2011年11月30日

第200回『絶頂美術館』西岡文彦著,新潮文庫

「神は細部に宿る」とは言われても,細部であるからこそ気づきにくい。実際細部とはどこなのだ?というのを,うまいこと解説した本であると思う。タイトルやサブタイトルの「名画に隠されたエロス」の通り,中でも本書が焦点を当てているのは女性のエクスタシーであり,西洋美術史がいかに男性の欲望を気付かれないよう細部に込めてきたかを解説している。

第一章からして「カバネルの《ヴィーナスの誕生》のヴィーナスは,なぜ足指がそりかえっているのか?」であり,そのほかの不自然な描写も含めて,ずばりこの絵は誕生のシーンに見せかけて実際にはエクスタシーのシーンを描いたものだからだと喝破する。その他,比較的メジャーな作品としてはアングルの《トルコ風呂》と《グランド・オダリスク》,ドラクロワの《サルダナパールの死》と《キオス島の虐殺》,クールベの《眠り》と《画家のアトリエ》,マネの《草上の昼食》と《オランピア》,ゴヤの両《マハ》。ややマイナーなところではアルマ=タデマ,ジェロームとブーグロー,ロセッティとミレイなどのラファエロ前派などである。

細部にこだわった解説だから敷居が高いかというとそうではなく,むしろ非常に平易な書き方をしているため,ある程度詳しい人から全くの初心者まで幅広く楽しめる作りになっている。あとがきで触れられているように,著者はNHKの「日曜美術館」やテレビ東京の「誰でもピカソ」などテレビ番組の企画・制作に長年携わってきた方であるため,そこらへんのさじ加減は心得たものであったのだろう。「西洋美術は男女ともにやたらめったら裸なのはなぜなのか」とか,「マネの《草上の昼食》はどこがスキャンダルになったのか」など,基礎の基礎から徹底的に説明されている。ジェロームの《剣闘士》が映画『グラディエーター』のイメージソースになったことなどの小ネタが挟まれている点も良い。

ちょっと大胆に言いすぎなところがなきにしもあらずだけど(ロセッティが現代ヒロイン像を作ったと言われると違和感がある),まあ誤差範囲だろう。エロというド直球に惹きつけられて,美術に全く興味なかった人が手にとってくれると嬉しい本である。本書一冊だけでも,入り口としては十分すぎる情報量だろうし。

ついでに書くと,あとがきの文章には全力で同意する。批評や感想文を詩作や随筆と勘違いしている方は残念ながら時代遅れだと思うし,嫌いである。ましてや,平均的知性で読解できないものには,首をかしげざるを得ない。いかに「美術作品のパズル化」と避難されようが,ストイックな絵解き解説のほうが良心的と言えるのではないか。批評はその先にあるのだから。なお,本書の多くは1990年代の連載のリライトであり,筆者の先見の明は卓越していたように思う。


絶頂美術館―名画に隠されたエロス (新潮文庫)絶頂美術館―名画に隠されたエロス (新潮文庫)
著者:西岡 文彦
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