うだうだ書かずにいたら一ヶ月経ってしまったが,先月の中旬に二泊三日で栃木県の方に旅行に行ったので,報告を簡潔に。
・龍王峡
ご覧の通り,典型的な美しい峡谷である。龍王峡の場合は火山から噴出した火成岩が水流によって削られてできた峡谷だが,厳密に言うと岩の種類によって岩肌の色や削られ方が異なり,3つのゾーンで少しずつ異なった景観を見せている。おそらくほとんどの人がイメージする龍王峡は最も手前にある「白竜峡」で,いわゆる「主な見どころ」的なスポットも大多数がここにある。
名前の通り,そしてご覧の通り,岩肌は真っ白に近く,岩はかなり柔らかいようで水流によってゴリゴリに削られており,奇岩,あるいは
「山水画によくあるやつ」と言っていいような形の岩がゴロゴロしていた。岩がもろいせいか亀裂が多数入っていて皴法にしか見えず,松の木も無理やり生えるのに成功しており,これらがまた山水画っぽさを助長している。岩肌の白さと,透明度の高い緑色のコントラストがすばらしく,その意味では水墨画というよりも青緑山水画,端的に言って真っ先に思い出したのは
川合玉堂の絵であった。まあ,あれは多摩川上流なのだが。自分の感想はそんな感じだったのだが,
同行者が「どう見ても少年漫画で修行する場所」とか言い出し,そう言われるともうそうとしか見えなくなった。あー間違いないわー,ここで飛天御剣流の修行してそうだわー。岩の亀裂も必殺技の修行の跡ですね間違いない。
白竜峡のゾーンを過ぎると次に来るのが「青龍峡」で,看板を超えるとすぐに岩肌の色ががらっと変わるのでおもしろい。そして確かに青い。またこの辺の岩は水に触れた部分は赤茶けていた。明らかに岩の成分ごと違う。
また,岩が若干硬いのか,こちらは
剣撃で割れたような亀裂が岩に入っておらず,切り立った崖になっていることもあって,これはこれで「ザ・渓谷」という様相に。この白竜峡と青龍峡の境目までがスタート地点から大体30分ちょっとで,ここで折り返すとジャスト1時間ほどで帰ってこれるちょうどいいハイキングコースになる。個人的には青龍峡も越えて次の「紫龍峡」まで見てみたかったのだが,諸事情により行程が遅れ気味だったのと,同行者が歩く気なさそうだったので,ここで引き返した。ついでに言うと,狭義の龍王峡はその紫龍峡までになるが,ハイキングコースとしてはまだ先が存在していて,最後まで歩くと片道3時間コースになる。ゴール地点はちょうど川治湯元になるので,温泉もあるし東武鉄道も通っている。がっつりハイキングしたい人はフルで歩いて温泉に入って帰るとちょうど良さそうである……というよりも,思っていたよりも良い場所だったので,ここはそのフルコースで歩くべく,来年の夏か秋の早々にリベンジしたい。
・加仁湯
今回の旅行が栃木県になった決定打。ここは鬼怒川温泉ではなく,奥日光でもなく,奥鬼怒温泉である。ここ以外にも奥鬼怒温泉の宿はいくつかあるが,数は4つと多くない。その中では加仁湯は有名な部類らしく,若干矛盾のある表現になるが「有名な秘湯」である。ということで奥鬼怒温泉まで行ったわけだが,
驚くべきことに,途中で公道が無くなる。つまり一般車では途中までしかたどり着けない。もっともこの公道もかなりすごかった。しっかり舗装されていたのでその意味ではまともな道だったが,むしろよくこんなところを舗装したなと思うようなうねりの効いた山道である。で,舗装が途切れたと思ったら「一般車通行禁止」の看板と大きな駐車場が見えてくる。ここで降りろということだ。
そこから先は温泉宿が出しているバスに乗るか,ハイキングで行けということになる。逆に言ってバスが無かったら強制的に歩いて行くしかない。幸いにも17時頃に「これが最後」というバスに滑り込みで乗れたので歩きは避けられた。実のところ距離はそんなになく,楽勝で歩ける距離(加仁湯のHPには1時間半ほどと書いてある)だが,歩くとしたら日中昼間しかダメだろう。日没しかけの17時からここを登山したくない。
1.車道と歩道の区別がない上に狭く,公道ではないので交通量は極めて少ないものの,夜中にすれ違ったらまず避けられない
2.落石がむちゃくちゃ多いらしく,ガードレールが全てひん曲がっていて全く機能していない
3.滑落したら間違いなく死ぬ
画像は帰路に撮ったものだが,ガードレールはマジで大体ずっとこんな感じ。そういう意味ではバスでも割りとスリルがあって楽しかったです(震え声)。バスの運転は安全運転で問題なかったけども,そういう問題じゃない。これは龍王峡をガチハイキングしてバスを逃していたら我々は大変なことになっていたのでは。日本で東京から半日で来れる場所にまだこんな場所があったんやな……という新たな発見であった。一応,加仁湯や八丁の湯で検索してみると,やはり午前中に上って温泉宿で温泉につかり,昼飯を食べて下山というハイキングと温泉を複合した楽しみ方をしている人が多かった。良い休日の過ごし方だと思う。
