2023年07月25日

3関脇大関取りと新入幕活躍の場所

3関脇の大関取りが場所を引っ張り,北勝富士と錦木と,伯桜鵬ら新入幕がそれを追い,充実した土俵で非常に面白い場所であった。欲を言えば霧島・貴景勝・照ノ富士のうちの一人ぐらいは完走・勝ち越ししてほしかったと思うが,こればっかりは仕方あるまい。

3関脇は大栄翔が11勝,豊昇龍・若元春は12勝必要という条件で始まった。本命視されていたのは11勝で良く,ここまでの実績もある大栄翔であった。しかし,突き押しの相撲は連勝も連敗も多いから一度躓くと立て直しが難しい。また出足で一気に押すスタイルであるので,スタミナが無いわけではないが一度受け止められると脆く,二の矢の無いまま止まり,まわしを触られると引いてしまい,あるいは引かれて前のめりに倒れてしまう。この弱点を突かれて終盤負けが込み,十四日目の阿武咲戦では立ち合い変化して評価を落とした。挙げ句千秋楽でも同じ押し相撲の隆の勝相手に前のめりに倒れて9勝で終戦した。押し相撲の大関取りの難しさを体現する形になった。若元春は遅咲きながら急成長し,左四つの型と驚異的な粘り腰を武器に安定していた。しかしこちらは遅咲きゆえの経験不足に泣き,緊張で体が動かなくなっていったのが見て取れた。対照的だったのが豊昇龍で,3人では最も若い24歳ながら上位に定着してから長く,いくつかの失敗もありながら,ここぞという時の精神の安定,闘志の奮い立たせ方を身に着けていた。十二日目に北勝富士に負けた時にはまずいかと思われたが,そこからの立て直し方が素晴らしかった。相撲の型が無いとは言われるが叔父譲りの技巧派ということで良いのではないかと思う。優勝と大関取りの両取りに成功した。

それ以外では新入幕の3人が全員10勝以上と好成績を挙げた。最近は新入幕がすぐに活躍することが目立つが,全員10勝以上という場所はさすがに珍しい。先場所十両優勝の豪ノ山は伯桜鵬よりも活躍する可能性があるという意見もあり,実際に良い押し相撲を見せていた。しかし,研究されると脆いかもしれない。伯桜鵬は11勝であわや新入幕優勝というところまで行った。遠藤並に技術が伸びることが見込まれ,あの体格なのによく足技がとぶところも魅力的である。遠藤はパワー不足に泣いてエレベーター化しているうちにケガがあり,上位に定着できなかった。伯桜鵬は逆にパワーがすでにかなりある一方で左肩にケガがある。左肩が治るか否かに全てがかかっている。湘南乃海は前2者に比べると有望視されていなかったが,目立たないうちに白星を重ねていた。3人の中では最も体格が良く,突き押し,四つのいずれでも取れ,押し込まれても冷静に組み止めたりかわしたりできている。右上手投げや右小手投げが強力で武器になっている。一方で大柄な力士にありがちな,細かく動かれると脆いという弱点がある。いずれも今後が楽しみだ。


個別評。照ノ富士は途中休場となった。三日目に翔猿のユルフンに付き合って相撲をとったのが原因で,適当なところでまわしを離していた方が膝がもったかもしれない。残念である。霧馬山改め霧島は初日から休場で驚いたが,直前になって右肋骨のケガとのことだった。四日目から照ノ富士と入れ替わりで出場した。日ごとに相撲の出来が異なったのはケガのゆえか。6−7−2となんとも言えない成績で終戦。負け越すなら全休でも良かったと思われる反面,大栄翔と若元春に勝っており,特に大栄翔はこの敗戦で調子を落としていったから,大関取りの関門としての役割は果たしている。来場所のカド番脱出は心配無いだろう。

3関脇はすでに語ってしまったので省略。小結,琴ノ若は11勝で,若元春と大栄翔の大関取りが降り出しに戻ったのとは対象的に出発の場所となった。脇の甘い弱点があったが,今場所は差し勝って右四つか左四つになる場面が多く,ある程度克服できている。現在の上位では照ノ富士に次ぐ上半身のパワーと重量があるのが魅力で,大関取りは十分に射程圏内だろう。阿炎は悪くない出来であったが,周囲の調子が良すぎて負け越した。連敗するのは突き押しの宿命か。

