2011年07月24日

巨魁落つ

今場所は記録的な意味での見所は多かったし,正式な本場所としては半年ぶりの開催で,さすがにそれなりに熱戦が見られた。終了後放駒理事長は「力士たちもわかっていたのだろう」とコメントしており,確かに気合も入っていたと思う。前半で立ち合いが徹底してあわず,五日目・六日目あたりは目も当てられない状態であった。審判部の指導が入ったのかどうかは知らないが,その後やや改善されて持ち直し,後半はおもしろい取組が多かった。

記録という点では,まず魁皇の1047勝だが,これについては魁皇について別個記事を立てる予定なのでそちらで語りたい。ただし,以前から言っているとおり,私の魁皇に対する印象は決して良くはない。一つそちらでは書く予定がないことをこちらに書いておくと,twitterと2ch・職場での魁皇の評価が違いすぎるということ。2chや職場では私と同じ見解を示す人が多い。が,twitterの#sumoで魁皇に否定的な意見を言う人はほとんど見ない。たまに言う人はいるのだが,そんなどうでもいいことでケンカになるのは嫌なのもあり,誰も触れようとしないから,そうした意見は宙に浮いてしまっている。このコミュニティの違いによる意見の相違は興味深く,以前私は八百長騒動で,「twitterには思っていたよりも純粋な相撲ファンが多くて驚いた」と述べたことがあるが,当然それにも関係しているだろう。今場所に限った話をすると,稀勢の里戦時に右上手をとっていたにもかかわらず切られたことが,おそらく引退に大きく影響を与えているのではないかなと。右上手で攻められなければ,あとは魁皇にはあまり褒められない立ち合いの突き落とししか攻撃手段がなく,「攻める気持ちを失った」発言もむべなるかな。

次に白鵬の連続優勝記録が途切れたこと。これは今場所の白鵬の調子が悪かったことと,日馬富士が好調だったことの双方が重なって生じた。どちらが欠けていてもダメだったであろう。白鵬は先場所にひき続いて不調であったが,来場所も悪いとなればいよいよ覇権が危うい。このところ前半戦の格下相手には絶対に取りこぼさないものの,関脇・大関相手には案外と苦戦する場面も見られる。昨年ほどの圧倒的な力量は見られない。まだ年齢のせいではないし稽古量が落ちているという噂も聞かないので,単純なスランプなのだろうが。調子が悪くなると張り差しを使いたがり,また立ち合いの踏み込みが鈍くなる傾向があるので,立ち合いに注目するとよくわかる。この辺も,研究している力士には見抜かれているような気がする。

最後に琴奨菊の大関取り失敗。そもそも本質的に彼が大関にふさわしいかどうか疑問なのが私の立場で,年初には大関への期待順で7人中6人目に配した程度には期待していない。先場所の評価でも「まあ無理だろう」と自分で書いていた。ただし,私が無理だと判断していた理由は年齢の問題と,がぶり寄りに偏った取り口の問題があるが,このうち後者については今場所ある程度解消していたようにも見えた。でなければいかに不調だったとはいえ白鵬を破ることはでまい。一方,メンタル面がそれほど強いわけではないという,佐渡ヶ嶽部屋に共通する課題も今回新たに発覚してしまい,来場所もやっぱり崩れるのかなぁと考えざるを得ない。


各力士個別評。白鵬・魁皇・琴奨菊については前述の通り。大関陣,把瑠都から。前半は崩れず優勝争いについていき,負けた相手も負けるべくして負けた,千秋楽に不調とはいえ白鵬を倒し11−4であれば,文句は付けられない。ただ,なんとなく勝ってしまったような内容のものが多く,このまま成績が安定するかはわからない。琴欧洲は可も不可もない。千秋楽負けたのは不運だったとすればまあ10勝したと評価してもいいだろう。日馬富士を当然含めて,今場所の大関陣はそろって好調であった。

同様にそろって好調だったのが関脇陣で,これだけ上位陣が安定していたのは珍しいのではないだろうか。稀勢の里が10勝するとは思ってなかったし,まさか千秋楽で日馬富士を破るとは思ってなかった。ただし,よくわからないところで星を落とす甘さ,調子の波の激しさは健在で,毎日千秋楽くらいの相撲がとれればなと本当に思う。鶴竜も10勝はしたものの,技巧に凝りすぎて負けるようなところが昨今見られ,これは悪癖になるかもしれない。変化した取組もあり,必ずしも変化が悪いとは言えないが,内容としては琴奨菊,稀勢の里に比べてやや落ちる。しかしそれでも先場所小結で12勝によりこれで22勝,これで来場所12勝すれば,琴奨菊に逆転して大関昇進になるだろう。鶴竜・稀勢の里両者に言えることだが,なんでもできるのはすばらしいのだがこれといった型がなく,それがもう一個上に上がれない原因であると思う。先場所も言ったが,何か必殺技が欲しい。

