風は衰えが目立ち,5勝もしていたのが意外だった。

前頭下位。逸ノ城はまあこの番付なら11勝くらいするよね,としか。動きが鈍重なのは改善していないので,このまま前頭上位に上がっても大勝はするまい。阿夢露は身体の軽さに泣いた。もっとも,細身な割にパワフルなのが魅力ではあるのだけれど。御嶽海は先場所インフルエンザで休んだ分は勝った,という感じ。基本は突き押しだが案外寄り切りで勝っており,今後の相撲振りがどちらに振れていくのかも気になるところ。

十両は大砂嵐が圧勝で十両優勝したが,本人曰くケガが治りきっていないそうで,幕内上位まで戻ってきて勝てるかはわからない。錦木は私はノーチェックだったので来場所じっくり見たい。なんだかんだですぐに戻ってきた遠藤も青狼も楽しみである。  続きを読む
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2016年03月25日

最近読んだもの・買ったもの(『乙女戦争』4巻)

長くなったのでこれ単体で。

・『乙女戦争』4巻。ペスト患者隔離,ヴィシェフラト城攻め,坑道作戦とその失敗,潜入作戦と二重包囲,ヴィシェフラト城前の戦い,陥落。
→ ヴィシェフラト城はチェコ語で「高い城」の意味で,当時はプラハ城壁の南端に位置したが,現在は完全にプラハ市街の中にある。現在では著名人の墓地として有名で,スメタナやドヴォジャーク,カレル・チャペック,ミュシャ等の墓があるようだ。作中にある通りヴルタヴァ川に面しており,スメタナの『わが祖国』の第1曲の題名でもある。
→ ところでヴィシェフラト(Vyšehrad)城に関しては表記が「ヴィシェフラ“ト”」と「ヴィシェフラ“ド”」の二種類あり,数の上ではどちらかというとヴィシェフラドが優勢のようだが,本作ではヴィシェフラト,すなわち最後のdは濁らない表記で書かれている。チェコ語は「ドブリーデン」くらいしか知らないのだが,ざっくりググった感じではdを清音で読むという法則自体が無いっぽい。語末のdをtで読むのはドイツ語のルールである。これはヴィシェフラドの方が正しいのでは……と思ったのだが,念のためforvoに放り込んでみたらどう聞いても濁ってない。どういうこっちゃねん。なお,ヴィシェフラトがドイツ語由来ということはないはず(ドイツ語で「高い城」はhochburg,ホッフブルクになる)。本作はドヴォジャークをちゃんとドヴォジャークと書く程度にはチェコ語に気を配っているので,根拠なくヴィシェフラトと表記しているとはあまり思えない。
(追記)
チェコ語も語末のdはtで発音するとご教示いただいた。
つまり,ヴィシェフラトが完全に正しいということになる。

→ ヴィシェフラト城攻防戦の展開は巻末の解説にある通り,史実と異なるそうだが,兵糧攻めのさなかに1万8千の援軍が城前の会戦で撃破され,これを契機に守備兵が開城したという流れなので,終盤の大筋は同じと言えそう。ただし,ヴィシェフラト城前の会戦は,実際にはジシュカもチェニェクもオルドジフもいなかったので,参加者は大きく異なる。また,当然坑道作戦等やあんな二重包囲状態なんて無かったので,序盤は改変が激しい。なお,巻末解説によると城の構造も全く別の城を参照にしたそうなので,大きく異なるそうだ。確かに,観光案内で見る限り全然違う。

→ 4巻までで3人の貴族が登場しているので,彼らについてもここで書き留めておきたいが,どうあってもものすごいネタバレになる上に,すでにしっかりまとめているブログがあるので,ほとんど自分用メモである。一応伏せる。
→ まず,フス派貴族の首魁チェニェク・ヴァルテンベルクは,作中のジシュカによる評価がやけに高いのだが,史実の彼はとんでもなく日和見である。しかも1425年に死ぬのか……
→ 一方,皇帝側の貴族の重鎮として描かれているオルドジフ・ロジュンベルクだが,なんとこちらは1462年まで生きている。実はこの人,所領が南ボヘミアでターボルに非常に近く,ターボル派の暴虐のダメージが洒落にならない状態だったらしい。そりゃまあフス派には転向できないよなぁ。今のところ作中ではあんな若造だが(実際1420年時点で17歳),生き延びた結果,最後の最後でフス派の穏健派を和解してターボル派を倒し,フス戦争を終わらせるという非常に重要な役目を果たす。ここからの彼の成長にも注目したい。なお,オルドリヒはドイツ語読み。
→ 最後の一人,ボフスラフ・シュヴァンベルクは作中だと軟派な貴族で強硬な皇帝派だが,なんとフス派(それもターボル派)に転向するらしい。これもどういう描かれ方になるのか大変気になるところ。死没のタイミングはチェニェクと同じくらい(1425年)。