前頭上位。錦木は2018年の下半期以来3年ぶりの覚醒で,元より膂力は角界随一で特に投げが強く,特に初日に照ノ富士をすくい投げで投げ飛ばしたのは荒れる今場所の開幕として象徴的であった。優勝もありうるかなと思ったが,若元春と同様に,年齢を重ねたベテラン力士であっても優勝争いのプレッシャーは平等に襲ってくる。終盤見るからに体が固かったのは仕方がないことだろう。翔猿は三日目の照ノ富士戦と十三日目の宇良戦のユルフンの印象が非常に悪い。これまでまわしは固く締めている人という印象だったが,今場所は緩めてきたのだろうか。御嶽海は膝のケガあまりにも悪く星が伸びずに3勝に終わったが,不思議と精神面は悪くなく,普段に比べて粘りがあったように見えた。何か思うところがあったのだろうか。朝乃山は途中休場を挟んで勝ち越した。やはり力はある。しかし,右四つ得意ながら形が整わないうちに攻め込んで自滅する,右四つになれずに焦って前のめりになるという弱点は解消されていない。明生は当人が8勝のぎりぎりの勝ち越しながら,上位に同部屋がいるという点で豊昇龍の支えになっていたと思われる。優勝直後に豊昇龍がハグを求めに行っていて,慕われているのだなと。翠富士は研究されていて動きを読まれている感じがした。肩透かしにいけた場面が一度もなかった。4勝と惨敗であるが,霧島と北青鵬から白星があり,勝った相撲は印象が良い。同じく平戸海も5勝にとどまったが,勝った相撲は左前まわしの良い位置を引いていいようにとっていた相撲であり,印象深い。

前頭中盤。北青鵬は研究されて6勝にとどまり,(肩越しの)右上手だけでは耐えられなくなってきた。ただし師匠の白鵬は負けて覚える相撲の精神であえてそのままにしているという話もあり,実際に負けが込んだ今場所を踏まえて,来場所は相撲を変えてくるかもしれない。王鵬はもろに力負けしていて,まだ前頭中盤の家賃が重い感じ。北勝富士は相撲ぶりは大して変わっておらず,立ち合い当たった直後に左右どちらかにずれて相手の勢いを殺し,斜め横からおっつけて押し込む。突きはうたない反面で四つの体勢になってもある程度相撲になる。今場所はこの独自のスタイルが上手くはまって連勝が伸びた。老け顔で年齢不詳なところはあるがまだ31歳,もう一度や二度の優勝争いが会っても不思議ではない。

前頭下位。新入幕の3人はすでに書いたので省略。竜電と遠藤は大勝ちしているが,この番付なら当たり前の地力だろう。武将山は再入幕であったが,なかなか幕内に定着できずに苦しんでいる。よく聞くように,やはり立ち合いの速さや圧力が違うのだろうか。宝富士と碧山はこのところ苦しんでいたベテラン勢だが,今場所は9勝で復調の気配が見えた。それぞれ左腕を使った攻めと突いてからのはたきという得意技がよく出ていたように思われる。


千代の国が引退した。比較的大柄な体格に似合わないアクロバティックな動きで,宇良や翔猿とはまた違ったサーカス相撲であった。その取り口からチヨスランドのあだ名があり,ネットでは人気があった。しかしやはり体格と取り口が合わず,ケガが多くて大成できなかったのが悔やまれる。好角家には印象に残る力士だったと言える。石浦が引退した。小兵が多い白鵬の内弟子の一人で,小兵ながらに真っ向ぶつかっていく押し相撲と,小兵らしく潜って中に入る相撲を使い分けていて,立ち合いから相手を翻弄した。それができるだけの押す力があったということであったが,やはり身体への影響はあり,ケガが増えていっての引退となった。両名ともお疲れ様でした。
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2023年07月22日

