2012年01月20日

White 〜blanche comme la lune〜 レビュー

尿は伏線。(迫真)


さて,ねこねこソフトのwhiteをクリアしたのでレビューを書こうかとぼちぼちネット上のレビューを探していたのだが,おおよそ論点は同じであるため私もそれに乗っかって2点に絞って話をする。

・サブルートのダメさ具合
本作は実質的にブリジット→ほたる(妹)→(ミサ→)カナン→???→マリカで固定であり,担当したライターも共通部分とマリカが片岡とも本人,カナンが海富一,それ以外がサブライターということがわかっている。しかし,設定がやや複雑だったせいか,片岡ともと海富一以外のシナリオが散々なことになっており(ミサルートはまだ叩きが少ない),サブライターは無論,片岡ともの監督責任も問われる事態になっている。これについては,私もその通りとしか言いようがないと思う。ブリジットとほたるの2ルートはなくても良いような出来であり,ブリジットはまだテキストがへたってただけでシナリオ自体はもう少しすっきりさせれば再生できなくはないと思う。ミサルートはそもそも最初からおまけであり,本筋と全く関係ない話として読めば評価はできなくとも叩くような材料ではない。

が,ほたるルートは本当にどうしようもない。「妹キャラなのに主人公が血縁のないショタキャラに交代する」「そのことが公式HPや説明書に明示されておらずルートに入って初めて判明する」「さらにおまけパートで実妹好きプレイヤーに喧嘩を売った」と三拍子そろったために2chを中心に大いに叩かれて「ヨスガにソラってろ」騒動と言われた。本ルートのダメさ具合の核心は直接そこではないし,主人公が交代した理由もなんとなくわかる。おそらく片岡ともの最初の構想では,ほたるは唯一非日常に全く関連のない日常を象徴するキャラであったはずである。そのルートでは,非日常から日常に回帰するキャラとしてのレンとくっつけることで成立させようとしたのではないか。しかし,シナリオは明後日の方向に飛んでいき,日常も非日常もクソもないどころかなんかもういろいろぶち壊した。ほたるが非常に良いキャラをしており,単調でも平坦でも普通のシナリオならねこねこソフトの人気妹キャラの一団に加われたはずだ。それだけに惜しい。

複数ライター制自体がダメとは言わないが,片岡ともの場合は表現したいものが非常に独特なので,相当綿密に打ち合わせて欲しい。もしくは,気心の知れている人だけで固まってやってほしい。今回だって,海富一はしっかり書けていた。カナンルートの終盤の展開は,ねこねこソフトの系譜のライターじゃないと書けないシナリオと演出だろう。あとは木緒なちや秋津環がいる。


・「無垢」まわりの話
私は『仏蘭西少女』のレビューにて「純白(純粋)」について語っており,結局純粋無垢などというものは存在しないのだと論じた。「純粋」と「無垢」は厳密には別物かもしれないが,本作のタイトルが『white』である以上,本作では同じ意味の言葉として扱われていると考えてよいだろう。『仏蘭西少女』とはフランス語で白を示す"blanc"という言葉を用いている点で共通しているが,確かにドイツ語のweissは硬いし,イタリア語やスペイン語のblancoはさしてフランス語と変わらないから,第3の白色表現を探すとblancしかなくなるんだと思う。

で,本作の「無垢」はどうだったのかと言えば,これはなかなかおもしろい。結局「純粋無垢」というものは自然なものではないという点では『仏蘭西少女』と共通するものの,本作はむしろその不自然を無理やり生み出した歪みはどう現れるのかということに直球で挑んだ作品であると思う。この直球具合や,本作の「無垢」に対する解釈はとても好きだ。「純粋無垢」という難しい概念に対して,こうして独自の角度から切り込めるのが片岡ともだと思うし,本作もそれをじっくりと見させてもらった。これがあるからこそ,本作はいかに他の個別ルートがダメだろうと,ばっさりと酷評することができない。


一枚絵は非常に多い。大きく気になるような崩れもないし,ビジュアル面は高水準と言ってよい。システムも使いづらいところはないが,起動の毎回にディスクチェックが入るのは勘弁して欲しい。おかげでここ最近ずっとディスクドライブを占領されていた。音楽も良い。特にボーカル曲はどれも良いが,タイトルと同名の「white」はクリアした後にじっくり歌詞を聞くととても切なくなる。演出はいつものねこねこ,という感じ。これにシナリオとテキストの出来を加味して,まあ70点ちょうど。ほたるシナリオで5点ほど引いたことは明記しておく。よくある「改善点をちゃんと直せば80点になりそうな」もったいない作品。

それほど書くことはないが,一応ネタバレゾーン。

ネ右さんが書いているが,長命人という設定を出す際に,吸血鬼に代表される亜人種を出さなかったのは素晴らしいと思うと同時に,確かにねこねこソフトらしいと思う。ネ右さんの言う通り,吸血鬼では本作のシナリオの大半が成立しない。なぜなら,いくつかの亜人種にとって人間よりも長命であることは一般的な現象であり,歪みでもなんでもないからだ。

本作の肝は,マリカシナリオの序盤に語られる,温室でしか育たない「無垢」という存在のいびつさであると思う。これは,温室育ちが良くないとか,そういった道徳的な問題ではない。そのような道徳的な話であるのならば,ブリジットやマリカはより悲惨な目に遭っていていてもおかしくなかろう(どうも初期プロットではマリカが全く目を覚まさないというシナリオも考えられていたようだが,それでもなお本作の長命人は恵まれている)。そうではなく,マリカシナリオはより普遍的なテーマへの疑問を,答えを曖昧にしたまま投げ込んでいる。

それらのテーマは,本作のエンディングがあいまいであるのと同様に,無理に答えを出すような類のものでもないと思う。たとえば,主人公が,毎年枯れるカトレアを見せたい人が目覚めるとは限らないのに植え続けることに対して自問自答するシーンは,とても良い。正解なんてありはしないのだ。それでも人は,きっと目覚めてくれるはずという希望を捨てられないのだ。本作も持つ,ねこねこソフトの得意な悲劇の構造は,非常に切ない。

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