2009年11月30日

客席も土俵も元気が無い

今場所は全体として、正直あまり褒められる出来ではなかった。星の取り合いとしては見所が前頭中盤の力士の二桁取りが多かった点と白鵬の全勝優勝くらいにしか無く、朝青龍は仕方ないにしても大関陣が総崩れに三役が壊滅。優勝争いとしても中日を待たずに三人に絞られ、12日目で琴欧洲と朝青龍が崩れると白鵬が独走した。相撲内容としても機敏な動きを見せたのは白鵬と栃ノ心、豊ノ島、雅山くらいなもので、残りは引いたりはたいたり、張り差しや変化で何とか白星を拾いあうという散々な状況であった。個人的な恨み節を述べるならば仕事で疲れて帰ってきて卒論の作業の合間の二時間がこれでは気合も入らない。

特にはたきこみの多さは先場所からの続きで、何よりはたかれる奴も悪いという意識を強く持ってもらいたい。盛期の千代大海や雅山のような、突いてから芸術的なタイミングではたく、というのであれば別に文句は言わない。だが、残念なことに大概の場合は下手なはたきに腰が据わってないがゆえに食らってしまい惨めに土俵に這い蹲るというパターンが多く、とても見てられない。ようやく張り差しの流行が息を潜めつつあると思ったらこれである。


そういうわけでさっさと個別評価に映ることにする。まず全勝優勝の白鵬だが、前半はそこまで調子が良いというわけではなさそうに見えた。しかし、朝青龍のお株を奪うかのような尻上がりで調子を上げていった。後からぶつかる上位陣はたまったもんじゃなかっただろう。今が彼の全盛期だろうが、朝青龍の全盛期ほどの圧倒的存在感が無いのはやはり相撲の取り口のせいだろうか。落ち着きすぎているくせに、隙が無いわけじゃないという中途半端さはいかんともしがたい。相変わらず伝家の宝刀は左の上手であり、これが最強の武器にも(とれなかった場合の)弱点にもなりつつある。あと、褌が緩いのをどうにかしてほしい。

なお、これで白鵬の横綱昇進後の戦績は225戦201勝24敗で勝率.893、86−4という今年の本場所に限れば.956という極めて圧倒的な成績である。もちろん、両方とも(年6場所制の)大相撲の歴史における最高勝率である。加えて、当時史上最速ペースと言われた朝青龍の12回目の優勝は平成17年5月場所で、彼が約24歳8ヶ月の頃だが、今回の白鵬も24歳8ヶ月での優勝12回目だったりする。朝青龍はそこからわずか10場所中8場所優勝し26歳4ヶ月での20回に乗せた。白鵬の場合、あの頃の朝青龍よりは周囲に難敵が多いが、これからどれだけ優勝できるのか注目である。

その朝青龍であるが、前半こそその荒々しさや危なっかしさも含めてらしい相撲が多かったものの、九日目の把瑠都戦がキーポイントであった。珍しく白鵬が把瑠都相手に苦戦しなかったと思ったら、今場所は朝青龍が捕まった。翌日の弱った千代大海と翌々日の魁皇までは難なくこなしたが、その次の日馬富士までは体力が残っていなかった。それでも横綱としての成績は維持したと言っていいだろう。なお、年間では72−18で綺麗に勝率8割だったりする。


書くのも億劫な大関陣だが、琴欧洲は終盤失速したものの崩れたのは朝青龍と同タイミングと考えると彼の責任は軽いし、平幕で負けた安美錦(6−10)と豊ノ島(5−6)の二人はそもそも大の苦手で、それ以外の3敗は大関以上の相手だから及第点としても問題あるまい。今年1年としてみても61−29で.678、全て9−6以上という安定感は両横綱に次ぐと言ってもいいだろう。

日馬富士は膝が悪すぎたという点では同情できるが、それにしてもぱっとしない成績であった。前に出る相撲ならとれるが一度でも圧力に屈して引くともう下がりどまれない。朝青龍に勝ったのは褒められるが白鵬に負けたのはややいただけない。また、鶴竜戦で見せたダメだしを、我々は忘れてはならない。年間では59−31。当初から横綱にはならず名大関になっていくのではないかと言われて始まった今年であったが、1回優勝したものの序盤に早々に崩れるあたりむしろどんどん第二の魁皇、琴光喜化しつつある。来年は真価が問われることになりそうだ。

琴光喜は千秋楽で7−7の魁皇に勝ってくれたら評価を見直そうかと思っていたがそんなことはなかった。魁皇は年間8−7グランドスラムという偉業(笑)を達成した。ちなみに、関脇時代の琴光喜がH17.11からH18.9まで6場所連続8−7を達成しているが、年間としては魁皇が初である。もうやだこの連中。ついでに書くと琴光喜は年間で47−40−3休。魁皇は書くまでもないが48−42である。ちょっと互助会については別記事で改めて書こうかと思う。