温泉は濁り湯で,泉質は大変良い。ただし,温泉の温度は一切湯もみせず垂れ流し状態であり,湯船によって全く温度が違うので要注意。いくつかの湯船は明らかに人間の入っていい温度ではなかった。お夕飯は一般的な旅館の夕食という感じで可も不可もない。山奥らしさはイワナに,栃木県らしさはかんぴょうに現れていたかな,というくらい。まあ,ご飯で売っている旅館ではないので。施設は超絶ボロいことを想定していったが,思っていたよりも新しくて快適だった。ネットのレビューを見ると中にはやはり「ひどい」としているものもあり,部屋によるのかもしれない。
・日光湯元〜戦場ヶ原〜中禅寺湖〜華厳の滝〜いろは坂〜日光
二日目はこれらを一気に観光したのだけれど,意外とそんなに見どころがなかった。日光湯元はよく知らなかったのだけれど,ここは完全に「登山の前日にひとっ風呂」というベースである。男体山や白根山に登らないなら用事は無いと思われる。戦場ヶ原は地質学的にはおもしろいらしいのだが,全く知らないで見るとただの湿原であった。雨が降っててとんでもなく寒かったのでさっさと撤退した。中禅寺湖も一応湖畔をドライブして旧イタリア大使館別荘記念館だけ寄った。悪くない建物ではあるが,このくらいの洋館なら日本全国にあると思う。華厳の滝はさすがにすごかったが,最寄りまで行けるエレベーターのお値段が異様に高くて萎えた(乗らなかった)。
そうそう,高いと言えば,日光東照宮も建て替えで資金不足という事情はわかるのだけれど,一般1300円はさすがに高すぎると思う。それも建て替え中で,三猿・眠り猫・陽明門が全部見られなかったのに値下げなく1300円とられたので,正直印象は悪い。あまりに腹が立ったので一銭も賽銭を入れなかった。
「これもう真田丸は豊臣方を応援するしかねーわ」とは同行者の弁である。
唯一楽しかったのはいろは坂で,同行者の一人が『イニシャルD』のファンで,前日に皆で該当回を鑑賞していたので,聖地巡礼に否応にもテンションは上がる。特に“仕掛けるのはこの先の”で有名な33コーナー。サントラを聞きながら駆け抜けた(法定速度は守っていました)。
実際ここでジャンプはできないよな。でも真似しようとしたバカはやっぱりいたようで,明らかにガードレールにぶつかった跡とかタイヤ痕が。聖地巡礼以外の話もしておくと,秋のいろは坂といえば紅葉と渋滞が名物だが,ピークから時期が1・2週間ほどずれていたせいか,むしろ我々以外の車をあまり見かけなかった。じゃあ完全に散っていたかというと,半分ほどは残っていて,かえってゆったりと楽しめた。意外とピーク明けなら穴場なのかもしれない。
写真は明智平から撮ったもの。こうして見るとやっぱりすごいヘアピンカーブ。
あとは霧降高原に行って,同行者が持ってきたドローンを飛ばして遊んでいた。
高原とドローンは相性が良いかも。まず間違いなく飛行禁止区域になっていないので(一応事前に調べましょう),自由に飛ばせるし,ドローンは上空500mくらいまで飛べるので,最大まで飛ばせばかなりいい風景を見ることができる。バッテリーが重く,持って登るのがしんどいのだけが難点。本体は軽いのだが。
雲海が非常に綺麗でした。この動画だと1分過ぎから。
・明治の館
今回最大の掘り出し物。日光市内でお夕飯を探していて発見したのが
明治の館。日本コロムビアの前身となった会社を創設し,日本に初めて蓄音機を紹介したアメリカの貿易商F.W.ホーンが建てた建物で,格調高いクラシカルなジョージアン様式。日本の明治・大正時代の洋館というとどうしてもお雇い外国人コンドルの血が入っていることが多いが,全く別の様式であるのでかえって珍しい。コンドルの建築に見慣れた人からすると,全く明治時代の建築物がそのまま残っているとは思えないだろう。さすがにレストランとして再活用する上で多少直したようだが,それを加味しても保存状態は極めて良く,こんなに知名度が低いのは驚きである。もっと建物を宣伝しよう(提案)。
歴史好きからすると最大の衝撃だったのは,
東京大空襲の後(1945年4月)に外相・重光葵が疎開したのがこの建物で,その約5ヶ月後に,この建物からミズーリ号に向かったということ。普通に史跡なんですが,むしろなんでレストランなんですかね。お料理の方は普通に美味いというくらい。ワインの種類はけっこう豊富。お値段はワインを入れても4・5千円というくらいだが,栃木牛のステーキだけは別格に値段が高いので,注文の際は注意すること。
19時30分と閉店が意外と早いのが最大の注意点かも。