2016年09月29日

隠居はするが引退はしない

・ガルパン劇場版を北海道植生警察の視点からみる(紺色のひと)
→ “警察”が多岐にわたって存在しているこのご時世に,「・植物などは、北海道の植生をきちんと意識している。」なんて言っちゃう自信がある公式も公式ではあるw。自信通りの正確さのようなので何より。

・ガールズ&パンツァー劇場版を海藻警察の視点から見る(異常感想注意報)
→ と思ったらこんな指摘が。細部まで作り込むことの難しいことよ……


・沼地からバターの塊、2千年前のものと推定 アイルランド(CNN) 
→ バターは保存が効くとはいえ,よく残ってたものだ。すでに数百個見つかっているというのもすごい。それだけ見つかっているということは,やはり保存用というよりも供え物だったのだろう。泥を丹念に落とす必要はあるが,正直食べてみたい。


・なんで日本の歴史は院政とか大御所政治とか引退した人が権力握ってるのどうして?(Togetter)
→ 基本的には後継者の確定方法の一種ではあろう。しかし,「自由に動くために」という目的まで含めるとかなり珍しい慣習では。「日本特有の現象だと思われることの大概は,世界全体を探せばそうでもないことがわかる」中,これは数少ない,なかなか別地域の類例が見つからない事例かもしれない。実母や祖母といった例ならいくらでもあるが,これはまた少し性質の違った話だろう。
→ コメント欄で出ている戦国時代の梁の武霊王・清の乾隆帝・オーストリアのカール5世は退位してから亡くなるまでが短く(梁の武霊王は多分に結果論だが),それほど大御所として自由に振る舞った感じはしない。ディオクレティアヌス帝は引退したというよりも四帝分治を完成させたかったというところだろうし,何より連続していない。やはりいずれも制度や慣習として「現役が可能なうちに隠居して,実権は持つ」という態度ではない。インド・東南アジア・西アジア・アフリカあたりは私も詳しくないので,探せば何か出てくるかも。
→ コメント欄でも指摘されているが,西欧だと,さっさと後継者指名してしまって何かしらの称号を与えてある程度権限を委譲させてしまうというパターンは多々見られるので,後継者の確定という意味ではこれの裏返しではあるのかも。その差異の原因・背景はわからないけども。もっとも,西欧の場合それでしばしば息子の反逆に遭っているのだけれど。
→ 日本の場合,やはり院政という制度が発端・前例となって波及していったような気はする。それ以前ではあまり見られないか。考えてみると,院政の背景にあった外祖父というシステム自体が,父親が実際の権力をもつ構造を規定したような気もする。


・「史上最低のSASUKE」TBSの不手際運営に選手、視聴者から苦情殺到(デイリーニュースオンライン)
→ SASUKEはそれなりに毎回見ているのだけれど,史上最低とは言わずとも,問題があったのは確かかと思う。その時の天候の状態により著しく有利不利があり,不公平感は非常に強かった。視聴者がそう感じたのだから,参加者は尚更そうだったのではないか。せっかく海外でも人気を博していて,本家本元は注目されているのだから,杜撰な運営は勘弁して欲しい。
→ もう一点指摘されている通り,オンエア時に,活躍の大きかったパルクールの選手が不自然なまでにカットされていて,大きな疑問を持った。これは当日のTwitterでも散々指摘されていて,裏しか感じられず,私を含めて不快だった人は多かった。  

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2016年09月28日

大阪出身力士の優勝86年ぶりが一番驚いた

白鵬が初日から不在という中で,優勝は日馬富士だろう,綱取りの稀勢の里がどう対抗するかという下馬評を覆し,優勝したのは豪栄道であった。それも圧巻の内容で,全勝優勝である。本人でさえこうなるとは思っていなかったそうだが,この展開を予想しえた人は極めて少なかろう。

豪栄道の今回の優勝は記録ラッシュであるので,先にそれを示しておこう。まず,日本人自体の優勝は直近で琴奨菊の例があるのでインパクトが無いが,日本人の全勝優勝に限れば,貴乃花以来で20年ぶりとのこと。カド番からの優勝は琴欧州以来で8年ぶり,初優勝が全勝優勝は武蔵丸以来22年ぶり。大阪出身力士の優勝が86年ぶりで,また,カド番からの全勝優勝は史上初とのこと。

豪栄道は必然的に来場所が綱取りとなるが,稀勢の里と比較すると,間違いなく優勝でありしかも全勝であることはプラスである一方,大関昇進以後の成績が極めて不安定である点はマイナスに働く。なにせ,大関昇進後の勝率が.556しかない。横綱に昇進する大関は最低でも.660くらいはあり,というよりも直近の鶴竜の.661と日馬富士の.671がほとんど最低値であって,通常は7割を超えている。これで豪栄道が昇進に成功したら,史上稀に見る「ワンチャンスを掴んだ男たち」が並び立つことになるだろう。豪栄道の昇進基準は,その鶴竜に合わせるなら「14勝で優勝同点,あるいは13勝優勝」が最低ラインで,これ未満は絶対にない。14勝次点(白鵬か日馬富士が全勝優勝)となると,非常に悩ましいが,個人的には緩い条件で初場所に流すというのが妥当判断であるかなと。

あと今場所の特記事項というと,立ち合い手付きの厳格化か。忘れた頃に繰り返されて定着しない試みであったが,今回は比較的上手くいっていると思われる。今場所も行司が止める相撲が多かったものの,以前よりは減っているし,行司ごとに基準がバラバラという理不尽さが以前にはあったが,今場所はそれもかなり統一されていたと思われる。このまま定着したら,今場所はちょっとした時代の転換点になるのかもしれない。


個別評。日馬富士は本当になんで三日目に負けるんでしょうね。そのジンクス以外では,優勝した豪栄道と12日目まで異様に強かった高安にしか負けていないので,十分及第点だろう。豪栄道が普段通りなら13勝ながら優勝となっていた可能性が高く,その意味で下馬評通りの働きだった。ただ,相撲の取り口は少し変わってきていて,2015年の九州で優勝したときにも指摘したのだけれど,以前ほど立ち合いの圧力がなくなってきている。かわって左上手からの寄り・投げは多くなっていて,彼もまた加齢と戦っているのだなぁと改めて思い知らされた。だからこその12勝は価値が高かろう。鶴竜は休場明けで,一応10勝はしているのだけれど,異様なまでに影が薄かった。正直に言って全く印象がない。

