2006年07月25日

第69回「ローマ人の物語14 キリスト教の勝利」塩野七生著 新潮社

コンスタンティヌス大帝の死後も、ローマ帝国はその息子たちによってキリスト教国化が進んでいった。しかしそれは現代の我々から見れば一神教の弊害がどんどん見え始めることであったが、古代人には「歴史」という経験が足りていなかった。そして次第に人間ではなく神が世界を支配する、中世への道を突き進んでいく。

しかしそんな中、一神教の弊害を見抜いて立ち向かった皇帝が一人だけいる。背教者ユリアヌス。だが彼は観点こそ良かったが、時代の流れに逆らうほどの、そうたとえばカエサルのような、英雄としての力は持ち合わせていなかった。そして混乱する帝国を統治したのは皇帝ではなく神の代理人である、とある司教だった……

13巻でも感じたことだが、この巻は読んでいて悲しくなってくる。もうこれはローマ帝国ではない、別の国だ。とうとう街からは石像彫刻が消える。神殿は閉鎖され、教会を建てるための材料として切り崩される。

物質的なものだけではない。戦乱から商業は衰え、都市そのものが衰退する。神学の発展と同時に哲学は二流とされ、家庭教師たちも姿を消す。何よりローマ法がキリスト教の秩序に勝てないのだから、伝統などあったものではない。カエサルが、ハドリアヌスが消えていく……

だが、この寂寥とした漠寂感がまた歴史のロマンだと思う。ここまで来たのだ。最後まで付き合おうじゃないか。


キリストの勝利 ローマ人の物語XIV


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