2011年07月14日

第194回『敗戦処理首脳列伝』麓直浩著,社会評論社

本書は『ダメ人間の世界史』,及び『ダメ人間の日本史』の著者による第三弾である。社会評論社の悪乗りは続く。が,本書は前二冊に比べるとかなり真面目じみたテーマを扱っている。タイトルの通り,敗戦が確定した状態で,前任者からその処理だけのために政権を移譲された人物,もしくは単純に敗戦処理を担当したため世界史に名が残ってしまった人物を紹介している。

400ページ近くあってかなり分厚い本だが,紹介している人物の数もかなり多いため,一人当たりの分量はそれほど多くない。また,マイナーな人物が含まれているとはいえ,扱われている戦争の説明にも大きく紙面を割いているが,これは余分であった。人物紹介と融合させてしまったほうが紙面がすっきりし,かつ一人当たりの説明も充実じたのではないか。一人当たりの説明が短かったせいか,文面が前二書と比べて非常に淡白で,どちらかというと事実の羅列が多い。amazonの書評にもある通り,『列伝』と名乗るのであれば,もっと筆者の人物評価を聞きたかったところである。

人物一覧を載せているブログがあったので,リンクを張らせてもらう。やや長く紹介されていたのはタレーランで,さすがに敗戦処理の英雄筆頭と言えるだろう。敗戦処理は一歩間違えると亡国となり,うまくいっても現状維持だから割りに合わない。やり方としても粛々と勝者にしたがって処理するか玉砕覚悟で最後の抵抗を見せるかくらいしかなく,中途半端な決断は本邦のWW2のごとく,ひどい結果しか生まない。結果的にタレーランやケマル・アタテュルクくらいしか,その筋で有名な人物が存在せず,本書もマイナーな人物だらけとなっている。それが本書の目的なのだから,それでいいのではあるが。第二次世界大戦の項目はさすがにそうそうたる面々で,マンネルヘイム,ペタン,バドリオ,デーニッツ,小磯国昭,鈴木貫太郎,東久邇宮稔彦と続く。彼らにも同情できたりできなかったり様々である。

発売してそれなりに経つのにぐぐってもあまり書評が出てこないというのは,売れてないということなんだろうか。


敗戦処理首脳列伝―祖国滅亡の危機に立ち向かった真の英雄たち敗戦処理首脳列伝―祖国滅亡の危機に立ち向かった真の英雄たち
著者:麓 直浩
販売元:社会評論社
(2011-05)
販売元:Amazon.co.jp
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