大関陣。優勝した豪栄道は相撲振りに大きな変化は無かったものの,ごく単純に耐久力と判断力が上がって的確な相撲を取っていたように思う。普段なら引いて呼び込むところで引かず,前のめって倒れるところで倒れず,首投げにいってすっぽ抜けるところで首にまかなかった。「窮地の首投げ以外に決まりきった必殺技や型がなく,なんでも出来る器用貧乏」が豪栄道の特徴であると思うが,であるがゆえに状況に合わせた技の選択をする判断力は重要で,今場所はそれがよくできていたのではないか。とはいえ,窮地の首投げは良くも悪くも彼の持ち味であり,今場所封印し続けておきながら,最大の難敵日馬富士戦でその首投げが出たのはあまりにもドラマチックな展開で,思わず相撲の神様に感謝してしまった。この判断力が持続すれば,綱は取れると思う。

稀勢の里は今場所あまり不気味に微笑んでいなくて,精神的に落ち着きが足りず,すっかり半年以上前に戻ってしまったように見えた。綱取りは完全に白紙だが,かえって良かったのでは……とか書くと,来場所また13勝して起点になりそう。琴奨菊は可も不可もなく。照ノ富士は七日目の貴ノ岩との相撲で右肘を痛めて,以後はやる気を失っていたように見えた。来場所陥落しないかどうかだけが心配。遠藤は戻ってきたのに,照ノ富士の復活は遠い。

三役。高安は12日目までは異様に強かったが,13日目にスタミナが切れて3連敗を喫したのが非常に手痛い。調子の波の変動が激しい人だが,何とか来場所まで持つか。直近2場所で21勝,来場所は最低12勝必要,可能なら13勝欲しい。基本は押しで,組んだら左四つという取り口自体は今場所よく機能していて,型になりつつあると思う。宝富士は「左四つになったら強い」以上のものがなく,すっかり研究されていて自分の相撲をとらせてもらえなかった。魁聖と栃煌山は特に何も。魁聖は良くも悪くも立ち合いの前に「今日は勝てる(負ける)相手」という判断が強すぎて,ともすれば無気力相撲と見られかねないところがあるのが少し気がかり。まあ,この傾向は旭天鵬にもあった。

前頭上位。隠岐の海は前半覚醒を遂げて上位陣をほとんど倒してしまったが,後半戦は元に戻って取りこぼした。ただ前半戦も「勝ちを拾った」ような相撲が多く,紙一重の勝利が続いただけのようにも。ちなみに,今場所は二度も逆とったりで勝つという隠れた珍現象を起こしている。来場所は返り関脇が濃厚だが,大敗しそうなんだよなぁ。嘉風はよく動く相撲で,負け越していたのが意外。栃ノ心は北の富士が「怪我する前の相撲に戻っちゃったねぇ」と言っていたが,同じ印象で,相撲に工夫が無かった。正代は(御嶽海もそうだが)早くも上位に定着していて,続いて大敗していないのがすごい。上位に定着する力士の傾向として,「前半戦の上位戦で連敗しても相撲が崩れず,後半戦の同格・格下相手の相撲で取りこぼさない」というのがあるが,これに当てはまっている。これは大成するかも。逸ノ城は全休。ただ,番付運で意外と下がらなそう。初場所にはまた前頭の上位にいるのでは。

前頭中盤。玉鷲は衰えないのがすごい。もう31歳(もうすぐ32歳)であるが,むしろ突きの威力は増しているような。千代の国は8勝ながら勝ち越しで,来場所は上位挑戦になりそう。通用はしないだろうが,相撲自体はおもしろそう。勢はてっきり上りエレベーターで勝ち越すと思っていたので,負け越しは意外。いつもの右からの小手投げがあまり機能していなかったようで,どこか痛めているのでは。錦木は正直まだよくわからない。いつの間にか勝ち越していた。佐田の海は8場所振りの勝ち越しおめでとう。呪われているんじゃないかと思っていた。

前頭下位は今場所見どころが多かった。遠藤は今場所だけで判断するなら完全復活で,ここまで長かった。まわしを取って前進し,あとは技巧で何とかしてしまう彼らしい相撲が多く,とても良かった。輝は身体が大きいくせに相撲が小さいという隠岐の海や栃乃若あたりと同じ欠点を抱えていたが,今場所はかなり改善されていて,大きな相撲が見えて光明が差した印象がある。新入幕の千代翔馬はまだ未知数で,来場所に観察したい。同じく新入幕の天風はけっこう重度なアニオタなので応援しているが残念ながら負け越しで,腰高を直さないと幕内で通用しなさそう。他の負け越した力士では,荒鷲はたぐるか左からの投げならば強いが,その状況が作れないとどうしようもない様子で,研究されたか。蒼国来は絶不調で,ほとんど相撲になっていなかった。臥牙丸と徳勝龍も同様で,この三人がこの番付で大きく負け越しているのは意外な結果であった。ただ,十両上位に勝ち越しがほとんどいないという幸運から,幕内陥落は避けられそうな人が多い。


(追記)
場所前に時天空が引退していたので,言及しておく。悪性リンパ腫で入院し,丸1年休場したところで復帰を断念した。半年の休場なら身体を戻せると考えていたが,1年では無理と判断したとのこと。意外なインテリで,東京農業大に留学して来日し,それまで柔道をやっていたところ相撲部に入部,本当は大学卒業後は帰国して普通に就職する予定だったが,相撲の才能が開花し,在学中のまま時津風部屋に入門,大学卒業と同時に十両に昇進するという快挙を成し遂げている(2004年3月)。モンゴル出身で日本の大学の大卒資格を持った関取は,いまだに時天空が唯一である(ただし時天空もその後日本人に帰化)。

上ってきた当初は,旭天鵬とよく似た風貌ながらやや人相が悪かったことから「悪ひとみさん」「黒ひとみさん」というすごいあだ名も付いていた(旭天鵬が曽我ひとみさんと似ていたことに由来しており,あちらは単に「ひとみさん」または「白ひとみさん」だった)。次第に足技の方がクローズアップされていって,あまりこのあだ名で呼ばれなくなっていった。

相撲振りは足技の名手で,けたぐり・裾払い・二枚蹴り・内掛け・外掛けなんでもござれであった。中でもけたぐりと裾払いは実に芸術的で,ここで足を飛ばせば相手は転ぶというタイミングをわかっているかのようであった。生涯で技能賞が1回だけというのが不思議である。突き押し,四つ相撲どちらでも取れ,組む時は右四つ。一方で動きが鈍く,立ち合いからあれよあれよという間に体勢が悪くなって負けてしまうことが多々あった。また,相撲がやたらと長くなる傾向があり,なかなか技を決めにかかれないところがあった。しかもスタミナに優れていたわけではないので,長い相撲が得意だったというわけでもなかった。