  
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2016年03月22日

最近読んだもの・買ったもの(『ざるそば(かわいい)』他)

・『ざるそば(かわいい)』。第11回MF文庫Jライトノベル新人賞受賞作。
→ この摩訶不思議なラノベを私が手に取ることになった経緯を先に書いておきたい。作者のつちせ八十八は元々ニコマスPのザッPで,名作シリーズ「パラノイア×アイマス」の作者である。

→ このシリーズの制作が止まっていたのだが,新人賞受賞してひょっこりとラノベデビューしていた,という。元動画製作者なので,宣伝動画も自前である。

→ 動画をご覧のとおり,非常に頭がおかしい設定の狂気の産物である。作者自身「ざるそばのかわいさが売り」といい,新人賞の審査員も「ざるそばのかわいさだけは認めざるをえない」と評した代物である。ニコマスで楽しんでいた縁もあり,パラマスの筆力ならという安心感もあり,この突き抜けきった設定もあり,読んでみようかと。
→ 実際の評価としては,十分におもしろかった。特に序盤の突き抜けっぷりはすごい。設定が意味不明すぎるまま話が進めば読者がついていけなくなるし,普通すぎれば単純につまらないわけだけど,本作のバランス感覚はすごい。そして,会話の間の取り方は天性のセンスというよりも動画制作で鍛えられた部分だろうと思う。読んでいて非常にテンポが良く,来るべきタイミングで次の登場人物のセリフが来る感じがする。第1章は本当に何度読んでも爆笑する。「セキュリティクリアランス」とかいう言葉をさらっと使ってくる辺りはファンサービスか。
→ これだけ設定が吹っ飛んでると話がちゃんと着地するのかが不安になるが,ちゃんと着地します。頭のおかしい設定のままよく帰着させたと思う。あと,メインヒロインのざるそばのかわいさはガチ。実にあざとい。しいて言えば,あざとすぎて引く人はいそう。実におそろしい麺類系ヒロインがここに誕生した。
→ ただ,話続くんかコレ……一応続く形で1巻が終わっているが,限りなく単発の話にしかならない気も。


・『ななゆり』。『あまゆる』の作者マウンテンプクイチ氏が同人誌で連載していたものの商業版単行本。
→ 本作は女子高生たちがガチ百合してる漫画だが,商業連載している漫画より同人誌で連載していた漫画の方がより恋愛要素が強いというのは,なもりの『ゆるゆり』と『ゆりゆり』の関係にも似ている。商業連載だと濃いのは厳しいという当人たちの判断なのだろうか。
→ マウンテンプクイチ氏の同人誌は,艦これ本だろうとまどマギ本だろうと何かがかっとんでる描写があるが,オリジナルだと尚更ネジが外れている気が。『ななゆり』収録作品だと,好きな人に殺される時の感情を確かめるために互いの首を締めあってみる「いっしょにしのう!」がハイライト。こういう話がさらっと出てくるあたり,氏は天才じゃないかと思う。

ななゆり (百合姫コミックス)
マウンテンプクイチ
一迅社
2015-12-18




・『U.Q.HOLDER』9巻。表紙は魔王時代のエヴァ。引き続きダーナの修行編,刀太のマギア・エレベア発動,魔王時代のエヴァ,なぜか休憩で麻雀,修行の卒業,仙境館に戻る,刀太が雪姫に求婚(断られる)。
→ 順当にストーリーが進んだ感じ。刀太くん吹っ切れましたね。元から雪姫のことは好きだったけど,保護者だったこともあり,自らのアイデンティティもあり,迷っていたけど,エヴァの過去を知って迷っていられなくなったと。本作も,前作・前々作同様に主人公の周囲に女性は多く登場するけど,メインヒロインだけはかっちり決まっていてぶれないのは決定的な違いだ。
→ 雪姫は過去の世界で刀太のことを覚えていたのね。これは一つ重要な情報が開示された。それは思い入れも段違いですわなぁ……  
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2016年03月21日

ローマ法王も「教皇」表記に……

・小中学の教職員3470人削減へ 自然減に加え370人(朝日新聞)
→ こういうことになる大きな要因が,文科省が省庁の中だと立場が弱くて財務省が強いから,というのがやるせないよなぁ。日本の教育が省益の犠牲になっているわけで。まずはそこから変えないと,というのが道のり遠い。(無論のことながら文科省の立場を財務省より強くする,というのではあまり解決になっていない)


