2007年06月14日

『遥かに仰ぎ、麗しの』レビュー

『遥かに仰ぎ、麗しの』をクリアした。このゲームは肯定的に捉えれば全部よく見えてくるし、否定的に捉えれば欠点はそこら中にあるという作品。たとえば延々と元ネタ集を作ってきたわけだが、それらが半分でもわかれば見事な伏線になるし、全然わからないとただのペダンティックで自慢乙、ということになるだろう。

特に評価が分かれそうなのが、主人公の性格が分校編と本校編でまるで違うこと。私的にはわざとだと思っているし、本質的なところではきちんと同一の存在になっている。しかしうがった見方をすれば、単に細かな設定をすり合わせるのを怠った結果とも読める。それに分校編の主人公には「ヘタレ」の言葉が付き纏うし、本校編の主人公には「完璧すぎる」という注文が着く。結局万人に受け入れられる主人公なんていない以上、主人公の性格はどうあったところで欠点になりえてしまうのだろう。

それと、このゲームは非常に古めかしい。もちろんグラフィックの質やシステムの使い勝手は紛れもなく06年発売なのだが、シナリオ進行の様子が古き良き『みずいろ』や『水夏』辺りを感じさせた。特に本校編はそうだった。これも『車輪』や『マブラヴ』に慣れた層、そこから入ってきた人たちには辛いのかもしれない。

さらに言うなれば、分校編に関する評価は安定しているが、この作品を手放しでほめる人は本校編のほうが好きという人が多い。点数にしてみれば分校編は70点前後で、本校編は50点か100点かのどちらか。かく言う自分も、けして手放しでほめられるほどこの作品がすごいとは思わないが、やはり本校編のほうがおもしろかったと思う。

しかし、これだけ欠点だらけにもかかわらず、思い返してみると雰囲気は「欠点の見当たらない作品」と評される『パルフェ』に近い。確かにテーマとしても同じようなところがあるし、きっとこういうのが最近の流行なのだろう。まあいろいろ書いたがともかく雰囲気が最高なことは確かなので、お勧め。

以下、壮絶なネタばれ。クリアした人か、最初からやる気の無い人だけどうぞ。クリア順に列挙。
やり始めればすぐに気づくことだが、このゲームの雛形は実は『クロスチャンネル』にあると思う。凰華女学院「分校」はお嬢様学校だが「分校」であるところがミソで、自身の人格かもしくは本家に問題を抱えている生徒しか在籍していない。ゆえに各ヒロインには(一人を除いて)何かしらの問題を抱えており、それを解決することが主人公の目的となる。そして実は、主人公自身も一つトラウマを抱えており、ゲーム終盤はむしろそっちの解決が本題になってくる。

・栖香
辞書登録された「すみか」二人目。栖香自体はすごくかわいいのだが、全クリした今振り返れば、本作最大の汚点シナリオ。主人公のトラウマに関してほとんど触れずに終わってるし、5時間かけて解決した栖香の問題点は美綺シナリオ開始1時間で即解決するし。というか、問題そのものが「それはねーよwwww」。

・美綺
実はこういう元気娘はけっこう好き。シナリオも無駄が無かったし、唯一なんらかの問題を抱えていない娘で気楽だった。主人公のトラウマも綺麗に解決したし、分校設立の謎も解けたし、文句無し。

・邑那
分校編の黒幕、腹黒キャラ……というほどの腹黒でもないか。キャラはメガネだしかわいげないし、一番嫌いな系統のキャラかなーと思っていたらラスト付近で一気に好きになった。やった人はこの辺の感覚を共有できるかもしれない。そして邑那と意気投合しそうな自分も、本質的なところで彼女と似ているのかもしれない。こういう腹黒キャラを学園モノにもってきたこと自体、すでに評価に値する。

・分校編総括
最大の欠点はその冗長さにある。一周6〜7時間は厳しい。栖香編や美綺編の中盤スカスカ具合から考えるに、5時間程度に収めれば非の打ち所の無い傑作になったんじゃないか。主人公は世間が「ヘタレ」といっているほどヘタレではないと思う。分校編のテーマは「人の欠点やトラウマを許容し、清濁併せ呑むこと」。理想主義者は、お断りである。


・殿子
殿子かわいすぎワロタ。このシナリオも否定的に読めば「自由と伝統の衝突で自由が勝利するよくある話」なわけだが、自分に言わせればそれはこのシナリオを読めてない。もう一歩進んで「(完全な)『自由』なんてこの世界のどこにも無い」ところまで話をもっていったことは評価できる。もっとも同じテーマなら『はるのあしおと』のゆづきシナリオのほうが綺麗にまとまっているが。考えてみれば、殿子と主人公の抱えているトラウマは根源が同じであり、その意味では最も意義深いシナリオかもしれない。まあ深いこと考えなくても殿子がかわいいからそれで(ry

