2010年04月04日

日本相撲協会の「(帰化しても)外国人は部屋に一人」についての話。

・帰化でもダメ、外国力士「1部屋1人」徹底通達 : 大相撲 : スポーツ : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

記事そのものがすでに無いので、はてブのページを。さて、ブコメを読めば大体わかる通りだが、相撲協会は帰化しても「1部屋1人」を徹底させるそうである。これが人種差別にあたることは、まあ説明するまでも無いことだろう。ただ、普段相撲に関心が無い人、特にアンチ在特会、アンチネット右翼で活動している皆様には、あまりとやかく言って欲しくない問題である。正直な話、私自身ブコメで「最悪」と書いている通り、これはひどい政策だが、どうもブコメをしている人たちの大半はこれをダシにしてアンチレイシズムをうたいあげたいだけのようであり、それならば私は多少言うべきことがある。なぜなら、ことはそれほど単純ではない。在特会ほど簡単にたたけるものではない。


基本中の基本から書いていく。そもそも、なぜ「外国人(国籍)は1部屋1人」ということになっているかと言えば、別に日本人力士の地位が脅かされているからではなく、親方が面倒を見切れないからである。あまり知られていないことだが、大相撲の世界というのは超縦社会であり、かつ完全なピラミッド構造である。テレビに出られるのは幕内42人と、せいぜいその下の十両28人くらいまでで、幕下以下約七百人はじっと下積みをするのみである。なお、関取と読んでいいのは十両以上の70人であり、それ以下の正式な名称は「力士養成員」である。給料も段違いで、十両以上は年収1千万を超えるが、その一つ下の幕下は年収はたった90万である。どうやって生活しているかというと、協会から構成員の数に従って補助が支給されるほか、部屋に関取がいる場合、彼らが数百万単位で部屋に寄付して彼らを食わせる形になる。部屋にいる関取の数が生活水準を決めると言っても過言ではない。尾上部屋など、把瑠都が出たから部屋の建物を新築できたようなものだ。そもそも尾上部屋は分離して誕生(正式には復活)した新設の部屋で弟子の数そのものも比較的少ない。

加えて、現在の大相撲というのは非常に多国籍化している。モンゴル時代だとか東欧時代だとか言うのは、それはそれで間違っていないのだが、その内実を知っていなければいかにも表面しか見ていない人の言葉であり、実際には中国人やカザフ人、チェコ人、ブラジル人等の力士もいる。韓国人の春日王が長らく幕内、十両で取っていることすら知っている人は意外と少ないのではないだろうか(特に自称国士の皆様方は知っておいでだろうか)。「素行の悪い」(としばしば報道される)モンゴル人だけ何とかすれば良いという話ではないし、モンゴル人専用のマニュアルを作れば対処できる問題でもない。(※ 誤解のないように言っておくが私個人は春日王を嫌いではなく、やや引く癖は強いものの右四つの強い見所のある関取である。また、モンゴル人の素行が他の外国人・日本人と比べて格段に悪いとも考えていない。)

そして、確かに外国人はハングリー精神があるし、身体作りががっちりしていて出世も早い。そもそも、日本人なら意志があって身長・健康診断でさえ合格すれば誰でも入門できるが、外国人はモンゴル相撲やレスリングの経験者に「日本で成功すれば高給取りになれるよ」と声をかけて引っ張ってくるので、入門時点での平均的な素質自体が違っている。が、実は出世できずに幕下以下で苦労している外国人力士もまた多い。環境になじめず実力が発揮できない場合もあるし、そもそもそこまでの才能ではなかったという場合もある。相撲には常にケガもつきまとうので、それで人生が変わってしまう人もいる。


ここまで書けば何を言いたいかは大体想像していただけると思うが、いかに素行や性格が良かろうとも、日本語もわからず金もない、あるのは体力とハングリー精神と若さだけしかないという外国人を面倒見るというのは、それだけでも大変な苦労が伴う。それも部屋に1〜3人ほどしかいない親方が、他に何十人も日本人を抱えた状態で、そのすべての責任を負うことになる。これは品格というよりも、日本語と日本の生活様式に馴れてもらうための教育の話なのだ。

だったら外国人をつれてこなければいいのではないか、スカウトしなければいいのではないか、という意見もあるかと思うが、それには上記の金銭的事情が伴う。誰でもいいから一人でも関取を増やさないと、部屋の経営が成立しない。ちゃんこの具が日一日と減っていく感じになるか、後援会が相当援助するか、親方の貯金がどんどん切り崩されることになる。現在弟子の中では幕下が最高位の貴乃花部屋なんて、確か相当経営が苦しかったはずだ。そうすると、一人一人じっくり育成するよりは、芽の出そうなのを大量に抱えて育成したほうが楽になる、と考える親方も中には出てくる。そうした親方には、半ば非人道的に外国人弟子を帰化させる人も出てくるだろう。

共通の外国出身力士向けの研修制度が無い、というのも確かに問題である。しかし、ほんの十年ほど前まではハワイ出身とモンゴル人しかおらず、数も少なかった。むしろこの段階で「外国人は1部屋1人」に規定した協会はそこそこ先見の明はあったように思う。ただし、その後が非常に後手後手で、年々増加し続けた外国人力士に抜本的な対策をとらなかったという点においては、まったくの怠慢としか言いようがないが。


要するに事の発端は親方一人にかかる苦労と責任があまりにも過大であることと、部屋・給料制度の疲弊による経済的困難であり、これらが改善されないまま外国人の数だけが、それも投機として、飛躍的に増加し続けていることである。これらを改革するのは膨大な労力と時間がかかる。北の湖時代はともかくとして、武蔵川理事長になってからけっこういろいろ変わってきている。しかし、北の湖時代以前の無変化が長すぎて、いまだ時代に追いついていない。しかし、外国人力士対策は喫緊の事情になってきた。そこで打たれたのが今回の決定ということになるだろう。(もっとも、武蔵川さんも部屋というシステムや現行の給料制度にはメスを入れたがらないだろうが……それが大相撲の伝統でも重要な部分の一つと考えているだろうし……)

おそらく非常にまずいことだと知りつつ賛成せざるをえなかった親方もいるだろう。もちろん、人種差別ということを全く意識せずに賛成した親方もいるだろう(彼らに関してはレイシストとしてたたかれても仕方が無い)。繰り返すが、ブコメで「儀礼・国技としての排他性の維持」が目的と推察している人がほとんどだが、それは少々大相撲に対する見識不足である。外国人排斥に動いたわけでもなく、むしろ今後一層外国人力士・「関取」の数は増えていくことだろう。そして協会はそのことに反対ではない。もちろん日本人敗北宣言でもない。「スポーツとしての相撲と神事としての相撲が混在するのが問題」というのも少し困惑する見当違いである。なんというか、レイシズム叩きたいならちゃんと調べてからにしてほしい。

まあ、弟子の虐待死事件とかあったし、日本相撲協会を信用できないのもわかるのが悲しいところだが。ついでに言うなら、外部理事に元検事長と外部監事に元警視総監がおられるので、憲法違反の指摘は入っていると思う。



この記事へのトラックバックURL