2005年07月16日

書評『進化と人間行動』長谷川眞理子・長谷川寿一著,東京大学出版会

「人間とは何か」を考えるのは、文系の仕事だと思われてきた。いかに生きるべきか、を考えるのは哲学や文学であり、集団としての人間の規則性を考えるのは社会学の仕事だった。しかし、そこに科学のメスが入る。ダーウィンが種の起源を発表し、人間には遺伝の影響を受けた形質があることを明らかにして以降、生物学は驚異的な速度で発展を遂げている。だが、それは簡単な道のりではなかった。特に社会からの誤解が激しかった。遺伝が能力を決めることから人種迫害の正当化に使われたことは、誤解の中でももっとも科学者を悲しませたものであろう。

この本では、そういった生物学、とくに遺伝学の歴史を軽く振り返った後、遺伝とは何か。進化とは何か。そして人間とは何かを問う。特に人間とは何か、という問いに関する議論は、生物学だけにとどまらず心理学や社会学を取り入れ、文系と理系学問の融合を目指している。その論調は鋭い。とにかく誤解の多い分野であるから、慎重に議論を進めている点は好感を持てる。テーマ的に、万人にお勧めできる書物である。特にダーウィンやら自然淘汰やらに胡散臭さを感じる人には必読だろう。


進化と人間行動