・密室の裏工作、審査映像にくっきり 「嘆かわしい」「応募の労作に不誠実」(産経新聞)
→ 製作者の名前が伏せてあるはずのコンペで審査員に名前が漏れている,その名前で投票しているというのは完全にただの不正としか言えない。
→ 当選作品を決め打っていたというよりは「参加を要請しておいて一次審査失格は相互のメンツが潰れる」ということなんだろうけど,だったら参加要請を受けたデザイナーの作品は最初から一次審査をパスという規定にしておけば,周囲がまだしも納得したのでは。完璧な校正を装うからこんなことに。
→ デザインも,デザイナーの名前で売っているところはあるだろうから,名前は重要というのもまたわかるんだけど,今回は素人や海外の人間にもわかりやすくないと良くないという条件があって,そういう人たちには名前の売れ具合はほとんど影響がないのだから,普段の感覚で審査してはいけなかった。そういうところの感覚が甘く,今回のコンペは上手くいかなかったのだろう。
→ それでもまあ,正式に採用されたエンブレムの出来が圧倒的に良くて瑕疵が無ければ見なかったことにもされたんだろうけども,それがああでああだったから,今こういうことになってるんだよなぁ……


・東京オリンピックの運営費、当初見込みの6倍で財源1兆円不足 「民間なら"クビ"レベル」怒りの声続々(THE HUFFINGTON POST 日本語版)
→ これに関してはまあ,元々3千億で出来るとはほとんど誰も思ってなかっただろうとか,経済効果はあるだろうとかはあるから,積み増された1兆5千億円自体にはそれほど批判する気が起きない。
→ とはいえ「コンパクト五輪」に対する説明責任は求めたいところで,これが理由になって誘致に成功した側面もあるし,賛成に回った国民もいるだろうから,まあ詐欺だよね。ところで本件については,
・東京五輪「大まかに3兆円」 舛添都知事がパリ市長と会談(産経新聞)
→ 上記ハフポスのソースのNHK報道の2ヶ月前にあたる,2015年10月時点ですでに舛添知事がこんなことを言っていたりする。この時点でほとんど話題にならなかったのは,約1兆8千億の試算を発表したのが五輪組織委員会だったからだろうか。


・メディア関係者さんへお願い:コンスタンティノープル総主教聖下の名前表記(現代ギリシャ語で)(神田御茶ノ水草子)
→ 馴染みが全くない分野・言語なので勉強になる記事。
→ 私自身は,そういえば総主教(ヴァルソロメオス1世)は言及したことがないので名前を書いたことがない。一方,役職名は「コンスタンティノープル総主教」と書くことが多い。これは単純に世界史上で言及することが多く,現代の総主教には言及することがほとんどない/世界史上だと「コンスタンティノポリス」が一番正しい時期もあってややこしいし,ギリシア語の発音が古代から中世・近現代に切り替わるタイミングも浅学にして知らないから不用意に使えない/高校世界史は通してコンスタンティノープル,という諸々の事情から,英語表記はちょっとなぁと思いつつ現在までこれで通している。別に,強いこだわりや理由があって使っているわけではないので,現役の司祭から要請されている以上,現在の正教会の話題の際は気づいた範囲でコンスタンディヌーポリ総主教にしようかなと思う。  
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2016年03月19日

歴史SLGと歴史学

・研究者の目に歴史ゲームはどのように映っているのか。ドイツで行われた軍事史研究会をレポート(4Gamers)
非常におもしろかったので,これは単体記事で。

午前の最初の歴史研究とゲーム中のデータの関係の話は,まあそうだろうなぁと。ゲームのデータに必要なための研究に新規性は無いことがほとんどだろうから,プロの研究者が調べるインセンティブはあるまい(まさに研究でななく調査である)。バイアスは間違いなくあろうなぁ。パラドはよく調べてると思うけど,それでもHoIシリーズの南米の適当さはまあ,よく知られているところなわけで。あれを調べてくれる研究者の人が開発者やプレイヤーにいたら,確かにそれは幸せな共生関係だろう。

