2009年11月06日

どうせなら肖像画縛りでも良かった

シシー新国立美術館のハプスブルク展に行ってきた。本展覧会は,ウィーンの美術史美術館と,ブタペスト国立西洋美術館からの持ち出しである。さすがにヨーロッパ各地に領土が点在していただけはあって,イギリス・フランス以外の全土の画家の作品があった。

それだけに,普通のハプスブルク展といえば看板娘になる,スペイン・ハプスブルクのマルゲリータ王女は,今回「一人」しか来ていない(もっとも,それでもビラでは立派に看板娘を務めていたが)。ルネサンス期の作品もなかったわけではなく,デューラーもいればクラナハもいたし,ヴェネツィア派がやたらと充実していて,ジョルジョーネ,ティツィアーノ,ヴェロネーゼ,ティントレットと全員そろっていた。別にトスカーナ派の所蔵品だってあっただろうに,これは選別者の趣味か。スペイン・ハプスブルク由来のルーベンス,ベラスケス,エル・グレコもいた。

これだけ豪華であるがゆえにやや残念なのは,雑多に集めてきたという印象が強く,豪華なだけで理念やまとまりに欠く展覧会ではあった。まあ,そういうことを新国立美術館に求めてはいけないのだろうけど。


しかし,最大のハイライトは歴代ハプスブルク君主の肖像画であって,カール6世の肖像画から,11歳のマリア・テレジア,シシーこと皇妃エリザベート,そしてほぼ最後の皇帝フランツ・ヨーゼフの肖像画が立ち並ぶ様子は圧巻であった。あの肖像画ゾーンの,歴代君主の業績を語るだけでも,十分ヨーロッパの歴史を再現することになろう。後から考えれば,肖像画は実は8点しかないのだが,あれはインパクトが大きい。

肖像画縛りでも十分人が呼べたのではなかろうか,と思うとなおさら残念ではある。しかし,あのシシーの肖像画は,ぜひとも見ておく必要があるだろう。それにしてもシシーは美しい。近代の人間の肖像画で,あれだけ彼女の奔放な性格からにじみ出るような輝きが,リアルに伝わるものというのも珍しい。


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