最高位は小結。あまり大負け・大勝ちしない,番付が毎場所あまり変動しないという性質を持っていて,最高位は小結ながら長く前頭の中盤で相撲を取っていた。2008年は年間6場所全て負け越し,小結を陥落してから復帰するまでの期間が35場所(歴代2位),十両優勝間隔62場所(歴代1位)という珍妙な記録も持っている。

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2016年09月25日

映画評まとめて(『レゴムービー』他)

エロゲの感想同様に,ここ数年分のまとまった記事にならなかったものをまとめて。

扱っている作品は『ミネハハ』『レッドクリフ』『レゴムービー』『ステキな金縛り』。
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2016年09月24日

関西周辺部領土問題

・中部地方離脱問う条例案、7月にも提出 三重(虚構新聞)
→ この虚構新聞の記事は失敗記事で,マジレスすると,三重県は「東海地方」(あるいは名古屋経済圏)ではあるが,「中部地方」には元から入ってないと思う。要するに関西(近畿)地方・中部地方で括る時は関西地方になり,経済圏で区切るなら大阪経済圏ではなく名古屋経済圏になる,ということなのだろう。もっとも,本当に名古屋経済圏に組み込まれているのは北勢だけのような感覚も。志摩スペイン村からして近鉄資本では。
→ なお,この問題を語る際にめんどくさいのが,静岡県の扱いで,三重県を入れて東海地方を呼ぶ時には入っておらず,逆に静岡県・愛知県・岐阜県を指して東海地方と呼ぶ際には,三重県が入っていないことが多い。三重県・愛知県・岐阜県・静岡県をひっくるめて東海地方を呼ぶ事例は見たことがない気がする。これは,地理的に言えば静岡県を外すのは問題がある一方で,経済的・文化的な区分だと今度は静岡県は特異な存在になってしまうという問題があると思われる。遠江はともかく,駿河・伊豆になると名古屋とのつながりは薄かろう。これは三重県と静岡県に共通する,旧国をいくつか無理やりくっつけて県を作った弊害かもしれない。
→ さらに言えば,福井県も関西だったり北陸だったりするので,そもそも関西と中部の境界が曖昧過ぎるのでは。考えてみると兵庫県もヒョーゴスラヴィアと言われてるくらいだし関西周縁部は全部領土問題が。


・タレント宮地佑紀生容疑者を逮捕 生放送中に蹴った疑い(朝日新聞)
→ その東海圏の人間に衝撃が走った事件がこれで,それこそ宮地佑紀生の知名度で,東海地方の範囲が確定できるのでは,というくらい,東海地方では知名度が高い(逆に言っておそらく東海地方の人間しか知らない)タレントであった。いろいろな情報が流れたが,いまだもって宮地佑紀生がなんで突然キレたのか,よくわかっていないのがちょっと怖い。
→ この一件,他の地方にも同じポジションのタレントが当然いて,「◯◯地方なら誰々」というコメントが多々見られたのが興味深かった。「北海道で言う日高晤郎」「関西でいう浜村淳」らしいのだが,当然私はどちらも知らない。


・京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫(天狼院書店)
→ リストの中で自分も読んでいるのは『グレート・ギャッツビー』『高慢と偏見』『こころ』の3冊だけだったのだが,チョイスの方向性はよくわかる。「こういう人生(あるいは人生観)って,アリなんだ」と思わせられるもので,特異な人物の心理描写に優れたもの,ということだろう。であれば「人生を狂わせる」というリストの目標設定も理解できるところだ。実際,自分の読んだ3冊はどれもおもしろかった。
→ その基準を採用して,自分の読書歴からリストを作ろうとすると,やっぱり『カラマーゾフの兄弟』『アンナ・カレーニナ』『モンテ・クリスト伯』『レ・ミゼラブル』かなぁ。ありきたりですが。一方で,タイトル通り「人生が狂ってしまう」という基準だと,実は1作も挙げられない。小説で直接的に人生観が変わるほど衝撃を受けたことは無い。真に人生が狂った作品というと『ラブひな』と『Kanon』と『シスタープリンセス』(以下自粛)


・昨今の「貧困コンテンツ」ブームが危険な理由(東洋経済オンライン)
→ 初回記事をとりあえず張っておいたが,鈴木大介氏のこのシリーズ,おもしろいのでまとめて読むことを勧めたい。若年層の貧困の問題は当人の怠惰が原因では決してない,ということはよく知られつつあるところだと思うが,では実際に貧困と生い立ちと個々人の人格の相関関係は,というのを詰めていっているのが本シリーズになる。一言で言えば「貧困は連鎖する」「精神障害は貧困の大きな原因である」と言うのは簡単だが,その実相の闇は深い。
→ 毎週モーニングで『ギャングース』を読んでいるが,こういう鈴木さんのルポを読むにつけ,ここから漫画にできる話だけ抽出されてできたのが『ギャングース』であると考えると,その奥にある実話の闇の深さに毎回恐れおののく。  
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2016年09月23日

書評:『ヘンタイ美術館』山田五郎,ダイヤモンド社

山田五郎が12人の画家を取り上げて,それぞれの画家のエピソードをざっくばらんに語っている本である。タイトルの『ヘンタイ美術館』は,最初は山田五郎自身が反対したそうで,実際にそれぞれの画家の変態性には(一部を除いて)焦点が当たっていない。12人の画家は3人ずつに分けられており,以下の通り。

・ルネサンス:ダ=ヴィンチ・ミケランジェロ・ラファエロ
・バロック:カラヴァッジョ・ルーベンス・レンブラント
・古典,ロマン主義,自然主義:アングル・ドラクロワ・クールベ
・印象派:マネ・モネ・ドガ

語られているエピソードは大体有名なものばかりで,全部知っているという人も多かろうと思う。「ヘンタイ」という観点から見ても,ミケランジェロの筋肉フェチ,カラヴァッジョの人格破綻,ルーベンスのデブ専,クールベの「世界の起源」,マネにまつわる昼ドラとか,王道のエピソードである。ただし,山田五郎のまとめ方は上手く,その点で知っていても読み応えはあった。ゆえに,全く知らない状態でも,もちろんおもしろいと思う。逆にラファエロは「別に変態じゃない」で本書で言い切られている通りで,数合わせ感は否めない。一方で,本書の特徴は各画家の変態エピソード紹介だけでなく,意外とまっとうな西洋美術史の歴史をたどった解説になっているというのがある。ラファエロは,そちらのまっとうな意味合いで数えられていると言っても過言ではない。たとえば“ラファエロ前派”はなぜ“ラファエロ”なのか(ダ=ヴィンチでもミケランジェロでもないのか)という点にもきっちり触れられているし,カラヴァッジョのテネブリズムはなぜ偉大なのか,彼がなぜバロックの開祖と呼ばれているのかにも説明がなされている。これは変な「すぐわかる! 西洋美術史」的な概説書よりもよほどわかりやすかろう。

