2010年01月25日
去年と同じ幕開け
意外とこうなる可能性も予測できていた、というと嘘っぽく聞こえるだろうか。正直に言えば、確かに白鵬優勝で固いと思っていたし、3敗までするとはとても考えていなかった。だが、朝青龍はまだ引退するまでに2、3回は優勝すると、去年のいつだったか書いたと思ったが、その中の1回であると考えれば、別に今回の彼の優勝は不思議なことではない。
ただ、朝青龍が強くなった、復活した、と見る向きは根本的に誤りである。今場所は白鵬、琴欧洲、把瑠都が一方的に崩れていったに過ぎない。内容のある良い取組が多かったように思うが、それは個々の力士ががんばったからであり、白鵬と朝青龍に焦点を絞れば、優勝争いを独走したこの二人こそ、普段の力が出ていなかった。にもかかわらず独走状態だったというのが、今の状況の病理の深さなのかもしれないが。この病理を改善させるには、琴欧洲では荷が重すぎたし、把瑠都ではまだ時期尚早であった。
まあ、内容のある相撲が多かったのは素直に喜んでおきたい。しかも、普段は名前を挙げないような、豊響であるとか、白馬、土佐豊といった面々が活躍したのはおもしろかった。しかし、逆に若干潰しあった感があって、結果的に11・12勝したのが平幕で豊響と安美錦の二人だけというのは、少し残念である。10勝まで見るとけっこういるのだが。あとは、千代大海引退と大崩れした力士が多かったことにより、激しい番付変動が予想される、というくらいで今場所の総評としたい。
個別の寸評。まずは優勝した朝青龍。前述の通り、特に調子が良かったわけではない。本当に調子がよければ、豪栄道に負けるなどという"失態"はおかさなかったであろう。千秋楽の白鵬戦は何か気が抜けていたように見えた。そもそもドルジダンスを封印(本人曰く「忘れてた」)し、おまけに立会いを一人でつっかけたあたり、もうダメダメな千秋楽であった。あそこで闘志をむき出しにできないということは、気力のほうにも衰えを感じる。それでも、いまだその実力は二強の一角であり、今場所も琴欧洲戦の「かいなひねり」に把瑠都戦で見せたすばやい回り込み、稀勢の里戦での強烈な張り差しなど、戦術と早さで勝つ朝青龍らしい強さは見せ付けた。
白鵬。寸分の狂いもない機械ほど、一度故障すると直らない。これとしかいいようがない。彼もまだ所詮24歳ということで、納得していただくしかないだろう。連敗翌日の琴欧洲戦にはなんとか勝ったが、動きはおかしなままだった。千秋楽もよく勝てたもんだ、朝青龍の気が抜けてなかったらダメだっただろう。しかし、気になるのが一番ある。まず、絶対的な伝家の宝刀であり昨年一年間破られることの無かった黄金の左上手が、今場所になって把瑠都に破られたこと。これが自信喪失にならなければいいが。日馬富士、魁皇との二連敗は、日馬富士が会心の一番を見せた、魁皇が立会い変化した、という点も考慮すると不運ではあった。
大関陣。まず琴欧洲。終盤の失速は見慣れたものだが、それでも「今場所こそは」とファンに期待を持たせてくれるだけの実力はある。本当に、内股になると踏ん張りがまったくきかなくなる悪癖と連敗癖さえなくせれば、今年中にも横綱になれるのだが。嘉風と豪風に敗れた二番は特に悔やまれることだろう、100%自滅なのだから。日馬富士、内容は特に悪くなく、きっちりと二桁勝った。やはり、特に白鵬を破った一番は評価できる。逆に、魁皇に油断して負けた一番だけはいただけない。まあいろんな意味で、「未来の名大関」らしい場所だったのでは。
魁皇、なんと9−6で七場所連続8−7の新記録を自ら阻止。いや、良いことなんだけど。実際、白鵬戦の変化しての勝利がなければ今場所も8−7ではあった。動きはいつも通り。まあ右上手とると豪腕だよね。琴光喜……はノーコメントでいいですかね。
