2006年01月21日

第44回「哲学の現代を読む1 バタイユ 魅惑する思想」酒井健著 白水社

バタイユの思想解説書中級編。入門編では飽き足らないけれど、まだ原著には抵抗があったので読んだ。中級編というだけあって、重要な部分だけをさらっと解説している。またバタイユの人生が思想に与えた影響やバタイユの影響を受けた人々も紹介されている。驚いたのは岡本太郎。大阪万博のときに太陽の塔を作った人だが、バタイユの創設した研究会に所属していたそうだ。他にも日本人では三島由紀夫がいたが、こちらは理解できるような気がする。

ところで、バタイユ自体の知名度が異様に低い気はする。バタイユの思想は独特で、当時フランスを席巻していた実存主義というわけでもなく、構造主義の先駆けというわけでもない(ただし、フーコーはバタイユの影響が強い)。はっきり言って独立勢力で、そんなにその勢力も大きくなかったので哲学史にも載りにくく、どうしても概説書でバタイユに割かれる比率が下がる事が大きな原因だと思う。基本構造は単純な二項対立で非常にわかりやすいものの、ニーチェの反省を受けてか実存主義への反発か、細部に行くにつれ専門用語のオンパレードになっていくという点も、理解されがたい原因か。

しかし、バタイユの主著たる「エロティシズム」はタイトルだけ有名で、駒場でも異様に売れている。奇抜だからだろうが、買って読んだ人は理解できているのだろうか。確かにバタイユの文章は他の哲学者(フーコーとかサルトルとかデリダとか)に比べたら相当わかりやすいが、いきなり主著から入るのは無謀だと思う。だが、この「奇抜だから売れる」こそある意味でバタイユの思想の証明であって、この本を買った人の中には理解せずとも証明には加担している人がいるという逆説を考えると笑いを我慢できない。

なお、この本自体は至って普通。そこそこわかりやすくバタイユの思想が説明してあってタメにはなった。サブタイトルの「魅惑する思想」という通り、バタイユの思想や文章自体がかなりおもしろいので、長い文章も苦痛にはならなかった。中級編、ということだけに注意すれば良書であろう。


バタイユ―魅惑する思想


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