2023年06月15日

歴史ネタを不用意にブクマできない……

・日本の城跡から見つかった謎の地下室 ユダヤ教の沐浴施設の可能性(朝日新聞)
・南蛮人の技術者(南蛮の華―岡美穂子の研究ブログ―)
→ 本件,私も全然深く考えずに「ほえー,そういうこともあるのか」と思って備忘録的にブクマしたのだが,すぐに専門家から指摘が入っていることに気づいた。ついでに新聞記事に登場する歴史家本人も「そうだと言っていない」とまで出てくるようでは,郷土史家の主張は信憑性が薄いし,面白いからということでそれに乗っかって報道してしまった朝日新聞にも責任はあろう。岡美穂子先生は厄介事になることを危惧されたか,本件の直後に書かれたいくつかの関連記事を削除しているが,消された記事の内容を思い出すに,その推測もやむを得ないように思われる。プロの歴史家と郷土史家の距離感の取り方は難しい。


・ソフトウェアの日本語文字が中華フォントに侵食されていて想像以上の危機らしい「違和感すごい」(Togetter)
→ わかる。あまり話題になっているのを見かけなかったので,皆気にしていたのだとわかって安心した。そしてTogetterを読んで,どうやらどうにもならないらしいこともわかってしまい,つらい。
→ コメント欄にあるが「侵略とは思わないが、インターネット老人会的には中華系運営の詐欺サイトの怪しい日本語が中華フォントで書かれてるイメージが強すぎて、見た時点で頭が自動的に警戒モードに入るから疲れてしょうがない」はあるあるで,繁体字なり簡体字なりで書かれていても中国語ならどうってことはないが,日本語だと怪しい業者にしか見えなくなってしまって内容が頭に入ってこないという問題も副次的には発生する。


・『エセ著作権事件簿』補稿―#KuToo 事件最高裁上告棄却を受けて(ブログブログ by 友利昴)
→ 『絶対に解けない受験世界史』シリーズと同じパブリブから出版された『エセ著作権事件簿』は名前の通り,世の中に存在する著作権絡みのアホな事件や世間的に話題になった事件を集めたもの。「(『絶対に解けない受験世界史』と)なんとなく世界観,問題意識が似ている様な」とは編集者の濱崎さんの言葉で,私も同意である。アホな事件に登場する原告が無理筋の主張が笑える一方で,普通に著作権の勉強になる事件もあって,めちゃくちゃ面白いので興味ある人はぜひ読んでみてほしい。


→ その中でも特に目を引くページは#KuToo事件であろう。その最高裁上告の結果は出版日の都合で書籍に入り切らなかったので,こうしてブログで補足される形になった。原告の主張の無理さ具合は書籍内の本稿に。最初から敗訴濃厚だったことに同意しつつも,「エセ著作権事件の中では「エセ度」は低く、問題意識は分かるけれどもといったところ」というのは冷静なまとめ方だと思う。また「著作権意識をいささか持っている人は、「引用」の概念は知っているが、引用の許容性を狭く捉える傾向があると思う」という問題意識は『エセ著作権事件簿』全体でも貫かれていて,未読の人はこれを念頭に置いて読むとより理解しやすいと思われる。


・1979-2022年 共通1次 → センター試験 → 共通テスト 終わりなき難化の果てに完成した戦慄の集大成(難易度比較完全版)(受験の月)
→ これは良い比較。2022年共通テストの数学はどう考えてもやりすぎで,もう普通の高校生に解かせる気が全くない。一つ前のセンター試験末期でも十分長い。なお,2023年の数学Aは明確に易しくなって,平均点が約38点から約56点まで回復した。
→ ここからもわかるように,共通テストは各科目とも特殊になりすぎていて,全大学共通の一次試験としては不適格になりつつある。私大では募集の上で不利になるため共通テスト利用をやめて離脱することを検討するところも出始めていると聞く。やっぱり今からでもセンター試験に戻すことを検討できないですかね……撤退も勇気だと思うんですよね。  

