2010年01月14日

第154回『カペー朝 フランス王朝史1』佐藤賢一著、講談社現代新書

最初発見したときなんというマニアックなタイトルをつけたもんだ、と思った新書。フランスの王朝といえばブルボン朝であり、ヴァロワ朝や、ましてやカペー朝なんて一般には全く知られていない。

カペー朝とは、フランス最初の王朝であり、350年にわたりフランス王家を継いだ一族である。「フランス王国を支配した一族」と書かなかったのは、書けなかったからである。中世ヨーロッパとは封建制の世界であり、封建制とは言ってみれば極端な地方分権の状態であるから、各国の王とは名ばかりの王で、とてもその支配が行き届いたとは言えない状況であった。

そこから時代が進むにつれ、各王家は中世の長きに渡って様々な方法で自国の統一を図り、結果的に一早く成功したフランスとイギリスが近世以後ヨーロッパの、ひいては世界の覇権を握っていくことになる。ただし、この二国のその過程はまったく異なる。イギリスの場合、ジョン欠地王のマグナ・カルタ是認を始めとして議会権力の伸張がそのまま国家の統一へとつながっていく、という特殊な道筋をたどった。それに比べると、名ばかりの王が次第にそれ相応の実力を蓄えていく、という随分わかりやすい「王道」を辿ったのがフランスであり、その主人公こそがカペー朝歴代の王であった。

初代のユーグ・カペーという男は名ばかりの王を体現したような凡人で、その実質的な領土もパリ周辺に過ぎなかった。しかし、彼はカペー朝の「長生きし、子を残し、生前のうちに後継者を定めることで内紛を避ける」という家訓のようなものを残した。歴代の凡庸な王たちはこれに従った。その結果がたった14人で約340年、断絶の原因となった最後3人の怪死を除けば、たった11人で約330年王朝が続いたという珍記録達成となった。江戸幕府が15人で260年ということを考えれば、一人当たりの在位年数の長さと、にもかかわらず極めて内紛が少なかったという二点は非常に特徴的である。

そして歴代の王の宿願は引き継がれ、ついにフィリップ2世、ルイ9世、フィリップ4世という三人の名君を輩出し、名実の伴った王家を誕生させることができた。本書は、その歴代の王たちの足跡を追ったものである。かくのごとく、すこぶるマイナーな歴史を追ったものであるが、おもしろい。凡人は凡人なりにどう動いたか。傑物はいかにフランスを導いたか、とくとご覧あれ。


カペー朝―フランス王朝史1 (講談社現代新書)カペー朝―フランス王朝史1 (講談社現代新書)
著者:佐藤賢一
販売元:講談社
発売日:2009-07-17
おすすめ度:4.5
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