しかし,本書の魅力はやはり山田五郎の語る「ヘンタイ」へのこだわりである。本書のタイトルに「ヘンタイ」を冠するのは,山田五郎は当初反対だったそうだ。実際,ラファエロやレンブラントは別に変態でもなんでもない。しかし,山田五郎に言わせると本書に登場する唯一の真の変態はドガだけだそうで,だからこそタイトルに「ヘンタイ」とつけるのは反対だったそうなのである。最後まで読むとその理由は非常に納得の行くものが用意されており,逆説的に「変態とは一体何なのか」というある種哲学めいた論題に真正面から解答を出している。過去の普遍と変態の狭間にいた画家たちを並べておいて,最後にドガを輝かせるという構成自体が,この解答の論証になっており,その点大変見事で,結果的に「ヘンタイ美術館」というタイトルがしっくり来る。ある意味,本書ほどドガが輝いている美術史概説書は無い。ドガがダ=ヴィンチやモネを差し置いて画家の頂点に立つ美術史概説書は前代未聞ではなかろうか。


ヘンタイ美術館
山田 五郎
ダイヤモンド社
2015-11-28




ところで,私が本書を知ったのはこのアニラジの山田五郎登場回,本人による宣伝である。この回の中でドガの話をしているが,まだ「ドガはなぜ真の変態なのか」の話の核心はしていない。このアニラジ自体とてもおもしろいので是非。というか,これはアニラジじゃないです。アニメの話してるの,6回に1回くらいじゃないか。


  
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2016年09月20日

最近読んだもの・買ったもの・見たもの

・『planetarian〜星の人〜(劇場版)』。
→ 『planetarian』は原作(本編)プレイ済み,ドラマCDも視聴済み。原作の公開は2004年だが,アニメ化は今年である。本編は全4話のネット放映版として先行して公開され,その後にこの劇場版が公開された。
→ がっつり2時間の新作(小説・ドラマCD部分)かと思っていたら,半分以上は過去回想扱いのネット放映版の総集編だったので,拍子抜けではあった。劇場版は圧縮というほどのものではなく,むしろ若干の間延び感のあったネット放映版を上手くまとめていた。これなら別にネット放映版は不要だったのでは,というのが第一の率直な感想である。また,アニメ新作はサブタイトル通り「星の人」部分だけである。確かに屑屋(星の人)の生涯だけを追うなら,本編から直接「星の人」だけにつなげたほうがストレートである。この劇場版だけ見れば,足掛け12年かかった本コンテンツを2時間で大体押さえることができるかと思う。
→ あまり指摘されていないので,ここに書いておく。「星の人」のシェルター内の登場人物は,全て『旧約聖書』の登場人物の名前が付けられている。主人公格の少年はルツ・ヨブ,少女はレビと名付けられているが,なぜかルツが男性で,レビが女性になっている(『旧約』ではレビは男性,ルツは女性)。もっとも,女性の村長のエズラや村人のエレミヤやイザヤも元は男性名なので,あまり気にしてはいないのだろう。どうせなら全て性別をひっくり返すことにして,もう一人の少年もヨブではなくエステルかレアあたりにしておいたほうがおもしろかったのでは。
→ ついでに,チルシスとアマントは,私もよく知らなかったのだが,おそらく最初の引用元は中原中也で,中原自身はおそらくヴェルレーヌから引いていて(チルシスとアマントはフランス語読み),ヴェルレーヌもまたウェルギリウスの『田園詩(農事詩)』から引いているようだ。ここでも性別が入れ替わっており,諸引用元ではチルシスが女性でアマントが男性である。なので,よりヨブの例外がわからない。


・『がっこうぐらし』8巻。大学編,くるみの状況悪化と逃亡,武闘派の蜂起,穏健派を拘束。
→ つなぎの巻で,本筋はそれほど進展していない。単純に武闘派が蜂起して,穏健派が拘束され,それを逃れたくるみが病状を悪化させて逃亡しただけである。あと,るーちゃんがやっぱりぬいぐるみだったというのは,さすがに誰でも予想がついたからか,案外と早く明らかにされた。
→ 武闘派のトップ二人の思想が明らかになった。「非日常への憧れがあり,今の状況をむしろ楽しんでいる」……中二病かな? という茶化しは置いとくとして,高校生組が「非日常の中にも,全力で“日常”を作る」という意識であるから,ちょうど対局である。もっとも,二人のうち男の方は野心家で,非日常の中で自分だけがリーダーシップが取れると信じているだけだから,まだまとも。女の方は完全に理性のタガを外してしまっていて,危険である。最終的にどちらもゾンビに食われそう。


・『ダンジョン飯』3巻。
→ クラーケンはおろか,イカやタコがメジャーな食べ物ではないというのは現実を反映してか。この理屈で言えばマルシルはさしずめイタリアかスペイン出身になるw。そしてクラーケンを仕留めておいてそっちは食べず,ヤツメウナギっぽく見える巨大寄生虫の方を食すというますますもってマルシルへの嫌がらせがひどかったw
→ マルシルのダンジョン探検の目的が明らかに。と同時に,ファリンとのつながりも明らかに。ダンジョン探検自体が目的のライオス・ファリンの兄妹,ダンジョンに住んでいるセンシ,雇われ冒険者のチルチャックやナマリに対して,マルシルは今ひとつ目的不明であった。元仲間ではまだ出てきていない最後の一人,シュローがファリンに惚れていたことがわかったが,であれば彼はなぜ隊を離れたのか。あからさまに登場フラグなので,次巻あたりで明らかになるだろう。
→ 触手地獄回避のため大ガエルの皮をなめして急遽着ることになったが,普通に気持ち悪いw。なんだかんだおだてられて着てしまったあたり,マルシルもだいぶ判断が狂ってきてるのが良い。しかも脱げない。このダンジョンも最深部に来ているのに,この連中はどうなってしまうのか。いやほんとどうすんだこのカエルスーツ……w  
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2016年09月19日