次の発表者の歴史ゲームと歴史像の再生産について。パラドゲーについて言えば,まず,比較的リアルである一方で,ある“歴史観に則ったシミュレーター”には違いなく,「多面的な歴史観がない」という批判はややお門違いな気も。EUシリーズは皆「ヨーロッパがアジアに逆転するカタルシス」とわかっててやっているところがあると思う。また,たとえばEUシリーズでアジアでプレーしてヨーロッパ諸国の進出を防いで繁栄というプレーは可能だけど,大概の場合「歴史上ありえないような」プレイヤーチートによってそれは達成されるわけで,この場合シミュレーターが悪いのか,それともシミュレーターが現実にそっているからこそプレイヤーチートじゃないと脱せないのかという判断は相当に難しいと思う。一方で,どれだけ自覚があってプレーしていても認識が深まるのではという疑いは確かにあり,その点で発表者に同意せざるをえない。

3つめの発表,ゲームによる教育。これは2人目の発表の裏返しで,単純化されたシミュレーターだからこそ,教えさせたい内容を体験させるのには向いていると思う。日本でも東大でこういう研究はあって,大航海時代Onlineを用いた世界史学習という研究を,学部生の時に見かけた。あれどうなったんだろうか。

4つめの発表。ターン制からRTSへという転換は日本でも,というよりもコーエーでもあったわけだけど,ドイツ(というよりも欧州?)から10年くらいずれてたんだなと驚いた。当然だが,私は日本で翻訳があるゲームしか知らないので。

午後の1つめは,それが歴史ゲームデザインの一つのおもしろみではあるというか,日本ならコーエーの三国志はあからさまに史実と正史と演義のいいとこどりだけどそれが良い。というよりも,そういうぶっ飛んでるけどそれっぽい歴史像の描写は,『演義』のおかげで正当化されているとは言えるのかも。
>日本人なら首をかしげざるをえない日本像が海外の“硬派”な歴史ゲームでまかり通っている
 それこそEUシリーズでさえひどいもんだからなぁ。将軍の名前とか。ちょっと調べれば不自然なのはわかるだろうに。

二人目の話は『CK2』と『M2TW』を両方やってないのでパス。三人目の話もあまり関心がないのでパス。
28日の方,FPSはやらないのでパス。スペイン内戦のはそう意外な話ではないかなと。最後の,「『なぜストラテジーゲームにおいて戦争以外の勝利条件が増えてきているのか』について熱い議論が交された」のは確かに興味深い。私もVicだと工業点と威信点でぶっちぎるのが好きだけど。「文化勝利や外交勝利が導入されたのは,2001年以降の増加するテロリズムに対する西側社会のユートピア願望が反映されているのではないか」という指摘は意外と鋭いのでは。戦争するゲームをやっていて矛盾する話だけど,ゲームの中でくらい戦争したくないという。  
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2016年03月16日

非ニコマス系動画紹介 2015.12月下旬〜2016.1月下旬



完結。まさかフルブライト増殖までもがネタではなく伏線だったなんて……これまでのおやつ動画以上に意外な手段のラッシュであった。



現在連載中。ゲス・下ネタ・ぶりっ子コメントという濃いキャラ付け。縛り自体は割りとぬるめというか,子供が成長するまでがしんどそうと思ったが,プレイスキルが非常に高く,あまり苦戦しないまま現在グランバニアへの洞窟である。敵モンスターのドロップアイテムを一々覚えているからすごい。



アメリカのゲームイベントでTASさんがリアルプレイ。ゲームを壊して別のゲームに。



同イベントより。向こうのイベントでもTASさんのお絵かきはオオウケらしい。




嵐くん本当にかわいい。なんだろう,ただのボーイッシュキャラではない乙女らしさがあるんだよなぁ。



うp主の努力がすごすぎる動画。効果音だけでなんとなく映像がわかるんだもんなぁ。



これは名作。古いネタから新しいネタまで,全部ぶち込んだ感じがすばらしい。



昔懐かしのファミマ入店音アレンジ。音楽史が追え,それぞれのそれっぽさがすごい。



いつもの神主のネタ潰し。
  
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2016年03月14日

受験世界史悪問・難問・奇問集 ver.2016 その3(その他)+おまけ「今年の気になった問題集」

その2から。今年のその他はセンター試験と名大だけ。おまけで,解いていて良い意味で気になった問題集をつけた。

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2016年03月13日

受験世界史悪問・難問・奇問集 ver.2016 その2(早稲田大)

昨日の続きで,今日は早稲田大。明日は国立大とおまけです。

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2016年03月12日

受験世界史悪問・難問・奇問集 ver.2016 その1(上智大・慶應大)

今年の分もなんとか書き上がったので,お届けする。


・収録の基準と分類
基準は例年とほぼ同じであるが,新課程になったので用語集の収録語・頻度が大きく変わった。その点は変更がある。

出題ミス:どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能,もしくは複数正解が認められるもの。
悪問:厳格に言えば出題ミスとみなしうる,国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず,作題者の心情を読み取らせるものは,世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問:出題の意図が見えない,ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に,歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問:一応歴史の問題ではあるが,受験世界史の範囲を大きく逸脱し,一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は,「山川の『用語集』に頻度,任發いいらとりあえず記載があるもの」とした。