関脇に移って、把瑠都。滑り出し好調で思わずあんな記事書いちゃうほどだったが、やはりまだ彼も若い。豊ノ島に負けた一番だけはどうにも擁護が苦しい。緊張でコチコチになっていたのは確かである。朝青龍に負けたのはいたし方あるまい。問題はその後で、狂った調子は取り戻せず、ごまかしながら地力のみで取る苦しい取組が続いた。いつ崩れてもおかしくないながら、大関取りの意地か、結果負けずに千秋楽まで続いたのでほっとしている。しかし本当に惜しい。豊ノ島にさえ勝っていれば、来場所からほとんど確実に大関だったのに。それどころか、優勝同点で決定戦だったのに。千代大海については別個の記事で。
小結。琴奨菊はエレベーターお疲れ様です。今場所は旭天鵬に逆にがぶられるなど良いところが少なかった。しかし、その徹底したアンチ・ユルフンの姿勢は評価する。鶴竜負け越し。敗戦相手を見ると、取りこぼしと言えそうなのは十日目の豪栄道くらいか。次期大関期待度としては把瑠都の次だったが、かなり引き離されてしまったような気はする。それでも、稀勢の里よりはまだ高い。技術はあるし万能なのだが、これといった必殺技が見当たらないような気はする。あと、若干日によってむらっ気があり、立会い変化に弱いところも見受けられる。
前頭上位。豊ノ島はまあこんなもんだろう。帰り小結だが期待はしてない。小兵らしい相撲で把瑠都と日馬富士を討ち取り、優勝争いに影響を与えたのは評価できる。栃ノ心は二日目の白鵬戦で、右肩から右腕にかけて全壊したのが全てだった。その中でうまくとっていたという印象は残った。豪栄道負け越しは残念である。鶴竜の負け越し同様、紙一重であった。雅山と北勝力はエレベーター。稀勢の里は9−6だが大関以上に勝ち星なし。二日目、把瑠都に勝ったのが嘘のようである。形は良いんだけどあと一歩攻めきれない、というのがどうにも直らない。
垣添、序盤調子よく、今場所千代大海と北勝力に代わる押し相撲力士は彼か、と思っていたが、やはり地力が上位のものではなく跳ね返された。旭天鵬は意外とあっぷあっぷの勝ち越し。時天空、玉鷲あたりに負けたときはもうダメかと思った。武州山、足が出ず上半身だけで取った結果が3−12。安美錦、11−4で技能賞は立派だが、この番付ならばむしろ当然だろう。エレベーターというほど普段下がりもせず、比較的負け越しても小規模でずっと上位陣にいる彼なのだから。確かに今場所、鋭い立会いは多かった。
あと挙げるべきは若の里か。完全にベテランの力士で、最近は目立ちもしなかったが、今場所は前頭中盤でなら存在感は出せるというところを見せてくれた。魁皇同様、腕力は年をとっても衰えないものなんだな、と思った。危機感を覚えるのは高見盛と朝赤龍で、二人ともこんな番付で負け越すような地力ではなかったはずなのだが、以前のような攻めができなくなり、不本意な負け方をよく見るようになった。
前頭下位。阿覧は今場所力をつけた場所となった。力に頼るだけではなく技を出そうとする姿勢が見られたし、取り口がやや慎重になった。来場所、おもしろくなるかもしれない。土佐豊も良かった。もろ差しから一気に出る相撲を身につけたか。岩木山、自身初の8連勝を含み9−6。らしい、力強い相撲は多かった。白馬も9−6。久しぶりの帰り入幕だったが、前回の幕内でボロボロに負けたのが教訓になったそうだ。モンゴル人らしい技のうまさがあった。最後に、幕尻ながら12勝をあげ敢闘賞をとった豊響。平成の猛牛が戻ってきた。実に気持ちの良い押し相撲っぷりであった。
ただ、朝青龍が強くなった、復活した、と見る向きは根本的に誤りである。今場所は白鵬、琴欧洲、把瑠都が一方的に崩れていったに過ぎない。内容のある良い取組が多かったように思うが、それは個々の力士ががんばったからであり、白鵬と朝青龍に焦点を絞れば、優勝争いを独走したこの二人こそ、普段の力が出ていなかった。にもかかわらず独走状態だったというのが、今の状況の病理の深さなのかもしれないが。この病理を改善させるには、琴欧洲では荷が重すぎたし、把瑠都ではまだ時期尚早であった。
まあ、内容のある相撲が多かったのは素直に喜んでおきたい。しかも、普段は名前を挙げないような、豊響であるとか、白馬、土佐豊といった面々が活躍したのはおもしろかった。しかし、逆に若干潰しあった感があって、結果的に11・12勝したのが平幕で豊響と安美錦の二人だけというのは、少し残念である。10勝まで見るとけっこういるのだが。あとは、千代大海引退と大崩れした力士が多かったことにより、激しい番付変動が予想される、というくらいで今場所の総評としたい。
