2007年11月18日

第119回「暗い山と栄光の山」M・H・ニコルソン著、小黒和子訳、国書刊行会

今我々が山を見ると美しいと感じるのはほぼ当然の感動のように思われているが、そのような観念が定着したのは18世紀の頃であり、17世紀の後半から18世紀の初頭にかけてのわずかな期間に美学、文学上の大変革がイギリスで起きた結果であった。それまでの山というものは「地球のいぼ、こぶ、火ぶくれ、腫れ物」という散々な評価であり、単なる通行の邪魔者に過ぎなかったのだ。新しく誕生した美学は瞬く間にヨーロッパを席巻し、均整な地球に生えた邪魔な「暗い山」は神々の住む「栄光の山」へと生まれ変わっていった。

では、まずなぜ17世紀以前の人々はそう考えていたのか。なぜその大変革は起きたのか。その二点の論点に対して深く切り込んだのがこの古典的名著である。興味と多少のイギリス文学知識があれば(シェイクスピアとか)かなりおもしろく読める本だと思う。自分の場合は卒論の資料として読まざるを得なかったが、そうでなくても遅かれ早かれこのブックレビューの俎上に上げていただろうと思う。

研究書なので様々な具体例(文学)を列挙して説得力を増しているため、単なる読み物としては若干くどいかもしれない。ただし章立てがわかりやすく、飛ばし読みしても全然問題なく読み勧められる親切設計なのも好印象だ。科学と宗教、そして文学、哲学が絡み合って、爆発的な変革を起こした様子がありありと浮かんでくる.時間旅行をしているような感覚、とも言えるかもしれない。最後、ワーズワースにたどり着き彼の詩文がいかにして形成されたかを読み解けたときには、なかなか感動することができるだろう。


暗い山と栄光の山 クラテール叢書 13


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