今年はVR元年らしいですよ

・「きのこの山」より「たけのこの里」の方が圧倒的に人気 社員が明かす(ライブドアニュース)
→ きのこ・たけのこ戦争自体にはさして興味がない(どちらの派閥でもない)のだけれど,売上で見るとたけのこの圧勝というのは納得感が強い。チョコを食べたければきのこ,スナックの部分も含めて楽しみたければたけのこということにはなるのだろうが,たけのこの味の方が一般受けは強かろうなと思うので。その意味で,「(たけのこの里の方が)優秀じゃないですか。チョコは少ないのに売れてて」というツッコミは微妙かも。


・小学校でシャーペンが禁止されている理由と、誰が禁止していたのかを調べてみた( ネタりか)
→ 確かにうちの小学校も禁止されていた。小学校は引っ越しの関係でいくつか経験したが,どこでも禁止されていたので地域性ではないらしい。理由は筆圧だった。小学生は筆圧が強かったり弱かったりする子が多いので,強いとポキポキ折れて適さない(&折れた芯が危ない),弱いと薄くて先生が読めないというのは割りと納得できる理由ではあると思う。あと記事中に出てる「分解して遊ぶから」もわかる。小学生の探究心から言って,あのちょっと複雑な構造は絶対に危ない。小学校はよくわからない理由で禁止されてて全く合理的ではないことが時々あるが,シャーペンは合理的と言えるかも。
→ 一方で,都内の小学校教員のコメントはよくわからない。「鉛筆の方が、書体のとめ、はね、はらいがしっかり書けます。シャーペンだと、細さが一定なので。」とは言うものの,書体のとめ・はね・はらいは厳密にこだわる必要がないという教育方針に変わりつつあるし,シャーペンでも実際には細さが一定ではないので,だったら禁止する必要がないのでは……?
→ そういえば,解禁された年代を今ひとつ覚えていないのだが,そもそも自分が鉛筆からシャーペンに切り替えたタイミングも思い出せなかった。多分,中二くらいじゃなかったかな……


・プラチナスターズのやよいの目について(どうていさんのブロマガ)
→ 買ってない身で言うのもなんだけど,実はいまだもってプラチナスターズのアイドルに慣れない。やよいもそうなんだけど,記事中で指摘されている通り,基本的に目が大きすぎるのが原因なのかなと自己分析している。不気味の谷ともまた違うと思うのだけど,なんなんだろうな。


・【VR】嫁イドに会いに行く!HTC Viveで『カスタムメイド3D2 VR』を遊んでみた(モエデジ)
→ VRエロゲの未来感は異常。友人にVRに打ち込んでいる人が何人かいるので,私も『CM3D2』でVR体験したことがあるが(Oculus RiftとHTC Viveの両方),作品内への没入感が半端ない。自分好みにカスタムしたキャラが,本当に目の前にいるのだ。特にHTC Viveは記事中にもあるように歩き回れる。世界がそこに顕現してしまうのである。「完全に実写」ならぬ「俺が虚構」である。もうあの世界から脱出したくないと思うこと請け合い。問題は資金(VR機材とハイスペックPC)とVRをいじれるだけの知識・技能で,私自身はちょっとどっちも無いので,友人たちの進化を最寄りで眺めていようと思う。
→ ところで,この話題はこの間の夏コミの時の飲み会(いわゆるバ会)でも出ていて,その際にVR機材が高価&扱いが難しいだけに,「VR風俗,新しい産業あるな」という結論が出たのだけれど,今から一攫千金狙いたい方,どうでしょうか。


・EU Referendum Results(BBC News)
→ ある人のコメントで気づいたのだけれど,大学町が割りとどこも残留派というのはおもしろいなと。ロンドン市内やマンチェスターといったそもそも大都市である場所とスコットランドは除くと,Oxford,Cambridgeに始まり,Warwick,Exeter,Guildford(Surrey大学),Bath,Bristolとそうそうたる大学町のある地域が残留になっている。他はともかく,Exeterの浮きっぷりがすごい。
→ 今年の6月頃に世界中を大騒ぎさせたBrexitだけど,私の予測では離脱交渉が上手く進まず,そうこうしているうちにイギリスの国内世論的に「あれは一時の気の迷いだった」ということになって,結局元サヤになるのではないかと思っている。現在のところドイツやフランスは「出てくなら出てけば?」という態度だが,元サヤになるなら態度も変わってくるだろう。その意味で,今回の投票は「世界史の教科書に載らない」のではと予測している。
→ あの投票結果は現政権への不満が斜め上の箇所で噴出してしまっただけで,本気で離脱を考えていた人がどの程度いたかは疑問である。あるいは日常に倦んでいて,「離脱した方がおもしろそうだから」と投票したが,離脱派が勝ってしまった結果が出たところで冷静になった,という人も多いのでは。(後者の理屈に則った投票行動はかなりバカにできず,たとえば本邦で憲法改正の国民投票になった際も確実にこういう理由で賛成に回る人は一定数出てくる)。
→ ところで,これにひっかけてうちのブログらしいことを言っておくと,大学入試は時事ネタが好きなので,今年の早慶上智世界史の難問・奇問はイギリス史とヨーロッパ統合史が危ない。確定的なことは言えないけど,おそらく。警戒しておいた方が良かろう。ついでに言うと,実は東大も時事ネタが好き(しかも単純な難問ではなく皮肉や警句を仕込んでくる)ので,まずいないと思うけど,このブログを読んでる受験生がいたら注意しておきましょう。  
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2016年09月15日

私的相撲用語辞典(2)極め・突き押し編

(1)はこちら。二ヶ月(1場所)に一度は更新するはずが,十ヶ月(5場所)ぶりになってしまった。


・たぐり,とったり
前さばきの一種として,相手の差し手を妨害するため,差し手の腕を自らの両手でつかんでしまうことを「たぐり」と呼ぶ。そして,たぐったまま相手の腕を引っ張りこんで投げ飛ばす技を「とったり」と呼ぶ。まあこれも想像してくればわかるが,たぐり・とったりはやられた側のケガを非常に誘発しやすい。ただでさえ腕を引っ張っているところ,投げるためにひねる(ねじる)のだから,筋繊維がボロボロである。力量差があるとそのまま肘が折れる。しかし,たぐるのは高い技術力が必要で,しかもミスると相手に背を向けることになるので,そもそも力量差が無いと決まらないというジレンマ。近年のとったりの名手というと白鵬・魁皇の2人があがる。特に魁皇のとったりは破壊力が強く,不用意に左から差せば右から強烈なとったりが来て,左腕骨折病院直行であった。これが,魁皇が若手クラッシャーと呼ばれた原因であった。ごく最近では荒鷲がこれをよく見せる。