小結二人は負け越し。栃ノ心はもう少し勝てるかなと思ったが,まあこんなもんか。特に目立った一番もない。豪栄道は立ち合いが完全に弱点と化しており,とかく当たり負けが多すぎてその後がどうにもならない。改善が急務である。前頭上位陣。嘉風は好調上位陣に前半完敗し,後半うまく立て直したが一歩届かない7−8だった。負け越しではあるがよく動けていたほうで,実力相応の地位と結果であろう。ほぼ同様の戦績ながらうまく立て直しきって9−6なのが豊ノ島。鶴竜,栃ノ心に勝っているのが大きい。臨機応変にうごく彼らしい取組が見れたと思う。来場所は小結返り咲きだが,大負けしそうな気はする。

5−10ながら,上位陣初挑戦となった若荒雄の奮戦も目立った。特に内容の良くなかった前半戦において気を吐いていた。あまりの必死の突っ張りに白鵬が驚いていた七日目の取組が特に印象深い。ただし,もう26歳で若武者というには難しい年齢である。今後どれだけ伸びるか。ベテラン若の里は右上手の怪力が目立ったが,特に琴奨菊戦の,元大関候補者の意地やそれ以外の負の観念が入り交じったような気迫のこもった右からのすくい投げが,こちらは非常に印象深い。安美錦と旭天鵬はエレベーターで下がっていくが,それにしても両者2−13と大きく負け越したものである。安美錦は猛然とつっこむがその直後に引いて呼びこんでしまい負けるパターンが目立った。

前頭中位。まずは時天空を挙げねばなるまい。今場所は足技の多用が以前にもまして目立ち,外掛け・裾払い・けたぐり・蹴返しと一通り見ることができてしまった。特に調子が良かったわけではないようだが,ピックアップするに十分な印象を残した。栃煌山と豊真将は大勝したが,これは上っていく方のエレベーターなので別に気にするところではない。高安は前半7−1で折り返しこれは行けるかと思ったが,後半息切れした。彼も本格派な雰囲気があり,魁聖とともに前頭上位までは早期に定着すると思う。前頭下位では,舞の海に同意するのが若干シャクだが,磋牙司の技巧くらいしかスポットを当てるところがない。高見盛はもう二度と幕内に戻ってこれないと思う。頼みの綱の背筋と差し手争いの強さの両方が消えかけているので……


最後に,久しぶりに予想番付を貼って今場所も締めることにする。

そもそも定員をどうするかというのが一つの課題で,一応42人にそろえたが40人となる可能性もある。その関係で幕尻が非常に混乱していて,黒海の再入幕を優先するか,残すにしても栃乃洋か宝富士かという問題があり,審判部の判断が気にかかる。これまでの実績や今場所の内容を重視するのであれば,ということで栃乃洋を推しておく。引退の魁皇を含めると空席が3つあるので,十両落ちが2人としても5人入幕できる。

平成23年名古屋場所


この記事へのコメント
今場所もお疲れSummer vacation

久々に白鵬以外の優勝が見れて今場所は優勝争いの点から見ればなかなか面白い場所だったのではないかと思います。

尤も私としては優勝が何日目に決まろうが割とどうでも良くって今場所に限って言うと、ちょっち琴奨菊にハマってました。
初日豊ノ島に負けた相撲を見て「あー、もうダメだ」とか思いつつ2日目から建て直し、まさか白鵬まで破るとは思いもしませんでした。その時点で「大関間違いなし!!」とか思ってましたが、ある意味横綱戦よりも大事な隠岐・若里戦を落とす醜態。あのガッカリ感は何か久々です。いや、それよりも若の里や琴●喜が大関取りに失敗していたあの日々の感覚が呼びさまされて何故か懐かしい気持ちに(笑)
私も先場所書いたとおり、あまり大関の器とか思わないんですけど安定した星を残せる実力はあるんですよね・・・。

星だけ見れば大関争い一番手に躍り出た鶴竜も動きの良さは光るも、誰かが言ってた通り何でも出来過ぎてむしろそこがネックになっているという。突き出しで決めてやるぐらいの踏み込みを見せても面白いかもしれません。潜在能力はまだまだ出しきっていない(はず)。

あとちょっとだけ大関陣についても。
日馬富士・・・とにかく動きが良かった。ただ勝った後の態度があまりよろしくないので最近はそれほど応援してはいない。
把瑠都・・・11勝も内容だけ見れば進歩したところは特になし。
琴欧洲・・・負けた相撲のインパクトがあり過ぎてカド番脱出の一報を聞いた時は「あれ、そんなに勝ってたの?」と思った。ただ終盤3日間の相撲は前まわしが早く良い内容だと思う。ただそれでも1勝2敗で来るところがこの人らしい。
魁皇・・・色んな意見はありますが、何かもうイジって遊ぶ事も出来ないんだなぁ、と思うと寂しさはある。お疲れSummer vacation
Posted by ( д)゜゜ at 2011年07月25日 01:25
その他、私が気になった力士。