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2023年06月13日

細長く飛び出ているのはよく見るが,ちぎれそうな区画は珍しい

・エリザベス女王死去 世界から追悼の声相次ぐ【詳しく】(NHK)
→ 2022年9月8日に死去。ルイ14世の記録を抜くと思っていたし,記録を更新してほしかったなと。ルイ14世は幼少期に即位しているアドバンテージがあり,現代医療のアドバンテージでは覆せなかった。
→ エリザベス2世の在位中に政権を握った首相は計14人に登る。最初の首相が(二度目の)チャーチルで,この時にイギリスは核保有国となった。その後はイーデン政権の第二次中東戦争,マクミラン政権のEFTA創設・「アフリカの年」,ウィルソン政権のスエズ以東撤兵,ヒース政権のEC加盟,サッチャー政権の新自由主義制作・フォークランド紛争・冷戦終結,ブレア政権の香港返還・ベルファスト合意・イラク戦争,キャメロン政権以降のBrexit……と遭遇した歴史的事件を並べるだけでも,その治世の長さも濃さもうかがいしれよう。最後の首相はリズ・トラスとなったわけだが,まさかチャールズ3世の即位式までに辞任するとは。女王の同じ名前の女性が最後の首相という偶然は面白かったのだが。
・植民地支配の歴史、アフリカでエリザベス女王の遺産に影(CNN)
→  昭和天皇も当てはまるところがあるが,在位年の長い立憲君主はこういう「統治の雰囲気」の変化の扱いが難しい。1950年代当時にはすでに植民地帝国は過去の遺物と化していたが,まだ消滅したわけではなかったから,当然こういう話が出てくる。「君臨すれども統治せず」であって当時の彼女に閲兵を拒否できたかは疑わしく,それが将来的な汚点になることがわかっていてもやらざるをえなかった。その後もナイジェリア内戦への干渉もそうだが,とはいえやられた側は覚えているし,彼らにとってはイギリス=エリザベス女王なのだ。そこにいかに責任が無かろうとも,一人の人物に長期間に渡って国家を代表させることの20世紀以降の世界における困難さを最も体現した立憲君主だったという評価もまたエリザベス女王には適切かもしれない。適当に年数を区切って元首を交代させる権力を持たない大統領制はこの点で言えば賢い。


・日本一ちぎれそうな町、長野県立科町のいちばんちぎれそうな場所に行く(デイリーポータルZ)
→ 一昨年の秋に蓼科山に登ったときに,蓼科山を覆っていそうな市町村名なのにそうでもない,どころか異常な縦長で,事情が気になっていた。藩領の段階ですでに細長く,山の尾根線に沿って開発が進み,周囲の同様に細長かった自治体は合併していったが立科町だけ細長いまま残ったと。昭和の大合併前の北佐久郡の地図がなかなかすごい。これを見ると逆に立科町はよく合併しなかったもので,調べてみるとやはり佐久市との合併案はあったようだ。なお,名前の漢字の違いは「当用漢字に「蓼」の字がないことと、蓼科山は古代立科山と呼ばれていたことから「立科村」に異議なく決定されました」とのことである。
→ 途中で突然「鳴石」なる謎の巨石が登場するあたりがものすごく長野県っぽい。茅野駅のアレのインパクトが強すぎてね……


・Google画像検索で千束(せんぞく)が千束(ちさと)に侵食されるまで(まだへいき!)
→ 定番のネタではあるのだが,ある方のブコメにもある通り,こういう記録を残しておくのは大事。個人的には意外と地名が粘ってたんだなという感想。地名の方が復権するのは何年後になるか。
→ 名字の「錦木」の方は植物が元ネタで同名の関取がいるが,70%くらいが関取という様相で,こちらは関取が侵略者か。錦木千束さんは30番目くらいでやっと登場した。作中であまり名字で呼ばれなかったことが敗因かもしれない。関取がけっこう検索されていて強いのかもしれないが。錦木は32歳でベテラン力士ではあるがまだまだ引退しそうにないし,逆に『リコリコ』は次の展開が遠そうなので,こちらも検索結果は当面このままになりそう。  
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2023年06月12日