極め・小手投げ
差し手に対抗する手段はもう一つある。相手の差し手を自らの片腕で挟み込んで動きを止める。これを「極める」という。相手のもろ差しを自らの両腕で極めると(これを「抱える」と呼ぶ),差し手が浅くなって攻めづらくなる上に動きが封じられる。外四つに近いが,外四つよりは少しマシな体勢になる。この状態のまま,相手を抱えて寄り切ることを「極め出し」と呼ぶ。もしくは,相手の片腕だけを極めた状態のまま投げ飛ばすことを「小手投げ」と呼ぶ。で,ここまでの説明で感づいた人は相当に鋭いが,「小手投げ」と「とったり」は実際に見てみるとあまり差がない。片手で投げるのが小手投げ,両腕でぶん投げるのがとったり,と区別するくらいしかない。で,技が似ているということは技の性質も似ているということで,小手投げもまたケガ誘発装置である。小手投げを食うとしばしば腕が折れる。得意なのはやはり白鵬・魁皇あたりだったが,これも直近では照ノ富士が最も上手い。というよりも,照ノ富士の極めは規格外で,通常なら極まらない体勢なのに極っていたりする。相手はやりづらかろう。


突き,うわずっぱり
読んで字のごとくである。「突き押し」とひとまとめに括られやすいが,実際には技の性質がかなり異なる。「突き」は相手の胸・肩・喉元めがけて腕を伸ばして平手をぶつける技で,伸ばした腕は引っ込めて“次弾”を装填するわけであるから,どれだけ速射できるかがポイントになる。連発される突きを「回転する」と呼ぶ。突きは上手く回転すると,相手の体勢を崩しつつ距離を取ることができる。すなわち突いて相手を後退させて後背地をつぶし,いつかは土俵の外に放り出すことになる。これを「突き出し」という。

重要なポイントは腕と足の連動性で,どれだけ突いても,突きによって生じた前面に前進しないといつまでたっても相手を土俵の外に出せない。ところが,突きの威力を欠くと,どれだけ突いても前面に距離ができず,その状態で足を踏み出すと当然相手との距離は縮まる。結果的にまわしをとられることになる。突きの得意な力士はまわしをとった四つ相撲が弱い傾向が強いので,これは致命傷になる。結果的に「突いてはいるが,足が出ないのであまり意味が無い」突きが散見されることになる。この有効性を欠いた突きを「うわずっぱり」と呼ぶ。突き押しが得意なように見えて,実はうわずっぱりしかしていない力士は多い。近年では突き押しの第一人者であった千代大海からしてうわずっぱりの傾向はあった。


千代大海スペシャル
力士の体重は重く,足腰がどっしりしている。そのため,どうしても攻撃が上半身に集中する突きだけで相手を土俵の外に飛ばすのは難しく,相当に突きの圧力・回転を要する。イメージに反し,突きとは相撲においてそこまで有効な戦術ではないのである。そこで,突いてそれなりのダメージを蓄積させると,相手もこらえようと前傾姿勢になるので,そこでさっと引いて,後退するか横にずれることで相手を前のめりに倒す,という手段がとられることになる。突きの得意な力士の決まり手を見ると,実際には「引き落とし」や「はたき込み」が多いのはそういう事情による。突きの一辺倒ではなく,「突く」か「引く」かの駆け引きで,勝ち星を稼ぐのである。

その中でも抜群のセンスで,「うわずっぱりからの引き落とし」だけで無数の星を築き上げた大関がいる。千代大海その人である。それゆえに,この「うわずっぱりからの引き落とし」を千代大海スペシャル(CSP)と呼ぶ。全盛期の千代大海のCSPは“ある意味で”本当にすごく,立ち合いの仕切り線から一歩も前進しないまま相手をはたき落としてしまうことも多かった。千代大海引退後は千代大龍がこの技を得意としたため,彼の本名から「明月院スペシャル(MSP)」と呼ばれていたが,千代大龍が最近不調で十両にいること,また千代大龍の取り口が比較的前に出るものが多くなり,あまり引き技を見せなくなったことから,最近ではMSPの言葉も聞かれなくなった。


押し
さて,腕力だけで相手を弾き飛ばそうとする「突き」に対して,上半身を前傾姿勢にして全体重をかけることで相手を後退させる技を押しという。相手を後退させることが主眼である点とまわしをとらない点では確かに突きと共通するものの,違いも大きい。まず突きは相手と距離ができるが,押しはむしろ密着する傾向がある。よって,相手を後退させる圧力は突きよりも押しの方が強い。一方で,相手と密着するわけだから,まわしをとられる危険性もある。相手が自分のまわしをとったなら,ふんばりが効きやすくなるし,逆転の投げをうつ可能性も出てくるので,リスキーである。ゆえに,押しに徹するなら一気の馬力で一瞬で勝負をつけるか,あるいは四つ相撲に移行する覚悟の上で取らなければならない。

それゆえに「押し」を得意とする力士は大きく二種類に分かれる。まず,いわゆる「突き押し」の力士で,「突く」か「押す」かは手段を選ばないが,とにかく自分からは相手のまわしをとらず,相手にも自分のまわしをとらせずに相撲を進める。この種の力士は体重が重くパワーはあるが,四つ相撲がとにかく苦手で,まわしをとられると即死する傾向がある。やはり代表例は曙と千代大海で,特に千代大海は「自分は突き押しなら大関だけど,組んだら序二段級だから」と自嘲していた(なお,このエピソードから千代大海のアダ名は「クンジョニ」であった)。現役(平成28年時点)では,碧山や琴勇輝が該当する。ただし,この二人は「押し」よりも「突き」の人である。もう一方は,場合によっては組んで四つ相撲に移行するタイプの力士になる。このタイプは四つ相撲を苦手としないが,むしろ「突き」の技能は大したことがないことが多い。往年の名力士では武蔵丸が代表格であろう。現役では妙義龍,栃煌山,高安,臥牙丸が該当する。


はず押し
押しのうち,とりわけ相手の懐に入り込んで密着し,両腕を折りたたんだまま相手の脇あたりをぐっと押し込み続ける技を「はず押し(ハズ押し,筈押し)」と呼ぶ。完全に懐に入り込んで密着する必要があるので,この体勢にもって行くまでに苦労するが,人間両脇を押されると一気に上半身が崩れてバランスを失い,後退するしかなくなってしまうので,強烈な技である。また,まわしを取れば「もろ差し」に移行でき,もろ差しが得意な力士ははず押しも得意なことが多い。近年では栃煌山によく見られる取り口。


