2009年04月11日

儚月抄最終話を読んで,儚月抄の問題点

なぜ儚月抄は失敗したのか?という議論についてはすでにし尽くされているし,今更する気もないが,最終回についてだけ言えば,

・幻想郷の守手である紫が,幻想郷の存亡をかけてまで手に入れたものが酒瓶一本だったこと

この一点に尽きる。もっと大々的な何かがあるのかと思っていたら,なんと本当にこれだけだったという。某所で「三月精でやれば二ヶ月で終わった話」と言われていたのも頷ける話で,まさに落ちの良い意味でのくだらなさだけは非常に東方的だった。

しかし,今までの東方作品の異変と言えば,確かに一見して幻想郷の危機だったけど終わってみれば杞憂だった,というパターンが全てだったのに対して,今回は割と本気で幻想郷の存亡がかかっていた上に,事件の張本人が紫という点において決定的に今までの東方作品と違い,まさにこの点こそが儚月抄の「原作者による原作ブレイカー」たる所以である。それに比べたら他の,作画がどうだとか設定に矛盾がだとかは比較的些細なことである。今更「月人は地球人を完全に見下しているので,土下座すれば手にかける価値もないと判断するだろうという紫の読みだった」なんて説明を後付でされても,読み違えていたら幻想郷が滅んでた可能性もあるという天秤を考えれば,なんの説得力も無い。

最終話を読む前の,というよりもかなり前からの自分の展開予想だと,あとの展開は幽々子無双だった。穢れが云々という説明はやたらと出てきたし,第三陣として幽々子が月に向かうというのもまあ読める展開であった。特に「基本的に不老不死の月人といえど地上で暮らせば,その穢れから寿命ができる」「蓬莱の薬は生死の境を無くすため最大の穢れであり,月世界の禁忌とされる」という設定が大きなヒントになるとするなら,大逆転となる一手は,月の都に大いなる穢れを持ち込むことだろう。霊夢と依姫の戦闘もその伏線とするなら,あの茶番も無駄ではなかったことになる。そして,穢れの定義が今ひとつ曖昧なままではあったが,求聞史紀の「亡霊」や「幽々子」の項目を呼んだりする限り,幽々子ほど穢れのエキスパートはいないだろう。そう考えるならば,幽々子の月の都潜入は大きな戦力になるのではないか。

というのが,レミリアたちの月到着付近での自分の展開予想だったし,実のところ最終話前まではこの予想の範疇で展開が推移していた。まあ土下座だけは予想外だったけど。そして最終話の結果は全くの逆というか,「幽々子は浄土の住人だから穢れがない」「(だから)月の都に忍び込んでも目立たない」という言葉に一番ひっくり返させられた。

まず,浄土の住人って言葉の使い方的におかしいだろう。基本的に日本神話でそこにいろいろブレンドしてある東方の世界観だけど,浄土は完全に仏教用語である。日本神話と仏教がごっちゃになってるのが日本の宗教ではあるけれど,高天原と浄土は別物である。どちらかといえば,浄土は天界が同義といったほうがまだ近い。そもそも実は天界という言葉の使い方自体が中国思想的なところがあって,中国思想というのも日本の状況に似て,仏教と道教がいい感じに混ざり合ったカオスである。身近にそれを感じたければ,オリジナルに準拠した真っ当な『西遊記』を読めば大体どういう世界観かはわかっていただけるかと思う。太上老君と釈迦如来がいっぺんに登場するので(西遊記が完全な中国思想の世界というわけでもない,という保留はつけておくが)。加えて言えば,東方の天界は高天原でもないっぽい。

そういうわけもあり,比那名居一家の天界行きの話といい天子にくっついてる桃といい(桃は道教における仙人の食べ物),東方における天界の設定は中国由来だと思っていたんだけど,「幽々子は浄土の住人」という話が出てきてよくわからなくなった。いずれにせよ,字義通りとったとして普通は冥界を浄土とは言わないし,この言葉を幽々子は穢れを持たないということを示す比喩だと解釈してもやはりおかしい。

ついでに言えば幽々子はセーフだったとしても,半分は人間な妖夢は完全に穢れを持っているため,月の都では目立ってしまうのでは。もっと言えば,二人とも穢れを持たず月人に同化できる存在だったとしても,それは目立たないだけで空き巣が楽勝にできるとは限らないし,一ヶ月も月の都に潜伏できるかどうかは別問題だったのでは。というかばれるでしょ。

儚月抄は設定矛盾が激しい上に超解釈も激しいので深入りは避けるが,せめて穢れと浄土に関する細かな説明だけはおいていってほしかったな,というのが私の最終回の感想である。しかし,地上から月は満月のときにしか移動できないけど,月から地球へは豊姫の能力でいつでも来られるというのは,永夜抄の設定が崩壊する設定矛盾だったよなぁ……まあ「永琳はパラノイア」という超解釈フォローが入りましたが。


この記事へのコメント
浄土と高天原の混同は彼の水木御大もやってますしね。
意図的なものかもしれませんが……
Posted by 三毛招き at 2009年04月12日 05:48
水木御大もですか……神主もやってそうだなぁ。
せめて意図的なものだと信じたいところではありますね。
Posted by DG-Law at 2009年04月12日 12:28