ニコ動・YouTubeの動画紹介 2023.6月上旬〜2023.7月上旬

長く定期更新してきたこのシリーズですが,追いついてしまったので今後は不定期になります。





未知の惑星への不時着から始まり,通信局を作って外界と交信して脱出するまでのシミュレーションゲーム。Rim Worldっぽいが,惑星に人類が墜落者以外にいない,鉱石の採掘ができない(動植物由来以外のアイテム入手に対する制限が強い),脱出が一人ずつしかできないので最後の脱出者に対する準備がいるあたりは独自性が高い。



たいたぬさん。ウクライナに存在した世界最大の貨物機を飛ばす。MSFSだからかもしれないが意外と軽やかに動く。



つくちゃんらしい選曲。歌がうまくなったなぁ。


こちらは同じ事務所ライヴラリ(ゆにクリエイト)の新人,無月めもりさん。声の音域が広くて上手い。


全体的に名前だけ知ってて見たことがない映画が多かった。6作全部見ているゆにちゃんは映画マニアの面目躍如だし,ちゃんと多くの禁忌事項に触れている映画を選んできためもりちゃんの選球眼も良い。



普段はドブから虫やザリガニを取ってきて食べているほもさぴさんだが,彼が一番光るのは野草から無理やりまともっぽい食事を作るセンスではないかと思う。そういうわけでこの辺が好き。


『Dr.STONE』の追試。こういうのは面白い。やってみると作れないことがわかり,漫画の嘘が判明する。漫画監修のくられ氏がわかっていて通したのかが気になるところ。  
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2023年07月18日

登山関連の話題を3つ(うち2つはロープウェー)

・星野リゾートが谷川岳ロープウェーを買収 山のブランド力向上し内外へ発信(上毛新聞)
→ これは意外なところに。あの星野リゾートが,あの新幹線に見捨てられた地域を再開発するのかと意外に思って調べてみたら,星野リゾートの社長はバックカントリーが趣味で,「1年に60日はスキーを滑るようにしている」という非常にキャラの濃いスキーマニアだった。星野リゾートは典型的なリゾート地以外だといくつかのスキー場を持っていて,この人の代になってからスキー場を買収・再建する形で勢力を広げている。この方面では本気度がうかがえる。
→ 谷川岳は無雪期の登山としては大人気の山ながらスキー場としてはすっかり越後湯沢等に客をとられているイメージで,再開発のしがいはあるのかもしれない。とはいえ現状では星野リゾートのイメージにあわない谷川岳,これから開発が大変だろうなと思っていたら,こんなことをつぶやいていた。この他に「雪山プロジェクトになると経営判断の精度が落ちる傾向にあります。」「それで利益が出ればそれで良いし、出ない時には楽しく安全にパウダーを滑るで良しとします。」等とつぶやいており,やっぱりこれ,半ば趣味で買ったのでは。

→ ところで自分が谷川岳に登ったのは2022年の10月15日で(その時の記録はこれ),このニュースが発表されたのが10/13だから,かなりタイムリーだった。下山後に泊まった宿で友人たちと本件について調べていて,星野リゾートの社長のキャラの濃さに大爆笑していた記憶がある。また,星野リゾートが再開発を始める前のぎりぎりのタイミングで行っておけてよかったなとも思う。これで新旧の比較がしやすい。


・「心のよりどころ」信仰の岩にハーケン、落書き…山梨の神社困惑(毎日新聞)
→ 落書きとハーケンは論外として。また,現在の信徒の意向に合わせるべきというのも前提として。その上で言えば,日本の伝統的な修験道から言えば神聖な岩盤は,その上を修業の場とすべしということになっていて,そこ建てた庵が懸造建築の起源になっている。なお,こうした考えが生じたのは仏教が入ってきてからで,それ以前の原始的な神道では山全体を禁足地としていて人間が立ち入るものではなかったとされている。なお,いずれにしてもピークハントは日本人の関心ではなく,あくまで重要なのは奇岩や巨岩であった。こうした発想から言えば,神聖な奇岩であるから登るなというのは日本古来の宗教観らしくない気もする。ただし,ピークハント・征服感のために登るのは本旨ではないし,安全が保証できず責任がとれないから登るな,という話であれば理解はできる。
→ 私が金峰山に登ったのは2018年の秋だが(その記録がこれ),この時にはそういう話は全く出てきておらず,多くの人はよじ登っていた(私は技術に自信が無かったので登らなかった)。特に注意書きも無かったように思った。2021年7月に登らないでほしいとする看板を設置したとあるので,ここ2年ほどで禁止を強調する流れになったのだろう。
→ なお,五丈岩は本当に巨大で,他の山梨県の山の山頂から見るとそれを実感する。地図で金峰山の方角を割り出してそちらを眺めると,五丈岩が見えて金峰山が特定できるのだ。山頂の岩で特定できる山は珍しい。