ニコ動・YouTubeの動画紹介 2023.4月上旬〜2023.4月下旬



こんなの爆笑するしかないでしょwwwwww





part1に説明があるが,倒した数が加算されない倒し方は敵自身の行動・石化・死の宣告・毒・ゾンビ状態のリジェネ・ダメージがえし・あんこくバグのみ。ステータス異常に耐性があるボスが多く,ダメージがえしが手に入るのは最終盤という中,あんこくバグという効率が悪すぎる戦法に頼って攻略を進めていくことになる……むしろ,あんこくバグの必須条件である行動スキップが設定されている敵が意外と多いことに驚いた。





作曲・編曲が高瀬一矢で驚いた。



mobiusP。上半期20選選出。周年曲をやってくれるのは嬉しい。



どぼすP。上半期20選選出。こういう再現系好き。



ooo GGG氏。上半期20選選出。反応があまりにもChatGPTのそれで大好き。ChatGPTは空気を読んでこちらの求めている(が理屈は成り立っていない)文章を無理やり生成するのが割りと得意なんだよな。




めちゃくちゃ笑った。気づかないもんなんだなぁこれw


佐藤天彦九段の話が面白すぎた。この人の解説をあまり聞いたことがなかったが,普段とテンション違いすぎないか。藤井聡太のモノマネが秀逸。



すっかり映画の感想を書いていないが,お祭り映画で良い映画だった。で,テンション上げてくれるこの曲よ。  
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2023年06月08日

全土が標高1,400mを超えているらしい>レソト

・パキスタン、洪水死者1100人超 国土の3分の1水没(AFP)
・パキスタンの「洪水」ここまで深刻にした真犯人(東洋経済)
→ パキスタンは北部の山岳地帯を除くと概ね乾燥地帯に属する気候であり,外来河川のインダス川から水を得ている。こうした地域は元来,干ばつと洪水が繰り返されやすく,大洪水は2010年にも起きている。国土の三分の一が水没したというのは大げさではないのだろう。おまけに政治が不安定で官僚が腐敗しているのではどうしようもない。
→ すでに10ヶ月近く経っているが,続報が今ひとつ無く,調べてみたらまだ水が引いていないどころか,洪水による水質汚染のせいで疫病が蔓延しているとのことだった。東洋経済が引いているNewYorkTimesの記事には「再建には10年かかる」とあるが,10年後には別の洪水が発生しているのではという危惧が……


・ゴルバチョフ氏死去 91歳 旧ソビエト元大統領 冷戦終結に導く(NHK)
→ 長生きした人ではあるが,まさかゴルバチョフが生きているうちにロシアがウクライナに対する侵略戦争を始めるとは思わなかった。20世紀末以降は歴史の展開が速すぎる。これでとうとう1980年代のキャラの濃い先進国・大国の首脳(レーガン,サッチャー,ミッテラン,コール,中曽根康弘,小平)は皆亡くなってしまった。
→ 冷戦を終結させ,米ソ(露)の核軍縮の道筋を具体化し,東欧革命と東西ドイツ統一を容認したという点で間違いなく現代史の偉人の一人であった。これらに隠れがちだが,珍宝島事件を最終的に解決して中ソ国境を画定させたのも偉業の一つである(中国外務省報道官のコメントを拾ってきているNHKはよくわかっている)。一方でペレストロイカの軟着陸に失敗してソ連を急速に崩壊させてしまった点は,誰がやっても困難極まりなかったということを含めても評価が難しい。ソ連の解体というハードランディングがプーチン政権を生んだのもまた事実であろう。
→ ソ連崩壊後は,ロシア国内では評価が低いものの国外では民主化を訴える人物として評価が高いご意見番というポジションであったが,実は2014年のクリミア併合においてゴルバチョフはプーチン政権を支持しており,今回の侵略戦争についてもコメントの歯切れが悪い。以下の東野先生のTweetを参照のこと。まあ,ソ連解体が彼にとって不本意な結果であったこと,彼も根はロシアのナショナリストであろうことから考えると不思議なことではない。