個別の寸評。まずは優勝した朝青龍。前述の通り、特に調子が良かったわけではない。本当に調子がよければ、豪栄道に負けるなどという"失態"はおかさなかったであろう。千秋楽の白鵬戦は何か気が抜けていたように見えた。そもそもドルジダンスを封印(本人曰く「忘れてた」)し、おまけに立会いを一人でつっかけたあたり、もうダメダメな千秋楽であった。あそこで闘志をむき出しにできないということは、気力のほうにも衰えを感じる。それでも、いまだその実力は二強の一角であり、今場所も琴欧洲戦の「かいなひねり」に把瑠都戦で見せたすばやい回り込み、稀勢の里戦での強烈な張り差しなど、戦術と早さで勝つ朝青龍らしい強さは見せ付けた。
白鵬。寸分の狂いもない機械ほど、一度故障すると直らない。これとしかいいようがない。彼もまだ所詮24歳ということで、納得していただくしかないだろう。連敗翌日の琴欧洲戦にはなんとか勝ったが、動きはおかしなままだった。千秋楽もよく勝てたもんだ、朝青龍の気が抜けてなかったらダメだっただろう。しかし、気になるのが一番ある。まず、絶対的な伝家の宝刀であり昨年一年間破られることの無かった黄金の左上手が、今場所になって把瑠都に破られたこと。これが自信喪失にならなければいいが。日馬富士、魁皇との二連敗は、日馬富士が会心の一番を見せた、魁皇が立会い変化した、という点も考慮すると不運ではあった。
大関陣。まず琴欧洲。終盤の失速は見慣れたものだが、それでも「今場所こそは」とファンに期待を持たせてくれるだけの実力はある。本当に、内股になると踏ん張りがまったくきかなくなる悪癖と連敗癖さえなくせれば、今年中にも横綱になれるのだが。嘉風と豪風に敗れた二番は特に悔やまれることだろう、100%自滅なのだから。日馬富士、内容は特に悪くなく、きっちりと二桁勝った。やはり、特に白鵬を破った一番は評価できる。逆に、魁皇に油断して負けた一番だけはいただけない。まあいろんな意味で、「未来の名大関」らしい場所だったのでは。
魁皇、なんと9−6で七場所連続8−7の新記録を自ら阻止。いや、良いことなんだけど。実際、白鵬戦の変化しての勝利がなければ今場所も8−7ではあった。動きはいつも通り。まあ右上手とると豪腕だよね。琴光喜……はノーコメントでいいですかね。
関脇に移って、把瑠都。滑り出し好調で思わずあんな記事書いちゃうほどだったが、やはりまだ彼も若い。豊ノ島に負けた一番だけはどうにも擁護が苦しい。緊張でコチコチになっていたのは確かである。朝青龍に負けたのはいたし方あるまい。問題はその後で、狂った調子は取り戻せず、ごまかしながら地力のみで取る苦しい取組が続いた。いつ崩れてもおかしくないながら、大関取りの意地か、結果負けずに千秋楽まで続いたのでほっとしている。しかし本当に惜しい。豊ノ島にさえ勝っていれば、来場所からほとんど確実に大関だったのに。それどころか、優勝同点で決定戦だったのに。千代大海については別個の記事で。
小結。琴奨菊はエレベーターお疲れ様です。今場所は旭天鵬に逆にがぶられるなど良いところが少なかった。しかし、その徹底したアンチ・ユルフンの姿勢は評価する。鶴竜負け越し。敗戦相手を見ると、取りこぼしと言えそうなのは十日目の豪栄道くらいか。次期大関期待度としては把瑠都の次だったが、かなり引き離されてしまったような気はする。それでも、稀勢の里よりはまだ高い。技術はあるし万能なのだが、これといった必殺技が見当たらないような気はする。あと、若干日によってむらっ気があり、立会い変化に弱いところも見受けられる。
前頭上位。豊ノ島はまあこんなもんだろう。帰り小結だが期待はしてない。小兵らしい相撲で把瑠都と日馬富士を討ち取り、優勝争いに影響を与えたのは評価できる。栃ノ心は二日目の白鵬戦で、右肩から右腕にかけて全壊したのが全てだった。その中でうまくとっていたという印象は残った。豪栄道負け越しは残念である。鶴竜の負け越し同様、紙一重であった。雅山と北勝力はエレベーター。稀勢の里は9−6だが大関以上に勝ち星なし。二日目、把瑠都に勝ったのが嘘のようである。形は良いんだけどあと一歩攻めきれない、というのがどうにも直らない。