総評
上智大は,昨年おとなしくなったと評したが,今年についても「さらにおとなしくなった」と評価できる。以前は早慶上智と並べても上智のインパクトがすさまじく,特に日本語の不自由さにかけては圧倒的であったが,ここ2年は確実に改善しており,今年の上智に至ってはもはやGMARCH・関関同立クラスの“悪さ”でしかない。ちなみに同時に難易度も下がっている。難易度の高さと質は必ずしも負の相関関係があるわけではないが,ことマーク式については難易度を上げると悪問が生じやすいという傾向はある。上智大が質を上げるために難易度を下げたのか,難易度を下げた結果として悪問が減ったのかは定かではないが,歓迎できる方向性であるとは言えよう。しかし,2016年は上智大に代わって慶應大がひどかった。昨年から継続して悪化傾向が見られたので,段階的に上智大と中身が入れ替わってるんじゃないかと疑うレベルである。

早慶上智全体を見渡すと,意外にもどの私大もきっちりと新課程対応してきており,「これ旧課程にしか載ってないんですけど」系の難問はほとんど見なかった。むしろ新課程になって新たに収録された細かい用語をバシバシ出題しており,特に二・二八事件とウマイヤ=モスクは“新課程ご祝儀”とでもいわんばかりに散見された。まあどちらも新課程で収録されたのが妥当な重要な歴史用語ではあるが。

ところで,上智大の解答速報から代ゼミが撤退してしまった。これにより大手予備校で上智大を出しているのは東進だけ,中堅予備校を含めても増田塾が増えるだけになってしまった。毎年書いているが,東進は解答に非常にミスが多いため,とてもじゃないが「解答速報」として参照できるレベルではなく(今年も1日程につき2,3問ずつ間違えている),また会員限定である。一方,増田塾は正確だが,解答が出るのが入試日から5日後とすでに「速報」ではない。すでに解答速報は大学入試において一種のインフラと化しており,受験生が確認するのみならず,提携先のマスコミにとっても貴重な情報源であるし(河合塾=日経・駿台=毎日・代ゼミ=読売),各大学は予備校の速報を見て出題ミスを確認している(採点基準の参考にしているという話も聞いたことがある)。経営上の判断ゆえに仕方がないが,上智大へのインフラが細ってしまったのは,やや残念である。


以下,上智大と慶應大。

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2016年03月11日

最近読んだもの・買ったもの

・『ゴールデンカムイ』5巻。辺見和雄の死,シャチの竜田揚げ,子持ち昆布の串揚げ,谷垣と第七師団脱走兵の戦闘,イトウ漁,アシㇼパ出生の秘密へ。
→ 今巻も見事なサバイバルとアイヌグルメと本編の混合具合であった。
→ 辺見和雄については,作者がインタビューで「変態を描きたかった」と言っていて納得した。確かにまごうことなき変態であるw。
→ シャチうまそう……だが,食べる機会はさすがになさそうである。竜田揚げの片栗粉,この時期にカタクリからジャガイモに変わったというのは驚いた。しかし,ここまでは現実にあるアイヌ料理だったのに,ここに来てすごい創作料理が出てきたものだ。そしていいようにアイヌの教えを解釈してシャチを頬張るアシㇼパさんも段々と染まってきているw。まあ,実際辺見和雄はシャチが殺したというよりも,杉元が殺したと考えるべきではあろう。
→ 谷垣が二瓶鉄造の形見の銃で「勃起」と言いながら襲撃者を撃退する。二瓶鉄造が憎めないキャラだったからこそのカタルシスである。上掲のインタビューで「単純に嫌なやつは描かない」「出てくるキャラクターは全員好きになってもらおうと思いながら描いている」と語っているが,なるほど。そして尾形上等兵はなんで死んでないのw。こいつも不死身か。
→ アイヌの男性は初対面で友好の証としてタバコを回し飲みするという風習が紹介されているが,そういえばタバコがアイヌの重要な風習として根付いたのは不思議な話ではあるなと。タバコは新大陸原産で日本に自生しているはずはなく,北海道の気候では育たないから,当然和人から伝わってきた文化であり,根付いた後も和人との交易で手に入れていた。確かに他の嗜好品が少ないとは思われるが,そこまでして手に入れていたものが根付くというのは意外と言えば意外。
→ 今となってはイトウは絶滅危惧種,ニシンも漁獲量が激減している。乱獲恐ろしい。
→ アシㇼパの父はなぜのっぺらぼうになったのか。そしてどうやらロシア領から日本に来ていたらしいが,その辺もまたドラマがありそうだ。


