2009年01月03日

ヒトラー最後の12日間

ニコニコのMADで気になったので。タイトルの通り、1945年4月20日から5月1日、大戦末期のベルリンの様子を描いている。視点は比較的複数で、ヒトラーやゲッベルス、ボルマンといったナチス首脳陣、実際にベルリンを防衛していた前線指揮官、逃げ惑う市民たち、何よりもこの映画の原書を書き残した元ヒトラーの秘書、トラウドゥル・ユンゲといった面々が代わる代わる視点となる。この作品は初めてドイツ人がヒトラーを演じたこと、ドイツの会社が制作したこと、ヒトラーを人間的に描いたことで話題となり、賛否両論を巻き起こしたそうだ。何にせよ、ドイツがまた一つ歴史のタブーを打ち破ったのは喜ばしいことだ。

物語は比較的淡々と進んでいく。ヒトラーは最初から錯乱しているし、ヒムラーやゲーリングはもはや裏切る気が見え見えで、陸軍将校は投げやりの姿勢極まりない。まあそこそこ冷静だったのはゲッベルスくらいだが、彼は彼でヒトラーの後追い自殺をすることを既に内心で決めていたための落ち着きであった。特にドラマがあるわけではなく、ベルリン地下壕の人々の心情描写に重きが置かれている。

しかし、シェンク医師を人道的に美化して描いているのはどうなんだろう。おそらく、ユンゲさんの証言のみならず他の史料に基づいても、確かに大戦末期のベルリンでは人徳者として振舞っていたのだろう。しかし、実際にはWikipediaに書かれているようなこともやっていたわけで。その他、美化とまでは言わなくても、不自然なまでにユダヤ人虐殺についてこの映画は触れていない。せいぜいヒトラーが自分のやった偉業を振り返るシーンで、ユダヤ虐殺を挙げている程度だ。好意的に見れば最後の12日間ともなればそんなことを考えている余裕なんてなかっただろう、とか、ユンゲさんはユダヤ虐殺には全くかかわってなかったから知らなかった、等の解釈は可能であるが、やはり私には不自然に思える。そう考えると、「ドイツはユダヤ人大虐殺の歴史を取り繕い美化している」(エルサレムポスト紙)というリアクションはそれほど突飛には聞こえない。

見る前に、一通りナチス首脳部の顔と名前を一致させておかないと、何がなんだかわからないと思われる。ヒトラーを含めて、特にヒムラーやゲーリング辺りは異様なまでに似ている。ゲッベルスもかなり特徴を捉えている。また、エクステンデット・エディションで見ることをお勧めする。スタンダード・エディションはかなりカットされているところが多い。何気ないシーンやグロいシーンがカットされていて、そういうシーンこそ重要なのに、と思う。


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