2009年03月19日
反宗教改革さまさまではある
西美のルーヴル美術館展に行ってきた。ルーヴル美術館展自体はさして珍しくもなく、それこそ今度は国立新美術館に別のが来るわけだが、今回は国立西洋美術館五十周年記念企画展示なので若干力の入り方が強くなっている。また、担当した学芸員が幸福先生とあって、中心が黄金期のオランダ・フランドル絵画ということも、今までの"ルーブル"展とは毛色が異なるものになっているといえよう。とは言いつつもカタログを読むに、この後京都に行き、その後海外の別の場所を回ってルーヴルに帰るみたいなのだが。(海外における展覧会名は「古典主義時代の諸変革」であるとのこと。確かに、日本でそのタイトルをつけても受けが悪そうだ。)
17世紀とは確かに不思議な時代である。「ヨーロッパ全般的危機」の時代と言われる一方でオランダは黄金期を向かえ、フランスはルイ14世が即位し、イギリスは正教徒革命、名誉革命を経験し議会制民主主義国家へと突き進んだ。科学の非常に発展した世紀で、ざっと挙げただけでもガリレオ、ニュートン、ライプニッツ、ケプラーとそうそうたるメンバーがそろっている。その一方で、宗教改革後のカトリックとプロテスタントの対立も激しかった。挙げた中でもガリレオが反宗教改革勢力に弾圧されたのは有名な話であるし、何より三十年戦争の悲劇的な展開はそれらを象徴している。そして何かのブームのごとく神を幻視した人たち、列聖された人々の多い時代でもあった。本展覧会も、そのまま「黄金の世紀とその影」「科学革命」「宗教」の3つのセクションに区切られている。
第一部「黄金の世紀とその影」、入った直後を出迎えてくれるのはプッサンの《川から救われるモーセ》だが、その背景はどう見てもローマ(テヴェレ川)である。ピラミッドがあるが、あの独特の鋭角頂点なピラミッドはローマのものであり、何よりも水道橋がある。しかしこのプッサンはどこか硬質であまりプッサンらしくない。次の絵は《マリー・ド・メディシスの肖像》だが、彼女も17世紀ヨーロッパを象徴する人の一人かもしれない。洗練された料理をイタリアからフランスに伝えた女性としても有名である。三枚目、フォントネイの《金色の花瓶に活けられた花束とルイ14世の胸像》は前にどこかで見たことがあった気がしたのだが、多分ルーヴルに行ったときにそこで直接見たのだろう。けっこう好きな作品である。
レンブラントやハルスといった画家の作品がよく見られたのはよかった。また、オランダの都市景観画も見たのだが相変わらず遠近感が狂っている(褒め言葉)。フェルメールの《レースを編む女》は、かなり長期間日本に滞在なされたんじゃないだろうか。九ヶ月くらい?その他、戦争画が三枚もあったというのは特徴的である。確かに戦争ほど「光と影」の両方を示しているものもないかもしれない。
第二部「旅行と科学革命」で、まず目に付いたのはブラジルの風景画である。これは当時の人気の高さが偲ばれる。有名な作品ではやはりクロード・ロランの《クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス》。これもプッサンの作品同様、表題に反して描かれているのは非常に現代的(17世紀的)である。ここもまた、ギリシアではなくローマなのだろう。ロイスダールの作品は珍しくも海景画であったが、やはり良い。
第三部「聖人の世紀、古代の継承者?」では、ヴーエの《エスランの聖母》(今回の画像)が良かったが、エスランってなんぞやと随分気になっていた。帰って図録を眺めたら普通に画家の庇護者の名前だった。しかし、エスランとは何か聖書に出てきそうな名前である。なのでそっち方向で考えてしまっていた。そしてカルロ・ドルチの《受胎告知》連作二枚。ガブリエルのほうの愛らしさが異常な件については、誰も異存はあるまい。あとはまあ、ムリリョの聖母が相変わらずだなぁと。
ピエール・パテル(父)の《ナイル川にモーセを遺棄するヨケベト》は、冒頭のプッサンの作品と話的につながる上に、こちらの作品もやはり背景がローマになっているカプリッチオなわけだが、どうせなら隣同士におけばよかったのではないかと思う。逆に、展覧会のほとんど最後に飾った理由を知りたい。