・どうなる?「御岳ロープウェイ」 噴火・コロナ禍…財政悪化で運営会社撤退へ 「観光の柱」町が存続模索(長野放送)
→ 私は御嶽山も登っているのだが(まだブログに記事を書いていない),その際にはもちろんこのロープウェーを使っている。記事中にある通り,なくなるとコースタイムが2時間増えて6時間から8時間になるので難易度が上がってしまう。それでも御嶽山なら人は来るだろうから,ある程度は杞憂だと思うのだが,マイナスには違いないだろう。
・2023年の運行は6月20日から。御嶽山のロープウェイの新事業者が決定(山と渓谷オンライン)
→ こちらが続報で,無事に新事業者が(3年契約ながら)決まっていた。ただ,御嶽山を登った経験から言えば,御嶽山登山で真に大変なのはロープウェーの駅に行くまでで,また古くからの信仰の山の割には正直コンテンツに乏しい。長野県は他にいくらでもコンテンツがあるので,御嶽山登山の魅力単体で売っていくのは厳しいと思う。観光開発をがんばってほしい。  
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2023年07月06日

2023年4月-5月に行った美術館・博物館(重要文化財,芸大の買い上げ展,吹きガラス)

近美の重要文化財の秘密展。明治期以降の美術作品は国宝に指定されているものが無いため,指定の最高ランクが重要文化財ということになる。その重要文化財68件のうち51件を集めて一挙に展示した空前絶後の展覧会である。重要文化財に指定されるということは歴史的に重要な作品か質が高い作品ということであり,またそれが指定されたタイミング=歴史的重要性か質の高さが広く認められた時期も重要ということになる。そのため本展は制作年と指定年がキャプションで併記されていて,作られて割りとすぐに指定されたものも,随分経ってから指定されたものもあり,その比較が面白かった。その事情もちゃんとキャプションで説明されていて納得しやすい。往々にして歴史的重要性が高いものとは,制作された当時にあっては革新性が高すぎてスキャンダラスな評価を受けやすいものであるから,重文指定まで期間が空いてしまったものもある。かと思えば,何らかの事情で指定を受けずに埋もれていて,ふとある年に突然発掘されて指定されたようなものもあり,作品それぞれに歴史がある。工芸作品が遅れがちというのも特徴だろう。世界遺産もそうだが,こういう作品と評価や公的な制度の間に横たわるエピソードは面白くなりがちなので好きな人も多かろう。これからもこういう展覧会を近美には期待したい。


東京芸大美術館の買い上げ展。奇しくも同じようなコンセプトの企画展が続く。芸大は制度として優秀な卒業制作(戦後は修士卒や博士卒を含む)を大学が買い上げる制度があり,大学のほぼ創設時から現代まで続いていて,これが各学科ごとの首席卒業と見なされている。芸大の教員が何を評価し,逆に学生は何を志向したか。これも時系列で見ると時代の変遷に面白みが出てくるのは制度の良いところである。第一部の戦前の場合,歴史に名を残す後の巨匠の若かりし頃の作品が並んでいて,後の作品につながるものから,卒業後の作品とジャンルが全く違うものまで。後者では板谷波山が木製の彫刻で卒業していたのはインパクトがあった。明治末頃から大正時代は自画像が多いのはいかにも時代を表している。和田三造も青木繁も藤田嗣治も買い上げられたのは自画像だった。

