2005年07月24日

書評『ローマ人の物語1・2・3』塩野七生著,新潮社

説明が不要なほど有名な本だろう。塩野七生の名著である。ではこの本がなぜこれほど売れているのか? 自分の意見を言わさせてもらえるならば、それは二つの理由、ローマ人というテーマ設定と独特の筆致だと思われる。「ローマは永遠の都」という言葉どおり、西洋はここから始まった。そして今なお、精神的な中心地といえる。「ローマは三度世界を征服した。それは領土、法、キリスト教だ」という言葉も存在する。いかにその影響が大きいか、よくわかる。一方で、文化面にも注目したい。ローマ人は質実剛健な一方、意外なほど陽気だ。これは現在のラテン系諸民族にも共通していて、親近感を覚える。もう一つ格言を出すならば、「2世紀は全世界にとってもっとも幸せな100年だった」と、イギリスの歴史家エドワード・ギボンは言った。つまり我々は、ローマがいかに永遠の都となり、三度世界を征服し、もっとも幸せな世紀の中心となりえたのか、興味を覚えるのだ。誰だって、幸せになりたいというのは共通しているだろう。

第1巻「ローマは一日にしてならず」では、ローマ人がいかに都市国家ローマから領域国家を作り上げて言ったかを描いている。技術でも体格でも知識でも文化でも他民族に劣るローマが、自らの特性を用いてうまく立ち回り、やがて征服する側になっていく様子が非常におもしろい。

第2巻「ハンニバル戦記」は第一次〜第三次ポエニ戦争を描く。カンネーやザマといった、現代戦争史や陸軍学校の授業でも出てくる名勝負が繰り広げられる。戦争形態がいかに変わっていったか、ローマはなぜ戦争に強かったのか、そしてどこが現代でもお手本とされているのかが中心に描かれており、そのおもしろさは全作中でも1,2をほこる。やはり名将と名将のぶつかり合いは、血が騒ぐ。三国志と並んで、男なら避けては通れない歴史戦争ものではないだろうか。

第3巻「勝者の混迷」はポエニ戦争後の「内乱の一世紀」を描く。「ローマの歴史1000年間(BC753年〜AD395年)には、歴史上の全ての事件が含まれている。」といったのは、丸山真男だ。これが誇張であるにしても、やはり類似した状況はこの千年間に存在しうると思う。この時期のローマは、ちょうどベトナム戦争期のアメリカに重なる。ユリウス・カエサルが現れて解決するまでの、ローマ人にとってはあまりにも長い100年間であった。この巻では、政治闘争がメインに描かれている。だからけしておもしろいとも、読みやすいとも言いがたい。しかし、多くの血を流し悲劇を目の当たりにしつつも、常に前向きなローマ人に心打たれる。そして、いよいよ世界史最大級の英雄、ユリウス・カエサルの登場である。


ローマ人の物語〈1〉― ローマは一日にして成らず



ローマ人の物語〈3〉― 勝者の混迷