2010年10月29日

俺たちに翼はないAfterStory レビュー

FDにもその内容によっていろいろ種類があるが,これは確かにアフターストーリーであって,本編の補完的内容であった。それはいちゃラブという点でもその通りだが,本編に入れるべきであったがどうにも入らなかったエピソードをちゃんとやってくれたという点においてむしろ強調されるべきであり,評価されるべきであろう。特に,「選ばれなかったヒロインがその後どうなったのか」というのは本作品の性質上非常に重要であった。全体としては,本編のノリは全く変わっておらず,相変わらずテキストが楽しいため質としては全く問題が無い。本編が好きなら普通に楽しめるだろう。

値段とボリュームに文句が出るのは当然である。あまりこの点について書かない私だが,本作については書かざるをえない。アクティベート起動にされると中古で買い取り拒否になるので,事実上の値段が上がることまで踏まえると,この量でフルプライスは明らかに高い。まあ,半分はお布施と考えるほか無い。


以下,ネタバレ。主に二つの場面についてだけ詳しく書く。


・その後のタカシ
タカシ編の場合,見所は明日香というよりも,まさに「タカシ」である。覚醒すればタカシってこんなにイケメンなんだなぁ,と。鷲介の機転と隼人の勇気があわさり本当に最強に見える。それでいてタカシらしさは失っておらず,これは明日香の惚れたタカシそのままだろう。明日香は苦労しそうだが同時に非常に楽しんでいて大変よろしい。少しだけ腰の落ち着いた彼女はツボではないにしても,文句無くかわいかった。ただし,明日香自体の見所はむしろ他のシナリオにおいてある。

他のヒロインについて。京はあんなもんじゃねーかと。タカシがR-ウィングに深入りしなければ普通の仲の良い友達で終われただろうし,その普通の状態に戻っただけども言える。こう言っちゃなんだが,彼女のローテンションはもはや一種の芸である。ハリューのアレと一緒。鳴はルートに入らなければそもそもフラグが立ってないわけで。リンダの人は……サブヒロインらしいサブヒロインでした。コーダイン同様報われないからこそ光るキャラである。7兆点優勝は爆笑した。

さて,小鳩。本作品2番目に重要なシーンであろうし,このシーンのためにASがあったと言っても過言ではあるまい。小鳩の苦労をねぎらってあげられるのは,タカシ本人や,ましてや鷲介や隼人ではなく,明日香であろう。これは日和子でも鳴でもできない。後者二人は,DIDに対する距離が遠すぎるからである。タカシの彼女だからこそできたことであり,京でもまた,彼女自身が病気持ちであるがゆえに不可能であった。これは明日香にしかできない仕事だ。小鳩の側も,彼女がなぜ内省的で,「兄」との関係性以外では社会性に欠けるところがあったかと言えば,それは「兄」に手がかかりすぎたからである,ということが明示され,ここに来てようやくキャラが深くなったのであった。本当に,いろんな意味で不憫な子である。

ハリューさんはいつも楽しそうでいいよな。実際のところあの人は良い人すぎる。胡散臭そうだけど見る目はある人で,タカシ君の生き様はいかにもロックでしょう。


・その後の鷲介
たまひよがひたすらかわいかった。だが,シナリオとしては全部明日香に持ってかれたところはある。

プレイヤーはInner Self Helperとして主人公たちを導く,という設定になっているとはいえ,神の視点から見れば明日香の踏み込みがあと一歩足りなかったせいでタカシが消滅したのは確かであり,しかも(少なくとも)鷲介と隼人にとっては統合が無理ならタカシが生き残ることが当初の目標であった。それだけに,鷲介がコックピットを占有するようになった段階になってから,タカシに執着されるようになっても,鷲介本人としては,複雑な感情を抱くというレベルの話ではない。鷲介としてもやりきれない気持ちにしかならず,しかも学校にいる間は四六時中タカシの話しかされないわけだから,それはもうストレスフルだっただろう。明日香にとっては逆に,振られることで,意固地になる自分は捨てられるようになるだろう(本編のストーリー同様に)。そして,振られなかったときの,成長できなかった明日香の痛々しさは,ヨージ編でよく描かれているから,よりその違いは対比される。鷲介が明日香を振るシーンは,本作(本編とあわせても)屈指の名シーンであった。

また,これも他のヒロインに注目しておくべきだろう。特に,小鳩との距離の遠さはタカシ編と対比される。これは隼人編でも同様である。リンダは明日香同様ばっさりと切った。明日香との振り方の違いは,渉外担当の面目躍如か。隼人編の面々は登場せず。

あと俊郎さん自重してください。他のエロゲ見渡してもこれだけ2ch語が自然なキャラはそういない(大体妙な使い方が多くて萎える)。雀孫が研究したのか素なのか。


・その後の隼人
前二つと比べるとそれほど書くところがあるわけでもない。それなりにおもしろかったけど,本編のおまけシナリオ的意味合いが強い。まあ,「変わらない街ギバラ」という点では意味はあった,か。このシナリオのハイライトというとやはりカケルのアトリエで鳴と鉢合わせになるシーンで,本人たちは隠してるつもりで周囲も特に暴く気もないのに,意図せず暴いちゃった感がよく出ていて,これは隼人じゃなくても帰りたくなる。

で,書くことがそれほどないというのは他ヒロインズが出てこないからであるが,隼人が学校に行かないからハリュー以外の1章メンバーとは会わず,ハリューが「お姫様が寂しがっている」と伝えるのみ(ここで「寂しがってる」と伝えるのが許されるのがハリューで,伝えられても許されるのが隼人のキャラ,たとえば後者が鷲介ならこの会話は成立しない)。アレクサンダーのバイトは続けているがそれほどつながりが深いわけではなく,日和子が鷲介をよく見ていたことが改めて提示されるのみである。小鳩とはうまくやっていこうという意志が見えるし,小鳩のほうもなつこうと頑張ってはいるが,鷲介と比べると隼人には「兄」になりきろうという意識はなく,それはそれで考えているところが彼の現実的な思考をよく表している。


・その後のヨージ
ここもそれほど語るところが,意外と無い。他の方のレビューにもあったが,なんせヨージと小鳩の物語は始まってもいない段階なのだから。2章・3章のメンバーはそれぞれのヒロイン含めてほとんど出てこなかったし,1章のメンバーも「その後のタカシ」ほどの目立ち方はしていない。短かったという点も含め,このシナリオは統合ヨージと小鳩のお披露目という意味しかない。しかし,最後の最後でヨージはよっくんの息子ということがほぼ明示されたことで,『俺つば』という物語全体の終止符を打った,必要不可欠ではあった。振り返ってみると,いろいろやっているようでほとんど必要最低限でそこを目指していたシナリオのような気がする。


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