・『アルテ』4巻。ヴェネツィア貴族ユーリ・ファリエル登場,レオの旧友ルザンナの登場,寡婦の持参金返金問題,アルテのヴェネツィア行き。
→ ここまで「女」で「貴族」であることに嫌気が差して家出し,その自立心でここまで来たアルテにとって,それらが理由で出世してしまうのは不本意極まりないわけだ。ただ,延々と出自を否定しているだけでは物語が前に進まないので,ここでこういう話を持ってきたのはいいタイミングだったと思う。また,最終的に名より実を取るのは実に本作らしい。
→ 16話と17話の間にある市庁舎の壁画の話,どう見てもダ・ヴィンチの《アンギアーリの戦い》ですねこれは……『アルテ』が16世紀初頭の話なので,史実に沿えばありうる話である。『アルテ』は全く実在の画家が登場しないのが特徴だったが,実在の画家の存在を匂わせるが確定はさせないギリギリの小ネタとしては非常におもしろかった。もっとも,特別編でラファエロの名前を出しているのだけれど,これも特別編での出来事であるし。
→ アルテさん,半年で帰ってくるって言い張ってるけど,絶対に半年で帰ってこれないフラグだよな……
→ なお,ファリエル家というヴェネツィア貴族は実在する。最も有名なのはヴェネツィア元首まで上り詰めたが,クーデターに失敗して処刑されたマリーノ・ファリエルだろう。英語でさらっと検索しただけだが,ファリエル家は少なくとも18世紀頃までは名門貴族として存続していたようである。ついでに,Hotel Falierというホテルがあるようだが,Falier familyと関係があるのかどうかは一切わからなかった。こうなったら誰かが現地調査だな!(他力本願)


『乙嫁語り』8巻。皆が待ちに待っていたパリヤ編。町の復興,日干しレンガの作り方,ウマルの来訪,
→ パリヤさん,恋する乙女の一心で刺繍が上手くなる。そして48話の初々しいカップルっぷりににやけが止まらない。
→ ウマルくん超有能。この前近代的な状態にあっては,字が書けてそろばんができたら無敵だろう。ところで,本作は登場人物の大半がムスリムと思われるものの,意図的にイスラーム色の強い風習等を避けてきているが,「ウマル」とは非常にムスリムっぽい名前でちょっと驚いた。
→ 敗れたアゼルたちは北の牧草地へ。「体よく対ロシア警備隊にされた」と言っているが,悲劇的なフラグしか見えない。そこまでやるのかなぁ,この漫画。  
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2016年03月07日

子から発するのか否か

・「地上の太陽」実現に一歩前進、熱核融合実験炉「ヴェンデルシュタイン7-X」第1実験成功(ASCII.jp)
→ 実験結果に伍するくらい名前が仰々しいけど,ドイツだから仕方ないね。でも最後についてるXはドイツ語関係なく中二病臭しかしないので,そこまではドイツ語の責任ではない(謎の責任逃れ)
→ 極めてどうでもいいですが,この実験炉があるらしいグライフスヴァルトはバルト海に面する風光明媚な田舎の小都市です。海を挟んだ向かいにあるリューゲン島とともに豊かな自然をお楽しみください,と紹介されることが多い。ハンザ都市であったがその解散後はぱっとせず,三十年戦争で占領されてから1815年のウィーン議定書に至るまで残ってた,ドイツに存在した最後のスウェーデン領だったりもする。
→ ドイツを代表する画家の一人のC.D.フリードリヒの出身地でもあるが,C.D.フリードリヒ観光に行った日本人が,あまりのアピールされてなさに驚いたという話を本で読んだ。今TripAdvisorでいくつかレビューを読んでみたが,今でもやはりそうらしい。フリードリヒの活躍地がドレスデンで,そちらのイメージの方が強いからだろう。とはいえ,私的には将来一度は行っておきたい場所だ。
→ そういう田舎だったから実験炉の場所に選ばれたんだろうか,と思って調べたら,旧東独時代に原発があったようだ(統一後に廃炉)。どちらかというとその影響の方が強そう。