・梓乃
全ヒロインでもっとも抱えているトラウマがわかりやすい「人間恐怖症」の少女。それだけにトラウマの解決も割と早く、話の焦点は早々に主人公のトラウマへ進んだ。言ってしまえば、クラナドのことみシナリオの焼き直しではあるが、向こうよりおもしろいかも。ゲーム内で比較すると、美綺シナリオと構造的には似ていると思う。というより似せたのだろう、殿子シナリオ=栖香シナリオ、邑那シナリオ=みやびシナリオとも考えられるし。

・みやび
本作のメインヒロイン……だが、お株を邑那に取られている気がしないでもない。ロリに北都南は鉄板過ぎるが、その鉄板の中でもこれは極めて優れたキャスティングといわざるを得ない。自分の経験した幾人ものロリ北都の中で一番かわいいと、この場で断言しておく。シナリオは予想通りの王道展開だったので、あまりここで付言することも無いか。おもしろかった。

・本校編総括
分校編に比べて進行は早い。一周4時間強といったところ。主人公は能力的には完璧超人とはいいがたいが、かっこよさは全エロゲでもピカイチ。しかし何より、本校編はあの居心地のよさが異常。もうずっとニヤニヤしっぱなしで逆に心臓に悪い。1日2時間以上プレイできなかった、やったら顔面筋が固定されそうだったから。もうシナリオとかどうでもいいから、あの時間が永久に続いて欲しいとさえ思った。そういう意味では稀有な作品と言えよう。本校編のテーマは「自由意志の勝利」か「いつかどこかにある救済」か。いずれにせよ、現実主義者の高2病は門前払いである。


・全体総評
梓乃シナリオの講評で触れたが、それぞれ対比がとれてて世間が言うほどバラバラな作品ではない。むしろ肯定的に考えるならば、わざと性格を不一致にしたのではないかと思う。さりげなく、主人公の常飲している飲み物まで変わっているところがポイントではないか。冷徹な現実主義者も、楽観的な理想主義者も、どちらもこの作品は半分しか楽しめない。その変わり身こそプレイヤーに求められているのであり、どっちのイデオロギーも真実なのだろう。「世界はその光の当て方によって姿を変える」。邑那シナリオで強調されていることだが、このゲームを象徴しているのではないか。

というように、この作品は本校編と分校編をバラバラに考えるのではなく、やはりまとめて評価すべきだろうし、それができないようではやはり読み込みが足りてないのではないかと思う。あえてバラバラに点数をつけるならば分校編80点、本校編92点、総合88点ってとこだろうか。個別のシナリオなら梓乃か邑那が最高、キャラだと殿子が一番好きかな。しかし、あくまでこの作品の最大の売りは、雰囲気のよさであり、それは単純に最高と言ってしまってもいいだろう。


・最後に二つ
まず、両ライターの他の作品が気になった。分校編を担当した丸谷氏はあの邑那シナリオの輝きは本物だったのかどうかが気になるし、本校編を担当した健速氏は本校編全体に流れるあの完璧な雰囲気が他の作品でも感じられるのかどうかが気になる。

サブキャラかわいすぎ。特に三嶋さんとリーダさんと通販さんは攻略できないとか理解に苦しみまくる。奏はまあ暁先生がいるから許そう。それらを除いたところで、立ち絵の無いキャラさえ攻略したくなったのは初めてかも。特に結城さんと三橋さん、なんでお前らに立ち絵が無いんだ?双子も好きだし小曾川×高藤陀さんのガチ百合コンビも大好き。もうこの言葉しかないね、罠にはまってやるからさっさとファンディスク作れ。

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この記事へのコメント
久々に訪れたらかにしのブーム中でしたか
素晴らしいかにしのレビューを見つけたので貼っておきます
色んな所で張られていたのでもう見てる可能性のほうが高いと思いますが
かなりの長文ですが読み応えのあるものでした
http://d.hatena.ne.jp/X-24/20061222/1166795197
http://d.hatena.ne.jp/X-24/20070117/1169036165
Posted by rain at 2007年07月17日 00:10
なるほど。栖香シナリオの解釈は目から鱗ですね。そういう解釈も十分成り立ちうると思います。ただし、向こうのれビューでも欠点として挙げられているように、それに気づかせるだけの筆力が栖香シナリオに込められているかというのと、それは嘘ですが。丸谷氏の責任ではなくPULLTOPの責任と、向こうのレビューでは書かれていますが、いかんせん私が『かにしの』『ゆのはな』以外の作品に触れていないのでそこは判断がつきません。

邑那シナリオや本校系に関しては、ほぼ同じ印象を持った感じでした。



ついでに追記。ファンブックを買ったらサブヒロインの立ち絵が。もうやっぱFDさっさと作れ。『ゆのはな』と合同でもいいからさー。
Posted by DG-Law at 2007年07月17日 04:12