・ウクライナ戦争をめぐって(塩川伸明)
→ ロシア史の専門家,塩川先生による3/14時点での様々な情勢分析,背景解説。非常に有用でその価値は8ヶ月経っても失われておらず,関連する議論はここをベースに始めたいところ。
・ウクライナでの戦争の結末は 5つのシナリオ(BBC)
→ 開戦直後の結末予測。開戦劈頭でロシアがキーウを強襲したが,陥落させられなかったことで戦争は第二段階に突入した。この記事が書かれたのはまだその開戦劈頭の時期である。シナリオ1は完全に破綻した。シナリオ4も破綻したと言っていい。ウクライナはクリミアの奪還まで和平しないと主張しており,しかもはったりではなさそうである。中国が仲介しようがトルコが仲介しようが,ウクライナは聞く耳を持つまい。仮にウクライナが2022年2月の段階まで領土を奪還したとして,そこで西側諸国の支援がどう変わるか次第なところはあろう。そこでアメリカが支援の削減と和平交渉の強制を示唆したならば,ウクライナも外交的決着を考えざるを得ないかもしれない。
→ 現状はまさにシナリオ2になっている。思われていたよりもウクライナ軍が精強であるので,このまま領土奪還戦がうまく続けば2023年中の終戦はありうるかもしれない。シナリオ3はプーチン政権が本気で戦術核を打ったら,一挙にこうなる可能性はあるが,そこまで確率は高くなかろう。シナリオ5は長期戦の果てにそうなる可能性は否定できないが,現状では期待できない。やはり一番ありうるのは数年かかってウクライナが2014年以前の領土を全て奪還し,ロシアは多大な国際的威信と経済力を喪失したがプーチン政権は健在,というあたりではないか。
・「マック」も「シャネル」もないロシアに備えるモスクワ市民たちの悲哀(Courrier)
→ ロシアに対して早々に始まった経済制裁に対する直後の反応。半年以上経過しても当初の予想通り,経済制裁はロシアの兵器不足に対してはよく機能しているものの,外貨獲得の制限や,市民生活の圧迫によるプーチン政権の転覆といった目的にはほとんど機能していないように見える。石油輸出などはすっかり抜け道ができてしまっているし,一つ上の記事へのコメントでも少し書いたが,生活水準が低下してもプーチン政権が打倒される様子は無い。1905年なり1917年なりとは状況が違う。政府側の国民掌握技術が格段に上がっている。食糧危機くらいの状況までいけば状況は似てくるが,中国やインドがロシアをそこまで追い詰めることはしないだろうし,そこに至るとしても数年単位はかかるだろう。政府高官のクーデタなり第三次ロシア革命なりを促すのは,結果的に最も丸く収まるやり方ではあれ,早期決着のシナリオとしてそれに期待するのは西側諸国の見通しが甘すぎたのではないか。
・ロシアの攻勢と新世界の到来 (2022/02/26): 侵略成功時のロシアの予定稿 全訳(山形浩生の「経済のトリセツ」)
→ 何という大仰な世界観・歴史観であることか。どちらがナチスなのか。もちろん多分にプロパガンダではあるのだが,一方でプーチンの思想がおかしくなったことは研究者や各国首脳などの多方面から聞こえてくる話であって(特にフランス大統領のマクロンがここ数年でプーチンが変わってしまったことを嘆いていたのが印象的だった),プーチンとしてはかなり本気度の高い主張なのかもしれない。加えてもって,ウクライナのNATO加盟問題が発端であったはずなのに,この少し後にウクライナがNATO加盟断念を持ち出してもロシアが和平交渉を突っぱねたことを見ても,もはやNATOの加盟問題はどこかに飛んでいってしまった感がある。人類,21世紀になってもまだ民族観で大戦争をする。
・「ポーランドに侵攻も」 駐日大使が危機感(産経新聞)
→ 今回の戦争の開戦直前・直後で意外だったのは西欧諸国が非常に暢気だったことだ。本当にウクライナが短期的に大敗していた場合,リヴィウまでロシアの勢力が出張ってくることになる。となると次にロシアが掲げるのは東側陣営の再建であり,ポーランドやバルト三国は全く他人事ではない。上掲のような主張もおおっぴらに出されていたのである。冷戦の再開待ったなしであり,しかも今回は中国とロシアが仲違いしてくれそうにない。こんなのは火の小さいうちに火消しするしかなく,犠牲になるウクライナはかわいそうだが,キエフ以東で戦火が収まっているうちはまだ破滅的な状況にはならない。ここで西側諸国が本腰を入れてウクライナを支援すればロシアはかえって戦線を拡大させようとし,自分たちが巻き込まれるのではないか等という懸念で日和るのは約80年前の宥和政策となんら変わらない……ということくらい西欧諸国の首脳はわかっていると思っていたが,当のドイツが一番わかっていなかった。少しショックであった。