第二部の戦後はやはり様式の移り変わりが面白い。日本画や工芸,デザイン,メディア映像といったジャンル別に現役の教員が4〜6作品ずつ選んで展示されていた。全体として戦後の芸大の教員は自身も前衛志向であるためかかなり早い時期から柔軟で,当時としては斬新と思われるような作品がよく選ばれていた印象である。その中で,様式の移り変わりなんて知るかといわんばかりに女性作家縛りでそろえていた彫刻科は一番新しいもので1973年とパンチが効いている。その後の芸大生はむしろ女性が多くなっていったという社会変化まで考えると本企画展の趣旨を押さえているに思われた(にもかかわらず作家は男性が多いという現代に残る非対称性も想起したい)。文化財保存科(作品修復を学ぶ学科)も一番新しい作品が1974年であったが,これは近年の卒業制作が振るわないということなのかどうなのか。工芸科は逆に1作品1965年卒だった以外の4作品はかなり新しかったが,これは素材を5つばらばらに選出することを優先したためだろう(銅・木綿・陶土・銀・乾漆・真鍮とアルミ)。笑ったのは作曲科で,楽譜も物には違いないから展示する価値はあるが,それを展示されてもほとんどの鑑賞者には何もわからないというw。美術館側もそれは理解していて,一応それらが演奏されている様子を流すタブレットも用意されていた。第一部と第二部を総合して2023年の上半期で一番面白かった展覧会かもしれない。



サントリー美術館の吹きガラス展。世界中の吹きガラスを集め,古代ローマから始まり,近世の見事なヴェネツィアングラス,技術的に劣っていたために制約があった近世日本のガラス(日本で発展したのはカットグラス,つまり切子),産業革命以降の日本のガラス,現代日本の作家によるガラスという構成。一番見応えがあったのはやはりヴェネツィアングラスで,質量ともに満足の行くものであった。ヴェネツィアングラスはレース模様が美しく,今回の展示では白いガラスを封入する製法も紹介されていた。近世日本の吹きガラスはたしかに切子に比べると少なくて珍しいが,サントリー美術館の所蔵品の代表作の一つという印象も強い「藍色ちろり」の発色の見事なものよ。現代アートとしてのガラスもガラスの特性を上手く使った作品が多くて嫌いではなかった。あえて文句をつけるなら,やはりサントリー美術館は常設展示を作って「藍色ちろり」くらいは常に見れるようにしてほしいところ。
  
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2023年07月04日

2023年1月-4月に行った美術館・博物館(江戸絵画の華第2部,佐伯祐三,青木木米,東福寺)

出光美術館の「江戸絵画の華」第2部。第1部の感想はこちら。良くも悪くも伊藤若冲の作品群に焦点が当たりがちだった第1部に比べると,第2部はより江戸時代の絵画の優品を並べたという様相で,落ち着いた雰囲気であった。円山応挙と円山派,江戸後期の琳派が多く,完全にプライスさんの趣味が出たコレクションだろう。素直に優品を並べられたので,素直に喜んでおきたいところ。


東京ステーションギャラリーの佐伯祐三展。佐伯祐三は1898年生まれ,つまり明治も中期に入ってからの生まれで,藤田嗣治や梅原龍三郎よりも10歳以上も年下なのだが,そのような印象がない。夭折して画業が途中で止まったからかもしれない。佐伯祐三は東京美術学校に入って優秀な成績で卒業,早々に結婚しているが,夫婦ともに実家が太いので名家同士の結婚と言ってもいいのかもしれない。それゆえに嫁と娘を連れてパリに渡航し,画業に打ち込んだ。渡航してすぐにブラマンクに会うも画風を徹底的に批判されて天啓を受け,印象派あるいは自然主義らしさのあった画風が急激に前衛化していく。今回の回顧展ではその過程を丹念に追うことができて面白かった。佐伯祐三は短い画業の中で,最終的にヴラマンクらしい荒々しさと,セザンヌらしい立体の崩れ,ユトリロらしい都市景観画を融合させつつあったように見え,夭折しなければより大きく大成していたのではないかと感じさせられた。結核により30歳の若さでこの世を去ったのは日本の美術史における大きな損失だった。傑作が多いのはやはりパリの街角を描いた作品群で,大都市パリの街角が持つ独特の雰囲気が切り取られている。特に文字の表現が面白く,異邦人たる身には(フランス語が読めたとしても)こう見えるという感覚が伝わってくる。