・勢エレベーター賞、上がり下がり38枚/日刊相撲大賞 - 大相撲 : (日刊スポーツ)
→ 「エレベーター」って自分もよく使うんだけど,相撲用語としてそれなりに知られている言葉と言っていいのかな。マスコミで使われているのは初めて見たような。NHKの実況でも聞いたことないし。
→ なお,現象自体はかなりの部分で仕方のないところがある。同じ幕内とはいえ実態は3枚目前後で切れていて別リーグと化しており,「下位リーグでは勝ち越せるが,上位リーグでは大敗する」という力士は42人中どうしても4,5人は出てくる。この現象はデータ上も実証されており,上位リーグの最下層にあたる前頭2・3枚目は周りの番付と比べて明らかに勝率が低い。やや古いものの2010年のデータを張っておく。
・番付別勝率(Yahoo知恵袋)
→ そうして見ると,大砂嵐以外は納得の行く面々で,特に隠岐の海と高安のアップダウンはいかにもエレベーター力士という感じ。大砂嵐はケガがあって擬似的にエレベーターと化してしまったとは言えるだろう。なお,上下リーグの境界線にいるという意味で,エレベーターは必ずしもネガティブな意味しか持たないわけではない。そもそも,ほとんどの力士は幕内の下リーグで安定して勝ち越せないからであり,入ったら惨敗するとはいえ,上リーグに顔を見せられるだけでも,とんでもなく強い力士である証拠と言えるからだ。
→ そういえば,その勢関は初場所は上位リーグの小結で5勝10敗であった。これでも以前に比べると善戦した方で,途中脛のケガのアクシデントが無ければ勝ち越しも見えていた。今年中の脱エレベーターなるか。


・大学入試(英文法)悪問データベース(トップ)
→ 英語(英文法)で自分と同じようなことをやっている人を発見した。英文法も社会科の語句と同じで,研究の現場だとか実社会での用法だとかを無視して,「入試のための何か」になっているところは大きそう。


・聖公会、非カルケドン派の東方諸教会と聖霊の発出などで合意 ニケア信経から「と子」取り除く(クリスチャントゥデイ)
→ これはキリスト教史において非常に重大なニュースだと思う。記事中で挙げられているフィリオクェ問題は,東西教会の分裂を決定的にした教義上の問題で,分裂前のキリスト教会で唱えられていた信条に,カトリック側が勝手に文言「フィリオクェ」を足してしまったことに端を発する。当然,正教会や非カルケドン派諸教会(コプト派等)などはフィリオクェのない信条を使っているし,カトリックとそこから分裂したプロテスタントはフィリオクェのある信条を使っていた(プロテスタントは探せば例外はありそうだけど)。フィリオクェの追加は神学上の擁護はあるものの,“勝手に”足した点ではどうしてもカトリック側の落ち度であり,分裂後も現在に至るまで大きな論争の種になっていた。
→ そのプロテスタントのうち,聖公会(いわゆる英国国教会)が,フィリオクェの削除について非カルケドン派諸教会と合意したという,と書けば重大性が伝わるだろうか。無論のことながらカトリック・プロテスタントと正教会・非カルケドン派諸教会の間にある違いはフィリオクェ問題以外にもたくさんある。また,聖公会がプロテスタントの全てではなく,ルター派やカルヴァン派,その他多くの分派がある。さらに,直接合意に至ったのは非カルケドン派諸教会との間であるから,もう一つのフィリオクェの無い信条を使っている正教会との関係性はどうなるのか等,今後もいろいろ出てくるだろう。しかし,フィリオクェ問題が東西教会を分断する最大の違いとは容易に言えなくなったのは確かである。  
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2016年03月06日

美少女と大理石

ミレイ《いにしえの夢ー浅瀬を渡るイサンブラス卿》文化村のラファエル前派展。何かラファエル前派展は頻繁にある印象だったが,自分のブログをさかのぼると,前にあったのは森ビルで2014年春のことだったので,実はちょうど2年ぶりになる。だとすると,そう頻繁というわけでもないか。今回の展覧会はリヴァプール国立美術館から借りてきたものになる。リヴァプール国立美術館は7つの美術館の総称で,単体のそういう美術館があるわけではない。そのうち3つの美術館から今回の展示物が運ばれてきた。この3つの美術館は民間の富豪がそろえたコレクションを国が買い取って建てられたものだが,他の美術館の中には奴隷博物館もあり,7つともそれぞれがリヴァプールの歴史をよく表している。

今回はかなり豪華なラファエル前派の展覧会で,ミレイの《いにしえの夢ー浅瀬を渡るイサンブラス卿》(今回の画像),《ブラック・ブランズウィッカーズの兵士》,《春(林檎の花咲く頃)》,ジョゼフ・ムーア の《夏の夜》,ウォーターハウス の《デカメロン》等,ラファエル前派の図録に掲載があるような大作がかなり多めに来ていた。今回の個人的な最大の収穫は,アルマ=タデマをまとめて5作品見ることができたことである。アルマ=タデマは大理石の描写に命をかけていた人で,美女と大理石の組合せを得意とした。今回来ていたものも全てそれであるが,やはり見事な大理石の描写である。

