2011年06月30日

東方茨歌仙の要点

買って以来ネット上・リアル合計で10回以上は「華扇ちゃんかわかわ」と言っているDGさんですこんにちは。とりあえず,茨歌仙は別に華扇ちゃんを愛でるだけでも十分におもしろい漫画だが,一方でこれまでの東方に出てきた設定や文脈をよく押さえている。そこで,茨歌仙に見られる特徴でもまとめてみようかと思う。


・魔理沙は華扇に好意を持つが,霊夢は煙たがっている
魔理沙は1話の冒頭で「大胆小心な人間」と紹介されているとおり,またこれまでの設定通り,一見して傲慢不遜な振る舞いをしているが,実のところ精神的にはあまり強くなく,偽悪的なところもある。負けず嫌いで努力家だが,努力しているところは他人に見せたくない。パチュリーの図書館からは死ぬまで借りていく倫理観のくせに,他のゲームや書籍での妖怪との会話はむしろ霊夢よりも普通,など。幻想郷の標準的常識人な側面も見られ,また「普通の人間的に」俗物である。ゆえに,天人のような雲の上の存在にはまったく敬意を払わないが,身近でかつ寿命を伸ばしてくれるというご利益もありそうな仙人に対しては,きちんと敬意を払い,魔理沙にしては大変珍しく華扇のお小言はかなり素直に従っている。

一方,霊夢は魔理沙よりもお説教されるパターンが多いにもかかわらず,馬の耳に念仏状態である。これに関しては作中の小町の指摘がそのままであろう。霊夢は特殊な人間であり,魔理沙のような「邪念」で動いているわけではない。いわゆる「空をとぶ程度の能力」であり,幻想郷の守り手としてどの人妖にも等距離に接する。ゆえに多少修行した程度では軸がぶれないし,そうそう性格が変わることもない。また,ドライで等距離な付き合い方のため,霊夢は孤独になりがちな力の強い妖怪に好かれやすく,妖怪退治が生業の人間としてはやや不利に働いている。華扇もどうやら非常に力の強い妖怪のようだが,霊夢に惹かれていったのはこうした事情もありそうだ(とまでは言い切れないか)。しかし,「幻想郷の若者を糺すには,まずその象徴から」という華扇の意気込みとは違い,”等距離”が逆にたたって霊夢の側はそれほど関心がない。霊マリ華扇の,このすれ違いはおもしろい。なんというか,魔理沙さんかわいそうです(もっとも,魔理沙が書籍でそうした役割なのは今に始まったことではなく,例外は三月精の三妖精くらいなもの)。


・霊夢は修行しないのではなく,華扇のやり方が悪かった
儚月抄では紫のつけた修行が役に立っており,修行の成果そのものが第二次月面戦争の計画に組み込まれていた。一方,華扇が5話でつけた修行は,全く霊夢の性根を叩き直すことが出来なかった。これはなぜか?前述したとおり,霊夢は特殊な人間であるため(人間というよりも「カテゴリー:博麗の巫女」なのだろう),華扇の付けた修行は無に帰した。紫の付けた修行は精神修養ではなく,博麗の巫女(というよりも巫女)本来の能力を開花させるための具体的な修行であったため,霊夢は八百万の神の召喚を身につけることができた。ひとえに,仙人と賢者の違いと言えよう。霊夢や幻想郷に対する理解度の違いともいえるが。

なお,儚月抄をどの程度公式のコンテンツとして扱ってもよいかはかなり困難な問題をはらむが,一応緋想天などとのつながりもあるから公式だろうと見なすならば,茨歌仙の時間軸は儚月抄よりも後ということになると思われる。なぜなら,2話で霊夢は神降ろしを行い,どこぞのデスノートよろしく「金山彦命が一晩でやってくれました」という展開になっているが,これは儚月抄での修行の成果と見なすことができる。この場合,2話のこのシーンは5話の伏線と見なすこともできる。霊夢のことをよくわかっている紫と,すれ違う華扇。まあもっとも,パラジウム合金の錬成を頼まれれば応じる程度には,霊夢も華扇を軽んじていないとも見れるが。


・非常に信仰と賽銭にこだわる霊夢
おそらく書籍の中でも,これほど賽銭にこだわる霊夢は初めてであろう。霊夢が初期設定では割と裕福で信仰にもこだわってなかったのが,近年になって急速にこだわり始めたという変化は比較的知られているところである。この変化は緋想天で二度も神社を壊されたことによる修繕費が原因じゃないかとか,風神録で守矢神社が,星蓮船で命蓮寺が誕生したことによる危機感があるのではないかとか,いろいろ言われているがはっきりしたところはない(と思うが何かあったら教えて欲しい)。二次設定が原作に吸収された一例である(他だとパチュリーさんの服装だとか)。が,金銭欲が行き過ぎた結果,5話にて華扇に怒られることになる。華扇は一応かなり昔から幻想郷にはいたようだが,霊夢への無理解も含めて,風神録以前の博麗神社周辺をよく知らないのであろう。


