2011年12月11日
群青の空を越えて レビュー
本作に対する私の評価を一言で言えば,V字型の盛り上がりであった。より正確に言えば,最初の若菜・加奈子ルートはおもしろく,最後のグランドルートもある程度持ち直したが,間の3ルートがどうにも評価しづらい,という。
エロゲ批評空間では「オールクリアに価値あり」POVに投票が入っているが,個人的には正反対で,前半と後半があまりにも別ゲーすぎ,つながっている雰囲気が感じられなかった。おそらく『かにしの』程度には別ゲーに感じた。本作はいわゆる架空戦記ではあるのだが,6ルートあるうち,前半と後半で大きく毛色が異なる。前半3ルートは軍事メインの話が続き,これらをクリアしたところで新たに2ルートが解放され,最後にグランドルートが解放される。後半3ルートは政治中心の話になる。この舞台としての軍事と政治に衝突があったのではないか。
どうしてこうなったのか,大きく原因を2つ挙げてみる。まず,本作のメインテーマは「人の生き方と社会・政治のかかわり」であり,主人公はそれぞれのルートにおいて周囲からの影響を受け,戦争観や人生観・死生観を変えていく。これがスムーズに変わっていけばよかったのだが,なかなかそうは感じられなかった。これは,単純に特定の個別ルートの失敗に原因があるのではないか,というのが1つ目になる。本来であれば,主人公が戦争の大義について葛藤する様子を描く間の3ルート(美樹・夕紀・圭子)が,軍事ルートから政治ルートへの橋渡しになる予定だったのだろうが,これが今ひとつ機能しなかったのではないか。短すぎて不十分だったのではないか。
もう一つは,基礎設定についてである。メインテーマとは別に本作の主要部分にあたり,おそらくライターが最もやりたかったと思われるところは「関東と関西が対立していて,かつ関東が劣勢で,主人公は関東側の人間」という設定であろう。この設定を立てるための理論付けとしてならば,「円経済圏理論」は十分に有効であった。この引き起こしたい目標の現象そのものについてはぶっ飛んでるとしか言いようがないが,これを実現するために持ち込んだ円経済圏理論やそれに付随する歴史改変は非常によくねられており,少なくとも前半3ルート=軍事パートを遊ぶ上では破綻が見えなかった(もしくは,気にならなかった)。
しかし,政治ルートに入ると軍事ルートでは目立たなかった基礎設定の無理がどうにも浮上してくる,というのが2つ目の原因である。一つ具体的な例を挙げると,政治的分裂に全く執着のない中国なんてものは相当大きな歴史改変を行わないと不自然であるが,本作では枝葉末節として流されている。これで思いっきり矛盾でもしていればおもいっきり批判できるところなのだが,比較的幸いなことに「円経済圏理論」そのものはかなりしっくり組み上げられているがために,そこまで悪くもないのである。結果として,無理してる感・不自然感は終始漂っているものの,ルート一つ一つが短く物語が急速に動くため,具体的・抽象的な有象無象の疑問がなんとなく頭の中にひっかかったまま流されてしまった。そして,物語に乗れないままグランドルートまで行き着き,そのグランドルートにもそのまま突っ切られてしまったため,不完全燃焼で後半3ルートが終わってしまった。
無論,メインテーマである「人の生き方と政治・社会のかかわり」を描くために後半3ルートが必要で,つまり軍事から政治への舞台の転換が必要だったことは理解されうる。しかし,ではその橋渡しのための真ん中3ルートほどの描き方が十分だったかという点と,円経済圏理論がそれだけの説得力を持ち得たかという2つの根本的原因に戻ってきてしまう。そもそも,このメインテーマと,明らかに軍事趣味的事情で設定された「関東劣勢」の特殊な日本分裂舞台設定がマッチしていたか,という点で,本作は疑問である。このことをtwitterでつぶやいたら「あの作品は筑波でグリペン飛ばしたかっただけじゃね?」という揶揄が入ったが,それはそれで円経済圏理論なんて壮大な設定を組む必要性があったのかという別種の問題が浮上する。
とかまあ文句はつけてしまったが,若菜・加奈子ルートはおもしろかったし,グランドルートもそれなりに持ちなおしてくれたし,総合的な印象としては悪くない。及第点的に75点くらいはあげられるだろう。なお,専門知識や歴史知識が必要なエロゲーに挙げられているが,むしろ必要なのは史実が改変されている箇所についての知識で,たとえば史実よりも大和朝廷による統一が遅れ,結果史実よりも弥生人と縄文人の違いがくっきりできてしまったこと。最終的に日本の統一は江戸幕府までかかり,よって明治政府は史実よりも「日本人」意識を作るのに苦労していること等々。逆に言って,「本作を不自然なく成立させるためには,本作で語られていない部分については,史実とどのような違いがなければならないか」という妄想をするのは,それなりに楽しい。これも一つ本作の楽しみとして上げてよかろう。
以下ネタバレ。