お疲れ様千代大海関。正直関脇千代大海なんて見たくもないし、6敗の時点で引退とか日程荒らしとしか思えない。


関脇に移り、把瑠都は9−6で収まったのが不思議なくらい相撲の型が崩れていた。それでも9勝するのは地力がついた証拠とポジティブにとらえたい。逆に言えば、関脇で9勝していながら全く活躍のイメージが無いというのは、それだけ不調が目立ったということでもある。より悪いのが鶴竜で、終盤は変化を多用し千秋楽では大相撲には珍しいブーイングまで食らっていた。こちらも、それでも7−8にまとめたのは地力の証明か。千代大海を含めた大関横綱戦は魁皇以外に勝てず1−6に終わったが、下位に対しては6−1で同格の把瑠都に負けたのが負け越し点となった形になる。それだけに、千代大海戦で負けているのが惜しすぎる。

小結、稀勢の里は悪すぎて書くことがない。どうやら詰めが甘いという弱点が修正されることは無いらしい。それに比べると結果7−8でも相撲内容に見るべきところがあった豪栄道は救いがある。運があれば勝ち越していただろう。前頭上位陣は本当に見るも無残で、琴奨菊は二桁だがこれは別に特別なことではない。琴奨菊の場合、何場所か連続して勝ち越せないことに問題がある。本当にダメダメだったのが栃煌山で、戦績も5−10なら内容も酷かった。前まわしを取って押していくという型がほとんど見られなかった。北勝力もなぜ勝ち越せたのかがわからない。周囲が不調すぎた。岩木山にいたっては2−13。その中では武州山が6−9だが、がんばりは見せていたように思う。彼の地力がまだ幕内上位ではないということだ。

前頭中盤に移る。豊ノ島は11−4だが前頭5では彼の地力からすると当然であろう。彼もエレベーター化しているのが本当の問題である。前頭6の旭天鵬もこの番付にしては8−7は物足りない。豊真将は前頭7だったのに6−9はもうどうしちゃったの。今場所は腰に粘りがなかった。そんなのは豊真将ではない。この中で光っていたのはやはり12−3の栃ノ心と雅山で、特に栃ノ心は小柄な把瑠都と言うべきか、とんでもない膂力の持ち主で組みさえすれば前頭中盤の連中では寄せ付けない強さをつけたというのを見せ付けてくれた。先場所は初の上位陣挑戦で大崩れして、来場所は二度目の挑戦ということになるが、期待をかけても良さそうだ。


今年1年、殊勲賞が一度も出なかった。殊勲賞の場合、優勝争いに何かしらの影響を与えた勝ち星を残し、かつ本人は優勝争いに絡まなくていいから(=8−7でも良いから)勝ち越せば与えられる賞である。しかし、たとえば白鵬に土をつけた翔天狼は1−14で終わり、白鵬はこれ以外の金星を一個も配給していないし、それ以外の優勝・同点力士も日馬富士含めて互いにしか負けていないため、このような結果となった。両横綱+日馬富士、琴欧洲の4人と、それ以外の関取の力量差が、縮まるどころか広がったと思わせるような一年間であった。今年一年で地力が伸びたとはっきり言えるのは、把瑠都、鶴竜、栃ノ心くらいなものであろう。しかし、これでようやく千代大海は消えそうだ。来年こそは、魁皇と琴光喜を引退に追い込めるような、幕内上位陣に流動性が増すような、若手の三役定着を期待したい。


千代大海はどこに配置されるのかよくわからなかったので、とりあえず関脇を張り出させて東の正位置に置くことにした。鶴竜は終盤の変化連発が考慮されれば、小結残留が消滅する可能性もある。その場合は、栃ノ心の新小結か雅山の再小結が検討される。これ、鶴竜が6−9に終わっていたら編成会議は相当紛糾したのではないか。

しかも幕内下位が大きく負け越した者が多い上に、十両が優勝ライン10−5で巴戦という大混戦に陥ったため今ひとつ入れ替わらない。


2009年九州場所

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この記事へのコメント
岩木山が悲しいほど勝てなかったのと、猛虎浪が初の勝ち越しだったかな、その二つだけを記憶しておきたいと思いました。
なんか変な場所でしたね。
Posted by EN at 2009年12月01日 09:58
岩木山ファンのENさんならそう来ると思って必死に彼にかける言葉を考えた結果が↑の文章なんですがw、残念ながら今場所はちょっとかける言葉がありませんでした。
上半身はまだしも、足が出ずに簡単にはたかれてたのが最大の原因でしょうね。
しかし、彼ならまた調子を取り戻して番付を上ってきてくれることでしょう。
先場所まで0-16だった垣添戦初勝利もなにげに好材料。

猛虎浪は幕内三場所目で初の勝ち越しだそうで、これで大負けしない限り、何場所は残留できそうです。未来ある力士の一人ですね。
Posted by DG-Law at 2009年12月01日 23:15