・旧地獄の資金源が発覚
怨霊が鉱脈を生むという発想は非常に東方らしくて良い。霊夢や早苗が信仰(と賽銭)にこだわるところから見ても,次第に幻想郷の住人が霞を食べて生きているわけではなく,ちゃんと経済活動をしているといことが明らかになっている。まあ海がないのにどうやって塩を得てるんだとかいう疑問もあるが,そこら辺は適当にあのスキマ妖怪がなんとかしているという脳内補完は可能である。冥界も曲直庁から給料が出ていそうな雰囲気さえある。そうするとますます紅魔館の収入源だけが謎に包まれて取り残されているわけだが,今後明らかになるのだろうか(吸血鬼条約の一環で,紫が面倒みているとか?それはそれで非常に間抜けな構図だが)。


・妖怪であり仙人であるというアンビバレント
華扇の正体は茨木という苗字からしても,「片腕有角の仙人」という二つ名からしても,鬼であると見て間違いない。アンビバレントな属性の兼任は東方キャラを貫く一つのテーマであり,魔理沙からして「普通」の強調と「魔法使い」の強調の双方が行われている。咲夜も人間であり悪魔の犬,妖夢は半人半妖(幽),早苗も現人神と,人間側には特に真っ当な人間がいない。妖怪側にはあまり見られなかったが,最近になって最も顕著な例として,聖白蓮が登場した。妖怪であり聖者であるという設定は見事であった。

白蓮との共通性が興味深い。「幻想郷には真性いい人があまりいない」と言われ続けてきたが,ここに来て増えてきた印象がある。ただし,白蓮も華扇も心の底からの善人というよりは,エゴの表出としての人助けという面を隠そうとしていない。おそらく華扇も何かしらの罪を負い,鬼である身分を隠さなければならない羽目になったのであろう。一方で善人気質だったのは,おそらく鬼として暮らしていた頃も変わらなかったのではないか。むしろ善人気質であったがゆえに何かしらの大罪を負って,旧地獄にいられなくなり,妖怪の山に戻った。が,現在の幻想郷では鬼は妖怪の山にいてはならないため,身分を隠しているのではないか,小町はそのことをつかんでいるのではないか……等々の推測がつく。

『茨歌仙』は基本的に短編で,雰囲気としては『香霖堂』に最も近く,『三月精』にも近い。が,ところどころにシリアス要素が混ざっている。シリアス一辺倒は東方にあわないということを『儚月抄』で学習した成果ではないかと踏んでいるが,ゆえに急激にシリアス化して華扇の設定が明らかになることはなく,少しずつ情報が提供されていくことが予想される。うまくギャグとシリアスの融合がなされれば,東方書籍随一の傑作になるであろう。そんな期待感をもって今後も読み続けたい。


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著者:あずまあや
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この記事へのコメント
>魔理沙
意外と「やさしい」「気遣いが出来る」とかもあったね。緋想天の気質の話とかで。香霖堂では顕著だが対象が奴なのでry
意外とで「信心深い」ってのもあったような。
精神的なタフさはゲッショーのビビリっぷりが一番酷い。
星とかでもビビリながら好奇心に素直とかもあるね。

>霊夢
金山彦命といえばよっちゃん。なんてこった、対咲夜戦が茶番に……

>華扇の登場時期
これで能力に認識周りを弄って「旧来の知人のように振る舞っている」だったらかなり愉快な妄想がひろがりんぐ
というか描写からそう読み取った俺は厨二脳

>地獄の資金源
罪人が大量に流れるとハイパーインフレで財政がヤバイ
"C"見終わった直後だからそんな発想がry

>アンビバレント
不良天人とかもその範疇ですかね。

裏方仕事に定評のある小町に言及しても良かったかも。
Posted by kome at 2011年06月30日 02:27
>精神的なタフさはゲッショーのビビリっぷりが一番酷い。
言われてみるとその通りだが儚月抄が公式かは議論がry

>金山彦命といえばよっちゃん。なんてこった、対咲夜戦が茶番に……
言われてみるとその通りな上に,茨歌仙の2話では儚月抄のことが無かったかのごとく話が進む上にそもそも咲夜が全く登場していない現実。

>>華扇の登場時期
>>地獄の資金源
それはないw


>不良天人とかもその範疇ですかね。
あーそれも例示で上げとけばよかったな。

>小町
なんか書くスペースがなかった。
というよりも小町の活躍は多分2巻以降,華扇の正体が核心に迫って体と思うので,今の時点では言及を避けたい。
上司に束縛されずに活き活きとしているこまっちゃんかっけーです。
Posted by DG-Law at 2011年07月01日 01:47