・アフリカの高地でマス養殖 日本にも輸出(CNN)
→ 2015年の記事。調べてみると現在でも輸出好調で,現在でもレソトから日本への輸出品では1位を占めている。もっとも輸出額総額自体が0.81億円(日本国外務省HPから)なので,日本が消費するニジマスの総量からすると大した金額ではない。日本からの輸出は8.97億円なので大幅な日本の出超。おまけに無償資金協力が3.74億円なので,これだけで輸入金額を超えている。レソト自身の経済規模からしても,全世界への輸出総額が10.52億米ドルなので,そもそも日本との経済交流自体が少額である。南アフリカに囲まれている地理的条件なので輸出入ともに南アフリカが突出している。
→ それでもこういう日本人からするとマイナーな国と経済的なつながりを見いだせるのは面白いところで,高地で気候が安定しているがゆえにレソトが選ばれたのだとか。ダム湖を使っているというのも調べていて面白かった。一つ心配なのはそのニジマスどこから持ってきた? ということで,日本の商社が持ち込んだものではなく,もとからレソトにいたやつならよいのだが。  
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2023年06月06日

語感もすばらしい>ナイスセーヌ

・海に沈みゆく巨大都市ジャカルタ、首都移転で人々はどうなる?(ナショナルジオグラフィック)
→ 首都移転は人口過密だけが理由だと思っていたが,地盤沈下の方が理由として重そうな様子である。とはいえ地下水の組み上げを無対策では悪化する一方で,人口過密とは無関係ではない。また,バタヴィアの頃から洪水が頻発していたのは知らなかった。海岸に47kmの壁を作っているところは,完成前から一時しのぎと見られている天まで含めていかにも新興国的な解決方法だが,その状況では首都移転を計画するのも当然と言えよう。
→ 新首都ヌサンタラはカリマンタン島の東部で,インドネシアも洪水の他に火山や地震等の自然災害が多い国であるから,比較的災害の少ない場所を選んだとのこと。高校世界史の観点から言えばインドネシア史はほぼジャワ島とスマトラ島(とモルッカ諸島)しか登場しないから,これで初めてカリマンタン島が登場することになるかもしれない。どこまで建設が進んでいるのか気になってググってみたが,まだまだ更地だった。2024年中の遷都に向けて急ピッチで建設するのだろうか。
→ なお,最近勘違いしている人に会ったので一応書いておくと,マレーシア側の呼称がボルネオ島でインドネシア側のカリマンタン島である。日本の教育課程では,冷戦中にはマレーシア・インドネシアとの関係性から(特にインドネシアは九・三〇事件後に突然西側陣営に入ったため)どちらの呼称を優先するか切り替わっていたという話を効いたことがあるし,現行課程でも併記するとしても優先するか意外と混乱している印象である。理由を知らない人からすると,政治的立場による呼称の違いではなく,学術的な理由等による呼称変更のように見えてしまっても,やむを得ないかもしれない。以下の帝国書院の説明がわかりやすい。
・カリマンタン島とボルネオ島、2つの名前があるのはなぜですか。(帝国書院)


・“若者のお酒離れ”に若者たちが本音回答「おじさんもフラペチーノ飲まないでしょ?」(マネーポストWEB)
→ 過去に二度ほど扱っているが,「酔っ払って思考力が落ちると、ゲームや読書など、したいことができなくなってしまう」というのは自分も常飲の習慣が無い理由として過去一しっくり来る。酒にしかない味や面白さがあるので飲酒自体は好きだけども,その後の活動に支障をきたすことを考えると,今日はもう酒を飲んで終わりという覚悟が無いと楽しめない娯楽になってしまっていて自由度が低い。ついでに言うと最近は安酒に与える余分な肝臓は無いよなとかいうことも考え始めてしまったので,ますます娯楽としてのハードルが高いなと。
→ 「若者の酒離れ」は若年層ほど飲酒率が低いから間違いではないのだろうが,酒の消費量のピークが1992年でそこからほぼ一貫して下がっている。長期的にずっと続いているという意味では「日本社会の酒離れ」と言った方が正しそう。