垣添、序盤調子よく、今場所千代大海と北勝力に代わる押し相撲力士は彼か、と思っていたが、やはり地力が上位のものではなく跳ね返された。旭天鵬は意外とあっぷあっぷの勝ち越し。時天空、玉鷲あたりに負けたときはもうダメかと思った。武州山、足が出ず上半身だけで取った結果が3−12。安美錦、11−4で技能賞は立派だが、この番付ならばむしろ当然だろう。エレベーターというほど普段下がりもせず、比較的負け越しても小規模でずっと上位陣にいる彼なのだから。確かに今場所、鋭い立会いは多かった。
あと挙げるべきは若の里か。完全にベテランの力士で、最近は目立ちもしなかったが、今場所は前頭中盤でなら存在感は出せるというところを見せてくれた。魁皇同様、腕力は年をとっても衰えないものなんだな、と思った。危機感を覚えるのは高見盛と朝赤龍で、二人ともこんな番付で負け越すような地力ではなかったはずなのだが、以前のような攻めができなくなり、不本意な負け方をよく見るようになった。
前頭下位。阿覧は今場所力をつけた場所となった。力に頼るだけではなく技を出そうとする姿勢が見られたし、取り口がやや慎重になった。来場所、おもしろくなるかもしれない。土佐豊も良かった。もろ差しから一気に出る相撲を身につけたか。岩木山、自身初の8連勝を含み9−6。らしい、力強い相撲は多かった。白馬も9−6。久しぶりの帰り入幕だったが、前回の幕内でボロボロに負けたのが教訓になったそうだ。モンゴル人らしい技のうまさがあった。最後に、幕尻ながら12勝をあげ敢闘賞をとった豊響。平成の猛牛が戻ってきた。実に気持ちの良い押し相撲っぷりであった。
ガガ丸は優勝したんだし、一発ツモでも良かった気もしたが、いかんせん4人しか落ちてこないので枠がなかった。鶴竜を小結で残して安美錦が前頭1でもおかしくないが、一応勝ち越しを優先させた。もしくは、安美錦と稀勢の里の位置が逆になるかもしれない。この3人の入れ替えが今回の番付最難関。前頭上位陣を見るに、来場所で上位初挑戦になりそうなのは玉鷲くらいで、新鮮味に欠けるといえばそうなる。前頭下位では、新入幕の二人に期待しよう。
Posted by dg_law at 21:05│Comments(2)│
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この記事へのコメント
序盤に連勝を続けた下位の力士がいて、中盤に横綱が1敗ずつになって盛り上がり、終盤で他が崩れていって結果的にいつも通りという、良くも悪くもメリハリのあった場所でした。
岩木山は5日目まで1勝4敗でどうなるかと思いましたが良かった。最後の2日の連敗はあっけなかったけど。
猛虎浪はあんまりいいところがありませんでしたね。
時天空が怪我をした日に見に行ったのですが、高見盛が勝つと外国人団体客のおばさんが両手を上げて興奮していて、ワールドワイドな人気だなあと思いました。
岩木山は5日目まで1勝4敗でどうなるかと思いましたが良かった。最後の2日の連敗はあっけなかったけど。
猛虎浪はあんまりいいところがありませんでしたね。
時天空が怪我をした日に見に行ったのですが、高見盛が勝つと外国人団体客のおばさんが両手を上げて興奮していて、ワールドワイドな人気だなあと思いました。
Posted by EN at 2010年01月26日 11:05
高見盛人気すごいですねw
考えてみればもう長いわけで、完全に幕内の目玉ですね。
彼が引退した後が怖いなぁ。
優勝争いは大関陣が加われないならせめて、横綱相星決戦が見たかったところです。
意外と相星決戦となると少ない。
考えてみればもう長いわけで、完全に幕内の目玉ですね。
彼が引退した後が怖いなぁ。
優勝争いは大関陣が加われないならせめて、横綱相星決戦が見たかったところです。
意外と相星決戦となると少ない。
Posted by DG-Law at 2010年01月26日 19:33