サントリー美術館の青木木米展。青木木米は江戸後期の文人で,日本美術史の教科書に必ず載っているとは言いがたいが,江戸後期の陶磁器・美術に詳しい人は必ず知っているくらいの立ち位置だろうと思う。京都に生まれてそのまま上方で活躍し,京焼や山水画に従事した。交友関係が広く,友人・知人に木村蒹葭堂,頼山陽,田能村竹田など錚々たる名前が挙がる。本展覧会では木米が記した手紙も展示されていたが,現代語訳からは常に笑いを絶やさないようにしていた人物だったのだろうと推測された。

陶工としての青木木米の特徴は,とりわけ煎茶の茶器を多く焼いたことが挙げられる。実際には青木木米は普通の茶器も含めて何でも焼いていたが,青木木米はより手軽に飲める,なんなら野外でさっとたてられる煎茶にこだわりを持った。他の陶工の作品だと茶道で使う茶器が多いので,青木木米の焼く一流の煎茶用の茶道具は相対的に貴重ということになる。今回の展覧会では形からして明らかに他の茶道具とは違う,涼炉や急須を多数見ることができたのは良い経験だった。画業の方はいかにも南画という山水画が多く,煎茶の茶道具に比べると独自性は薄いが,かえってこの時代を代表する文人らしさがある。


東博の東福寺展。東博で開催される巨大な寺社の特別展らしく,単純に端から端まで国宝・重文という豪華な展覧会であった。私自身は,東福寺は臨済宗の巨刹で,室町時代の京五山に入っていた……ということくらいしか予備知識がない状態で見に行ったから,普通に勉強になることが多かった。特に明兆や虎関師錬がここの出身だったのは,そう結びつけて覚えていなかったので新鮮な知識であった。開山の円爾は南宋に留学して無準師範に師事したというだけあって室町時代には大陸との結びつきが強かったようで,そのことを強調する展示が多かった。その他に明兆の作品は1章与えられて多く展示されており,ここで見られると思っていなかっただけに僥倖であった。特に「五百羅漢図」は異常なまでに保存状態が良く,退色せずに残っている。どうやら「五百羅漢図」は14年かけて修復し最近になって作業が終わったそうで,本展覧会はそのお披露目会を兼ねていたのかもしれない。修復や東福寺での初公開の様子が映像で流されていた。虎関師錬についても言及しておくと,高校日本史の鎌倉時代の文化のところで登場する当時の高僧・文筆家であり,代表的な著作に日本初の仏教史の通史である『元亨釈書』がある。本展,なんとその虎関師錬の直筆の『元亨釈書』が展示されていた。残っているものなのだな。  
Posted by dg_law at 12:00Comments(2)

2023年07月03日

ニコ動・YouTubeの動画紹介 2023.4月下旬〜2023.5月下旬




終盤のボスが案外強いFF10,いつもながらに鮮やかな攻略法で倒していった。こうして見るとスフィア盤はFF5のジョブシステム並に自由度が高い。あと毒が効くボスが意外と多かったのを知った。当時知っていればなぁ。




銀二ノ介氏。カバー曲のMV風。 カバー曲の歌詞が黒埼ちとせによくあっているので,それを素直に表現した感じ。




いつもながらにすばらしい。天ノ弱良い曲だよなぁ。



同じくこちらも。



minusTさんの3D東方。まだ永夜抄はやってなかったんだっけ。4面だけなので5面以降も期待。




同じゆにクリエイト箱推し勢で初めて登山勢を見た。しかもけっこう同じところを登っている。



めちゃくちゃ近所の話で驚いた。実際に行ってみたが,確かにこの通りだった。




やっぱり振り返りジャンプが入って破滅的に難しくなった感じがする。



こういう裏話は面白い。難易度やら予算やら見栄えやら。  
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2023年07月01日

2023上半期ニコマス20選

ポータルサイト

いよいよ選出数が少なくなってきたので参加を迷ったけど,参加します。全6本で前回から1本増加。週マスを見ていても本当にニコマスから人が少なくなってきたなと思うが,残っている人で文化は継承していきたい感じ。


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Posted by dg_law at 20:22Comments(0)