おっつけ
漢字で書くと「押付」になるが,ほとんど見ない表記で通常はひらがなで書く。外側から相手の肘・上腕めがけて突く・押す技のことで,主な目的は相手の差し手を殺すことである。肘を外側から思い切り押されれば,腕を伸ばすこと自体が困難になり,相手の脇に腕を差し込むどころの話ではなくなる。というか,肘や上腕をピンポイントに強烈に突かれれば,とんでもなく痛くてそれどころではないのも想像に難くないところであろうと思う。おっつけは出来る限り組みたくない突き押しの力士にとっても重要な技ながら,おっつけて相手の差し手を殺してから自分が差せば有利に組んで四つ相撲に持ち込めるので,四つ相撲力士にとっても重要な技になる。

近年でおっつけが得意な力士というと,一も二もなく稀勢の里になる。稀勢の里の左からのおっつけは強烈で,稀勢の里得意の左四つに組む起点になることもあれば,そのまま相手がぶっ倒れて押し倒しで勝負が決まってしまうことも多い。しかしながら,なぜあれだけピンポイントに相手の右肘を殺せるおっつけができるほど器用なのに,他の相撲の技は不器用なのかとか,左からおっつけて左差しに持ち込めば白鵬だって倒せるのに,ガチガチに緊張するとおっつけという技を忘れて全然別の技を繰り出すのかとか,いろいろ疑問も多い。
  
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2016年09月13日

飼い犬猫の話は本当に気が滅入る

・延暦寺で僧侶が暴力(共同通信)
・延暦寺で僧侶が修行僧殴る(共同通信)
→ 上の記事が速報で下の記事が詳報だが,上の記事のタイトルだと字面が完全に中世である。僧兵の強訴かな?
→ 詳報の方を読むと様相がわかるが,「警察には届けていない」という衝撃のオチが。治外法権と考えるとやっぱり中世が生き残っていて,あながちシャレになっていなかった。比叡山延暦寺という閉鎖空間,上下関係の厳しい環境となると,隠蔽しようという欲がわいてきてしまったのだろう。


・アリさんマークの引越社が団体交渉をめぐって嫌がらせ「霞ヶ関」といって埼玉県の「霞ヶ関」を指定、場所だけ通知して日時を通知せず、翌日になってから「前日でした」(プレカリアートユニオン)
→ カイジのアレは漫画だからギャグになるのであってリアルにやったらただの不法行為,を地で行く案件。小学生じみた嫌がらせが目立ってしまって陰に隠れているが,「自ら「権限がない」と明言するカスタマーの社員2人のみが出席」も大概ではある。今までアリさんマークの引越社に思うところは特に無かったが,これからは積極的に使わない&ネガティブキャンペーンをしていこうと思った。


・臣民根性の行き着く果て―「戦時犬猫供出」(読む・考える・書く)
→ 普通にクソの極みのような話なんだけど,かえって人間だけが死ぬ・辛い話よりもストレートに戦時中日本のクソさが伝わって,教育上の効果はあるかもしれない,と思った。上野公園の象の話も合わせて。


・アクエリアスとポカリスエットの違い決定版!成分,浸透圧,代謝まで徹底解説!(レコメンタンク)
→ 前に「ポカリは風邪引いた時,アクエリアスは運動時」と聞いたので,そういうふうに使っていたのだけれど,本質的に大差はないらしい。ただし,一応「ポカリは風邪引いた時(または熱中症),アクエリアスは運動時」でも間違ってはいないようで安心した。
→ 完全に個人の好みで選んでいいのなら,ポカリは甘すぎて常飲するには厳しいので,やっぱりアクエリアスの方が好きかな(MAXコーヒーを常飲していた奴が何を言うというツッコミが聞こえてきたが無視したい)。大塚国際美術館が好きなので,大塚製薬を応援したい気はあるものの。


・フジモリ元大統領に避妊手術を強制された女性たち、ペルー(AFP)
→ 私の世代は日本大使公邸襲撃事件があった時にまだ小学生で,日系人が大統領なんて珍しいなという記憶しかなかったし,その後のフジモリ大統領の経過なんて他のニュースにまぎれて全く気にしていなかった。似たような人は多かろう。あの事件の裏で,国内政策はこんなことになっていたなんて。  
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2016年09月12日

エロゲレビューまとめて(『乙女理論とその周辺』他)

レビューを書こうとして10行くらいにならず,それで1記事にするのもどうかと思って放置していた文章を,あきらめて一斉放出。ネタバレは一応伏せ字にしておいたが,見えてしまったらごめんなさいということで。プレイ期間は2013〜16年頃だが,新作とは限らない。

扱っている作品は『乙女理論とその周辺』,『月に寄りそう乙女の作法2』,『大図書館の羊飼い Dreaming Sheep』,『グリザイア』シリーズ,『ねこぱら』vol1,2。
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2016年09月06日

非ニコマス系動画紹介 2016.6月下旬〜2016.7月上旬




シン・ゴジラのための復習を兼ねて一気見してしまった。軽い語り口で非常に見やすいシリーズ。“ゴジラ以外の”ゴジラ怪獣について延々と解説している。自分の場合は昭和ゴジラ・VSゴジラは好きだったので思い出しながら見てたし,ミレニアムゴジラは知らなかったので勉強になった。




こちらは上記シリーズの『シン・ゴジラ』公開直前特別編。




FF8でこれだけ大きなバグが見つかるのは珍しいかも。何も役に立たないとのことだが……



二期がスタート。グルッペン氏を大阪に置いてしまったら無双してしまうのでは……という危惧はあり。



とうとう52回全滅バグをフルに活かしたTASが完成。恐ろしい記録が生まれてしまった。



これはよくぞやったとしか言えないw



これはすごい。



ガルパン抜きにしても行ってみたい。しかし,熊は怖いな……



上記動画と同作者による。島田千代さん本当かわいいですよね,という話を置いといても,明治の洋館好きなのでここもいつかは行ってみたい。自分も行くとしたらコース料理だろうなぁ。TOTO Museumもちょっと気になる。  
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2016年09月05日

