2009年11月02日

『恋する西洋美術史』池上英洋著、光文社新書

『食べる西洋美術史』とは一応対になっているらしい本。だが、『食べる』に比べるとこちらのほうがとっつきやすいテーマだろう。西洋美術において、恋愛をテーマにしたものはものすごく多い。とりあえずヴィーナスを描いておけば間違いないという雰囲気さえある。

本書は、そのような数の多い恋愛に関する作品から、様々な視点で語っているものである。第一章は画家たち自身の恋ということで、「英雄色を好む」を地で行くピカソやモディリアーニ、そしてロダンにかかわったがために悲劇的な人生を送った女性彫刻家カミーユ・クローデルなどが扱われている。第二章は歴史画で恋愛を描くための最大の口実であるギリシア神話についての解説、第三章は中世や近世における理想的な女性像について、第四章は人生の墓場、結婚を描いた絵画について。

第五章は随分と直球なテーマで、いやしかし恋愛には重要な性交の場面を描いた絵画や、ヌードの扱いがどう変遷していったかについて。不倫もこの章で扱われている。第六章もその路線を継承して、娼婦や同性愛といった、タブーとされた行為についての話。前者では当然、マネの《草上の昼食》や《オランピア》も出てくる。後者においては、ゲイについては当然出てくるが、ページは少なくてもレズビアンについてもちゃんと書いているのは珍しいことで、良いことだと思う。

そして最後の第七章は「終わる愛」ということで、離婚や死別、悲恋についての絵画に焦点を当てている。当然、ミレイの《オフィーリア》は出てくる。以上のように、時代や登場する画家の順番は全くもってバラバラだが、そういうことは気にせず気楽に読むには非常に良い本で、ある程度詳しい人から全く知らない人まで全員にお勧めできる良書であると思う。それは恋愛というテーマのとっつきやすさもあるし、著者の文が上手で読みやすいというのもあるだろう。


恋する西洋美術史 (光文社新書 384)恋する西洋美術史 (光文社新書 384)
著者:池上英洋
販売元:光文社
発売日:2008-12-16
おすすめ度:4.5
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