【旭天鵬&安美錦】
安美錦は明らかに膝の怪我の影響だろうが旭天鵬はよく分からない。単純な衰えとも言い辛いほど相撲内容が悪すぎた。もしかして来場所番付下げて優勝狙ってるのか。

【若荒雄】
清々しかった。5勝だが初の上位戦、大健闘と言って良い。さすが悪魔の祝福を受けただけの事はある。

【豪風】
引きまくり叩きまくりワロタwwwwww
だけどこれ、いわゆる「体が勝手に動いてしまった」類のモノじゃ無くて多分意識してやりまくってたんじゃないかな・・・本格的な朝乃若路線を目指したのか、来場所は警戒した相手を一気に押し込む作戦の伏線なのかは分からないがとりあえず来場所、私は注目する(笑)
だが千秋楽は会心の相撲。

【魁聖】
思ったよりは健闘。今はまぁこんなもんか。

【大道】
実は土俵上での負け越しは3年ぶりと言う。

【高見盛】
十両ではまだちょっとは通用するとは思うが先は長くないと思われる。そう言えば垣添はどうするんだろう。


魁皇引退記事も楽しみにしております。頑張ってくだちぃ。それでは。
Posted by ( д)゜゜ at 2011年07月25日 01:40
場所の中盤くらいまで回りこもうとする力士が面白いように足を滑らせていたのに、後半になるとそういうのが目立たなくなってきた、不思議な場所でした。
入場者が少ない割には女性客も目立ったような?

十両の隆の山や舛ノ山や千代の国等、幕内に入ったら面白いだろうなと思う勝ち越し力士が多かったので、入れ替わりのある来場所が楽しみです。

琴欧洲は土佐豊を休場に追い込んだ一番がいただけませんでした。
若荒雄が張り手で横綱を慌てさせた辺りから白鵬はちょっとおかしかったかもしれません。
魁聖は見るときは何故かいつも負けていて、評判と一致しなくて首をかしげるのですが、怪我したり変な癖をつけたりせずに上位に来ると楽しみです。
Posted by EN at 2011年07月25日 09:00
>( д)゜゜さん
今場所もお疲れ様でした。

>琴奨菊
内容は良かったんですよ。もっと大崩れしてもおかしくないと思ってました。
初日と若の里・隠岐の海戦の3つがまるで別人過ぎただけで。プレッシャーなんでしょうねぇ……

>鶴竜
普通に器用なだけではなくて突き押しもできてしまうほど器用なんですよね。確かに,突き出しだけで決めてやるとかかったほど立ち会いから踏み込んだ鶴竜は見てみたい。

>日馬富士
朝青龍の弟分なだけあって品格がとりだたされそうです。あまり品格にはこだわりないですが,それでも態度良くないですよね。あまり世間的に非難されてないのは,朝青龍と違って真に稽古熱心なのが知れ渡っているからだとは思いますが,これで横綱昇進が現実味を帯びてくると報道がどうなるかはやや心配なところです。

>若荒雄
悪魔の祝福,そういえば初場所そうでしたねw。

>豪風
そんなに引いてたっけ?と自分の日記読み返してみたらこれはひどいw。
これで「来場所は警戒した相手を一気に押し込む作戦の伏線」だったら見る目変えますよ(いい意味で)。

>垣添
引退か幕下か……待ったさんと言えなくなると思うと寂しくなります。

魁皇師父については,あまり大したことも書けないので期待せずお待ちください。
Posted by DG-Law at 2011年07月26日 18:14
>ENさん
今場所もお疲れ様でした。

>場所の中盤くらいまで回りこもうとする力士が面白いように足を滑らせていたのに
これ,前半に立ち会いの不成立が集中したのと関係あるとすれば,砂の影響もあるかもしれません。気候でけっこうすぐ変わっちゃいますし。
前に九州場所だったかで土俵が乾燥してひび割れし,すごくやりづらそうだった覚えがあります。

>入場者が少ない割には女性客も目立ったような?
隆の山目当てだとすると来場所はさらに期待が持てますが,真相はいかに。

>琴欧洲
確かに土佐豊を休場に追い込んだあれは非常に良くない。思わず「土佐豊に何か恨みでもあるのか。」と書いてしまいましたが。
勝てばなんでもいいのかというところでは,変化や引き技の見苦しさに通じるところがあると思うんですが。

>白鵬
そうすると若荒雄の功績は大ですね。そういえば翔天狼に負けた場所でも調子が狂ってたので,けっこう白鵬の弱点かもしれません。

>魁聖
確かに,実は十両で見てたときは私もそんなに強かった印象無いんですよ。
でも先場所の活躍や,負け越したにしても今場所の取組を見るに,パワーは十分で技術的にも悪くはないので,伸びれば本格派として台頭するんじゃないなかと,期待して見ております。
Posted by DG-Law at 2011年07月26日 18:22