2009年03月09日

第134回『『カラマーゾフの兄弟』の続編を空想する』亀山郁夫著、光文社新書

非常に長い時間がかかったが、本編ともに読破した。ただ、なんとなくブックレビューが書きづらくて放置していた。そしたら本編読破から年単位で、本書自体からでも半年以上経過していた。それでも備忘録を兼ねてなんとか形にしておきたい。以下、ネタバレ注意。


『カラマーゾフ』の特徴、というよりもドストエフスキーの特徴なのだろうが、『罪と罰』同様哲学的な内容を裏に敷きつつ、表のサスペンス自体がおもしろい。結局真犯人誰だよと思いながら最後まで読んでしまった。意外と特異なのかもしれないが、私が一番怖かったのはアリョーシャだった。本書でも言及されている通り、アリョーシャの中身のなさ、鸚鵡返しには本編の第一部で早々に気づいてしまい、こんな人間が主人公の小説だなんて、と戦々恐々としながら読み進める羽目になった。本書の結論には大幅に反するが、個人的にはこいつならテロを起こしても仕方が無いと思う。

そして『カラマーゾフ』は未完であり、できる限りの精度でその続編を空想してみようというのが本書である。まず、こういった二次創作的なことが許されるということ自体に驚くと同時に画期的な新書であったと思う。もちろん探せば他の小説でもあるのだろうが、これだけ話題になって売れた、世の中に受け入れられたというのも特筆すべきである。

言うまでもなく私は二次創作が隙であり、その醍醐味は「世界観を崩さず、かつシナリオを拡張する」という縛りにあると思う。逆に言えば、そんなのは別の作品の二次創作やオリジナルでも出来るんじゃないかというのはあまり好まない。だからこそこの筆者の態度には好感が持てた。精度を保つための条件設定に相当心を砕いたのではないかと思われる。二次創作も研究の領域に入ればこれだけ厳密になるものなのだ。

ただ、一方でこの筆者は政治状況の抑圧、特に「アリョーシャが直接的なテロの犯人になる小説が書けるわけがない」という点にこだわりすぎたと思う。そのこと自体は完全に納得できるのだが、この主張が何度も同じフレーズで登場するのには若干辟易した。第二章か第三章の末項に集中させてしまえば、同じページ数でより多くのことに言及できたのではないかと思う。



『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する (光文社新書)
著者:亀山 郁夫
販売元:光文社
発売日:2007-09
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


この記事へのトラックバックURL