2008年11月11日

第131回 『食べる西洋美術史』宮下規久朗著、光文社新書

宮下先生の新書と聞いて買ったはいいものの随分と積んでいた次第。タイトルの通り、食を巡る西洋美術史の諸作品を総覧していくのが本書である。

ただし、どういう食べ物が描かれてきたかや食べ物の描かれ方が語られているのではなく、描かれた食べ物や食事風景に込められた意味、とりわけキリスト教とのかかわりについてに重点が当てられている。そのため、西洋美術史における「食べる」こと、というよりは「食べる」を主題とした作品を通した西洋美術史、というほうがより本書を表現するのに近い。あまり趣味に走った話や深い話をしているわけではない、という意味では新書向きにまとまっている。

新書の分量で西洋美術史全体を総覧するために、一つ一つの作品や時代に対する文章はかなり短く、ものすごく端折ったらしきところは散見され、特に後半半分はそう感じられた。特にボデコンの周囲はばっさり削ったのであろう。ただ、内容に関して一点。メンツェルを19世紀最大のドイツの画家扱いするのだけは納得ができない。C.D.フリードリヒはまあ当然としても、ベックリーンがいて、シュトゥックがいるし、ルードヴィヒ・リヒターもいる。メンツェルが彼らに劣るとは思わないが、飛びぬけて有名だとは思えない。

宮下先生と掲げられたテーマにしては随分とおとなしい文章だなーと思って最後まで読み、あとがきの文章を読んで全て納得した。身体を壊されていたなら仕方が無い。ただ、どちらかといえば「おいしそうな料理と美術を愛でる気楽な食卓漫談」を期待していたし、今でもやはり読んでみたい気がする。


食べる西洋美術史  「最後の晩餐」から読む (光文社新書)
食べる西洋美術史 「最後の晩餐」から読む (光文社新書)