2005年07月01日

書評『グノーシス 〜古代キリスト教の異端思想〜』筒井賢治著 講談社

新世紀エヴァンゲリオン、ドラゴンクエスト7、マトリックス……

これらは全てグノーシス思想に基づいて作られた作品群である。グノーシスはキリスト教の異端派であるとされている。キリスト教グノーシス派は、そのラディカルな思想にあわず、宗教というより、まさしく「思想」であった。社会変革や個人の救済を目指したというよりは、キリスト教正統多数派への異議を唱える、知識層の知的好奇心を満たすものであった。しかし、その極端な思想はキリスト教正統多数派に「異端」とみなされ、やがて消滅する。しかしその思想だけは生き残り、現代にいたるまで芸術作品へ、ひそかに影響を与え続けており、その貢献は計り知れないものがある。また、キリスト教以外の宗教や哲学にも大きな影響を与えている。ネオプラトニズムや小座部仏教も広い意味ではグノーシスの一派である。

簡単にグノーシスを説明してしまうと、以下のような形だ。「この世界を作った神は偽者であり、人間の肉体を含めた森羅万象は全て偽善である。本当の神は天上界におわし、我々は『認識』することができない。しかし我々の精神には本当の神が与えたまえし『魂』が存在する。我々はその『魂』の存在を『自覚』することで、死んだときにこの偽りの世界にとらわれることなく、神のおわす天上界に帰ることができる。」そして、グノーシスとは、古代ギリシア語で『認識、自覚』という意味である。こう書くと危険な思想に思われるかもしれないが、キリスト教グノーシス派はあくまで無害な知的活動家たちだった。


さて、この本の紹介に移らせていただこう。この本は東大の若手教官であり、日本で初めてグノーシスを専門とした筒井氏による、一般向けのグノーシス紹介本である。一般向けなだけあって、相当わかりやすい。それでいて、グノーシス研究の最前線まできちんと話をもっていく。ユーモアもきいているし、図も豊富。別にグノーシスの肩を持ち上げているわけではなく、その立場はあくまで日本人的な無神論者の平等である。肝心の研究の内容もしっかりしている。内容、読みやすさに全く不満点は無く、個人的には賞賛の嵐である。自らの創作活動にインスピレーションを与えたい人に特にお勧めと言えるだろう。


グノーシス―古代キリスト教の“異端思想”