エロゲ批評空間では「オールクリアに価値あり」POVに投票が入っているが,個人的には正反対で,前半と後半があまりにも別ゲーすぎ,つながっている雰囲気が感じられなかった。おそらく『かにしの』程度には別ゲーに感じた。本作はいわゆる架空戦記ではあるのだが,6ルートあるうち,前半と後半で大きく毛色が異なる。前半3ルートは軍事メインの話が続き,これらをクリアしたところで新たに2ルートが解放され,最後にグランドルートが解放される。後半3ルートは政治中心の話になる。この舞台としての軍事と政治に衝突があったのではないか。
どうしてこうなったのか,大きく原因を2つ挙げてみる。まず,本作のメインテーマは「人の生き方と社会・政治のかかわり」であり,主人公はそれぞれのルートにおいて周囲からの影響を受け,戦争観や人生観・死生観を変えていく。これがスムーズに変わっていけばよかったのだが,なかなかそうは感じられなかった。これは,単純に特定の個別ルートの失敗に原因があるのではないか,というのが1つ目になる。本来であれば,主人公が戦争の大義について葛藤する様子を描く間の3ルート(美樹・夕紀・圭子)が,軍事ルートから政治ルートへの橋渡しになる予定だったのだろうが,これが今ひとつ機能しなかったのではないか。短すぎて不十分だったのではないか。
もう一つは,基礎設定についてである。メインテーマとは別に本作の主要部分にあたり,おそらくライターが最もやりたかったと思われるところは「関東と関西が対立していて,かつ関東が劣勢で,主人公は関東側の人間」という設定であろう。この設定を立てるための理論付けとしてならば,「円経済圏理論」は十分に有効であった。この引き起こしたい目標の現象そのものについてはぶっ飛んでるとしか言いようがないが,これを実現するために持ち込んだ円経済圏理論やそれに付随する歴史改変は非常によくねられており,少なくとも前半3ルート=軍事パートを遊ぶ上では破綻が見えなかった(もしくは,気にならなかった)。
しかし,政治ルートに入ると軍事ルートでは目立たなかった基礎設定の無理がどうにも浮上してくる,というのが2つ目の原因である。一つ具体的な例を挙げると,政治的分裂に全く執着のない中国なんてものは相当大きな歴史改変を行わないと不自然であるが,本作では枝葉末節として流されている。これで思いっきり矛盾でもしていればおもいっきり批判できるところなのだが,比較的幸いなことに「円経済圏理論」そのものはかなりしっくり組み上げられているがために,そこまで悪くもないのである。結果として,無理してる感・不自然感は終始漂っているものの,ルート一つ一つが短く物語が急速に動くため,具体的・抽象的な有象無象の疑問がなんとなく頭の中にひっかかったまま流されてしまった。そして,物語に乗れないままグランドルートまで行き着き,そのグランドルートにもそのまま突っ切られてしまったため,不完全燃焼で後半3ルートが終わってしまった。
無論,メインテーマである「人の生き方と政治・社会のかかわり」を描くために後半3ルートが必要で,つまり軍事から政治への舞台の転換が必要だったことは理解されうる。しかし,ではその橋渡しのための真ん中3ルートほどの描き方が十分だったかという点と,円経済圏理論がそれだけの説得力を持ち得たかという2つの根本的原因に戻ってきてしまう。そもそも,このメインテーマと,明らかに軍事趣味的事情で設定された「関東劣勢」の特殊な日本分裂舞台設定がマッチしていたか,という点で,本作は疑問である。このことをtwitterでつぶやいたら「あの作品は筑波でグリペン飛ばしたかっただけじゃね?」という揶揄が入ったが,それはそれで円経済圏理論なんて壮大な設定を組む必要性があったのかという別種の問題が浮上する。
とかまあ文句はつけてしまったが,若菜・加奈子ルートはおもしろかったし,グランドルートもそれなりに持ちなおしてくれたし,総合的な印象としては悪くない。及第点的に75点くらいはあげられるだろう。なお,専門知識や歴史知識が必要なエロゲーに挙げられているが,むしろ必要なのは史実が改変されている箇所についての知識で,たとえば史実よりも大和朝廷による統一が遅れ,結果史実よりも弥生人と縄文人の違いがくっきりできてしまったこと。最終的に日本の統一は江戸幕府までかかり,よって明治政府は史実よりも「日本人」意識を作るのに苦労していること等々。逆に言って,「本作を不自然なく成立させるためには,本作で語られていない部分については,史実とどのような違いがなければならないか」という妄想をするのは,それなりに楽しい。これも一つ本作の楽しみとして上げてよかろう。
以下ネタバレ。
