2006年03月03日

第49回「ローマ人の物語9 賢帝の世紀」塩野七生著 新潮社 

いよいよ、ローマ帝国が最も繁栄した時代に突入する。ここで扱う皇帝は三人。至高の皇帝にして最大領土をほこったトライアヌス、帝国の平和と繁栄を促したハドリアヌス、そして歴史に何も残らないくらい、文字通りピウス(慈悲深い)な政治を行ったアントニヌス・ピウスである。賢帝だからさぞ量が多くなるのではないかと思っていたら全然違う。事件が起こらなければ書くことも無い。すなわち、書きたくても書けないのだ。フィクションすら難しい、とは著者自身認めている。だからこの本、賢帝三人を扱っているわりには、非常に量が薄い。苦労して書いたんだろうなあ、というのが真っ先に読み取れる。

しかし、トライアヌスは読んでておもしろかった。この人は安定した時代に皇帝になってしまったため「賢帝」止まりだったが、時代が時代なら「神君」カエサル並の重要人物として歴史書に残ったのではないかと思う。トライアヌスは天才ではあるが、努力の天才と評したほうが天国の彼が喜ぶかもしれない。個人的にはこういうハッピーエンドな物語を読むのは嫌いじゃないので非常に好評価を与えてしまったが、従来のローマ人の物語に見られるような血湧き肉踊る戦いや手に汗握る外交戦、ローマという国家の将来を占うような事件は何一つ起きないので、そういう意味では平凡な書物である。


ローマ人の物語〈9〉― 賢帝の世紀


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