2012年02月18日

『恋愛ゲーム総合論集2』部分的覚書

やったゲームがある文章は読んだので,読んだだけでいえば半分くらい読んだのだけど(a103netさんの鏡遊論と,遅れてきた大物さんのタカヒロ・るーすぼーい・丸戸史明比較論は特におもしろかった),今ひとつ文章にまとまらなかったのでこの2人のパートだけ公開。


>何故「鍵の少女」は殺されなければならなかったのか −樹木信仰と奇跡− byかな文字一刀流ネ右
ネ右は私の親友であり,この論考も構想段階から話をいろいろ聞いているので,いろいろばらしてしまおうかと思う。

実は,まとめ部分の「鍵は新しい旅に出たのだ……」だけは最初の最初から決まっていた。ただし,これは本論がかっちり決まっていたためではなく,執筆の10月当時はまだまだ『Rewrite』プレイヤー内部における,功績的な意味でも戦犯的な意味でもライター信者間抗争が激しく,心優しいネ右は単純に誰の信者でもなかったので「ライター関連の話にクビをつっこむのはよそう」ということで,実は決め台詞だけ決まった状態での船出だったのである。そこから次に,樹木出てくるし,宗教学系統はネ右本人の興味あるところだし,エリアーデとフレイザーで行こうぜ!という話になり,初稿の形がおおよそ見えてきたのであった。一応,危険な方向のネタ(=ライター間の比較)についてもけっこう構想段階では形になっていたのだが,前述の事情と,単純に宗教学方向で掘っていったほうがおもしろそうというのもありお蔵入りとなる。ただし,本人が「そっちの方面の話についてはブログでリサイクル可能性もなきにしもあらず」とか言ってるので,そのうち日の目をみるかもしれぬ。

実は初稿から最終稿はあまり変わっていない。エリアーデを中心に論を進めていったらKanon色が濃くなって若干方向修正し,むしろフレイザーの『金枝篇』が重視された文章になり,それにともなって8・9章の論調が変わっている。が,それ以外の部分はおおよそいきなり最終稿の状態である。ついでに言えば,最終稿と掲載版の違いは最終章の脚註に「おっぱいは奇跡」が増えたことだ。これは非常に重要なことだ。このネタを最後の最後に思いついたこと自体が奇跡である。なお,最終稿を読み終わった直後に「で,KEYの次の作品は奇跡を肯定するんですか?w」と本人に聞いてみたところ,「分からぬ……とりあえずファンディスクで殿ちんが書いた静流シナリオでキャッキャッウフフするのが先決だ」との回答をいただいた(彼は無類の後輩スキーである)。実際のところ,私自身,KEYが次の完全新作で奇跡をどう扱うのか興味ある。

さて,収録版を読んで,一つだけ今更になって気づいたことを。これは相談段階で気づかなかった私のミスでもあると思うので後悔しきりなのだが,8章後半で語られる「鍵ゲー全体を貫く奇跡のシステム・構造」についてはやや不用意ではあると思う。これは私とネ右のエロゲ遍歴が似通っており,しかも彼とはエロゲについて語り合う機会も多いため,とりわけ鍵ゲーについては理解・解釈が一致していることが多い。ゆえに気づかなかったのだと思うが,このようなKEYゲー解釈は必ずしも一般的ではあるまい。まあ,ここを掘り下げていくとそれだけで論考が一本書けると言いますか,本気で掘っていくとガチでKanon問題に衝突しかねないので,いずれにせよ本稿ではやっている余裕が無かったのではあるが。


>ガラスみたいに透明で フィルムみたいに泳いでる」 〜私論・丸谷秀人〜 by紅茶の人
まず,あれだけぼっこぼこに叩いたレビューを用いてくれたことに感謝申し上げたい。そして,『仏蘭西少女』は,丸谷秀人という大ベテランが書いておきながらなぜああなったのか,という私の疑問について,本論はうまいこと解きほぐしてくれたことに感謝したい。ノベルゲーにおける反復という特徴は,論の中で紅茶さんが『美少女ゲームの臨界点』を引いているように,丸谷秀人に限定されず大きな論点であった。その中で丸谷氏のシナリオは,確かに反復には強いこだわりが感じられる。

なお,『仏蘭西少女』だって変奏がないわけではなく,少しずつ変わる主人公(や登場人物)の心象を描くだけの効果は十分にあった。特に主人公の政重が堕落していくために銀行での仕事ぶりを用いた点や,舞子が昔を思い出す過程を無数のHシーンを用いて表現した点など,手法としては巧みであったとしか言う他ない。にもかかわらず評価がああなってしまったのは,やはり究極的に長さの問題へ収束してしまうのだろうか。それだけに,あの作品について言うなら,長さそのものの問題というより,スキップ性能の過敏さが真の問題だったと言えるかもしれない(少しでも入ったルートが違うと全く同じ文章でもスキップが止まる)。迷宮とは言い得て妙で,迷うのを楽しむには私の心に余裕がなかったと言えるかもしれない。

一方,『かにしの』の栖香ルートの冗長さは性質の全く違うもので,あちらは端的に言えばシリアーナドレイへと向かうシナリオ展開に若干無茶が感じられたことと,調教という形で見せる変奏はやや弱かったかなというのが私的な感想である。『かにしの』の環境でシリアーナドレイはちょっと無理があったかなと。健速パートとの整合性の問題ではなく,美綺・邑那ルートの雰囲気との兼ね合いでそう思った。

ここではあえてあまり評判の良くないシナリオを2つ並べてみたが,良いシナリオについては変奏と反復の効果が自明でありすぎるので取り上げなかっただけで,私が丸谷氏のシナリオを高く評価する傾向にあることは,念のためながら一応書いておく。