総じて約70点という数の少なさを感じさせないヴォリューム感であり大変満足できた。美術に興味が全く無い人に来てもらうというより、自分の含め美術ファン層にとって最も喜ばれる類の作品が多かった展覧会であったといえよう。ただし、かなりこだわって一部から三部までを区分けしていたように見える割に、大して特色が感じられなかったというのは指摘しておきたい。ところで、図録の論文の、「二条城が東に約三度傾いている件」がおもしろかった。しかし、これは展覧会の主旨とあまり関係無いのでは。
17世紀とは確かに不思議な時代である。「ヨーロッパ全般的危機」の時代と言われる一方でオランダは黄金期を向かえ、フランスはルイ14世が即位し、イギリスは正教徒革命、名誉革命を経験し議会制民主主義国家へと突き進んだ。科学の非常に発展した世紀で、ざっと挙げただけでもガリレオ、ニュートン、ライプニッツ、ケプラーとそうそうたるメンバーがそろっている。その一方で、宗教改革後のカトリックとプロテスタントの対立も激しかった。挙げた中でもガリレオが反宗教改革勢力に弾圧されたのは有名な話であるし、何より三十年戦争の悲劇的な展開はそれらを象徴している。そして何かのブームのごとく神を幻視した人たち、列聖された人々の多い時代でもあった。本展覧会も、そのまま「黄金の世紀とその影」「科学革命」「宗教」の3つのセクションに区切られている。
第一部「黄金の世紀とその影」、入った直後を出迎えてくれるのはプッサンの《川から救われるモーセ》だが、その背景はどう見てもローマ(テヴェレ川)である。ピラミッドがあるが、あの独特の鋭角頂点なピラミッドはローマのものであり、何よりも水道橋がある。しかしこのプッサンはどこか硬質であまりプッサンらしくない。次の絵は《マリー・ド・メディシスの肖像》だが、彼女も17世紀ヨーロッパを象徴する人の一人かもしれない。洗練された料理をイタリアからフランスに伝えた女性としても有名である。三枚目、フォントネイの《金色の花瓶に活けられた花束とルイ14世の胸像》は前にどこかで見たことがあった気がしたのだが、多分ルーヴルに行ったときにそこで直接見たのだろう。けっこう好きな作品である。
レンブラントやハルスといった画家の作品がよく見られたのはよかった。また、オランダの都市景観画も見たのだが相変わらず遠近感が狂っている(褒め言葉)。フェルメールの《レースを編む女》は、かなり長期間日本に滞在なされたんじゃないだろうか。九ヶ月くらい?その他、戦争画が三枚もあったというのは特徴的である。確かに戦争ほど「光と影」の両方を示しているものもないかもしれない。
第二部「旅行と科学革命」で、まず目に付いたのはブラジルの風景画である。これは当時の人気の高さが偲ばれる。有名な作品ではやはりクロード・ロランの《クリュセイスを父親のもとに返すオデュッセウス》。これもプッサンの作品同様、表題に反して描かれているのは非常に現代的(17世紀的)である。ここもまた、ギリシアではなくローマなのだろう。ロイスダールの作品は珍しくも海景画であったが、やはり良い。
第三部「聖人の世紀、古代の継承者?」では、ヴーエの《エスランの聖母》(今回の画像)が良かったが、エスランってなんぞやと随分気になっていた。帰って図録を眺めたら普通に画家の庇護者の名前だった。しかし、エスランとは何か聖書に出てきそうな名前である。なのでそっち方向で考えてしまっていた。そしてカルロ・ドルチの《受胎告知》連作二枚。ガブリエルのほうの愛らしさが異常な件については、誰も異存はあるまい。あとはまあ、ムリリョの聖母が相変わらずだなぁと。
ピエール・パテル(父)の《ナイル川にモーセを遺棄するヨケベト》は、冒頭のプッサンの作品と話的につながる上に、こちらの作品もやはり背景がローマになっているカプリッチオなわけだが、どうせなら隣同士におけばよかったのではないかと思う。逆に、展覧会のほとんど最後に飾った理由を知りたい。
総じて約70点という数の少なさを感じさせないヴォリューム感であり大変満足できた。美術に興味が全く無い人に来てもらうというより、自分の含め美術ファン層にとって最も喜ばれる類の作品が多かった展覧会であったといえよう。ただし、かなりこだわって一部から三部までを区分けしていたように見える割に、大して特色が感じられなかったというのは指摘しておきたい。ところで、図録の論文の、「二条城が東に約三度傾いている件」がおもしろかった。しかし、これは展覧会の主旨とあまり関係無いのでは。
Posted by dg_law at 12:00│Comments(0)│