2011年05月04日
第191回『十字軍物語2』塩野七生著,新潮社
十字軍物語の2巻は,第一次十字軍で建国された十字軍国家群の守勢の様子を描く。第一次十字軍が成功した要因は前述の通り,十字軍自体が奇襲であったこと,西欧騎士がイスラームの想定よりも強かったこと,十字軍側は団結していたのに対しイスラーム側は仲間割れを繰り返していたことの三点に寄る。しかし,「奇襲」である点は時間が経てば長所ではなくなる。また,マルサス問題の解決方法としての十字軍は現地の勢力が十分に根付いていたという大きな欠点があり,少数の騎士と商人以外はほとんど移民できる余地が無かった。このため,物流のほとんどは自給できず,敵方から買い取るか本国から輸入するかのいずれかしかなかった。(そして本書は1巻でマルサス問題をすっ飛ばしたため,案の定人口不足の説明をうまい具合に出来ていない。)
それでも奪還に燃えるイスラームがその目標を達成できなかったのは,無論十字軍側の努力もあるが,イスラーム側の指揮系統不統一に負うところが大きい。そもそもスンナ派とシーア派という宗派対立,アラブ人とイラン人とトルコ人という民族対立に加え,アラブ人もトルコ人も部族制の根付いた民族であったため,土着しても(西欧とは別方向に)封建的国家となってしまい,大軍を動員できないどころか諸侯同士が相互に対立してしまっていた。この点,対立は大なり小なりありつつも十字軍国家の建設及び維持となればそれなりに統一的意志が働いたキリスト教側との大きな違いであった。
ではその点さえも解消されたらどうなるか。部族制の国家はチンギス・ハン然り有能な君主が登場すれば大同団結する傾向があるが,元が部族制なイスラーム諸民族も同様の傾向があったということだろうか。十字軍国家がじわじわと弱体化する中で颯爽と登場し,イスラーム世界の主要地域をまとめあげ,十字軍国家の再征服に乗り出したのが,アイユーブ朝始祖のサラディンであった。
本書は第三次十字軍の直前まで時代が進む。すなわち,直接描写された十字軍は第二次のみである。1巻で述べた通り,回数だけは多い十字軍後半の第三次以降第八次まで,全て3巻収録ということになる。はっきり言って第二次十字軍はぱっとしないので本書全体もあまり起伏のない構成になってしまっているが,その分『ローマ人の物語』や『海の都の物語』のように長編然とした雰囲気があるので,逆にとても塩野七生っぽい本とは言える。地味だが活躍した男達の描写も多く,約70年も扱っている割に進行はゆっくりに感じる。逆に3巻はイベントだけは多いため,おそらくすごくせわしないことになっているか尻切れトンボになっているんじゃないだろうか,という一つの危惧はあるが,刊行を待ちたい。

十字軍物語2
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それでも奪還に燃えるイスラームがその目標を達成できなかったのは,無論十字軍側の努力もあるが,イスラーム側の指揮系統不統一に負うところが大きい。そもそもスンナ派とシーア派という宗派対立,アラブ人とイラン人とトルコ人という民族対立に加え,アラブ人もトルコ人も部族制の根付いた民族であったため,土着しても(西欧とは別方向に)封建的国家となってしまい,大軍を動員できないどころか諸侯同士が相互に対立してしまっていた。この点,対立は大なり小なりありつつも十字軍国家の建設及び維持となればそれなりに統一的意志が働いたキリスト教側との大きな違いであった。
ではその点さえも解消されたらどうなるか。部族制の国家はチンギス・ハン然り有能な君主が登場すれば大同団結する傾向があるが,元が部族制なイスラーム諸民族も同様の傾向があったということだろうか。十字軍国家がじわじわと弱体化する中で颯爽と登場し,イスラーム世界の主要地域をまとめあげ,十字軍国家の再征服に乗り出したのが,アイユーブ朝始祖のサラディンであった。
本書は第三次十字軍の直前まで時代が進む。すなわち,直接描写された十字軍は第二次のみである。1巻で述べた通り,回数だけは多い十字軍後半の第三次以降第八次まで,全て3巻収録ということになる。はっきり言って第二次十字軍はぱっとしないので本書全体もあまり起伏のない構成になってしまっているが,その分『ローマ人の物語』や『海の都の物語』のように長編然とした雰囲気があるので,逆にとても塩野七生っぽい本とは言える。地味だが活躍した男達の描写も多く,約70年も扱っている割に進行はゆっくりに感じる。逆に3巻はイベントだけは多いため,おそらくすごくせわしないことになっているか尻切れトンボになっているんじゃないだろうか,という一つの危惧はあるが,刊行を待ちたい。

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Posted by dg_law at 18:57│Comments(0)│