「イッチは野球選手ではなくて関取」

・若冲展に思うこと〜アーティストは霞を食べては生きられないです。(takemura-toyoko’s diary)
→ 大野左紀子さんのこの記事を思い出させる話。「フェルメール・印象派=(すでに死んだ)巨匠の展覧会」「現代アート」「公募展」の受容者はそれぞれ違う星の人で,実はそれほど重なっていないのではないか。これってけっこう世の中の共通認識だと思っていたのだけれど,意外とそうでもないらしい。そして,その垣根を意識しない意見を現代アートの若手アーティストの側から読めたので,この記事は新鮮だった。その上で言うと,違う星の人に期待をかけるのは,あまりお勧めしない,かな。
→ 重箱の隅突きだけど,ゴッホは周知の通り貧窮に苦しんだので例として不適だった気が。若冲も実家の(というより錦市場存続の)危機に際してはかなり奔走してて,言われるほど世捨て人ではなかったという説があり,この説がこの若冲展の図録に載っているというのはちょっと皮肉な話か。


・満員御礼! #相撲クラスタのわけのわからない常識 のまとめ(Togetter)
→ 4年前のTogetterだけど,今でもほとんどが通じる。
→ 「「ひとみさん」は男性」なんてもう本人引退しているのにw
→ 「アーーーーーアーーーーーアーーーーー」とかNHK大相撲中継で初日を何度も見てる人じゃないとわからんだろうw(優勝記念額が国技館に掲示されるときの謎BGM)
→ この4年分の差分を埋めるとすると,本記事タイトルとか,「なぜか注目される稀勢の里のおっぱい」とかだろうか。


・〈創作漫画〉ブロンデェンカの同居人/マーシャのこと(pixiv)
→ これは名作歴史漫画と言っていいだろう。
→ かなり細かい描写が入っていて,読み応えがある。たとえば,マーシャがウクライナ出身であるため地名などの表記がウクライナ語に沿っている(キエフ→キーイウ)。最後の最後にマーシャがつけていたバッジは,コムソモール(ロシア共産党の青年組織)の初期のもの等。


・膨大なブコメ資産が失われた問題(増田)
→ これはWikipediaがhttpからhttpsに変わった時に思った。デマ判定とか補足情報とかを確認する際に,一番手っ取り早い方法がブコメの確認だったりして,しかも古いページほどブコメが蓄積されていて役立っていた。それが失われるのは,はてなユーザーにとっては大きな損失であると思う。運営として対応する気はあるようなので,是非とも頑張って欲しい。  
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2016年09月04日

最近読んだもの・買ったもの

・『アルテ』5巻。ヴェネツィア到着,カタリーナの家庭教師に。
→ ムスリムも黒人も普通にいるという。ムスリムが全部「オスマン」という表記になってて,ちょっと嬉しい。黒人は奴隷だけど,当時のヴェネツィアだと黒人奴隷はそう多くないはず。無理して出さんでもよかったかなと思わんでもない。
→ 商業貴族のユーリさんが明の白磁を持って「なんとかこちらで再現できないかと試行錯誤しているが」と言っているが,残念ながらそれが実現するのは200年後,しかもドイツです。その頃のヴェネツィアはかなり斜陽。
→ この時代のヴェネツィアも作中の商人が「スペイン船団がまた大量に胡椒を持ち帰ったそうじゃないか」「ヴェネツィアの胡椒が大暴落するに違いない」「いやいやそんな簡単には……」と話し合っている通り,うろたえている状態だったりする。ということは少なくともマゼランの世界周航よりは後代になるので,これまで16世紀初頭とぼかされていた本作の時代設定は大体1522年以降というのが明確になった。となると初頭じゃなくて「前半」と言った方が正しい気も。ちなみに,実際には意外にも3人目の商人の言う通りで,16世紀前半だと,まだスペイン・ポルトガルが持ってくる香辛料の量が安定せず,まだまだヴェネツィアの東方貿易が香辛料貿易の主体の時代がしばらく続いたりする。50年後くらいからさすがに傾き出すが,本作にはほとんど無関係な話だろう。
→ アルテさんの服装がヴェネツィア風に。胸元がかなり空いているのが実にルネサンス期のヴェネツィアっぽい。フィレンツェの女性からするとかなり恥ずかしく感じるはずだけど,案外アルテさんが動じてない。
→ 問題児カタリーナお嬢様はお料理好きで,それが貴族の娘としてはふさわしくないから本邸では縮こまっていたと。アルテさんをラディカルにしたような感じだが,彼女がそうなってしまった原因は次巻に持ち越し。


・『U.Q.HOLDER』11巻。ラブコメ編終わり,「ともなり」の解説,時間停止能力の発覚。
→ ザジさんのセリフ数,下手したらすでに『ネギま!』を超えたのではw
→ 本作は『ネギま!』の最終巻で辿り着いた世界線とは全く別の世界線というのがこれで完全に確定したかな。あちらの世界線では,ネギくん一行は「ともなり」を解決した挙句,ナギくんを殺さずに取り戻したということになる。しかもアスナさん(白の魔法)が封印されているのはどちらの世界線も同じなので,どうしたんだろう? そしてこちらの世界線は,あちらの世界線に比べると実に悲惨極まりない。どうしてこうなった。
→ あと,こうなってくるとむしろナギが止める90年前までの「始まりの魔法使い」は何してたのかが気になる。ずっと世界を滅ぼそうとしてたならとっくの昔に成就できてそうな。
→ ところで突然雑誌移動が告知され,13巻収録分以降は月刊の「別冊少年マガジン」連載分になるようだ。週刊少年マガジンは毎週買って読んでいるけど,さすがに『U.Q.HOLDER』以外読むものがない雑誌までは追えない……というわけで,私も13巻以降は単行本組になります。連載再開自体も10月とのことで,かなり長い期間『U.Q.HOLDER』に触れないことになりそう。


・『火ノ丸相撲』10巻。名古屋合宿編。100円玉の修行,日景典馬との一戦。
→ 駿海さんは非常にジャンプ漫画の王道的な,「奇矯な名伯楽爺」であった。その駿海は現在71歳の元横綱,優勝11回,得意技は突っぱりと右四つ,豪放磊落,協会は退職済となると,ほぼほぼ現実の北の富士がモデルだろう。何より横綱を二人育てている(千代の富士・北勝海)が決定的。もっとも千代の富士は北の富士が部屋を継承した時点で幕内力士にはなっていたので,一から育てたわけではないが。四つの左右が違う点と容姿が全く異なる点がアレンジか。名前は「北」→「駿(駿河)」,「富士」→「海」という反転という説を2chのスレで読んで,これが今のところ一番納得している。
→ 火ノ丸VS典馬をここで消化したのはもったいない気もしつつ,この漫画生き急いでるからな……  
Posted by dg_law at 04:33Comments(0)TrackBack(0)