・食べたことのある珍しい食材を教えて(増田)
→ ブコメ欄を見ると,多種多様な食べ物が挙がっていて驚いた。ダチョウ・ワニ・ウサギ・ウツボ・蜂程度では全然勝てない。カバ,トナカイ,アザラシ,アルマジロ,アルパカあたりはうらやましい。『桐谷さん ちょっそれ食うんすか!?』を追っている身としてはもう少しいろいろ食べてみたいが,なかなか機会がない。


・RTA in Japanインタビュー ゲームのクリア時間を競う「学会とオフ会のような晴れ舞台」(KAI-YOU)
→ RTA in Japanは,RTAよりTAS派の私でさえ見るようになってしまったので,視聴者への訴求能力が非常に高く,継続的なイベントとして成功しているように思う。応募が多数ある中で,メジャーなゲームなら盛り上がりそうなレギュレーションや最近革新的な攻略法が見つかったものを選ぶのは当然として,マイナーなゲームでも紹介次第で盛り上がりそうなものを選ぶセンスが良い。RTAは試行回数を重ねた方が良い記録が出やすいから一発撮りのRTA in Japanでは記録狙いというよりもお祭り騒ぎであり新たな戦友の勧誘の場であり,「学会とオフ会のような晴れ舞台」という表現が非常にしっくり来る(もちろん,そういう環境なのでテンションが上がって良い記録を出す走者もいるが)。面白い発表をして盛り上がったゲームが勝ちなのだ。その上で走者が増えればなおのこと良いのだろう。記事中にある通り,チャリティーイベントにしたのも英断で,このために余計に緩いお祭りに徹することができているという側面はありそう。
・【ナイスセーヌ!】RTA in Japan Summer 2022で「Paris Chase」を走った振り返りと裏話(kamia,note)
→ 2022年夏のRTA in Japanで盛り上がったゲームの一つといえばこれで,実際に非常に面白かった。「ナイスセーヌ」はRTA in Japanの中ですっかり定着した言葉になった……どころかTwitterで検索すると毎日誰かしらが「ナイスセーヌ」と言っているので,インターネットミームとして定着した感すらある。。それだけインパクトのある走りであったし,これは間違いなく盛り上がると考えて応募から拾った運営は慧眼である。未視聴の方は是非。  
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2023年06月04日

栃ノ心引退に寄せて

栃ノ心ことレヴァン・ゴルガゼはジョージア(サカルトヴェロ,グルジア)の出身で,レスリング経験者が多い欧州勢の中では珍しく,柔道を出自とする。1987年生まれ,2004年から相撲を始め,春日野部屋に入門,2006年3月の初土俵から急激に番付を駆け上がり,2008年初場所で新十両,同年五月場所で新入幕となった。黒海以来二人目のジョージア出身の関取である(なお,栃ノ心はジョージアの呼称を気に入っていて大使館が呼称の変更を呼びかけるより前からジョージアを使用しているとのこと。本記事はそれに沿う)。ヨーロッパ人らしい力強さがあり,柔道ベースであるがゆえに相撲への順応も早かったため,大いに期待された。一方,不器用で身体が固くてばたつくところは琴欧州によく似ており,右四つにならないと相撲にならないと多くの弱点が露呈し始め,前頭をエレベーターすることが続いた。

そうして時間が経つうちに,2010年に春日野親方から素行不良を咎められてゴルフクラブで殴られた事件が発覚した。2023年現在であれば協会から懲戒されるのは春日野親方の方であるが(当時もゴルフクラブは無いだろうと春日野親方を批判する声がファンからは上がってはいた),当の栃ノ心本人が被害届を出さず,世間にも春日野親方を批判しないよう世間にお願いするにいたって事態は終息した。以後,むしろ栃ノ心は春日野親方からまわしを譲ってもらって身につけるなど親密になり,不思議な師弟である。2013年名古屋場所には徳勝龍戦で右膝の靭帯を損傷して休場,さらに3場所全休となった。この時の映像は協会が公開しているが,よくある下がって土俵から転げ落ちてのケガではなく,四つ相撲でこの取組自体は栃ノ心が寄り切りで勝っている。大ケガを負う相撲には見えず,勝った直後に栃ノ心が顔を歪めて一人では立てなくなったのだから,徳勝龍も驚いたことだろう。