若菜ルートは筑波戦闘航空団の予備生徒という特殊な環境の緊張感と,その中で貫く若い二人の恋愛劇というのは,王道ではあるけれども単純なだけに,非常におもしろかった。「戦うために戦うんだ。理由なんてない」というのは一つの答えではないかと思う。大義や,政治・社会体制と戦闘員の生き方が一致する方が特殊であり,そのような特殊さこそが数々の人類の悲劇を生んできたと言えるだろう。グランドルートでも,迷った末にある種この境地に帰ってきたとも言える(無論,グランドルートは「だから戦争はすべきではない」と向かったところに大きな違いがあるのだが)。エンディングに漂う見事なまでの哀愁といい,ある二人の人生の描き方として完璧である。
ゆえに加奈子ルートは,主人公の戦い方にどういった変化が生じるかと思って興味深く読んでいたが,若菜ルートと全く同じ結論であったため肩透かしであった。また,加奈子と社のふれあいについても,まさか「亡き兄に姿を重ねて,別の男性をお兄ちゃんと呼ぶ妹系ヒロインが,その男性と深い仲に進んだ結果生じる『恋愛とは何なのか』問題」という陳腐に進むとは思っていなかったため,この点でも本ルートは肩透かしであった。では全くダメだったかというとそうではなく,本ルートは筑波の内部の描写において他のどのルートよりも優れている。タツもトシも忠則もクーも,皆このルートで輝いている。しかし,それでも本ルートの白眉は若菜であると断言せざるをえない。克明に描かれた管制官の苦悩は本ルートの主役をかっさらっていき,特に隆史小隊長に自殺的特攻をさせたシーン,及び葛藤の末自らが犠牲になることで戦争終結のきっかけになることを願い,「…………関東,万歳」と発して最後を迎えたシーンは,本ルートはおろか本作最大の名シーンである。彼女が,それほど強く円経済圏理論を信じていたわけではないがゆえに,このシーンは光る。
そして流れ着いた美樹ルートは,やりたいことはわかるのだが展開がどうにも迫力に欠けた。これは続く民間人2ルートに続く欠点である。あ,若いツバメと付き合った結果どんどんダメになっていくフィー教官はとてもかわいかった。民間人2人のルートは,やはり途中で打ち切りにせず最後まで描いたほうが,社のルートごとの心情変化が明確になってよかったのではないかと思う。加奈子の兄のように,撃ち返せず撃ち落されて死ぬ(それもサイレンに)とかおもしろかったと思うのだがなぁ。
グランドルート。最後の最後がはっきりしないまま終わったことに関しては私は特にどうも思わない。ああしたエンディングもありだろう。ただし,ぴりっとしなかった原因の一つは美樹の処遇で,せめて彼女が若菜に変わって予備生徒軍の統帥権を移譲されるところまでは描いえてくれたほうが良かった。グランドルート全体で,明らかに美樹一人が割を食っている。次に割を食っているのは夕紀で,これも司令の死を報道する描写があっても良かったんじゃないかと。その上で,社の生死を不明にするのであれば,私は賛同できた。
ゆえに加奈子ルートは,主人公の戦い方にどういった変化が生じるかと思って興味深く読んでいたが,若菜ルートと全く同じ結論であったため肩透かしであった。また,加奈子と社のふれあいについても,まさか「亡き兄に姿を重ねて,別の男性をお兄ちゃんと呼ぶ妹系ヒロインが,その男性と深い仲に進んだ結果生じる『恋愛とは何なのか』問題」という陳腐に進むとは思っていなかったため,この点でも本ルートは肩透かしであった。では全くダメだったかというとそうではなく,本ルートは筑波の内部の描写において他のどのルートよりも優れている。タツもトシも忠則もクーも,皆このルートで輝いている。しかし,それでも本ルートの白眉は若菜であると断言せざるをえない。克明に描かれた管制官の苦悩は本ルートの主役をかっさらっていき,特に隆史小隊長に自殺的特攻をさせたシーン,及び葛藤の末自らが犠牲になることで戦争終結のきっかけになることを願い,「…………関東,万歳」と発して最後を迎えたシーンは,本ルートはおろか本作最大の名シーンである。彼女が,それほど強く円経済圏理論を信じていたわけではないがゆえに,このシーンは光る。
そして流れ着いた美樹ルートは,やりたいことはわかるのだが展開がどうにも迫力に欠けた。これは続く民間人2ルートに続く欠点である。あ,若いツバメと付き合った結果どんどんダメになっていくフィー教官はとてもかわいかった。民間人2人のルートは,やはり途中で打ち切りにせず最後まで描いたほうが,社のルートごとの心情変化が明確になってよかったのではないかと思う。加奈子の兄のように,撃ち返せず撃ち落されて死ぬ(それもサイレンに)とかおもしろかったと思うのだがなぁ。
グランドルート。最後の最後がはっきりしないまま終わったことに関しては私は特にどうも思わない。ああしたエンディングもありだろう。ただし,ぴりっとしなかった原因の一つは美樹の処遇で,せめて彼女が若菜に変わって予備生徒軍の統帥権を移譲されるところまでは描いえてくれたほうが良かった。グランドルート全体で,明らかに美樹一人が割を食っている。次に割を食っているのは夕紀で,これも司令の死を報道する描写があっても良かったんじゃないかと。その上で,社の生死を不明にするのであれば,私は賛同できた。
Posted by dg_law at 14:00│Comments(0)│