2005年05月19日

書評『語りえぬものからの問いかけ』東大教授陣,講談社

この本は東大駒場キャンパスにおいて、東大が誇る有名教授陣によるオムニバス形式の講義の講義録である。各教授がおのおのの専門分野から「語りえぬもの」について講義を行っている。一応、一〜四講が哲学、五〜八講が宗教、九〜十一講が芸術というくくりはあるが、基本的にばらばらな内容だ。一例を示すと、第三回は現代歴史学、第五回は空海の思想、第九回はゴッホの絵画について、といった感じである。

学生がその分野の初心者である、という共通認識がいきわたっているからか、わかりやすい言葉を選んで使っている。そのわりに、講義の終わり間際にはきちんと相当深いところまで議論を持っていくあたりは、さすがといったところか。

ただし、一回一回が非常に中途半端なところで終わっているのが唯一の心残りだ。いかんせん90分でウィトゲンシュタインやハイデガーを説明しきるのは無理があるのか、それとも「大学生なら、それ以上は自分で調べやがれ」という、教官のありがたいメッセージなのか。なんにせよ、文学部生なら十分お勧めに足る内容である。


「語りえぬもの」からの問いかけ―東大駒場「哲学・宗教・芸術」連続講義