再出発は2014年の大阪場所,幕下55枚目からとなったが,右膝の大ケガ以外も治し,身体を作り直す良い機会となったか,急速に番付を戻した。昔の角界は「ケガは稽古しながら直す」と言われ,比較的短期間で場所に戻らされていたが,ちょうど栃ノ心くらいから長期休場で一度関取の地位を失ってでも完全に直してから復帰した方がいいという風潮が広がり始めた。栃ノ心はその最初期の成功例と言ってよく,この後に照ノ富士が続く。とはいえ再出発後もエレベーターが長く続き,このまま終わるかに思われた矢先の2018年に突如として覚醒し,まず初場所に前頭3枚目の平幕で14勝の優勝。翌春場所は10勝,五月場所は13勝し,起点の場所が平幕であったものの3場所計37勝で大関取りに成功した。ヨーロッパ人としては琴欧州(ブルガリア)・把瑠都(エストニア)に続く3人目の大関である。この頃になるといきなり右四つにいくことをやめて,不格好ながら威力のある突きである程度崩してから組むようになり,これがよく効いた。左四つでも相撲がとれるようになり,本筋の右四つも力強さを増していた。

しかし栃ノ心の全盛期はこの2018年の前半で,大関として初めて土俵に上がった名古屋場所でいきなり右足親指を痛めて途中休場,次の秋場所はなんとかカド番を脱出したが,2019年初場所は右太ももが肉離れを起こして途中休場,その後も大関としては低空飛行となり,一度関脇で10勝して復帰したが,結局は累計5場所で陥落となった。特に古傷の右膝が再び悪化していて,一度下がると引き技をうつ間もなく土俵を割るしかなかったから,どうしようもなかったかもしれない。

それでも前頭中盤で,上手く右四つになれた時にはよくパワーを発揮して若手の壁となり,ベテラン力士の一人として長く地位を保った。衰えない膂力は驚嘆すべきものであった。負け越しても7勝か6勝というようにゆっくりと番付を下げつつも粘って3年続け,2023年の初場所に左肩を脱臼して休場,とうとう力尽きた。五月場所に十両の地位のまま引退した。


取り口は右四つ主体の四つ相撲であり,投げるよりは寄りで勝つ相撲が多かった。右下手よりも左上手が基盤になっており,左上手を取りさえすれば上位で通用する相撲になった。恐ろしい怪力であり,相手の体重が200kgを超えていようが大関だろうがつり上げて崩した。また前述の通り,不器用な力士であったが,2018年の全盛期にはそれを克服し,左四つでも相撲をとったり,突き押しでもある程度相撲になり,突いて崩してからの右四つが必勝パターンになった。一方で右四つになれば無双できたわけではなく,同じパワータイプである把瑠都には1勝12敗,照ノ富士には2勝11敗,何より白鵬には1勝27敗(唯一の勝利は大関取りの場所)といいようにやられている。前さばきが上手いわけでもなく,稀勢の里や琴奨菊には差し負けての左四つで,それぞれ9勝17敗・11勝25敗と大きく負け越している。豪栄道にも組んでもらえず10勝19敗。その不器用さゆえに右四つになれなかったり,なっても投げで打開されたりといったところが大関で定着できず,相撲人生の大半がエレベーター力士にとどまった理由かもしれない。むしろこれだけ苦手な力士が多くても大関にはなったのだから,得意にしていた力士も多いということで,合口の良し悪しの強い力士だったとも言えよう。引退後は未定とのこと。さしあたっては臥牙丸のYouTubeチャンネルに出演してほしいところ。お疲れ様でした。  
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