2011年07月07日

欲しくとも飾る場所がない

伊万里写ティーセット(ロイヤル・ウースター社製)三菱一号館美術館のジャポニズム展に行ってきた。展覧会の主要作品は西洋陶磁器である。タイトルが「もてなす悦び」というだけあって,実際にどう使われていたかを意識した展示になっていた。ただし,こうした陶磁器は観賞用であるため,明らかに実用に向かない形状をしたものも多く,実際にはあまり使われていなかっただろうというものもけっこうあった。一方,こうした通常の使用に耐えうるか否かのギリギリで作られた工芸品は割と好きである。使用に耐えられなければ工芸品である意味合いが薄れるし,逆に「用の美」に特化されてもつまらない。たまにしか使わない高級品だからこそ許されるところもあるだろう。

今回の展示に合わせて,ニューヨーク在住のジョン&ミヨコ・ウンノ=デイヴィー夫妻が三菱一号館美術館に100点を超える収集物を寄贈した。名前のとおり奥様のほうは日本人である。すまいの写真も飾ってあったが建物自体も洒落たもので,収集されたアンティークと調和し,良い意味で時間が100年ほど止まっている空間が作られていた。あこがれはするが,東京では無理だろうし,これをそろえるのには莫大な資産が必要であったことだろう。その中で収集物の一部を美術館に寄贈したのは素晴らしい行為だ。一方,まだまだ震災の影響は残っており,今回ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館は急遽貸し出しを中止した。残念である。

展示品としてはロイヤル・コペンハーゲン,セーヴル,ウェッジウッド,ミントン,ロイヤル・ウースター,マイセン等。マイセンが弱いのは19世紀を扱った展覧会だからであろう。そして,一部断られたわりにはイギリス系の陶磁器が多い(ゆえに展覧会名が「ジャポニスム」になっているのはやや違和感がある)。銀器ではティファニー,ガラスではガレの作品が目立った。というよりもガレは形が形なので非常に目立つ。そういえばバカラは1点しかなく,ルネ・ラリックも1点しかなかった。いっそのこと生産地を統一してしまって「英米におけるジャポニズム受容」にしても良かったのではないか。展示数は200点を超え,ボリュームとしては申し分ない。ゆっくり見れば2時間は軽く滞在できる。どうでもいいが,公式HPのブランド・製造元紹介がいまだに工事中で(7/7現在),会期中にオープンするのかが心配される。

前回のマイセン展でも感じたのだが,西洋磁器は当初景徳鎮や伊万里を真似たところから始まったものの,この時期のものはやはり真似ただけであって微妙なものが多い。それよりはその後独自進化を遂げたもののほうがおもしろい。19世紀後半のジャポニズムは日本の開国によってその後にもう一度来たリバイバルであり,18世紀以前のものと区別しなくてはならないし,アール・ヌーヴォーの文脈を外すと理解出来ない。その意味で,18世紀以前の模倣が微妙なのは,西欧の側に「美意識」まで含めて輸入するだけの余力がなかったのだなということを感じた。逆に言えば19世紀後半のヨーロッパ人は,往々にして中国と混ざっていたりはするものの,見事に日本の美意識を咀嚼し,西欧元来のものと融合させているように思われる。各作品をみながら,どこが日本的か?を考えるのはとても楽しいことだ。繰り返すが,「使いづらそう」と考えるのは当然の発想だとは思いつつ,何か負けているような気がしないでもないと自省する次第。



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