2009年08月31日

コバルトブルー

青花蓮池魚藻文壺(元・景徳鎮)染付展、伊勢神宮展と、常設展に行ってきた。

染付展から。染付とは、それまでも陶磁器を生産していた中国に、元になってイスラーム圏からコバルトを焼成すると青く発色する技術が伝来したことで誕生した、青白二色だけの白磁である。中国では青花といい、日本では染付と呼ぶ。シルク=ロードの開通に比べてタイムラグがあるのは、そもそも陶磁器の技法そのものが中国から西伝し、そこからコバルトの焼成が発見されて、中国に戻ってきたためだ。ガラスや金属器に比べると多くは無いが、イスラーム圏でも陶磁器は出土している。モスクのタイルを焼く技術は中国伝来という説もどこかで読んだ覚えがある。

陶磁器文化は中国文明圏ならばかなり広い地域で生産しており、染付も朝鮮、日本、ベトナムの各国で作られた。今回の展示ではそれらの地域のものも展示されていた。染付のようなものは、青と白のコントラストがはっきりしているほうが好きである。もっと言えば、白磁は純白でなくてはならないと思う。浅学により知らないのだが、朝鮮のものとベトナムのものは白磁が濁っていてやや残念な出来であった。これはそういう特徴なのだろうか。それとも、後からついてしまったしみなのだろうか。前者であるなら単純に私の趣味ではないし、後者だとすれば残念至極である。

しかし、やはり中国のものはレベルが高い。白磁よりも青磁のほうが好きで、それも砧青磁を至高とする私が見てもやはり今回の染付展は良かったように思う。展示数が多く、模様も格調の高い洗練されたものからややおもしろみのあるものまで幅広く、地域は前述の通りで、年代としても元から清朝に至るまで集められていた。


伊勢神宮展は、実は直前まで開催しているのを知らなかったのだが、伊勢神宮に所蔵されている歴史的な遺物が公開されていた。その関係上、儀式に使われる神宝のほか、古代の大和朝廷の古文書が多かった。平安時代に書かれた延喜式の写しなど、日本史履修者にはちょっと嬉しいものもおいてあった。

神宝類は土師器須恵器から江戸時代の宝飾品に至るまで時代が実に雑多で、長く愛されてきたことの証明とも言えるし、やや取り留めに欠いた展示構成になってしまっていたかなとも言える。「今に伝える神宝」と題して一章設けており20世紀に調進されたものも展示されていたがこれらはさすがに状態が極めてよかった。きらびやかでいて落ち着いている。


最後に常設展。二ヶ月ぶりくらいだと思っていたら四ヶ月ぶりくらいだった。道理で様変わりしているものだと思ったと同時に、ということはけっこうな数の作品を見過ごしているのだろうと思うとやや後悔するところである。国宝室は地獄草紙。5年くらい前の京博の大絵巻物展で見たものだ。室町の水墨画ゾーンでは、伝周文の国宝の掛軸がかかっていたが、個人的にはあまり周文に見えなかった。しかし、国宝ということはそれなりに信憑性があるんだろうなぁ。もう一品、重文の伝雪舟の屏風が展示されていたが、こちらは保存状態があまり良くなかった。

屏風ゾーン、土佐光起の『粟穂鶉図屏風』が良かった。江戸絵画では、土佐光成の『秋草鶉図』が展示されており、親子の鶉での共演となっていた。印象に残ったのは、曽我蕭白の『牽牛花・葡萄栗鼠図』。線(というよりも墨)がのたくってるだけなのに、なんでこんなに瀟洒なんだろう。

常設展は四ヶ月ぶりだったのにもかかわらず、染付で時間を食いすぎてかなり端折りながら見てしまった。やはり時間がないと常設展まで手が回らない。

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