しかし,こう並べてラファエル前派をずらっと見てみると,個人個人では「物語重視」だとか「唯美主義」だとかいろいろあるものの,ラファエル前派自体にまとまりは無くて,アンチアカデミー以上の意味は無のだなと改めて思った。印象派もそういうところはあるものの,それでも筆触分割だとか原色主義だとかでまとめられることが多いのは,なんだかんだで中心としてのモネが機能していたのだと思う。ラファエル前派の場合,中心はミレイとロセッティということになると思うが,モネほど第二波の規範になったかというと,どうだろう。

ところで,鑑賞客の大半は女性であった。ラファエル前派は確かに表面上ロマンチックだが,実のところイギリス近代主義の美術における最大の表象ではあり(活躍時期が大英帝国の最盛期と完全に重なる点は大いに関係している),進歩主義とオリエンタリズムと女性蔑視にあふれているところはあるように思うが,気にならないのだろうか。たとえば,ラファエル前派の後期の巨匠ジョン・ポインターの《テラスにて》は,その辺の悪趣味さも含めて個人的には好きな絵だけども,大理石の階段にギリシア風のボーイッシュな少女に透けた服で「無垢」の体現なんていろいろと極北ですわ……本展覧会のタイトルは「英国の夢」であるが,確かにこののぼせっぷりは「夢」と表現するにふさわしいかもしれない。  
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2016年03月05日

猫の目ヤニには注意しよう

・「やせ細った子猫を保護したら元気になってくれた、でも驚きはもう1つあって…もふもふだった!」(らばQ)
→ 成長した姿が非常にモフモフでよろしいんだけど,目に後遺症が残っているのが若干痛ましい。猫が栄養失調になるとまず目ヤニがすごいことになって結膜炎を発症する。だから捨て猫を拾うと目にダメージが蓄積していることが多い。この猫も結膜炎の跡が残ってしまっている。


・研究不正を内部告発した教授らに大学が解雇処分の判断(warbler’s diary)
→ 岡山大学医学部の教授が,研究不正を内部告発したところ,解雇にあったという事件。あの小保方さんの後に研究不正で,内部告発を保護されない,それどころか一方的に解雇,と何重にも問題点が。
→ 言うまでもなく大問題だと思うのだけど,今ひとつ,はてな以外では盛り上がっている様子が無い気が。STAP細胞クラスの何かが無いと,関心が向かないということなんだろうか。大学や研究というもの自体が社会から縁遠いからなぁ。


・日常的なフランス語となっている(らしい)日本語がなんかちょっとおかしい→「ソレどういうことだよ」(Togetter)
→ いろいろおもしろい。まず,Togetter内でも指摘されているが,私もNinjaと言われると真っ先に思い出すのが傑作映画の『TAXi2』である。フランスでマルセイユ警察やフランス軍と日本のヤクザが戦いを繰り広げるが,マルセイユ警察の署長の日本理解がいろいろとアレなせいで,まさに「知らない場所から突然飛び出て攻撃する時に叫ぶ単語となる:「Ninjaaaaa !!」」が見れる。爆笑不可避なんで皆見よう。
→ 「過労死」は英語でも取り入れてたはず。先進各国の言語で通じるのでは。嫌な話だけど。
→ tatamiseの経緯はおもしろい。日本の象徴が柔道であり,畳なのね。ブコメでドイツ語にも"tatamisieren"があるというのを読み,驚いてgoogleドイツ語版で検索してみたが,日本語のページしか引っかからなかったので眉唾かもしれない。さる有名な方の文法の教科書に載っていたそうだが……


・ワタミの過労自死事件の和解の凄さに付きとりあえずの解説((渡辺輝人) - 個人 - Yahoo!ニュース)
→ 絶対にワタミ側が最後まで抵抗すると思っていたので,早期に和解したことも驚きながら,内容も驚きである。もちろん非常にいいことなんだけど,ワタミ側の内部で何があったのか,何の計算があってこういう和解になったのかはやや気になるところ。裁判を続行すればこれ以上の内容で負ける,ということ以外に致命的な何かがないと,こういう和解にはならないと思われる。
→ 「渡邉美樹氏が個人責任を認めた」のは本当に画期的で,認めさせた弁護団はすばらしいのだが,これも今ひとつ世間では報道されていない気が。もったいない。  
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