2011年11月21日

第199回『有頂天家族』森見登美彦著,幻冬舎文庫

今度はいつもの森見節の小説だろ,と思っていたら,その要素もあるものの,けっこうしんみりする人情話であった。そのせいか,文庫で420ページといつもよりもちょっと厚い。

舞台はいつも通りの現代の京都。ただし,京都には人間以外に狸と天狗が住んでいるという設定である。主人公の狸・下鴨矢三郎は苗字の通り,下鴨神社奥の糺ノ森に居住する狸である。これも森見読者にはおなじみであろう,とりわけ『四畳半神話大系』の舞台もまさに下鴨であった。設定もいつも通り共通しており,金曜倶楽部や偽電気ブラン,京都大学詭弁論部が登場する。特に金曜倶楽部のメンバーはおおよそ『夜は短し』と共通しており(李白は寿老人と推定される=高利貸しである点や偽電気ブランの元締めである点が共通しているため),先にこれらを読んでおくとより楽しめるかもしれない。また,逆に偽電気ブランの工場を運営しているのは狸であることが本作であきらかになるため,他作品で登場したときにニヤリとできるかもしれない。

タイトルの通り,主人公の家族である下鴨家を巡る騒動が本作の本筋である。これも,森見作品としては珍しいことに余分な横道にそれることなく,おおよそまっすぐ本筋を進んでいく。無論,この一家は狸であり,森見作品の登場キャラなので,言うまでもなく阿呆の塊である。阿呆ではあるのだが,本作の大騒動の発端となった事件が主人公の父である下鴨総一郎の死であり,下鴨家の家族愛もかなりストレートに描かれている。結果として,同じ阿呆でもずいぶんと哀愁の漂う阿呆さとなっており,笑いながら読めるシーンもあればしんみりするシーンもあり,簡単に笑い飛ばして終わることができるものではなく,本作はなかなか複雑な様相を見せる。そして,そこに潜むストレートな家族愛が,とても温かい。

シリアスな場面にあたって,普段阿呆な連中の本気が見せる哀愁や滑稽さという点では,同じ狸を描いた傑作であるジブリの『平成狸合戦ぽんぽこ』に似たものがあるかもしれない。そういったものを描くのに,狸は向いているのだろう。森見登美彦はこういうのも書けたのか,とちょっと驚いた。いつもとちょっと違う,けど大きくは違わない森見節をご覧あれ。


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